Gift

天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って？

『Gift番外編』

このページの画像は、すべてｙｅｎ＠ｇａｌｌｅｒｙ様から使わさせていただいております！皆様も遊びにいらしてくださいね！

ギフト番外編１４４話『年賀状を作る』

「おや。もう年賀状の時期なんだね」
稲垣アニマルクリニックの稲垣獣医は、これは驚いた、という顔で言った。
「えぇっ！」
それを聞いた草彅助手は、手にしていた猫缶を盛大に取り落とし、うるさいなぁ、という顔をされる。
「なんだよ、剛」
「えっ、いえ、あの、年賀状って、もう、出した、んです、よ、ね・・・？」
もう１２月２６日にもなっていた。
「いや？」
しかし、稲垣獣医はあっさりと答える。
「だって、昨日までクリスマスだったんだよ？」

だからなにさ！！（草彅助手魂の叫び）

「クリスマスカードは出したけどね」
もちろん、患畜さんたちのお母さん中心に、数多いガールフレンドたちにだ。
「それはでも、稲垣アニマルクリニックからですよね。だったら年賀状は・・・」
クリスマスカードで代用できるんじゃあ？と思った草彅助手。
「いや、稲垣吾郎名で」
「・・・なんで個人なんですか」
「獣医と関係を持つのは患畜だよ」
「・・・意味がよく・・・？」
「つまり、稲垣アニマルクリニックとして向かい合うべき相手は患畜なんだ」
「・・・だから、飼い主さんとは、個人として向かい合うと・・・？」
「おや」
稲垣獣医は大げさに驚いた顔をした。
「長生きするもんだね、剛がそういうことが理解できるようになるなんて」

長生きって！１個しか変わらないじゃん！！

・・・いや、それは本当かな・・・。

その点について、深くは触れまいと思いながら、おそるおそる確認してみた。
「・・・じゃあ、稲垣アニマルクリニックの年賀状は・・・」
「僕は何もしてないねぇ」
「僕もしてませんよ！」
「何してたんだ？クリスマスに何一つ楽しいこともなかっただろうに」

なかったさ！あぁ！なかったさ！！

「でも、不幸でもないっていうところが、剛の中途半端なところだよね」
あはは、と、軽やかな笑い声を立てる稲垣獣医のクリスマスは、もちろん素晴らしいものだった。
華やかなパーティーの席で、稲垣獣医はまさに主役の輝きだったのだから。
「・・・そりゃ何もありませんでしたけど・・・！」
対する草彅助手にとっては、クリスマスイブは単なる給料日前日。クリスマスは給料日だった。
まったく。
何も。
クリスマスらしいものは何一つなかった。
明石家サンタに語るようなことすら、何一つ。

「ま、とにかく、年賀状はね、美しい日本の習慣だと思うから、ちゃんと出さないとね」
「えっ！？い、今からですか！？」
「三が日につけようと思ったら、もう準備しないと・・・」
「今からじゃ間に合いませんよ！」
「間に合わない？」
きっ！
稲垣獣医は、草彅助手をきつく睨んだ。
「だからといって諦めてどうするんだ！何もしない前から！」

だって、するの俺じゃん！！（草彅助手魂の叫び２）

「なんでもやる前から諦めるのが剛の悪いところだ。クリスマスも、それらしく過ごしたいなら努力するべきだったんだよ。たとえばうちの看護婦さんたち・・・」
と言ったところで、ふふ、と稲垣獣医は笑う。
「ま、彼女たちは、引く手あまただから無理だけど」
稲垣アニマルクリニックの看護婦さんたちは、美人揃いで有名だ。イベント時期には患畜さんたちのパパたちが急にやってくるほどに。
「・・・と、とにかく、年賀状ですよね・・・」
「２００３年は和がくると思うから、和のテイストを大事にね」
「和、和のテイスト・・・」
「もちろん羊は必須だよね」
「羊！？」

「これ、なんですか？」
「正広くん・・・」
年末のご挨拶もかねまして、と、白文鳥のしぃちゃんを連れてきた正広は、草彅助手の手元にあるものを見てたずねた。
「これ、なんに見える・・・？」
草彅助手は、少し照れたような表情を浮かべながら、手元にあったメモを正広に見せた。
「ロールシャッハテスト？」
しかし、答えたのは、正広ではなく、後からやってきた由紀夫だった。
「ろーるしゃっはてすとって？」
「なんか、染みみたいなの見せて、なんに見えるかって聞くやつじゃねぇの？」
「・・・・・・・・・違います・・・！」
それは、和のテイストが大事だと言われた素直の草彅助手が、毛筆を使って描いた羊だったらしい。
「ひ、羊・・・・・・・・・？」
「でも、足２本しか・・・」
「・・・正面なんです」
「しょ、正面！？羊の正面なんか、あんま見たことないですけど！」
「そ、そう！？」
草彅助手は獣医なので、もちろん羊の真正面、真後ろにも詳しい。
「羊って～・・・なんか、角とかありませんでしたっけ・・・」
「・・・あったっけ・・・」
「ヤギ・・・、でしたっけ・・・？」
ナゾの墨絵を見つめながら、草彅助手と、正広は首をひねる。
由紀夫は、それが羊が描かれたものである、ということに、首を３６０度ひねりたい気分だ。
「じゃ、角を足して・・・」
「そうですね。なんか、くるっとまいた角とかじゃなかったでしたっけ」
「あ！そうだ！それそれ・・・」

そうして、真正面をむいた羊に、角が描き足されていくのだが、草彅助手は、その角を上向きに描いて、ますます解らないものが出来上がっていく。
まずは、横から描け！と由紀夫は、羊ってこうだろ！とお手本を描いてみせた。
「うわ！兄ちゃんすごい！」
「由紀夫さん、プロじゃないですか！」
「違うわ！」
由紀夫が描いた羊は、まぁ、羊だよね、という程度で、別段素晴らしい訳でもなんでもない。
「そうか、こう描くのか！角、下向きですね」
「下っていうか、内巻きになってんじゃないのかなぁ・・・」
由紀夫にもあまり自信はないが、すくなくとも、羊の角が上をむいてはいないだろうと思っていた。それはまるでバイキングの鉄兜のように見えていたのだ。
「それで・・・、角が・・・。こうですかね！」
「全然違う！！」
ボールペンと筆の違いがあるにせよ、なぜお手本を見ながらこれだけ違う絵がかけるのか！草彅助手の画力に、ある種の感動を覚えた早坂兄弟だった。

その日の午後、草彅助手は牧場に来ていた。
手書きイラストは辞めた方がいいと、こんこんと言って聞かされたからだ。
イラストがダメなら、写真。
そう思った草彅助手は、使ったこともないカメラつき携帯を持って郊外の牧場に来ていた。

か、カメラつき携帯！？

それが、草彅助手の中でのＩＴの限界だった。
カメラつき携帯で撮影して、それを年賀状にする。
方法については、まったく考えていない。できるものだとただ思い込んでいる無邪気な草彅助手は、羊を撮影しまくった。
やはり、正面から。
でも・・・。
と、撮影しながら、草彅助手だって考えている。
写真はとったけど、これを和のテイストってどうしたらいいんだろう、と。
和、和・・・。お正月らしい和といえば、お飾りとかかな・・・。羽根つきとか、こま回しとか・・・。羊がこま回し・・・、できたらもうテレビに出てるだろうしなぁ。
羊がおせち料理を食べる。
ん。これはいいかも。
お重に羊のえさをいれて、それを食べているところ・・・。でも、お重だけで和を表現するのは無理があるなぁ。
あ！お飾りを角とこに飾ってみてはどうだろう！
これは我ながらいいアイディアだ！と、草彅助手はコンビニに走り、お飾りを購入した。
後はこれを羊に飾って写真をとれば、和だ！和だな！

そして牧場に戻った草彅助手だったが。

「いだ！いだだだだ！」

何をすんねん！
うっとーしぃねん！！そんなもん！！と抵抗する羊によってえらい目に合わされる羽目に陥った。
しかし！
和だし！
羊年だし！
なんとしても撮影を！なんとしてもーーー！！！

「稲垣先生、じゃあ、こちら」
ちょうどその頃、午後最後の患畜がやってきていた。患畜はそれはそれは毛並みの美しいロシアンブルーの美少女で、飼い主は祖母がロシア人というこれまた美しいミセスだ。
「これは？」
「うちでお預かりしてました年賀状のデータですわ」
「あぁ。ありがとうございます」
ミセスは、デザイン事務所の奥様だ。
よろしかったら、年賀状、うちで作ってお出ししておきましょうか？と言われ、それでしたらとワインなど飲みながらお話したのは、１１月のこと。
「お礼をしなくては」
「あら、そんな。いつもお世話になってますのに」
おほほ、うふふ。
診察室が、突如サロンと化す瞬間だった。

「いだだだだ！噛むなって！噛むなってのー！あー！携帯がーーーー！！」

がんばれ草彅助手。
負けるな草彅助手！
携帯メールでとった写真をどう活用するつもりなのか草彅助手！
２００３年こそ、君の時代だ！？？？？？？

あの。
ぶっちゃけ私、２６日現在、年賀状、作ってません。
・・・作る気まんまんなんですけどね・・・。
えへ。
あは。
うふ。

次回更新は、来週水曜日！の予定は未定にして決定にあらずっ！