天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

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ギフト番外編146話プロローグ編『なぜか温泉に連れてこられた』


 

「寒い・・・」
弟の呟きを、兄の由紀夫はまったく納得できない気分で聞いていた。
天気のよい土曜日の午前。
・・・ぎりぎり午前。11時50分。
ベッドの上には明るい日差しが満ち、部屋は暖房で温かく、その上羽布団にぬくぬくくるまれている人間のどこが寒いというのか。
「さぶぃぃ・・・」
しかし正広は寒い寒いと言いながら、なおもクルクルと布団の中にくるまっていく。
起きる気はまったくないらしい。
「よく寝るよなー」
そんなことを言いながらテレビを見ていた由紀夫は、ん?と顔をベッドに向けた。
部屋の中はかなり暖かいのに、正広は寒いという。
「正広?」
まさか具合が悪いんじゃあ、と、布団をめくりにいくと、かなり抵抗された。
「やだ、さぶいぃ・・・」
「寒いって、んな訳ないだろ、おまえ熱でもあるんじゃ、うわ!」
逃げよう逃げようとしていた正広の足に触った由紀夫は驚いて手を離す。

「おまえ、冷え性か!」

氷のように冷たい足だった。

「そんな訳で」
「えぇ〜、にいちゃーーん・・・」
「早坂ブラザーズの宿かり日記〜♪」
「うそぉ〜ん・・・」
ぬくぬくとした布団で至福のまどろみを楽しんでいた正広は、布団を引き剥がされ、ユニクロのあったかものにくるまれた後、いきなり車で拉致られた。
何事だ!と動かない頭を攪拌されながらおろおろしていたが、車の中も暖かかったためすぐに寝てしまった正広。
体をゆすられて目を覚ました時には、まだ夢か?と首を傾げたものだった。
「ここ、どこ・・・?」
「今朝の宿かり日記でやってたとこ。この週末は部屋空いてるって聞いたから」
由紀夫はウキウキと車を降りて、旅館というよりは、田舎のおばあちゃんの家といった風情の建物を嬉しそうに眺めている。
「宿かり日記・・・」

解説しよう。
宿かり日記とは、土曜日朝のナイスな番組、「朝だ!生です旅サラダ」の中の1コーナーだ。
お笑いコンビ、ピンクの電話のリバウンド女王、みやちゃんが毎週いろんなお宿を訪ねていくもので、由紀夫はそのコーナーが好きだ。
いや、旅サラダ自体が好きだ。
ゲストがやってきて、そのゲストおすすめの店を紹介するコーナーも好きだ。マンスリーゲストが一月かけて紹介する外国ネタも好きだ。ラッシャー板前が全国各地で美味しいものを食べるコーナーは、時々司会の神田正輝と一緒に本気で悔しがったりしている。

「近かったんだよなー、今日のは」
「そ、そぉなんだ・・・」
関東のどこかに連れてこられたんだな、と車を降りた正広は。
「さぶぅっ!!」
風の冷たさに車の中に飛び込んだ。
「寒いって!」
「冷え性だからな、おまえな」
「いやいや、冷え性じゃなくても寒いよ、これは!」
風が強いわけではないが、とにかく冷たく。
「あぁ!よく見れば雪が!」
宿の側は雪かきがしてあるだけで、周囲には雪がばっちり積もっている。
「冷え性っていうのは、血行の悪さも問題だから。冷たいとこと、暖かいところを行き来すれば多少はよくなるんじゃあないかなと」
「冷え性?」
「おまえ」
「えっ。俺って冷え性なの!?」
「・・・足、めちゃめちゃ寒かったぞ?」
「だって、冷え性と、貧血と、便秘は女の人がなるんじゃん」
「男でも冷え性にも、貧血にも、便秘にもなるっつーの!」

正広は、兄に大事にされている自分を自覚している。
きっと、冷え性の弟を心配して温泉に連れてきてくれたんだ。
そう思う・・・、そ、そうじゃないかな・・・、き、きっと、そ、そぉだよな・・・???

「うわ、ほんっとにいい眺めだわ!」
案内された離れの部屋につくなり窓を開けた由紀夫は、その先に広がる雪景色に声を上げる。
「さささ、さぶい!」
部屋には掘りごたつがあり、おじいちゃんのように背中を丸めた正広は急いで足をつっこむ。
「あ、悪い悪い」
寒さにも暑さにも強い由紀夫は窓をしめて、ちょっとコタツに入る。
「でも、こっからでも解るよ。外綺麗だね」
「綺麗だよなぁ」
兄弟向かい合ってコタツに入り、じゃあ、お茶とお菓子でもいただこうかな、と思ったら。
「庭見てくるわ」
「雪だらけなのに!?」
瞬間入っただけで、とっとと部屋から出ていく兄を見て、もう一度正広はつぶやく。
「冷え解消のタメだよね・・・。みやちゃんが泊まったお宿だから行きたいとかじゃないよね・・・。だといって!兄ちゃん!!」

温泉は冷えにいいはず。
弟のためここにやってきている、と思っている由紀夫だったが、テレビで見ていた風景が、より大きなスケール感で目の前に広がるのは想像以上に面白いものだった。
「近場でよかった」
さすがに、今まで見ていた宿が、何県のどこにあって、どうやっていくかまでイチイチ覚えている訳ではない。
古い民家をベースにして作られ、庭にいくつかの離れがあるというこぢんまりとした宿の売りは、露天風呂と料理。
露天風呂は、いわゆるサルも入りにくる、的風情が楽しめるものだ。
しかし、実際にはサルなどいない。ここは、素朴、のんびり、とコンセプトにしつつ、都会からのアクセスの良さを確保したテーマパークのような施設なのだから。
「ホントの本気の田舎もいいけど、これくらい近場もいいよな」
白く輝く雪の中にたって由紀夫はそう思った。

その頃。
テレビにも出て、問い合わせの電話もバンバン入ってきていたその宿、やすらぎの里(ありがちな名前)では大変な出来事が、誰にも気づかれず起こりつつあった。
「やだー!あたしがいくー!」
「何よー!離れはあんたの担当じゃないじゃなーい!」
「あんただってそうじゃなーい!」
「大体、なんでお茶やお菓子を先にセットしといたのよ!」
「誰があんな男前が来るって思うのよーー!!」
年若い仲居さんたちが、誰が早坂兄弟の部屋を担当するかで大揉めに揉め、大体、おまえらみたいな若造にその座を渡すかよ!と、年長の仲居さんたちをも反目しあっていたその時。
人知れず、それは始まっていたのだ・・・。

<つづく>


短いですなー!旅サラダの素敵なところは、全国各地のお宿が紹介される点にありますな。ゲストが紹介する店は関東のみですが。地元香川にもみやちゃんが宿かりしにきたことがあって、とてもびっくりしたもんですよ。そんな宿あったんかい!と。
次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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