天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第14話中編『お正月を届ける』

めっちゃ短い前回までの話。

「新年初の依頼で、島根県までやってきた腰越人材派遣センターご一行。しかし、働いているのは、由紀夫と正広だけだった。依頼人の希望とおり、一人暮らしの父親の元におせち料理を届けにきた二人は、一つの町名を占有している広大な屋敷にあっけにとられる。果して、父親はいるのか?」

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おそるおそる振り返ると、「ザ・頑固親父!」もしくは「キング・オブ・頑固!」の称号を必ずや持っているに違いない、短髪、和服の中年男性が立っていた。
「誰だ」
「あ…、あの」
「届け屋です」
びくついてる正広を背中に庇うようにして、由紀夫が前に出る。
「届け屋?」
依頼者、丘見優美子(注:島根県に多分丘見という町名はないと思います…。似たような名前はありますが…)の父親を見て、由紀夫はすぐさま、素人じゃない、と思った。
背は高くないが、がっちりとした体に、少し白髪の交じった短く刈った髪。そして何よりも、鋭すぎる眼光。
けれど、そこはそれ、決してこっちも堅気では由紀夫は、じっとその目を見つめかえしながら、口を開いた。
「丘見優美子さんからの届け物を持ってきました」

その名前を出すと、その人の表情が変わる。強い目の光が、ふいに弱くなった。
「…置いて行け」
「そういう訳にはいきません」
さすがに、元チンピラ。相手が弱みを見せれば、いくらでも笠に着る事ができる由紀夫は、ごくごく冷静に言った。
「丘見優美子さんからの依頼は、丘見健三郎さんに、実際に召し上がっていただくことですから」
その言葉に、ようやく体勢を立て直した正広が、これ…、と重箱を上げて見せる。
「台所はどちらですか?」
由紀夫はニッコリと笑顔で言った。

「すっごい…っ!」
しぶしぶ案内されたその「台所」で、正広は目を輝かせた。
「俺、こんなの初めてみたーっ!兄ちゃん、これ、すっげーっ!」
「すっげぇ…って、すごすぎるだろ、これ…」
今時、文化財で保存され、展示されてる場所じゃないと見られないような、土間にかまどに囲炉裏。
「自由に使ったらいい」
からかうような声が背中からした。
「使えるのならな」
スタスタと去って行く足音。
「あんの、じっじぃー…っ!」
由紀夫は拳を握り締め、丘見が消えた廊下を睨み付ける。

「今時のアウトドア野郎をなめんなよっ!!」
「すっごい兄ちゃん!こんなのも使えんだ!どーすんの?」
「知るかよ」
「…だって、今時のアウトドア野郎をなめんなって…」
「そういうヤツは解るだろって事」
に、兄ちゃんって…。唖然と正広が由紀夫を見つめていると、由紀夫はそこらあたりのホコリを指でなぞる。
「ずっと使ってねぇな。何食ってんだ、あのじじぃ」
「こんな広いうちに、一人だけなのかなぁ」
「うち」などという言葉では片付けられない広さの建物には、確かにさっきから、人気が一切しない。
「東京にいる娘がおせち料理を届けてくれ、ってくらいだからなぁ…」
「淋しいよ、ねぇ…」

広々とした、物のない空間は、正広に病室を連想させた。個室に入っていたせいで、正広は長い間一人で食事をしていた。その頃は慣れてしまって平気だったのに、今は毎日賑やかに食事している事が多いため(特に、昼食は、今日は外食、明日はお弁当、あさってはピクニックと、バラエティに富みまくっている)、淋しく感じ始めている。

「兄ちゃん…」
由紀夫は、一人での食事なんか、まるで平気なタイプだが、大勢での食事の楽しさも知っている。
「とにかく。雑煮を作って、じじぃが食ってるとこを写真に撮らねぇ限り、カニも、温泉も、雪見酒も、お預けだっ!」
「うんっ!」
「正広っ!」
「はいっ!」
「携帯、出せ」
「え?」

「ちょっと…。どこが金になる話なのよ」
金になる話があると言われ、カニの足を片手にすっ飛んできた腰越人材派遣センターご一行様の代表腰越奈緒美は、アンティークな魅力のキッチン(笑)で、不機嫌そのものの表情で言った。
「金になるよ。見てみろ、この敷地。あの山も持ち山だってよ。住んでんのは、奈緒美好みのナイスシニア。奈緒美の魅力で、ころっと転がしゃ、ぜぇーんぶおまえのもんだぜ?」
「ナイスシニア?」
「しぶいぜぇー、まさしく大人の魅力!」
「あら、やだっ。あたしったら、こんなカッコでっ」

すっかり気軽なトレーナー(シャネルのロゴは入っているが、なんちゃってであろう)姿になっていた奈緒美は、今更ながらに、コンパクトを覗く。、
「そんでさぁ、囲炉裏ってどーやって使うの」
「…何よ、それ」
コンパクトに向かったまま、目だけがちろりん、と由紀夫に向いた。
「え、よく言うじゃん」
ケロっとした由紀夫に続いて、珍しそうに、あっちこっちを覗いていた、正広、野長瀬、典子、千明が声を揃えた。
「亀の甲より年の功って!」
「野長瀬、減俸」
「俺だけですかぁぁーっ!?」

丘見の屋敷は広大で、わずか6人の人間がバタバタしていても、文句を言われる気配はなかった。
田舎育ちの奈緒美の指導により、囲炉裏、かまどに火が入る。
水道がないものだから、手押しポンプからの井戸水を使い、ホコリだらけの鍋を洗った。
「…これ、美味いんじゃないかなぁ」
由紀夫の声に、野長瀬がそうですかね!とポンプに口をつける。
「お!美味いですよ、由紀夫ちゃん!さすがは井戸水ですねぇっ!」
「あ、そぉ!」
自分でも飲んでみて、なんとかの天然水なんてミネラルウォーターより、ずっといいと思う。
「あ!兄ちゃん、俺も、俺もぉ!」
「あ、おまえはダメ」
「何でぇ?」
由紀夫が離れたので、野長瀬が続いて飲み出した。
「ばい菌入ってっかもしんねぇから」
「人が飲んでる時にいわないで下さいっ!」
自分や野長瀬は少々のことでは、びくともしないが、そうは言っても、体が丈夫とは言えない正広に無茶はさせない由紀夫である。
「飲みたい、飲みたいぃー!」
「ダメダメぇー」
由紀夫は正広を羽交い締めにして土間に引きずり込んで行った。

「出来たぁっ!」
あまりに遊びが過ぎたため、すでに、午後も遅い時間にかかろうとしていた。
「おせち!お雑煮!お屠蘇!」
「よっしゃ!」
正広が指差し確認し、由紀夫は立ち上がった。
「じじぃ呼んでくる」
「じじぃだなんてっ、失礼よっ、由紀夫っ」
いそいそとコンパクトを覗く奈緒美は、顔が囲炉裏にかかりっきりになっていたため、灰で汚れている事に気付き、呆然とする。
「ファ、ファンデが…」
「奈緒美さぁーん、グレーが広がってるぅー。コントロールカラぁー?」
「千明っ!減俸っ!!」
「ひっどぉーいぃーっ!」

由紀夫は、適当に勘を働かせながら、長い、シンとした廊下を歩いていた。
正広が秘密の花園と称した広すぎる庭が、廊下の外に広がっている。廊下自体も広く、台所を離れれば、すぐに寒さが襲って来た。
これ、本当に一人だったら、歩くのもイヤだなと思いながら、曲がりくねった廊下を歩いていた由紀夫は、ようやく内側に人の気配のする襖を見つけた。
「丘見さん?」
声をかけると、低い男の声がする。
「遅くなりました。優美子さんからの届け物の準備ができましたので」
返事はない。
しばらく待った後、もう一度声をかける。
「丘見さん?よろしいですか?」
そっと襖を開けると、火の気のない寒い部屋に、きちんと丘見は正座して、机に向かっていた。
こういうのが背中で語る男か。
ここ一番で、すちゃらかオヤジと化してしまった、自分の産みの父を思い出す。
あいつも、黙ってればしぶい男だったな。喋らせると、バカ丸出しだったけど。
「優美子は…」
「お元気にされてますよ。デパガだそうですね」
「でぱが?」
「あぁ、あのー、銀座のデパートにお勤めだそうで」
「田舎を嫌ってな」
吐き捨てるような声だったが、すぐに首を降った。
「嫌ったのは、父親の事か…」

そう思いながら、この広い屋敷に一人で暮らしているのか。

「あの…。俺は、ただの届け屋ですから、頼まれたものを、届ける事しか出来ないんです」
由紀夫は言った。
「ですから、そのギフトにどういう意味があるのかは…、受け取った人にだけ解るもんなんですよ。受け取ってもらえないですか?」
丘見は振り向き、自分と同じように正座している由紀夫を見た。
「ま、受け取ってもらえない限り、あのうるさいのが居座るだけですけどね」
ニっと笑いながら、由紀夫は言い、何をしているのか、遠くから聞こえてくる千明の甲高い声や、野長瀬の怒鳴り声の方向を親指で指す。
諦めたようにため息をつき、時代劇を見てるような所作で立ち上がった丘見は、由紀夫の横を通りすぎ、襖を開けた。
その所作を真似、由紀夫も立ち上がる。
あぁ言うのもカッコいいな。着物の後ろ姿を見ながら、由紀夫は思った。

「てめぇら、何やってんだよっ!」
「あぁん、由紀夫ぉーっ」
廊下でバタバタしてる千明と野長瀬に怒鳴ると、雑巾を手にしている二人がすっ飛んで来る。
「ひどいの、ひどいの!奈緒美さんがぁ!」
「そうなんですよ!減俸がイヤだったら、掃除しろって。ほら、社長あぁ見えて綺麗好きじゃないですか」
「あぁ、明治の姑な」
奈緒美は暇だなー、と思うと、会社のキャビネットの上なんかを指でなぞり、ホコリがつこうものなら「典子ぉ?」だの「ひろちゃぁん?」だの言う趣味があった。
由紀夫と、千明&野長瀬の間に挟まれた形になった丘見は、突然の事に立ち尽くしたままだったが、突如口を出した。
「廊下の雑巾がけもできんのか!」
「えぇっ…!?ゆ、由紀夫ぉ、だぁれ、この人ぉー…」
「誰とかって言うな。受取人なんだから」
「あっ!失礼いたしました。ワタクシ、野長瀬人材派遣センター、営業第1課課長の野長瀬と申します」
え、そうだったんだ!?という由紀夫と千明の驚きをよそに、名刺を差し出そうと雑巾を小脇に抱えた野長瀬は、かなり水っぽい雑巾に、トレーナーが濡れてしまいあわあわと慌てる。
「バッカ!何やってんだよ。大体、おまえ、トレーナーなのに、名刺持ってんのか?」
「持ってますよぉ。僕はね、営業マンなんですから!」
「営業マンだか何だか知らんが、雑巾の絞り方も知らんのでは、子供以下だ」
丘見は厳しくいい、二人に雑巾を持たせ、絞るところから指導をした。そもそも廊下の掃除というものは、と、滔滔と語り出そうとした所に、正広が顔を出した。
「あ、よかったぁ。俺、迷子になっちゃったかと思ったよぉ」
「ひろちゃん、助けてぇー」
「いいから、雑巾しっかり持つ!」

あれよ、あれよ、という間に、全員での大掃除大会になってしまった。奈緒美は、丘見のしぶさに、思いっきりウットリしながら、掃除好きの面目躍如という活躍をして、口からでまかせを言った由紀夫を驚かせる。
口うるさく指導している丘見自身も、たすきがけで掃除に当っており、また、やる事が徹底的、かつ合理的なため、文句もおちおち言えない。
「に、兄ちゃん…」
小さな声で正広が言った。
「これが掃除だって言うんだったら、大晦日に俺らがやったの、何だったんだろ…」
「これは、昭和の掃除だから…」
「口より、手を動かせ!」
「了解っ!!」

台所近辺のわずかなスペースを掃除し、囲炉裏の周りに全員が集まったのは、すでにすっかり夜も更けた頃だった。
「つ…、疲れた…」
全員の素直な気持ちを代弁したのは正広で、広い、磨き上げられた板の間に、コロンと横になった。
「冷たくって気持ちいいー!」
赤くなった頬を板に押し付けてバタバタしているのを見て、千明も真似をして足をバタバタさせる。
「やめなさい!みっともないっ!」
例によって、千明は短いワンピース姿なもので、そのお尻をピシャリと叩きながら、奈緒美はいい、上座に丘見を座らせる。その前に、優美子のおせり料理が並ぶ。
由紀夫は、丘見の向いに座り、ポラロイドを取り出した。
「それは?」
「受け取りです。召し上がってる写真を撮るんです」
「写真はすかん」
「ちょっとだけですから。優美子さんにお渡しするだけですし」
いつもは、この受け取りは由紀夫が奈緒美に渡し、奈緒美が保管しているだけだが、今回は依頼人に渡そうと思っている。
諦めたように箸を取った丘見は、全員が自分を見ているのを見て、箸を置いた。
「そんなに見られて食べられるか」
「あらっ、失礼しました。あんたたち、ほらっ…!」
奈緒美が、しっし、と由紀夫以外の人間を土間の方に追い出そうとしたが、丘見は止めた。
「こんなに一人では食いきれん」
なにせ、三段お重にぎっしり詰まっている上、餅入りの雑煮もちゃんとあるのだから。
「じゃあ?」
「食べればいい」
由紀夫の言葉にぶっきらぼうに丘見は答え、心底おなかの空いていた一同は、大喜びで囲炉裏の周りに集まった。

「美味しい!」
さすが、一番の若さ。すばやくおせち料理に箸をつけた正広が声を上げる。
「兄ちゃん、これ、美味しいーっ!」
ポラロイドを構えたままの由紀夫に、嬉しそうに正広が言う。
正広が口火を切らなければ、このまま全員が固まってしまいそうなところだったが、続いて千明が手を出したので、野長瀬や千明も箸を出し、賑やかに夕食は始まった。
丘見は、おなかをすかせた小犬の集団のような一同を黙って眺めている。

ようやく箸を取り上げ、お雑煮の椀に口をつけた丘見は、椀を手にしたまま、懐かしそうな顔になった。
柔らかな、父親の顔だと思う。
由紀夫は反射的にシャッターを押していた。
「ありがとうございます」
驚いた丘見に、静かに由紀夫は言った。
「後は、ご存分に召し上がってください。失礼しました」
元ヤンキーのくせに、どこか礼儀正しかったりもする由紀夫が、丁寧に頭を下げ、正広から差し出されたお雑煮の椀を手にする。
「あ、美味いわ」
「ねー、美味しいよねー!」

丘見は、ゆっくりと、おせち料理を味わっていた。
ゆったりとリラックスしている様子に、奈緒美が熱い視線を投げかける。トレーナーにひっつめ髪で、メイクも落ちほぼすっぴん状態なのは、忘れたらしい。
多くを喋るタイプじゃないだろうと思っていた通り、食べている最中、丘見が喋ることはなかった。
けれど、最初に会った時、背中に背負っていた「頑固」が和らいでいる。
本人不在なのに、料理だけでこれだけの事ができるのか。これが丘見家のお正月料理なのだろう料理を前に、由紀夫は思っていた。

<つづく>

うわ!中編やて!いや、だって、どーしても温泉に入れてあげたくってよぉぉ!!でもちょっと時間の関係でできなくって…!申し訳ないっすー!次は、サービス露天風呂シーンが、きっと、きっとぉ!

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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