天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

このページの画像は、すべてyen@gallery様から使わさせていただいております!皆様も遊びにいらしてくださいね!

ギフト番外編146話後編『なぜか温泉に連れてこられた』


 

「あぁ〜・・・うぁ〜・・・!」
「・・・おっさんか!」
部屋の内風呂から響いてくる正広の声に、外にいた由紀夫が力いっぱいつっこんだ。
「だっでぇぇ〜〜〜・・・!」
しかし、うぉー、くかー、はひー!といった、おっさん風喜び声がぞくぞく湧き上がってきている。
「あっだげぇぇぇ〜〜〜!!」
「あぁ、そうかい、そうかい」
氷点下から、ぬるま湯につけられ、そこで風に吹かれていた正広は、今極楽にいた。
狭いながらも暖かいお湯で満たされた湯船。
冷え切った体をチクチクと刺す熱ささえ愛おしい。
「あっだげぇぇ〜〜・・・」
心からしみじみと、田中邦衛のように、正広は何度も何度も声を上げる。
しかも!
温泉ではなくてすみません!と、仲居さんたちが、お湯がとろとろになるタイプの入浴剤をいれてくれており、まとわりつく温かさに、いやーん、俺もとろけちゃーう♪と訳の解らないテンションになっていく正広だ。

「でましたー!」
浴衣を適当に身につけて、ぬくぬくした体や、髪から湯気を出しつつ、元気よく座敷に入ってきた正広は、ぬっくぬくの室温に、にこー!と笑顔を見せる。
「ぬっくーい!」
「風邪でも引かれたら大変だからな」
ほらほら、と、こたつの中にいれ、髪をタオルで包み込む。浴衣の上に丹前を羽織らせられた正弘は、全身布だらけという感じで、湯上りの風情は0だった。
・・・だるま・・・
思わず由紀夫が心でつぶやいてしまうほどに。
「はいどーぞ」
ぬくぬくしている正広の前に、とん、と置かれたものがある。
「アイス・・・!」
キラリと通り越して、ギラリと正広の目が輝いた。
冬。ぬっくぬくの部屋で食べるアイスは、正広の至福アイテムの一つなのだ。
「普通のバニラしかなかったんだけどな」
「ううんっ!ありがとおっ!」
一度はやってみたい、お風呂でのアイス食いだなと思いながら、がつがつとバニラアイスを食べていた正広は、あ、露天風呂でアイスっていうのもよさそう!と思いつく。
月見アイス。
月を見ながら露天風呂につかって、アイス。
子供なりの贅沢じゃなかろうか・・・。

「って、温泉、どうなっちゃったの?」
「そうだよなぁ」
由紀夫は、雪が降り始めた庭を見つめる。
すでに、注がれるお湯を失った露天風呂は、たんなるプールと化していることだろう。
「見に行こうかな・・・」
「えっ?」
「どこから温泉を引いてるのか解んないけど、気になるし」
「え?え?今から?これからっ?」
「だって、あの露天なかったら・・・!」
俺の冷え性のために来てくれたんじゃないのう。
露天ないからって、内風呂なんていやだああ!という兄を、じっとしずかに見つめるだるまちゃん正広だった。

「だからって、おまえは部屋にいろって!」
だるまちゃんお外行きバージョンの正広は、由紀夫にくっついて庭に出てきていた。
「だってー」
アイスも食べたし、ぬくぬくだし、退屈だからー、と離れない。
まずは腹巻をし、フリース、フリースと重ねた上に、ぶあっついダウン。耳当て、フード。これに雪がつもれば、完全なる雪だるまちゃん完成といったスタイルだ。
「あら、お客様」
露天風呂を満たしている水をとりあえず抜いていた仲居さんが、早坂兄弟を見つける。
「どうなっちゃったんですか?」
「今、源泉の方を見に行ってるんですけど、ちょっとまだ連絡がないんです」
直線距離はたいしたことなくても、車で行こうとすると迂回するしか方法がないらしい。
「そうですかぁ・・・」
そう言いながら、由紀夫の目線は、温泉を引いてあるであろうルートを探っていた。
「お客様、お外出て大丈夫ですか?」
「はい!入浴剤、すごいよかったですー」
雪だるまちゃん予備軍の正広は、仲居さんたちの視線を自分に釘付けにしつつ、兄のリサーチをフォロー。
「それじゃあ」
とその場を離れつつ、裏庭から、旅館の裏手に脱出。お湯を引いてあるパイプをさかのぼって、雪山へと入っていく。
「・・・やっぱ正広帰ってくれるかな」
「・・・もう、無理・・・!」
緩やかに登っていく坂を、由紀夫は慎重に進んでいるのだが、後ろについてきているのは、雪だるまちゃん正広。もこもこと動きにくい状態なため、両手でしっかり兄のダウンの背中を握り締めているので動きにくいことおびただしい。
「無理って・・・」
「山はね・・・!登るより・・・、降りる、方が・・・!難しいんだよ・・・!」
一歩一歩、転びそうになりながら正広が言う。
確かに、このもこもこした状態で、雪の坂を降りろといえば、そのまますべりおちて、本物の雪だるまちゃんになりかねない。
仕方あるまい。
人の一生は、重き荷を負うて、遠き路を行くが如しだ。急いではいけない。(ばーい徳川家康)
覚悟を決めて歩き出した由紀夫は、その恐るべき体力にものを言わせ、足元の雪をなるべくどかしつつ、正広の歩きやすい道を作りながら坂を登りつづける。
「兄ちゃんさぁ」
ダウンジャケットをつかんだままだった手を、正広がちょっと離す。坂はやや平坦な場所にさしかかっていた。
「こういうパイプって、暖かいものじゃないのかなぁ」
「え?」
「冷たい。すごく」
温泉が通っていれば多少はぬくもりもあるのだろうが、現在温泉が通っていないためそのパイプは、単なる金属に思えた。雪もちらちらと積もりだしている。
「てことは、やっぱり源泉で何かあったのかな」
「枯れちゃったってこと?」
「うーん、そうかなー・・・」
もうちょっとだけ行ってみるか、と、由紀夫は、パイプの先を見つめた。
もう一度上り坂があり、その先は見えなくなっている。
「あそこから下がってんだな」
「じゃ、あそこまで?」
「そうだな。あの上まで行ってみようか」
そろそろ日も落ちるし、これ以上雪にも降られると本気で遭難しかねない。こんな都内から近い場所で。
スキー用?みたいな手袋で、ぎゅうと背中部分をつかまれたまま、また由紀夫は歩き出す。
急に厳しくなる角度に、さすがに息を切らしながら登っていった由紀夫は、どうにか最高点に到達。正広も引っ張り上げて、そこから下を眺めた。
盆地のように見える場所にむかって、パイプは下りていっている。ただ、木々が多くてその先がよく見えない。
「んー、と・・・」
「なんかあるー?」
正広もあちこちを見てみるが、ただ、静かな白い世界があるばかり。
「やっぱ、源泉かなぁ・・・」
「源泉かねぇ〜・・・」
うーん、と、空を見上げた正広は、静かに降る雪を下から眺める。すると、ふと、平行感覚が狂い、あれ、と思った時は、体が宙に浮いていた。
えっ!?俺浮いてるっ!?と思った次の瞬間には。
「うわーーーー!!!」
「正広!!」
雪の上に落下、そのまま盆地の中に転げ落ちていってしまう。
「バカ!なんでホントに雪だるまになろうとしてんだよ!」
「してないー!あー!止まんないーーー!」
あまりにもこもこに着込んだため、手足の自由が利かないため、じたばたと正広はあがく。木にぶつかったりしたらいくらなんでもあぶない。どうにか方向を定めようとしていると、何かに触れたので、それを握り締めた。

「ギャっ!」

「ぎゃっ!?」

スピードが多少緩まったところで、木にぶつかり止った正広は、握り締めたものの妙な弾力に驚いて手を離す。
そこには。
「さ、サルっ!?」
「正広!」
こちらは見事なすべりっぷりで正広のとこまでやってきた由紀夫の頭の上を、サルが飛び越えていく。
「さ、サル!?」
「サルだ・・・」
「・・・ここって、ど田舎・・・?」
「いや、そんなとこじゃないはずなんだけど・・・」
本当に雪だるまちゃんと化した正広の体から雪を払い落とし、動けるかどうか由紀夫は確認する。
「足は?」
「うん、大丈夫。もこもこだから・・・。でも、どこつかんじゃったんだろ、大丈夫かな・・・」
まだかすかに残る手のぬくもりを感じながら正広はつぶやいた。
冬で、食べ物なくて、降りてきたのかなぁ。
大丈夫かなぁ・・・。

とか思っていたら。

「ん?あれ、湯気か」
由紀夫が林程度に密集した木々の間に、白くけむっている場所を見つけた。
「え?あ、ほんとだ湯気っぽい」
それを目的地にすえて、雪の中を早坂兄弟は進み、そして、ついに破損したパイプから沸き出でるお湯を発見したのだった。
「・・・これ・・・」
しかし。
うまい具合にお湯がたまり、そこが小さな温泉と化していて。
その上。
「サルだらけ・・・」
サルだらけなのだった。
「確信はないけど・・・」
「何・・・、兄ちゃん」
「あのパイプ壊したの。・・・こいつらじゃねぇか・・・?」
「俺もそう思う・・・」
例えば、坂の途中でパイプが壊れたのであれば、雪を溶かす間に温度は下がる。どこにたまるかも解らない。しかしこの場所であれば、盆地でもあることだし、なんらかの形でお湯がたまるのだろう。
パイプは、ジョイント部分が綺麗に外されていた。自然に何かが落ちてきたというのであれば、亀裂が走ったり、広い範囲にへこみが出たりするものなのに、パイプそのものにはほとんど変形はない。途中が外れている。
「石かなんかで、こつこつボルトはずしてったっぽいよな」
「すっごい・・・」
ぬくぬくと、人間など気にせず温泉に入っているサルたちに知性のきらめきがみえる正広だ。

「どうする・・・?」
しかし、しばらくそのぬくぬくとしたサル温泉を見つめていた正広がつぶやくと、由紀夫が突然吹きだした。
「な、何っ」
「いや、今入ってきたやつ、正広みたいだったから!」
「えぇーっっ!」
もしかしたら、さっき正広が、足だかどこかだかをつかんでしまったサルかもしれない。外から急いでお湯に飛び込み、くかーー・・・!と大口を開けている。
「おっさんくさい声とか出してそーじゃんあれ!」
「おっさんくさいって!」
いや、似てる、絶対似てる!そんなはずない!俺はサル顔じゃない!などと言い争いをしながら、しばらく二人は、サル温泉鑑賞を楽しんだのだった。

その後、帰り道でもう一度正広は転落。宿の裏庭に雪だるま状態で登場する羽目に陥った。
その夜は、結局温泉が復活することはなかったが、宿料金は安くしてもらえたし、食事はランクアップしてもらったし、目的の半分は達成できて、由紀夫の気持ちもそこそこ治まっている。

「待って!目的は俺の冷え解消じゃなかったの!?ねぇ!兄ちゃん!」

やすらぎの宿は、温泉のパイプを途中で分岐させ、サル用温泉の存続を決定した。
それを恩に感じたサルたちが、山の果物を持ってきた、・・・・・・・・とかいう話は聞いていない。

「ねぇ!だから、俺の冷えは!?家帰ったらやっぱり寒いと思うよ!足も!手も!」
「だったら、つま先にとうがらしでもいれとけ!」
「寒いよー!寒いよ、にいちゃーーん!!」

どうする!どうなる!これからの冷え性対策!!


冷え性ではないはずだったんですが、家にいると足が冷たく感じられます。引越しをした冬からです。理由は解っています。
こたつがないからです!
こたつが!こたつさえあれば、足なんてぬっくぬくです。ひろちゃん。こたつを導入しなさい。そしてそのまま寝ると大変気持ちがよいですが、私以外の人は体調を悪くするらしいから、気をつけて(笑)!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

今までのGift番外編へ

What's newへ

SMAPレポートへ

SMAPメニューへ

トップへ