天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

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ギフト番外編143話『雪の中届ける』


 

それは、東京に平年より早く初雪が降り、そして積もった。そんな冬の日の出来事だった。
「あぁ・・・!」
キラキラした目で正広は窓から外を見つめる。
「兄ちゃん、雪!」
「雪だな・・・」
対する兄はどんより気分だ。日々の足が自転車である由紀夫にとって、これだけ困ることはない。
しかも、雪であろうと、すでに依頼を受けている届け屋の仕事はしなくてはいけないのだから。
「うわー、積ってるー!」
「積もってるかぁ〜・・・」
こりゃ困った、という顔を兄がしたので、あ、と正広も思い出す。
「・・・仕事、あったね」
「あったよ。課長」
「そうだった・・・」
これは困ったと、正広にも解った。この後、公共交通機関もどうなるか解らない。早坂兄弟とて、歩いて事務所に行かざるを得ないだろう。
「と、とりあえず、会社行かなきゃ、だよね・・・?」
「行かなきゃ、だろ」
寒いだろうからと正広にはもこもこ着込むように由紀夫はいい、自分もジーンズにしておく。
「どーしたもんかな」
「日程変えられるものがあれば変えるけど、どうなるか解らないねぇ」
当然、ユニクロのフリース、今年の新色を着ながら、正広は予定を頭の中に浮かべようとする。
「二件くらいだったよ」
「そうだったな」
遠くはなかった。電車や、地下鉄を使ってでもいける場所のはずだ。
「問題は、電車が動くかどうかだな」
「そうだね」
「・・・にしても、おまえ、それ・・・」
「え」
もこもこに着込むようには言ったけれど、どんな特殊メイクだそれ、というほどに丸々になった正広は、靴がはけない、と、呆然とする羽目に陥った。

「・・・鍵が・・・」
降る雪の中、よてちよてちと歩きながら、ようやく腰越人材派遣センターに到着した早坂兄弟だったが、まだ事務所は開いていなかった。
「みんな来られないのかな」
「・・・自主的に来てないんじゃねぇか・・・?」
それは当然考えられることだった。自分たちでも持っている鍵をつかってドアをあけ、ひんやりと冷え切った事務所に入る。
「さっむーい!」
もこもこまるまるの正広は、急いでエアコンをつけにいく。
「なんか飲もうよー!」
「お湯な、お湯」
由紀夫がお湯を沸かし、正広はカップにインスタントムースココアをたんまりと入れた。
「い、いや、俺はコーヒーで・・・」
「寒いときは甘いもんでしょ」
「え?疲れたときはじゃないのか?」
「そうだっけ?」
甘いもの好き、そんな小さなことは気にしない。常に甘いものをとりつづけてしまうのだった。
「どうしよう。みんな来ないのかな」
「どうだろうなぁ〜」
今のところ、よその会社の動きも遅いようで、電話が鳴り止まないということもない。逆に雪は降り続き、窓の外はまったくもっての銀世界に近づきつつあった。

「あっと!」
アツアツムースココアのせいで、口の上にココア色のおひげをつけた正広は、最初になった電話に急いで出る。
「はい、腰越人材派遣センターです。お世話になっております」
由紀夫はテレビをつけて、道路状況がどうなってるかを確認しようとした。
「はい。あ、そうですか。明日ですね?はい、承知しました。はい、はい。よろしくお願いいたします」
電話を切って、正広は小さくガッツポーズをした。
「兄ちゃん、1件延期になったよー。明日でいいって!届け先の会社お休みになるかもしれないからって。遠い方だから、よかったね!」
「お、そっか。じゃ、後、結局何件?」
「やっぱり1件だけ。これはどうかなぁ〜」
「向こうからキャンセルがないんだったら、それは行ける」
「え?でも」
「歩いてでもいけないことないわ。その一件だけなら」
頼まれている荷物は、ごくごくパーソナルなものだった。お歳暮ともクリスマスプレゼントとも言えるものだ。
「・・・兄ちゃんが持っていくこと、が重要なんだもんね」
「そゆこと」

そこで、もう1度電話がなった。
「はい、腰越・・・、あ、奈緒美さーん」
「何やってんだよ、あいつはよ」
「え?あ、そうなんですか?はい。えぇ・・・。はい、解りました〜」
電話を切った正広は、ふふ、と嬉しそうに笑った。
「今日ね、事務所お休みにするって」
「はっ?」
「奈緒美さんは、雪の日用の服を買いにいかなきゃいけないし、野長瀬さんは病院いったし」
「病院!?」
「滑ってころんで」
「そんな漫画みたいなことしてていいのか!?」
「典子ちゃんとこ、電車止まったっていうから」
「タクシーも時間かかるだろうしなぁ」
「うん。だから、今日は事務所お休み!ってことで、じゃあ、俺も行くー!」
「どこへ!」
「お届けー!」

こうして、もこもこまるまるの正広と、比較的薄着(正広に比べれば誰でも薄着だ)の由紀夫は、雪の中届け物に出かけることになった。
「いやさ、そんな面白いもんでもないぞ」
「でも、兄ちゃん行くんじゃん」
「寒いし」
「兄ちゃんも寒いでしょ?」
楽しそうに言いながら事務所を出た正広は、うわあ!とさらに笑顔になった。
不思議なもので、雪が降っているというのは、雨が降っていると比較にならないくらい楽しいし、なんだか楽に思えるのだ。
「寒くないねぇ」
「そうかぁ?」
本当は0度近くになっているんだろうに、正広は楽しそうに雪の下に出ていった。傘を持つのは由紀夫で、正広は、いわゆるひとつのカッパを着ている。
「来る時も思ったけど、歩きづらいのは歩きづらいよね」
「転ぶなよ」
「う、うん、平気・・・」
転んだとしても、あれだけ着膨れていれば怪我をすることもないだろうと、ゆっくり由紀夫も歩く。二人とも足元はワーキングブーツで、そうそう滑って転ぶようなことはないだろうが、油断は禁物。
まったくもって雪になれてはいないのだから。

「あっ、可愛い!」
正広が見つけたのは、小さな雪だるまだった。
「ほら」
「お」
学校に行く前の子供が作ったのか、家の塀の前に小さな雪だるまがおかれている。
「可愛いな」
小さな手で、ぎゅっと握ったサイズしかない雪だるまは、降る雪の中に埋もれながら座っている。
「俺もつーくろっと」
フリースの手袋をはずし、正広は自分の手のひらサイズで雪だるまを作る。
由紀夫の雪だるまは、それよりも、もうちょっと大きい。
「ん、なんかこれは・・・!」
「いい感じじゃん!」
小さな雪だるまが、ちょっとずつサイズを変えて3体並んでいるというのは、ずいぶん可愛らしい光景になった。
「いいな」
そして由紀夫はその雪だるまたちを写真に収めた。
「わー、可愛い〜!クリスマスカードにしたーい!年賀状でも可愛いかな」
クリスマスカードなど書いたこともないのに正広はそのポラロイドを見てご満悦だ。
「ポラロイドだから、余計に感じが出るんだよねー、きっとねー」
いつもの街が、まるで違うように見えるから、正広は雪の日が好きだ。
「綺麗だよねー」
上を向き、降ってくる雪の中に浮かび上がるような錯覚を楽しみながら正広は言う。
「綺麗はいいけど、顔びちゃびちゃ」
「そーだけどぉ〜」
兄に笑われながらも、正広は上を向いて歩きつづける。
ひんやり冷えていく顔が気持ちいい。
「これで毛穴がきゅっ!としまって、化粧ノリがよくなるんだよ」
「そういうことは奈緒美にさせとけ」
そう言いながら、傘を傾けて由紀夫も空を見上げる。
どうして、自分が登っていくように感じられるのか不思議だなといつも思っていた。
「兄ちゃんの場合は、髪が長いから、ぬれねずみ度アップだよね」
「つーめーてぇーー!」
頭を元に戻したとき、濡れた後ろ髪が首に張り付いたせいで悲鳴をあげた由紀夫だった。

12月、クリスマスの時期は、結構好きだ。
由紀夫はそう思う。
なんだかクリスマスだの、お正月だのというだけで、楽しそうにしてる人が増えるから。
届け物も、無味乾燥だったり、無味乾燥通り越して危険だったりするものから、ただの贈り物に変わってくる。
「これって、なんだっけ」
正広が由紀夫のバックを引っ張る。バックは極限まで軽かった。
「ちょっとしたプレゼント」
「クリスマス?」
「クリスマスでも、誕生日でも、記念日でもない、なんでもない日の、単なるプレゼントだってさ」
だから、日にちも、別段今日でなくてもいいという話だった。
「あ、そうだ。お母さんにプレゼントするやつだね」
「そうそう」
一緒に住んでいる娘が、出先で見つけた可愛い鳥のブローチをお母さんに上げようと思ったんだという。
「何でもない日に、小さなプレゼントって素敵だね」
「一緒に住んでるのに、わざわざ人使ってな」
うちの母親は男前が好きだから、と、依頼があったのだ。
由紀夫は電信柱の番地の表示を見て、この辺りだと行った。
「え!どれだろ?」
きょろきょろとしていた正広は、あ!あそこだ!と依頼主と同じ苗字の表札を見つけて、ぱっと駆け出した。
「あっ?」
ちょうどそこが綺麗に凍っていたもんだから、片足がふわりと宙に浮く。
「正広!」
由紀夫が手を出したけれど、そのまま前に飛んでしまった正広は、綺麗に。
絵に描いたように綺麗に、お尻から転んで、そのまま2メートルばかし、滑っていく。
「うわわ!」
ゴール地点が依頼者の家の前だ。
「に、兄ちゃん走ったら危ないっ!」
「いやいや!」
転んだまま、最後綺麗に半回転して由紀夫の方をむいてしまった正広に言われ、由紀夫は笑いながら立ち止まった。
「危ないの、おまえだろ」
「いいの!もう転んだんだからっ!」
もちろん、フリースやらなんやらでもっこもこの正広に怪我はない。
レインコートのお尻が濡れたくらいのことだ。
「びっくりした」
「傘持たせてなくてよかった」
こうなることを予想して、両手が使えるようにと傘を持たせてなかった由紀夫だ。
・・・まぁ、両手も役に立っていたかどうかは微妙だったが。

依頼者のうちには、依頼者もいた。
彼女も、雪だし、かったるいしと仕事を休んだというが、由紀夫が見たかったからかもしれない。
サービスにと、もこもこを脱がして、多少見栄えを整えた正広も一緒につれていくと、よく似た親子は、大変喜んでくれた。
もちろん、娘からのプレゼントにお母さん感激。
お母さんほろり。
娘もほろり。
正広ももらいほろり。

「何でもない日の、何でもないプレゼントを提唱したいね!」
「それこそが景気上向き策かもな」
お茶をケーキをいただいての帰り道。
雪はまだはらはらと降っている。
そして、事務所近くのあの家の塀前には、雪だるまがちょっとずつサイズをかえて、17個並んでいた。
それも写真に収めて、大変楽しい気持ちで早坂兄弟はうちに帰ったのだった。

今日は特にオチとかないんです。
えぇ。
野長瀬が、雪でころんで右足首複雑骨折してる、くらいのことしか。


高松なので、雪はめったに降りませんが、それでも昔はちょっとは積もったんじゃよ。ごほごほ。
雪が降った朝、もうやんでるからと自転車で学校に行ってたら、前の人の車輪の跡がまんまと凍っていて転倒!かっちょ悪い思いをしたともよか思い出じゃ、ごほごほ

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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