天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

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ギフト番外編145話『お茶会に出かける』


 

「あけましておめでとう」
腰越人材派遣センターの2003年初出社の日、当然、奈緒美は振袖姿だった。
「・・・おまえな・・・」
クリスマスプレゼントとして奈緒美からもらっていたスーツを着ていた由紀夫は、軽い頭痛を覚える。
「あら、めまいするほどきらびやかだったかしら」
結構渋めに決めたんだけど。と、まんざらでもない顔で奈緒美は袖を軽く上げてみせた。
黒地に金、というのは奈緒美の中ではしっかり地味という範疇だ。
「すごーい!社長綺麗ー!」
こちらは、当然今時の女の子のカッコをしている典子は、奈緒美に近寄り、触ってみてもいいです?と尋ね、そして尋ねたと同時に袖をつかんでいた。
「つかまない!」
「なんか堅い?」
「これはねぇ、金糸が織り込んであんのよ!」
「あっ!時々ある、何十キロとかいう!打ち掛けとかの!あのプラチナの糸とか!」
「そうなのよ!最初はね、そういうのを作ってみようかと思ったんだけど、そうすると重いのよ!」
「軽くてもすんなよ!!」
ギンギラギンの着物なんてイヤだ!と、由紀夫は顔をそむける。
「でも、和服はいいですよねぇ〜」
野長瀬も紋付はかまで出社。お正月らしい華やかな雰囲気の腰越人材派遣センターだったが、正広だけは不思議そうな顔でずーーっと首を傾げていた。
こちらも、由紀夫と同じくスーツ姿。
なんなのよ!二人ばっかり!と典子を怒らせた、こちらもグッチのものだが。

「・・・振袖って・・・」
「え?なぁに?」
「成人式の時に着るものじゃなかったでしたっけ」

びきぃぃ!!

奈緒美のこめかみに、確かに、亀裂が走った。

二十歳じゃなくても着ていいんだ、振袖って!
由紀夫に形ばかりこめかみを拳骨でぐりぐりされた正広は、初めてしった!と驚いた。
「そうだよ、ひろちゃん。だって、黒柳徹子だって着てるんだから。いだっっ!」
そのたとえが気に入らなかった奈緒美は、野長瀬の後頭部におそなえ餅を投げつけていた。
「し!死んだらどうすんですか!」
「死ねばよかったのに!」
「正月早々物騒な・・・」

「おめでとうございます」

そんな殺伐とした腰越人材派遣センターに、唐突に現れたのは。
「稲垣先生!」
「あ、おめでとう、正広くん」
「どしたんですか!うわ!先生どしたんです!?」
稲垣アニマルクリニックの稲垣獣医も、和服姿だった。
「いや、お正月だからね」
どこかの若旦那のような着物姿の稲垣獣医の後ろには、どこかの書生さんのような草g助手が控えている。
「うわー!草g先生までー!」
「・・・お正月なんだからだそうです・・・」
生き物を扱う病院なので、お正月休みは特別にはない。毎日クリニックに顔を出していた草g助手にとって、お正月ってナニ?まだ食べたことありません、といったようなものなのだが。
「お年賀の挨拶にと思いまして」
「まぁ、先生そんな、どうぞお座りください」
「いえいえ、まだ回りますので」
奈緒美の誘いをさらりと断り、軽く会釈をした稲垣獣医は、あ、そうだ、と手を叩いた。
「急なお話なので、ご都合がつけばなんですが」
「はい?」
「今晩、うちのクリニックで、お茶会をしようかと思ってるので、よろしければ皆様でおいでください」
「あら!お茶会!」
「えぇ。内々の気軽な席ですから」
次は、シャム猫の雪美ちゃんのお宅です、と、草g助手から言われながら、稲垣獣医は事務所を出ていった。
「お茶会!」
奈緒美の声がはっきりと興奮している。
「着物で着ててよかったわー!」
「えー!じゃ、私いけないじゃないですかぁー!」
「気軽な席だっていってたからいいんじゃないの、あんたは」
「えー!つめたーい!由紀夫さんたちにはスーツだって買ってあげるのにー!」
「あんたには給料あげてるでしょうが!」
「二人にだってあげてるでしょう!!」
「ちょっとまて!おまえにとって、あれは『小遣い』って認識か!?」

由紀夫の声に、ん?と奈緒美は首を傾げた。
何かを考えているように目が泳ぐ。

「・・・お給料よ、決まってるじゃない」
「なんで考えんだよ!!」
早坂兄弟、小遣いをもらっているのか、給料をもらっているかの、あいでんててーの狭間!といった空気が流れたが。
「お茶会って、でも、僕は・・・」
おどおどとした正広の声で中断された。
「だって、お抹茶とか飲めないですよ。グリーンティーならいいけど」
「あ、あたしも飲めなかった」
典子もけろっと言う。
「飲めないってことないでしょー」
「だって、苦いじゃないですかー」
グリーンティーは冷たくて、甘くて好き、という正広が困った顔になる。
「それに正座もできないし・・・」
すっかり引っ込み思案になってしまった正広だが、奈緒美はきっぱりと宣言した。
「練習しましょう!」
「えーーー!!」
「日本人として、お茶席くらいでびびってどうするの!それに、いいお抹茶は苦くないものなのよ!」

こうして、急遽、腰越人材派遣センター、2003年は和が来る会(今できた)お茶会レッスンがスタートすることになったのだった。

「えーっと」
社員全員を集め、奈緒美はまず言葉を切った。
「まず野長瀬」
「はいっ!」
「あんた挨拶まわりいってきなさい」
「えぇーーー!?」
「だって、誰もいかない訳にいかないでしょうが!派遣先にいってらっしゃい!」
「だって、いくつあると!」
「ありがたいことだわぁ〜。これから先も派遣先様を大事にしていきましょう!ほら!早く!はいはい!」
パンパン!と手を叩き、とっとといけ!と野長瀬をたたき出す奈緒美。新年のご挨拶にと作った羊のマスコットを大量にかかえ、寒空の下たたき出される野長瀬。
2002年とまったく変わらぬ風景がそこにあった。
「それでっと、お茶会ね、お茶、お茶・・・」
奈緒美は机を探り、取り出したのは。

『マンガで解る初めてのお茶会』

「おめぇも知らねんじゃねぇか!」
「うるっさいわね!!」
「マンガー、見せて見せてー」
ともあれマンガ好きの正広が、その本に手を伸ばした。
「えーっと。準備するものは。ん?か、かいし?ようじ、扇子、靴下」
「靴下ぁ?」
何読み違えてんだよ!と由紀夫が覗き込んだが、確かにそこには靴下(白)と書かれていた。
「白い靴下って・・・」
今時あんまりはかないんじゃあ・・・?という疑問をもったが、先をよんで納得した。
「席に入る時にか。・・・着物だと足袋を変えるって、そんなわざわざ!?」
「じゃ、靴下が3足と、私は白足袋ね。それから懐紙と楊枝と・・・」
「楊枝ならあります!」
自信満々に、正広は楊枝を差し出した。ご近所の商店街が、町内旅行ででかけた北海道のお土産。ハッカ楊枝だ。
「・・・それは違うぞ」
「え」
これはちょっとカッコいいと思っていた正広だ。

「私やっぱり着替えてきますー!」
「着替えるって、あんた、別に着物とかないでしょうが!」
「だって、みんな着物なのにー!」
典子がきぃぃ!と声を上げる。現在、由紀夫も、正広も、着物姿だ。
畳などない腰越人材派遣センターだが、フロアに毛布をひいて、無理やり正座できるスペースを作り出している。
「やっぱりできなーい!」
しかし、ものの数分で正広が脱落。
「足、足・・・!あー!やめてー!にいちゃーん!」
足がしびれている人がいるのに、その足に触らずにおれようか。
由紀夫は真摯な表情でそう訴え、正広をのたうち回らせて大笑いだ。
「着物がむちゃくちゃになるでしょーがー!」
「無理!やっぱり無理ですっ!」
着物だけでもしんどいのに、その上正座なんてできません!と正広は訴える。
「えっと、それに、なんだっけ、ご挨拶とかして、お茶のんで、あれ?お菓子はいつだっけ。お菓子も食べた後、えっと、ひじついて、茶碗もって、へーとか言わなきゃいけないんでしょ!?できません!そんなことはできないですっ!」
ひじをついて、茶碗もって、の部分は、お茶をいただいた後の道具拝見、というパートだ。大事な道具に万が一のことが起きないよう、自分がかがんで、畳にひじをついた状態で茶碗をちょっと持ち上げる状態になるとその本には書いてあった。
「えーっと、じゃあ、それは省く?どうせ見てもよく解らないだろうし」
「いや、だから正座ができません!まして兄ちゃんが側にいたら!」
「え、なんでだよ」
シャンプーのCMをやってるフクヤママサハルのようにワキワキと指を動かす由紀夫は、正広にとって生物兵器そのものなのだ。
「解ったから!あんたもやめなさい!」
びしぃ!と由紀夫の後頭部に平手をくれて、奈緒美は正広に椅子を用意する。
「足の悪い方とかはそういうのに座ってるはずだから!」
「でもぉ・・・」
「大丈夫だよ、正座なんか誰でもできるって!」
キラキラとした笑顔で由紀夫が断言する。
「俺なんか、全然平気。ほんと平気。正広座り方悪いんじゃねぇの?」
「兄ちゃんが、正座させようとするぅー!」
「だから辞めろっつってんのに!!」
「社長ー!やっぱり私も着物がいいんですってばーーー!!!」


遊びたがる由紀夫、逃げたがる正広、着たがる典子と、3匹の珍獣をどうにかこうにか調教し、なんとかかんとか形づくることに、奈緒美はその一日を捧げた。
「もう一服いかがでございますか?」
「十分いただきました」
なんて挨拶も、どうにかこうにか覚えこませた。
「よし!行くわよ!」
「いや、辞めといたほうがいい」
正広が全然正座をしないため、とってもつまらない思いをしていた由紀夫が言う。
「なんで!」
「なんか、八百屋お七みたいになってるから」
「はぁ?」
誰がそんなに美しいって?と、よく解らない言葉をつぶやきながら鏡を見た奈緒美は、今まさに髪振り乱して半鐘を鳴らそうとしている女の姿を見た。
「何これーー!!!」
「美容院もっかいいけば?」
「行くわよ!もぉー!あんたたちわーー!!」
髪も、帯も、当然振袖自体も乱れ気味。ぷりぷりしながら美容院に向かおうとした奈緒美の袖(金糸織りこみ)に、典子がしがみついた。
「美容院行くんだったら!私にも着物着せてくださいー!」
「着物持ってないでしょー!」
「貸してくださいよー!社長ー!」
「あ、だったら典子ちゃん、これ着る!?」
正広が、今にも着物を脱ぎそうな仕草をした。
「だって、俺、スーツでもちょっと・・・なのに、着物なんて」
「だめよ!ひろちゃんと由紀夫は着物着てないと!」
「だったら貸してくださいよぅー!」

しょうがないわねぇ!!
ついに根負けした奈緒美は、自分の訪問着を典子に貸し、美容院代も結局持つ羽目に陥った。
着付けの資格でもとろうかしらと真剣に思う値段だ。
「まったく、初釜だからって高いものについたわ」
「ハツガマってなんですか?」
足痛いようと重いながら、草履をひきずっている正広が尋ねる。
「・・・え」
「ハツガマ」
「初の釜よ」
「・・・初の、カマ・・・?」
「あんまり突っ込んでやんなって・・・」
「人がものを知らないみたいに言わないで!」
「知らねぇじゃねぇかよ、実際!」
華やかな着物姿の四人が、ぎゃあぎゃあ言いながら稲垣アニマルクリニックに到着する。
駐車場には高そうな車がいっぱいで、内々のといいながら、きっと華やかなお茶会に違いないと奈緒美は確信した。
引けをとってなるものか!
私の着物を見て!!
やる気まんまんでドアを開けた奈緒美は。

「あ、いらっしゃいませ」
「どうもすみません。ご足労していただいちゃって・・・」
稲垣獣医の笑顔と、草g助手のすみませんという顔。そして、やっぱりいたわね、華やかなマダムたち!を見た。
「あの・・・」
「どうぞお上がりください」
しかし、稲垣獣医からそう言われても、腰越人材派遣センター一同は上がることができなかった。
「お茶会って」
「えぇ、ささやかですけども。皆さんに楽しんでいただけたらと思いまして」
稲垣獣医の笑顔は晴れやかで美しかった。
手にしているカップも美しかった。
「今、ちょうど入ったところですよ。私たち、もういただきましたから」
猫ちゃまやら、犬ちゃまやらをだっこしたり、足元に座らせたりしているマダムたちの手にあるカップも美しかった。
スコーンも、サンドイッチも、クロテッドクリームも、何もかもが美しかった。

「・・・アフタヌーンティーか」

新年早々、英国式アフタヌーンティー。
「なんで和服でやってきて、お茶会がこれなんだ・・・」
「好きだから」
にこりと笑った稲垣獣医を見て、今年も、相性悪そうだ、自分たち、と思った由紀夫だった。



2003年もよろしくお願いいたします!由紀夫のことも、ひろちゃんのことも!!私のことも!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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