天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

このページの画像は、すべてyen@gallery様から使わさせていただいております!皆様も遊びにいらしてくださいね!

ギフト番外編147話後編『そして神戸』


 

どうしても風見鶏の館が見てみたかったカーナビによって、神戸の街を迷走させられた早坂兄弟。
早坂兄弟は、ついに港町神戸らしい場所に到着していた。
「どうやらこのあたりが南京町になるらしい」
「そうなんだー」
由紀夫が立体駐車場に車をいれている間、神戸タワーなんぞを眺めて正広はウキウキしてきた。
この後は、中華街で中華を食べるのだ。餃子やチャーハンを食べるのだ!
正広の中での中華の位置付けは、あくまでもこのラインだ。ツバメの巣やフカヒレにお目にかかったことがないわけではないが、あくまでも基本はここ。
餃子は茹でてても、スープに入っていてもいいが、本当は焼いているのが一番好き。
『そんなのラーメン屋行けばいいでしょー!!!』
という奈緒美の声が聞こえてきそうな正広だ。
由紀夫にしても、あまりタイプは変わらない。本場の餃子にはにんにくは入らないのよと言われると、えぇ?と思ってしまったりもする。
そんな庶民派な早坂兄弟が駐車場から出ようとした時、駐車場の係員が言った。
「えーっとね、今日はね、獅子舞やってるかな」
「はあ?」

シシマイ?

聞きなれない言葉に、頭の中での漢字変換が遅れる。
「ししとう?」
「いや、それは確実に違う」
「獅子舞だよ、獅子舞。旧正月だからね、南京町で」
「え?じゃ、南京町なんかやってるんですね?」
「お正月だから、色々やってるよ」
「やったぁ!」
中華だけでも嬉しいのに、二月にもなって獅子舞が見られるなんて!
「いこ!早くいこ、兄ちゃん!」
「解ったから!はしゃぐな!子供か!!」
由紀夫の腕を引っ張りながら、駆け出そうとする正広に言うと。
「(冷静)子供です」
「子供だな」
そりゃそうだ。
由紀夫も納得し、仕方なく足を速める。
「えーっと!それでどっち!?」
「道知らないなら走るな!」
待たんか!とコートの襟首を引っつかみ、カーナビの地図を正確に思い出しつつ南京町方面に向かう由紀夫だったが。

「でも・・・」
「あれだな」
『旧正月で盛り上がる南京町』という空気は、その辺りからはまったく感じられなかった。ただの静かな夕暮れという感じだ。
思ったよりも駐車場の位置は遠かったのかもしれない。
「あ!ほらあそこ!電飾が・・・」
「・・・あれは、自動販売機だな」
正広が指差した方向には、無駄にライトアップされた自動販売機があったりはしたが、それ以外はいたって静かな町並みなのだ。
「んーっと?どこが?南京町?」
「獅子舞はどこー!」
そして、そんなうろつく早坂兄弟の前に、それは突然現れた。

「うわ。唐子?」
赤地に金の模様が描かれた中国風の服を着て、髪を頭の横で円くまとめている子供が、少し先の路地から飛び出してきた。
せいぜい小学校低学年くらいで、男の子か、女の子か判別のつかない顔立ちをしている。
「可愛いー」
たった一人のその子は、きょろきょろと左右を見渡し、車がこないのを確認してから車道に飛び出す。
「あっ!」
反射的に自分も車道に出てしまった正広は猫以下の生き物だ。
「あ!じゃねぇだろ!」
まったく車が通ってなかったからいいものの、一瞬にして湧き上がった冷たい汗を背中に感じながら、由紀夫も正広を追う。

赤い、柔らかそうな靴を履いた小さな子供。
その後を(なぜか)追いかける正広。
そして、由紀夫。
どこか濃密な空気がまとわりつく。
追いつけない子供が、本当に子供なのか解らなくなってくる。
そして。
いつの間に紛れ込んだのか、にぎやかな音の中に由紀夫はいた。
鮮やかすぎる電飾。
人のざわめき。
しかし、それらはどこか現実感を喪失して見えた。
人々と、自分との間にある、薄い膜。
周囲はかすんで見えている。
これは現実なのだろうか。
それとも。自分が現実ではないのだろうか。
すでに、唐子も、正広の姿もない。
この中華の、不思議な夜の中に取り込まれ・・・・・・・・・

「って、何やってんだおめぇは!」

うりゃ!と思わず蹴ってしまうのは、足元にしゃがんで、むぐむぐと肉まんを食べている弟の背中だ。
そこはすでに南京町。
もうもうと上がる蒸篭の湯気の中、由紀夫はたたずんでいた。
そりゃ、視界も曇るだろう。
「すっごいいい匂いがして!美味しいよ、兄ちゃんこれ!」
動物か!
と、我が弟ながら情けなくなってしまう由紀夫だ。美味しい匂いがしたから駆け出したって、どんな動物なんだ!
そこは、それまで早坂兄弟がいた道から、一本ずれただけの通りだった。
大勢の人で、道がいっぱいになってしまっている南京町。
屋台もたくさん出て、正広の目が輝きっぱなしだ。
「兄ちゃん、ふかひれラーメン!」
あっという間に肉まんをまずたいらげた正広は、次なるターゲットに向かいだす。
「300円!?」
由紀夫はその値段に目をむいた。
「何フカの、どこヒレだよ!」
「ふーかひれ!ふーかひれ!」
とろりとしたスープのふかひれラーメンは、アツアツだった。猫舌のくせに、我慢ができない男、溝口正広は、アヂッ!アヂヂッ!と涙目になりながらも、どんどん食べていく。
「で。何フカのどこヒレ?」
「・・・どれがフカヒレか解んない」
奈緒美と食べにいけば、フカヒレの姿煮なんてものにもお目にかかるが、正広はかけらもグルメではなかった。
「このほっそい筋かな」
よこから箸をいれていた由紀夫は、器用にフカヒレらしきものをつまみ出す。
「それっぽいねぇ」
「ま、フカヒレはともかく、スープ好きだな」
サンラータン風の、酸味のあるスープが由紀夫好みだ。
「点心も食べたい!点心も!」

南京町の旧正月。
見るべき風物は色々あるはずだったが。
何よりも食い気。まずは食い気。
それが正広なのだった。

「それで兄ちゃん、獅子舞はどこ?」
「俺に聞くか!」
北京ダックまで食べた挙句、正広は言った。
「え、だって獅子舞見にきたんじゃん!」
「え?これまでの時間は」
「ちょっとした腹ごしらえ?」
「ちょっとしたなんだぁ・・・」
並み居る屋台を征服するつもりなのかと由紀夫を本気で心配させた正広は、それでもちょっと小腹が落ち着いた程度らしい。
「獅子舞ー・・・」
とりあえず人の流れに乗ってみるかと、自然に動いている人たちの中に入っていく。
そうすると、その人ごみの先に、さっきの唐子が見えた。
中華風の衣装を着た、父親らしき男性に肩車をされている。
「あ!さっきの子だ!」
「なんかやるんだな、あの子も」
「でも、獅子舞って、あんなキラキラしたカッコじゃないよねぇ」
「日本の獅子舞とは違うんじゃねぇか?」
親子のいる先には、広場のようになっている場所があり、人はそこに集まっていた。
「前行くか?」
「行く」
人ごみをすり抜けながら、前に前にと二人は向かった。それぞれの片手にはちまきが握られている。

「うわ・・・!」
そして、二人が見たものは、龍の踊りだった。
二匹の巨大な龍。
「すっごぉい」
「でかいなぁ」
照明にライトアップされた二匹の龍は、人が、そこにいるのが解っているのに、生きているように見えた。
絡み合い、離れていき、それぞれに軽やかに、楽しげに舞う。
その龍が、お互いに、何か喋っているように見えた時。
「ロンロン!」
「ろ?」
じっと龍を見上げていた二人の足元で、可愛らしい声がする。
「あ、唐子ちゃん!」
赤い服の唐子が、龍を指差していた。
「ロンロン!」
「ロンロンって言うんだ」
正広は唐子の前にしゃがむ。唐子の、綺麗な切れ長の目は、もしかしたら日本人じゃないのかもしれないという印象を正広に与えた。
「ロンロン」
こく、とうなずいてそれを繰り返す子は、手を伸ばして龍に触ろうとしている。
「っしょ、っと」
そんな唐子を抱えあげたのは、由紀夫だった。
「触ってもいいのかな・・・」
そう思いながら近づいてきたロンロンにその子を近づけると、嬉しそうに手を出している。
「メイロン!」
もう一匹の、ちょっと小さめの龍にも一生懸命呼びかけている姿が、とても可愛らしいのだ。

「この子って・・・」
正広はつぶやいた。
「この龍の子供なんじゃない?」
「パパとママってか」
龍の踊りが終わり、由紀夫が足元の唐子を降ろしてすぐ、帰ろうとする人ごみが動き始めた。
「あっ!」
正広が急いで手を繋ごうとしたけれど、唐子の姿はまた見えなくなってしまった。
引き上げる龍と一緒に。
「・・・ほんとに龍の子じゃないよねぇ・・・」
「さっき、でっけぇお父さんと一緒に・・・。・・・って、あのロンロンってでかい龍がお父さんか」
「・・・龍。見ちゃったのかな・・・」

あのよく目立つ服装も、今はもう見えない。
頭一つくらい大きかったお父さんも見えない。
旧正月の夜、まだ見ぬ中国の夢を、二人は見た。

 

そしてその頃。中森かえでは。
「えっ?いえ、あの!違うんです!この子は!私の子じゃなくって!」
「メイロン!メイロンっ」
「メイロンって、誰?お母さんっ?私はね」
南京町の人ごみの中で、唐子の格好をした男の子と手を繋ぎ、警察から叱られていた。
「お母さんね、こんな小さい子の手をはなしちゃ危ないでしょ〜」
「いえ!ですから!」
「メイロン〜・・・」
「ど、どしたの?」
急に男の子が哀しそうになるので、迷子!?とかえでは慌てる。
「ね、ママは?この子、迷子なんですってば!」
しかし、人ごみがまた動き、あらららら、と、大きなトランクごと流されていったかえでは、唐子と、獅子舞&龍踊りのエキスパート集団に紛れ込み、そのまま、フェリーで瀬戸内海を渡ることになるのだった。
東京のおうちはまだまだ遠い。


この後溝口正広君は、激烈可愛いレディースのコートとかを買ったと思うんですよ。戦没した船と船員の資料館そばのビルで(笑)
私たちも、この龍を遠くから見ましたが、名前までついているとは露知らず。もうちょっとちゃんとそばでみておくべきだったと思いますです。はい。

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

今までのGift番外編へ

What's newへ

SMAPレポートへ

SMAPメニューへ

トップへ