天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

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ギフト番外編153話『靴を届ける』


 

美白。
数年前、なぜか大流行したガングロと、完全に決別した日本女性が求めるもの。それが美白。
きっと、いくらブラザーに憧れて肌を焼いても、顔がブラザーにはなれないってことを知ったせいなのかもしれない。
もしくは顔以上に、体がブラザーになれないことに気づいてしまったのかもしれない。
知ってしまうこと。
それがすべて幸せだとは限らないのだ。
気づきさえしなければ、色さえ黒けりゃブラザーになれる!と無邪気に思っていられたのに。
ブラザーがダメならと、白人目指して金髪にしてみたりもするけれど、やっぱり顔が違う。体が違う。声が違う。心が違う。ごめんね。昔の人とまた比べている〜♪(by山口百恵)

しかし。これで意外と白人の肌にも問題があるらしく、きめの細かさなどでいえば、アジア系女性というのはなかなかいいものを持っているという。
持ってないものを苦労して手に入れようとするよりも、今持ってるものをグレードアップさせる方が賢いのでは?
ちょっと頭の働く女性たちがそう考え、今持ってる肌をより高めていくべく、空前の美白ブームが続いている。

のではないか、と、考えてみたりもするのだが。

ここに、美白なんてわざわざしなくってもいいもーん。という男がいる。
彼の名は溝口正広。
哀しいことに、一般的に女性より、男性の方が肌の質がいいと言われている。それは、持ってる皮脂の量の違いらしく、脂ギッシュに偏る傾向はあるにせよ、かさかさにはなりにくいという。
自分の体から出る皮脂で皮膚が保護できるのなら、洗顔後たっぷり水分補給をして、細胞に水を貯めた後、それが蒸発しないようにクリームで覆うなどといった手間を省くことができるのだ。
脂ギッシュに偏る傾向はあるにせよ。
しかし、正広は、脂ギッシュにも偏らない。絶妙な皮脂と水分のバランスを保った肌を持っている。
と、周囲の人間は思っている。
本人も詳しくは知らないが、そういわれるので、そう思っている。
夏になれば、兄弟揃って真っ黒に日焼けして、女性陣から相当ヒンシュクを買うこともあるが、秋になれば白い肌。

「いいわよねー、ひろちゃんは」
そう言いながら、今日も今日とてエステに出かけた腰越奈緒美は、車に紫外線防止のフィルターを張ってある。
白装束の集団が出た時には、窓にあれくらい無茶してもいいんだったら、私もやるわよ!と本気で言っていた。
「大丈夫じゃね?白い服着て、イカれた車に乗ってたら、誰も注意できねぇって」
由紀夫はあっさりそう言ったが、白い服ねぇ・・・と奈緒美が真剣な顔になったので、ちょっと引く。
「いや、あの」
「白って難しいけど、着こなせないことはないわねぇ。白い帽子、白いスーツ。白っていっても、トーンは色々じゃない?でも、あくまでも白!真っ白よね。アイボリーじゃだめ。目に痛いほどの白で全身をまとめてみようかしら」
奈緒美の脳裏には、例えばアスコットにいる、全身白の自分が描かれていた。
美しい。まさに輝いている自分が。
「白は膨張色じゃねぇの?」
「あたしは膨張したくらいでちょうどいいのよっっ!!」
怒鳴りあげて、痩身エステに直行した日もあったっけ。

「痩身・美白・痩身・美白って忙しいなぁ」
「忙しいねぇ」
「でも、脱毛がないですからねー。もう済ませちゃってますもん、社長・・・」
羨ましい・・・とつぶやく典子だが。
「・・・色々さー、別に知りたかねぇよ、そんなことってことあるよなー・・・」
由紀夫は疲れた風につぶやく。
「え?何が?」
いつだって好奇心旺盛な正広には、なんだって刺激的だから、あれこれなんでも聞きたい。
「でも、ひろちゃん、白いしー、細いしー、一番羨ましいかもー!」
「そうかなぁ」
「そうだよぅー!焼いてもすぐ元に戻るじゃーん!」
「うーん。そぉ?」
控えめに首をかしげながら、心のどこかにある『そうでしょう?えっへん!』な気持ちは隠せない。
別に男だからどうだっていいんだけどさ。
色白なんだって。
綺麗なお肌なんだって。
ウキウキっ♪

しかし。

いくら天才であっても、努力を怠れば亀に追い抜かれる。
それも、世のならい。

「はい、腰越人材派遣センターです」
『あ、ひろちゃーん?』
「はーい。どしたんですか?奈緒美さん」
エステ中のはずの奈緒美からの電話を受けたのは正広だった。
『ちょっと悪いんだけど、靴を持ってきてくれない?

「靴?」
『このままお客さんのところにいこうと思ってスーツもってきたんだけど、靴が合わないのよ〜』
着てった服で行け!!
由紀夫ならそういうところだが、正広は、そりゃ大変だ!と、色めきたつ。
「どの靴ですかっ?」
『えっとねー、ロッカーのー・・・』
「ろ、ロッカーですかー・・・」
『ロッカーなのよー・・・』
奈緒美のロッカーは数が多い。服や靴といった私物がたんまり入っているからだ。
「何色ですか?」
『黒なんだけどぉ』
「黒、ですかぁ〜・・・」
一時期、黒がいいわね、やっぱり黒!と黒を買いあさった時期があり、黒い靴が山盛り残っている。
『7cmヒールでー』
「はぁ」
『ストラップの細い』
「えぇ」
そういうスタイルが好きで、ブランドごとに買い込んだ黒いハイヒールたちがロッカーで唸りを挙げているのだ。
「あ、でも!それなら、どれもっていっても合うんじゃないですか!?」
いいこと思いついたっ!と正広は言ったが、奈緒美の返事はかんばしくない。
いくら、言葉で表現すれば同じに思える黒いハイヒールであっても、それぞれやっぱり違うのだ。
「・・・えと、じゃあ・・・・・・・・・・・・・・」
『・・・持ってきて・・・・・・・・・・・・』

こうして、探してみれば12足あった黒いハイヒールを持ち、正広は奈緒美の待つエステサロンに向かうことになったのだ。

これが、エステサロン・・・。
正広は、美しく上質な白い空間に立ち、興味深くあちこちを見つめた。
低く流れる音楽。
控えめに交わされる会話。
「腰越様ですね?こちらへどうぞ」
綺麗な人だー。と素直に思える女の人にくっついて、ふかっ、としたじゅうたんの上を、正広は歩く。
Tシャツにジーンズなんかできちゃまずかったなーと思った。浮いちゃって浮いちゃってもう大変。
「腰越様」
ノックをし、あけたドアの中では、現在メイキャップされ中の奈緒美がいた。
「わー、奈緒美さん、きれー!」
「あら、ありがと、ひろちゃん♪」
「あ、靴もってきました。すごいですねー!」
由紀夫なら、特殊メイクというところだろう。奈緒美は、いつもとかなり違う顔になりつつあるところだ。
「そんなそんな。ひろちゃんに言われるとテレちゃうわねー♪」
奈緒美は思う。
男の人が、お姉ちゃんのいるお店に通うように、女は、エステに通うのだ。
エステは女の、心の風俗。
あらっ?いい言葉じゃない?エステ経営しようかしら。自分のために。
「わー、気持ちよさそうな椅子ー」
「ひろちゃんもやってもらうー?」
おほほほーと笑った奈緒美は、メイクをしてくれているエスティシャンに正広の肌のことを話した。
「日焼けしてもねー、すぐに白くなるんですよー。羨ましいわー」
「そうなんですかー。そうですねぇ、白い・・・」
と、正広を見たエスティシャンの顔が、わずかに曇った。
「お肌されてますねー。生まれつき色白ですか?」
「あ、はい・・・」
そのわずかな曇りを、正広は見逃さなかった。
相手はプロだ。
今まで素人さんには誉められてきたこの肌。
ま、まさか!プロから見れば致命的な欠陥があるのでは!?
高校球児としてトップに立てても、プロとしては通用しないように!?
「あの・・・なんか、あります・・・か・・・?」
「いえいえ。ただ、あの。日焼けをよくされるってうかがったんで」
「えぇ。でも、すぐ白くなるのよね、ひろちゃん」
「はい」
「あの、じゃあ」
こっちの白肌にゃあ、金もヒマもテクもかかってんだぜ、というのが、心から自慢のエスティシャンは、きりっ!とした顔を挙げた。
「見てみましょうか」

奈緒美と正広の前に、不思議な機械が置かれる。
昔の写真館にあったカメラのように、二人の側には、幕がついていた。
その幕の中に顔をつっこむと、中は当然暗い。そして、目の前には鏡がついていた。
「それじゃあ、溝口様、こちらよろしいですか?」
「えっ!いやよ、ひろちゃんにそんな!」
一人取り残され、奈緒美が狼狽する。
「腰越様、大丈夫ですよ。最近見てませんでしたけど、多分驚かれると思います」
「えー、やだーーー・・・」
「これ、なんですか・・・?」
エスティシャン側からも、中が覗けるようになっている。
「これは、まだ表面に現れていないシミを見るための装置です」
「シミ?」
「白く見える肌も、その下にシミがあったりするんです。腰越様はね、こういう感じで」
「あらーーー!」
奈緒美が声をあげた。
「マシになってる!」
「なってますでしょ!?」
「えっ?」
正広が見ると、鏡の中には下からのライトを浴びて、不気味な黒とも紫ともつかない色に染まった奈緒美の顔がある。そして、目の周りなどが黒ずんで見えているのだ。
これでマシ!?
正直そう思った正広は。

「うっそーーーーー!!!!!!!」

奈緒美の足元にも寄れないほど、真っ黒になる己の顔に絶叫したのだった。

「日焼けはね、やっぱり、よろしくないですから・・・・・・」
エスティシャンの声を遠くに聞きながら、意識を手放していく正広だった。

「美白にはビタミンCなんだって、兄ちゃん」
「コウジ酸っていいのかな」
「日焼け止めのSPFって大きければいいってもんじゃないらしいよ?」
「いいなー、しぃちゃん、真っ白でー」

そして。このにわか美白フリークっぷりを、心からうざったいと思う早坂由紀夫だった。


肌の下のシミが見えるマッシーンはね、面白いです。チャンスがあればぜひ見てください!打ちのめされますよぅー(笑)!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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