天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

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ギフト番外編154話前編『傘を届ける』


 

梅雨。
6月になると、腰越人材派遣センター届け屋課では、ちょっとしたキャンペーンが行われる。
その名も「傘をお届けしますキャンペーン」
梅雨なのに、うっかり傘を忘れて外出しちゃって、建物でたらあら大変。
そんな時、腰越人材派遣センターにご連絡ください。
素敵な届け屋さんが、あなたのお洋服にあわせた傘を持って登場いたします。

「・・・って、誰がこんなもん頼むんだよ!」
「頼まないかなぁ」
正広は、自ら作ったちらしを前に首を傾げる。
「今どき、どこだって傘なんか売ってるし、この金額だったらタクシー乗った方がマシだろ!」
「そぉ〜?傘もついて5000円」
「絶対!頼むヤツいねぇ!大体、ただでさえ、雨だからって荷物を人に任せようって人が多いときに、なんで、わざわざ訳の解んねぇキャンペーンとかしようとしてんだよ」
「いや、ものを預かって、ちゃんと届けるって大変だけど、傘を持ってそこにいくだけなら、僕もできるかなーと思って」
「えっ!じゃあ、この『素敵』な届け屋さんってのはおまえのことを含むのか!」
「何それ!じゃあ、素敵ってのは自分のことだと兄ちゃんは思ってる訳!?」
「思ってなきゃ、こんな仕事はできねぇなぁ!!」
「ににに、兄ちゃんっ!!」
こんな兄ちゃん、兄ちゃんじゃなーーーい!!と正広はテーブルに突っ伏して泣きまねをする。
「素敵じゃないよ、俺なんてってゆー兄ちゃんがいいぃーーー!!」
「俺も、素敵な届け屋さんに自分を含めない男とがよかったなぁ〜」

「どうでしょう!これ!!」

そんな二人の間に割って入ってきたのは、野長瀬だった。

「雨ですよね。雨、雨・・・って連想していったんですよ。雨。傘。ステッキ。ロンドン!?って」
「すんごい遠い連想だなぁ」
「ロンドンだとやっぱりこれですよねぇぇぇ〜〜」
自らの姿にうっとりしている野長瀬は、どこからどうみても、シャーロックホームズ、というスタイルになっていた。
「今時のロンドンは、あれじゃねぇのか。ハリーポッター」
「はっ!そうか・・・!スネイプ先生・・・!」
「そっちかよ!!」
そーゆーヤツは、シャーロックホームズでも、もっと訳の解らないキャラクター名を言えーーーー!!
「だ、だって・・・!私だって届け屋として・・・!」
「えっ!?こいつも届け屋チームかよ!あっ、なんだー」
「え?」
「『素敵』って低い方の素敵だったんだー」
「ゆ、由紀夫ちゃんっっ!」
そんな風に由紀夫が失礼なことを口にした時、電話がなった。

『あの・・・傘を頼みたいんですが』

「うっそーーん」
自分でちらしをつくり、自分でちらしをまいたものの。
まさか本当に依頼がくるとは、思ってもいなかった正広だった。

 

私はダメな人間だ。
彼女はそう思った。
勤続6年。28歳独身。職業OL。ドラマのキャッチフレーズに自分探しとついていたら飛びついてしまうし、好きなマンガ家は柴門ふみ。
アンアンの、柴門ふみ、北川えりこ、林真理子の対談は絶対読んでしまうという彼女は今、地下鉄の駅に併設されているカフェにいた。
雨が、降っているのだ。
会社を出た時には、雨は降っていなかった。天気は悪かったけど、いけると思ったのだ。
うちの女の子に持っていかせますといった課長が、彼女に手渡したものは、大事な契約書。
濡らす訳にはいかないのに、会社の封筒にいれただけで、カバーできるものもない。
持って出てきたバックはごくごく小さいものだ。
女の子だなんて、失礼しちゃうと思って出てきたけど、そりゃ失礼されちゃうよね。
でも、普段外出とかしないもんよ!A4が折らずに入るバックなんて持ってきてないっての!
あたしゃ、OLなんだよ!!

じゃ、OLって何?ってことにはあえて踏み込まない。
自分探しというキーワードに敏感な彼女だったが、自分を探してもいいことはない、ということに気づいてしまっていた。
探してみつかるくらいの自分なら、もうとっくに現れてる。
ってことは、今の、これが、自分だ。
このラビリンスにだけは踏み込んではいけない。
どっからどう踏み込んでみても出てくる答えは。

私はダメな人間だ。だから。

キャラメルカプチーノの湯気で、乾燥しがちな頬を湿らせつつ、ため息をつく。
中途半端だなー・・・。
と、心でつぶやきもした。

が。

15や16の娘ならともかく、彼女は28歳のOL。あれこれ答えのでない悩みに身を投じるような贅沢な時間の使い方はできない。
ともかく、この契約書を、濡らさず、汚さず、折らず、お客様の元に届けなくてはいけない。
まずは傘を買って、駅から徒歩8分という会社までいかなくてはいけない。
大して疲れてもいないのに、気持ちが萎えて入ってしまったカフェに、いつまでも座っていてはいけないわ!プロのOLとして!

すっくと立ち上がった彼女は、傘を買いにいこうとして、ふとそのカフェに置かれていたフリーペーパーを手にとった。
「傘を、お届け・・・」

「えーっと、駅のカフェにいるそうです。今。携帯番号はこれで」
「え。マジでいくのか」
「いきますよ。あ、兄ちゃんいけないのかな」
「いや、いけるけど」
「私もいけますが!」
シャーロック野長瀬ホームズは無視される。
「でも、これは・・・?あなたの洋服に合わせた傘って・・・」
「あっ!」
「あっ!てめ、なんも考えてなかったなっ!?」
「失礼な!」
きっ!と正広は、兄を睨む。
「この溝口正広に、万に一つの間違いなし!」
そういいきった正広は、ロッカーにダッシュして、がっしゃん!とその扉を開ける。
「おっ!」
「どぉっ!」
そこには、傘がたんまりつめこまれていた。
「・・・どっかで見たことあるような・・・」
「新品ですっ!」
「・・・新品・・・。あっ!」
由紀夫は手を叩いた。
「奈緒美のだ!」
「せぇかぁーーーい!」
奈緒美に、緊急傘ブームが巻き起こったことがあった。その時、でかけるたびに傘を買い込んだのだが、雨になったら車から出ない奈緒美のこと。
実際、傘をさす場面はめったになく、98%の傘が未使用のまま事務所に放置されていた。
「すごい!やるじゃん、正広!」
「でっしょーん!」
その場所ふさぎの傘を使って、新しい商売を考えついたのだ。溝口正広おそるべし!?

いや。
真に恐ろしいのは、傘を呼ぶために、5000円出そうという28歳OL、由紀に違いないのかもしれない・・・。

つづく


私が何があっても読まないのは、柴門ふみ、北川えりこ、林真理子の対談です。絶対つまんないから(笑)!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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