天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

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ギフト番外編149話後編『HR』


 

「わぁ、職員室!」
正広は、うきっ!と足元を軽くはずませる。
「揺らすなっつの」
「あっ、ここが喫煙コーナー!」
「だから揺らすなっ!」
「えーっとですね、えーーっと!」
しかし、一番揺らしているのは、軽く手を添えているだけの正広ではなく、先頭を行く轟だったりした。
「あれっ?それなんです?轟先生」
「むっ、村井先生っ」
無理に決まっているのに、反射的に背中に隠そうとするもんだから、正広は振りまわされ、由紀夫は取り落とさないように苦労させられる。
「び、備品ですっ!」
轟の声は大きかった。
なにせ、まだ須磨が荷物の様子を窺っているのだ。
「備品〜?」
しかしそれは、前門の虎、後門の狼。
「なんだよ、それ。聞いてないよー?」
その通り。備品なんてものは何もない。
「いいんです!えっと!こっちにっ」
「いいって、轟先生〜?」
こっち!こっち!と、職員室の窓際に轟は由紀夫たちを先導する。
「それでっと」
どでん、と置かれた段ボールを、カーテンで隠そうとした。
「あの・・・?」
どう考えても隠れそうもない巨大な段ボールをカーテンでラッピングしようと苦心する轟に正広が声をかけた。
「備品でしたら、出した方がいいんじゃ・・・」
「しょっ!」
「しょ?」
「消耗品なんで・・・!」
「消耗品?備品?どっちなんだよ、轟せんせ・・・」
「備品で!消耗品なんですっ!ほら!先生授業でしょっ!」
「授業・・・!」
正広の光が、きらりらりん♪と輝く。
「あのぅ」
「はいっ!?」
ちょっとした物音にも過敏に反応してしまう轟は、段ボールを背中に庇いながら正広を向かいあった。
「あの、授業、ちょっとだけ覗かせてもらうことって・・・」
「授業!?あ!あ、いいですよ!あ!じゃあ!あの!教室、この向かいですから!先に!」
「わぁ!いいんですか!」
やったぁ!と兄を見る正広だったが、由紀夫は仕事を忘れてはいなかった。
「あの、轟先生」
「はいっ!えっ!そ、それはっ!?」
「あ、あの。受け取りの代わりに、写真を」
「写真!いやー、それはー・・・!」
「え?轟先生の荷物、ですよね?」
「いえ、備品です」
「消耗品では?」
「ですから!備品の!消耗品・・・!」

「せぇんせぇ〜?」

轟の背中に、一気に冷たい汗が流れた。
生徒の神野美紀が職員室に飛び込んできた。彼女にだけは!この中身を見られる訳にはいかない!

その時、由紀夫の脳裏に『加速装置』という言葉が浮かんだという。

由紀夫の前にいたはずの轟が、瞬時に由紀夫の背後に移動していた。
「あのー!神野さん!なんです!?」
「え?授業・・・」
「あっ!はい!すぐ!すぐ行きますから!はい行きましょう!行きましょう!」
神野美紀の背中を押し、轟は職員室を出ていく。正広もそれについていった。
「いや、あの・・・。受け取り・・・」
だから、由紀夫も行かざるを得ないのだった。

「あらぁ?」
美形に目敏いのは、やはり女性。
過不足ないフェロモンを、ちょうど具合よく発している女性の顔を、由紀夫たちはよぉーーく知っているような気がした。
「・・・千明?」
「千明ちゃん?」
「え?」
その女性は不思議そうな顔をしながら、早坂兄弟にささっ!と近寄ってきた。
「淡島ですぅ」
「あ、淡島さん・・・」
「はぁい♪」
色っぽいが、イヤミすぎるほどではない。
「他人だな」
「他人だね」
『あの』千明と、この淡島は別人だと目と目で納得しあった早坂兄弟は、それ以上に千明らしい人物を発見して仰け反った。
千明らしくもあり、ある意味、腰越奈緒美らしくもあるその人物。
「あのっ!」
おそろしく張りのある声。
「どなたさまでしょう!」
丁寧過ぎる物腰。
「そうそう、どちらさまぁ〜?」
淡島のそばまでやってきたその人物のチークの赤さが、正広の網膜にやきつく。
「はいはい!皆さん席についてくださーい!はい!ついてー!でない!鷲尾くんは教室から出ない!」
「なぁんでだよぉ!」
「授業だからですよ!はい!座って!座ってください!」
「轟せんせぇ〜!」
赤すぎるチークで正広の網膜を焼いた女性が手を上げる。
「・・・はい。宇部さん」
「こちらのお二人はっ?」
「あ、こちらのお二人はですね、今日の授業の見学に・・・」
「宅配便の人なんですよ!」
須磨の言葉に、轟のこめかみは、ぴきい!と引きつった。

普通の宅配便の訳ねーだろ!
どこの世界に、こんな顔した配達員がいるよ!
全く配達員顔じゃないじゃないか!!

「えー?宅配便の人ぉ〜?」
適度なフェロモンの淡島がまず食いついた。
「なんでなんでー?だって、スーツじゃなぁい」
「制服なもので」
「スーツで宅配!?」
「はーいみなさーん」
轟が手を叩く。
「初対面の方に、いきなり職業からうかがうのも失礼ー・・・」
「なんでだよ、先生」
いかつい顔の男が立ちあがる。彼は、大工の八木田だった。
「俺たちゃあよ、仕事をして、それから学校に来てんだよ。仕事のことを言って何が悪いってんだ?」
「あ、いや、そういうことじゃあ・・・」
「備品を運んできたんですよ、この方たちは!」
朗らかに須磨がいい、ほほーー、と訳の解らない賞賛の声が上がった。
「重たい荷物をね、お二人で」
「えー!こんなちっこいのにかよー!」
金色の短髪をつんつん尖らせた鷲尾が、正広の眼前に突然現れる。
「ちっこいって!」
そんなにちっこくない!と正広が、背伸び気味に胸を反らしたのが面白かったのだろう。
「おんもしれーー!!な!な!こいつイジめてもいい!?」
「聞かないでください!」
「聞かずにイジめてもいいのかよ!」
「聞いても聞かなくてもイジめちゃダメなんですっ!はーやーくーせーきーにーつーいーてーくーだーさーいぃーーーー!!」
騒ぎながら教室のドアというドア。窓という窓を閉めていく轟。
「先生?」
神野美紀が小首を傾げた。
「いつも開きっぱなしじゃないですか?」
「花粉です」
「花粉?」
「僕は花粉症なので、なるべく外気はいれたくないんです!」
「昨日までそんなこと言ってなかったじゃないですかぁ!」
「今朝!今朝なったんです。ぐしゅん!」
したくもないくしゃみをしながら、とにかく生徒たちの気を、職員室からそらさなくてはいけないと、轟は轟なりに必死だ。
「えーっと!あ、とにかく今日は見学者の方、ね?2名おられますが、普段通りにやりましょう!ベニスの証人やります!宿題出してましたよねー、えーっと、八木田さん・・・」

「備品ってよぉ、何運んできたんだ?」
「えっ?」
突然、ニッカボッカスタイルの八木田に振り返られ、ベニスの商人って何売ってるんだろー、ベニス?とか思っていた正広は目を丸くする。
「えっ?」
「ですから!備品ですから八木田さん!!」
「備品って、だから、具体的になんだよ」
「重たいものだそうですよっ」
「須磨さん!だから席ついてくださいって!」
「重たい備品って、なぁに〜?」
女という生き物に好奇心がなかったことはないが、その中でも、宇部恵子は、女の中の女。
「備品っていうとぉ・・・、例えばなんなんでしょ!」
「いいんです!それは学校側の問題ですから!八木田さん!だから、あの宿題・・・!」

「気になるんだよ!備品がよ!」
「八木田さんと備品にはなんの関係もないじゃないですか!」
「なんでだよ!俺はこの学校の生徒であり、大工だよ!なのに、本棚とかを買われてたとしたら、俺のプライドはどーなんだよ!ずたずただよ!」
「おじき!」
「八木田さんっ!」
八木田の左右に、鷲尾と宇部がすがりつく。
「俺の手間賃なんかはいらねぇや。この学校が本棚を欲しいっていうんなら、俺は、桜だろうが、ヒノキだろうが、桐だろうが、探し出してきて、作ってやったのによ!」
「さすがおじき!」
「カッコいいわぁ、八木田さん!」
「だから、誰も本棚だって言ってないじゃないですか!だからあの・・・!あぁーーーっ!」
教卓の前から、猛スピードで轟が出てくる。

「宿題やってないんでしょお!!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ともかく、その備品とやらを見に行かないとな!」
「違いますって!だから!」
「じゃあ、重たい備品ってなんなんですっ?」
おぉ!
正広はわが目を疑った。
さっきまで、教室の隅の方にいたはずの神野美紀が轟の腰にへばりついている。
「に、兄ちゃん・・・」

「・・・確かにこの学校の関係者には、加速装置がついてるといっても過言ではないな・・・」
バイトとして雇いたいぐらいの身体能力だが、いかんせん、集中力がなさすぎる。
あの事務所を。
ぷーさんまみれの、頭が沸きかえっているかのような事務所を、これ以上とっちらかす訳にはいかない。
良識はそれほど大事にしないが、結構常識派の由紀夫だ。

そして、クラスの気持ちは、『重たい備品』とは何か。
というところに集約してしまった。

「重たい、けど、備品・・・」
「そもそも備品ってなんなんですか?」
「備品というのはだなぁ」
転校生ながら、どう考えても誰より物知りの鰐淵の言葉を、須磨が奪った。
「灯油じゃないですか!?」
「灯油ー!?」
「それって、備品!?」
「そうじゃないだろ!」

騒ぎ出す生徒たち、困惑している届け屋二人。
轟は困り果てた。
一体この人たちの関心を、段ボール以外のものに移すにはどうすればいいんだ・・・!

その時。

「うわあああ!」
職員室から、村井の悲鳴が上がった。
めったにないことに、生徒たちの、そして轟の動きが止まる。
「村井先生!?」
轟が言うのと同時に、由紀夫が教室を出て、職員室に入る。
その後に、全員瞬間移動できるらしき生徒たちが連なり、そして出遅れた轟と正広が最後につく。
「し、死ぬー!」
「村井先生ーーー!!!」
窓ガラスも割れんばかりの宇部の叫び。
『重たい備品』が入っているはずの段ボールの下敷きに、村井がなっていた。
「村井先生が死んじゃうーーーーーーー!!!!」
「死にませんよ!」
「足がー、足が挟まれているー!」
「誰かー!先生を助けてーー!!」
「だから宇部さん!死にませんって!村井先生も落ち着いてっ!」
「俺は・・・、誰よりも高く飛べるダンサーだったんだ・・・!」
「ダンスなんかしたことないでしょう!しっかりしてください!村井先生!」

生徒たちを掻き分け、轟は、ひょい!と段ボールを持ち上げた。

「・・・先生・・・?」
神野美紀の瞳が、まぎれもないハートに変わった。
「村井先生を助けるために、重たい備品を一人で持ち上げられるなんて!先生すごい!!」
美紀アターーック!!
轟のみぞおちめがけて突っ込んだ神野美紀の頭。
ぐふぅ・・・!と鈍いうめきを上げ、段ボールを取り落とす。

あ。

と、由紀夫が支えようとしたが、その差し伸べられた腕は間に合わなかった。
村井の上に再び落ちた段ボールは、今度こそよけねば!と手足をむちゃくちゃに動かした村井により吹っ飛ばされ。
生徒たちの輪の中につっこみ。
鷲尾の蹴りをうけ。

やぶけた。

ごろん。

中から、巨大な。
実物大!?とまで思えるほど巨大な。
大変可愛らしい表情をしたクマのぬいぐるみが転がり出てきた。
首からは、可愛いメッセージカードを下げている。

『TO 淡島さん(はぁとマーク)ハッピーホワイトデー♪ From轟慎吾』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「轟せんせぇ・・・!?」
地を這うような神野美紀のうなり声。
あぁ!
正広は慌てた。
敬愛する(?)轟先生のピンチ!助けなきゃ!!

「すみません!こちらのお届けものなんですが、本当は3個あるんです!ね!兄ちゃん!」
「えっ」
「えぇっ!?」
由紀夫以上に轟が驚いていたが、由紀夫とて、口八丁手八丁の奈緒美と長く過ごしてきた男。その場限りの言葉なんて、簡単に出てしまう。
「こちらの手配ミスでご迷惑をおかけしました。3つ揃えて、初めてお渡しするために、備品だのなんだの申し上げてすみませんでした」

こうして。
届け屋のミス、ということで、この騒動は終わりを告げた。

残ったのは。
完全受注生産巨大テディベア、一体12万円也かける2個の新たな請求書だけだ。

悪いのは俺なのか・・・?
ニコニコと、よかったですね!と言う正広を見つめ、轟はただうなずくしかできないのだった。
あの頭突きさえなければ・・・!
「神野美紀ぃぃぃーーーー!!!!」
その週末。
海に向かって叫ぶ轟の姿が茅ヶ崎で見られたという。


HRが終わってしまいました・・・。
また見たい・・・!好きだ!好きだ好きだ、大好きだ、ホイさーーーん!!
哀しいなぁぁぁーーー!!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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