天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

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ギフト番外編146話前編『なぜか温泉に連れてこられた』


 

寝ていたところを、なぜか温泉に拉致られていた正広だが、掘りごたつというのはまさしく頭寒足熱であり、カフェインもたっぷりの美味しいお茶など飲んで、徐々に覚醒してきた。
そうか。
ここは温泉か。
そして、見事な雪景色!
雪を眺めながら露天風呂!
「くぅーーー!」
それは確かに魅力的な出来事だ。やるなぁ、兄ちゃんと掘りごたつの中で足をばたばたさせた正広は、そういえば、足もちょっと冷たくなくなってきたし、温泉見にいっちゃおうかなーと立ち上がる。
廊下は、板張りになっていて、でもそのぬくもりを感じてほしいからと、あえてスリッパはないようだ。でも、確かに冷たいという感じではなくて、これはなかなかいいじゃんか!とすたすた歩く。
「・・・んー、でも、どこ行くってゆったっけ・・・」
兄の言葉を思い浮かべ、そうだ、庭だった。と、廊下から見える庭を眺めた。
「わー・・・」
人の足跡がまだない裏庭が見える場所だった。
正広は、むずむずと、その中に足跡をつけたい気持ちになってきた。
冷え性だからなんだっていうんだ。
足が冷え切ってしまったって、ここは温泉!
露天風呂に足をつっこめば、それはそれで、とても幸せなことじゃないか!
それに、冷たいのと、熱いのを繰り返すのは、確か血行がよくなるとか言うじゃないか!
ふふふ・・・!
正広はキラキラと瞳を輝かせながら、裏庭に続くドアを探した。
すると、明らかにそれは従業員用の味もそっけもない引き戸があり、それを開けばまさにそこが銀世界。
軒下になるところに、つっかけがおいてあったから、ちょっとだけ、と、靴下を履いたままの正広はそのつっかけを履こうとして。

「づめでっっ!!」

そりゃ、雪のごくごく至近距離に、かろうじて濡れていないという状態にあった木のつっかけだ。足を入れる場所が湿っていても不思議じゃあない。
「やられたなぁ〜」
しかし、正広の熱情は、その程度の冷たさで冷めることはなかった。
厚手の、靴が1サイズ大きいのじゃなきゃはいらないじゃん!みたいな靴下を、思い切って脱ぐ。
「おぉう!」
つま先が、ぎゅうっ、と内側に降り曲がっちゃう冷気が彼を襲った。
それでも、キラキラと輝く銀世界に、自分の足跡をつけたいと、勇気をもって一歩を踏み出す正広。
「づめでぇ・・・!」
もちろんその一歩は、つっかけに足をつっこむという、偉大にしてちっぽけな一歩だ。
「うわー・・・。染みるぅ〜・・・!」
染みるの「る」に濁点をつけたい気持ちで、正広は、さらなる一歩を踏み出した。

ずぼ。

裏庭に足跡がなかった理由が、解った。
雪が深すぎるせいだ。
正広は、すねまでを雪に埋め、しばし呆然と固まった。
「えーい!」
しかし、もうこうなったらしったことかー!
ずぼずぼずぼずぼ!
正広は、無理やり庭の中を走り回った。
そうして、もう一度知ったのだ。
なぜ、裏庭に足跡がなかったのか。

「・・・池があったとはね・・・」

腰まで雪に埋もれ、すねから下は、冷水の中。
「あっはははは!」
なんだか
面白くなってきて、正広は高らかに笑う。
「ありえない!」

「正広!?」
部屋に帰ろうとしていた由紀夫は、裏庭で、雪の中に突っ立ったままゲラゲラ笑っている正広を見て、腰を抜かしそうになった。
「何やってんだおまえ!」
「来ないで!」
「はぁ!?」
芝居がかった仕草で片手で兄を制する正広は、まだ笑いつづけている。
「危ないから!」
「いや、だったらおまえは何やってんだよ!」
由紀夫は基本的にしっかりものだ。動くなよ!と一声かけてから、ダッシュで玄関に向かった。
「あら、お、お客様!?」
「借ります!」
すごい勢いの由紀夫に、ようやく夕食を運びに行く権利を勝ち取り、着物ようにアップにした髪もぐっしゃぐしゃの仲居に、宿の人用の長靴を2足借りる。
「すぐ風呂って入れます!?」
「は、はい!24時間いつでも!」
「ありがとうございます!」
ございます、あたりではすでに由紀夫の姿は廊下を曲がって見えなくなっていた。

「正広!」
「にーじゃーーん・・・」
最初はあまりのことに笑ってしまった正広だったが、当然、冷水の中の足が痛くなっていた。
「いだいー・・・」
「痛いって、おまえ」
長靴をはき、腰まで・・・!と覚悟して庭に下りた由紀夫は、ぎりぎり長靴までしか埋まらない足を見て、顔色を変えた。
「おま・・・、まさか、そこ・・・!」
「いげだっだぁ〜〜・・・!」
「池!うわあ」
ずぼっずぼっ!と勢いよく雪の庭を進み、ん?どこが池だ?と思った時、踏み出した右足が沈んだ。
「うわっと!」
奇跡の身体能力で体勢を立て直す。
「ここ、かぁ・・・」
気持ちを落ち着けて辺りを見た由紀夫は、正広までの最短距離の間は池なんだと判断した。その距離、およそ5メートル。
そうなると、正広がそれまで歩いてきた道をたどった方がいい。
「もうちょっと我慢しろよ」
「うん〜〜・・・」
ぐすぐすと半泣きになりかけの正広も、ここで二次災害が起こってはいけないとぐっとこらえる。
「お客様!」
「あ、すいません、すぐ出ますから!」
「そんなことはいいんですけど!あの!池、広いんです!」
「あ、はい・・・」
慎重に、しかし最速で由紀夫は動く。
「正広、手」
「う、うん・・・」
まっすぐに走ってきて、池にはまったもんだから、正広の真後ろに由紀夫が来るようになる。
動くに動けず、後ろに腕を伸ばしたところを、由紀夫に握られて、そっと引っ張られる。
「反転、できねぇ?」
「は、はんてん・・・?」
足の冷たさが、こめかみをキーンとさせる。ハンテンって何?あぁ、着るやる、そりゃできねぇよ。って違うだろ!
という思考の道を通った後、そろそろと、体を反転させた。
「づづづ!づめだい!」
「もうちょっとだからなー!」
冷たい冷たいと思っていても、じっとしていた間、多少は。ほんのわずかだけは。足の周りの冷水も、やや冷水くらいになっていたようだ。
新たな冷たさに、完全に涙目になった正広は、由紀夫の手によって池から助け出された。
「な、なんでつっかけ!」
「こんな深いと思わなかったがらぁぁ〜〜!」
正広用にと持ってきた長靴もあまり役にはたたなさそうで、由紀夫は正広をおんぶする。
「お客様、そちらから直接お風呂にいけます!」
元来た道を戻ろうとしている早坂兄弟に、いつ間にか膨れ上がっていた仲居集団が、あっちあっちと、庭の奥を指差す。
「すいません!」
由紀夫は正広をおんぶしたまま、露天風呂へと急いだ。
この先、まだ池があったらお笑い沙汰だが、岩が雪の上に顔を出し始めた。
「そうそう。露天岩風呂」
テレビの内容を思い出し、とにかくそこにつけてやれば・・・!と岩の間を長靴で急ぐ。
「に、兄ちゃん、大丈夫?」
「平気平気。もうすぐだからな!」
そして、竹でできた塀を開けると、そこに露天風呂がある。
「ちょと、まずいけど、とりあえず!」
由紀夫は背中の正広を、そのまま温泉の中に下ろした。
「わわわ!つっかけだし!」
「後で謝ってとく!熱い?大丈夫か?」
つっかけのまま、ジーンズのまま、ひざくらいまでの温泉に突っ込まれた正広は、ん?と首を傾げる。
「あー、感覚ないかぁ」
心配そうな兄を見つめながら、片足を上げてつっかけを脱ぎ、もう片方も脱ぎ、外に置く。
そしてやっぱり首を傾げた。
「正広?」
「・・・熱く、ないよ?」
「そりゃ、感覚なくなってんだよ、しばらく漬かってれば、・・・ん?」
外は、雪が解けない気温。
そこに、暖かい温泉があれば湯気が出る。その湯気は、温度差があればあるほど多くなると思われるけど。
「・・・あんま湯気出てないな」
「冷たくはないけど・・・」
もう一度お湯に手をつけて、正広は首を傾げる。
「ぬ、ぬるい?」
「え?」
由紀夫もお湯に手をいれて、「ぬるっ」と手を引っ込めた。
「なんだこれ?」
「温泉、じゃないのかな」
「沸かしてるやつ?ん?」

「お客様!大丈夫ですか!?」
ぱたぱたと足音がして、脱衣室から仲居さんたちが顔を出す。
もちろん彼女たちが着たいしていたのは、ら、裸体だ。ら、裸体(笑)
しかし、正広は服を来たままお湯の中に突っ立っていた。
「・・・お客様?」
「あの、この温泉って」
「はい」
由紀夫が湯船を回り込んで、仲居さんたちの前に来る。
「温泉って、沸かすタイプですか?」
「え!?うちは天然温泉で、・・・あーーーっっ!!」
「え?なんでーーっ!?」
仲居さんたちは、温泉の奥を見て悲鳴をあげる。ちょうど、正広の体で隠れていた場所にあったのは、お湯の注ぎ口。
竹の筒から、こんこんと湧き出ているはずなのに、今やその竹からは一滴の温泉も沸いていない。
「あぁ!そうだ!テレビで見た!」
由紀夫も驚愕。
「つまり、たまった温泉だけだから、冷めてきちゃったんですね!?」
「で、でもなんで止まったんでしょう・・・」

困惑する由紀夫、仲居さんたち。
そして正広は。

『内風呂に入れて!!』

風に吹かれながらそう思っていた。

<つづく>


まぁ、ひろちゃんったら可愛らしいわ。お池にはまってさぁ大変〜♪ね!
ってなんのこっちゃ!俺!
次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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