天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

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ギフト番外編154話後編『傘を届ける』


 

事務所を一歩でると、梅雨らしい雨が降っていた。
しとしとと、静かに降る雨の中、由紀夫は傘を持ち、歩き出した。

事務所を一歩でると、梅雨らしい雨が降っていた。
しとしとと、静かに降る雨の中、正広は12本の傘を持ち、歩き出した。

「・・・何やってんだ」
「だって」
正広は傘を抱えながら、自分でも傘をさすという器用なことをしながら、ちょっと口を尖らせた。
「『素敵な届け屋さんが、あなたのお洋服にあわせた傘を持って登場いたします』だから」
「・・・」
カリカリカリ、と、由紀夫は後頭部をかく。
「大体、それだと、必ず傘を何本ももってかなきゃいけない訳じゃん」
「いいじゃん。僕がいくんだし」
「傘1本に二人がかりかよ!」
「あのねぇ」
正広は困った人だねぇ、という顔をして首を振った。
「梅雨だからって、つまんない顔ばっかしちゃダメ!毎日を朗らかに楽しまなくっちゃ!」

「俺がいつ梅雨だからってつまんない顔したよ!!!」

「ん?」

その時、正広の脳裏を、由紀夫の笑顔が駆け巡った。

「・・・別に。してなかったっけ?」
「してません」
「あれ。そうだっけ」
「雨だろうが、晴れだろうが、それ自体、別に気にしません」
「んー?おっかしいなぁ〜」
じゃあ、なぜ、自分はこんなことを考えたんだろう。なぜ雨の日を楽しく過ごすための工夫を・・・!?
「おまえがつまんねぇ、つまんねぇってゆってたんだろうが!」
「あぁ!そうでした!」
「頭、カビてる?」
「カビそう。雨きらーい」
そうだったのだ。
毎朝、雨かー、憂鬱ーと思っていた正広が、これではいけない!と、雨ならではの楽しみを考えようとして、到達したのがこの企画だった。
「まさか僕のためだったとわ」
「ほんっとにカビてんじゃねぇのか!?」
正広の顔を片手でとっつかまえ、耳から脳を覗こうとした由紀夫だった。

こんな軽く脳がカビている正広を従え、由紀夫は雨の中指定された駅へと向かう。
「で、この傘の中から好きなのを選べって・・・」
「違います!」
カビていながら、さすが企画の立案者。コンセプトをしっかり把握していた。
「『素敵な届け屋さんが、あなたのお洋服にあわせた傘を持って登場いたします』だよ?」
「だから?」
「登場したときには、ベストな傘をもう持ってなきゃいけないってこと!」
「はっ?」
「だってその方が嬉しいじゃん。素敵な届け屋さんが、今日の自分にぴったりの傘を持って登場するんだよ。この場合、白馬に乗った王子様より、嬉しいよ?」
「雨の中、白馬に乗ってこられても濡れるばっかだしな」
「白馬の王子様より、自分にぴったりの傘をもった届け屋さん!」
「で、どうする訳?」
「だから、お客様に気づかれないように観察をして、ベストな1本を選び出すんだねー」
「あぁ。電話して」
「えー。それじゃつまんないじゃーん。『店の前まできましたー。どこに座ってらっしゃいますー?』とかやじゃーーん!」
「じゃ、どーすんだよ!」
「んっと、ねぇ〜〜・・・・・・・・・・」
正広の理想は、あぁ、いつまでも雨やまないわっていう女性の前に、お待たせしましたと、すらっと登場する届け屋だ。
念のために電話番号も聞くけど、そうじゃなくって、そんなのなしで解りたい。
「さ、探す」
「だから。どうやってだよ」
「気持ち?」
「き、気持ち?」
「あの人が電話してきた人だ!と見抜く洞察力」
「が、あんの。おまえに?」
「・・・。兄ちゃんに」
「いやいやいや。俺話してもねぇし」
「話したら解るっ?今から出ますって電話しようか!」
「逆ソバ屋か!」
そんな与太話をしていても、足は前に進む。
これ、といった方策もないまま、残念なことに、二人は到着してしまったのだ。

「あの、店なんだよ・・・」

柱の影から正広が指差したのは、地下なのに、オープン。というなぞのカフェ。
ま、つまり、地下街の通路にも席があるというつくりの店だ。
その店には、女の子が結構いた。
「どれが依頼者だよ」
「簡単、簡単。傘持ってない人が・・・・・・・・・・・・・・・」
「みんな持ってねぇよ」
店の入り口に、大きな傘立てがある。色とりどりの傘がそこに刺さっている。
「えと。じゃあ、一人で・・・」
ところが。
平日のカフェってとこには、時間つぶしやら、サボりやら、一人でいる人間が多いのだった。
「人待ち顔!」
それはそうかも、と、由紀夫も店内を見てみるが、一人でぼーっとしてる客は。
「意外にいねぇな」
「雑誌あるもんね・・・」
「どうするんです、傘届け隊隊長」
べたなネーミングを、正広は喜ぶ。隊長!?僕隊長っ?と表情を輝かせる。
「そ、そうだね、早坂くん」
すぐ隊長コントに入り込み、かけてもいないメガネをちょっとあげる仕草をする。
「それ隊長?博士じゃねぇの?」
「じゃあ、隊長ってどんな?」
「隊長はー・・・。双眼鏡とかもってんじゃねぇの?」
コントの役作りをしている場合ではないが、脱線しがちなのも早坂兄弟らしさ。
「そっか。じゃあ、どうだね、早坂隊員」
両手を丸めて双眼鏡のようにし、それを目元にあてて、正広が尋ねる。
「双眼鏡がないので見えません」
「いかんね、早坂くーん。装備を忘れてくるなどと、傘届け隊として失格だよ、ちみー」
「隊長、ちみーとか言う?やっぱそれ博士コントじゃねぇ?」
「んー?なんかよく解んなくなってきたぞーー????」

そして、はっと顔を上げた。
まさに、正広は雷に打たれたような気持ちになった。
駅のカフェにいると、依頼人は言った。
そして、ここが駅のカフェだが・・・!
「ち、地下・・・!」
「地下」
顔色を変える正広に、由紀夫はあっさりと返事をした。
「だから、今、探してたんじゃねぇの?」
「ぬぉっっ!」
理想は理想として、傘届け隊隊長には、奥の手の準備もあった。
すなわち、携帯を鳴らすだけ鳴らして、出ない。という方法だ。そうすれば、電話を出ようとした人が依頼者だと判断できると思っていたのに・・・!
「てことは、机の上に携帯を出してる人でも判断は・・・!」
「たくさんいるな」
「いるね・・・」
メールをしていたりする人が結構いる。てことは、電波は入るのか!
正広は、かっ!と目を見開いた。
いける!ちょっとならして、間違い電話っぽくして、そしてその人を特定し、この12色の傘の中からぴったりの1本を!!

わくわくしていた。

正広は、紛れもなく、興奮していた。

その時。

「あのー、傘を届けにきてくださった方ですかー?」

背後から声をかけられた。
「はっ、はいっ?」
「傘」
「はい、そうです。お待たせしました」
にっこりと微笑みながら返事をするのは由紀夫だ。
「わぁ、すごい傘!どれでもいいんですか?」
彼女は、手ぶらだった。どうやら、トイレかどこかにいっていたらしい。
「えぇ。どちらでもお好きなのを。でも、そうですね」
由紀夫は、奈緒美好みの派手な傘の中から、鮮やかなグリーンの傘を取り出した。
「私は、これをお薦めしたかったんですけど」
「わ」
28歳独身、前の彼と自然消滅して、そろそろ5ヶ月。由紀の心に、ティロリロリン♪と軽やかな音がなったこといあいうまでもない。
緑は私の好きな色。
どうして?どうして解っちゃうのかしら、この人にはっ!

「ピアスとちょうど同じ色ですしね」

だからなの!?それだけなのーーーーー??????

しかし。
OLたるもの、このちっぽけな喜びを1日引きずって生きていくべきね。
「ありがとうございました」
確かに素敵な届け屋さんだったわ・・・!
5000円を支払い、駅を出た彼女の前には、まだ雨が降っていた。
けれど、これから進む方角には、薄日が差しているような気もしてきた。
この傘、結構高い傘だし。
これからも大事にすればいいし。
そうね。
私の行く先は、これから晴れるのね!!!

そして。
晴れない男がここにいた。
「どーーーーしてーーー・・・・・・・・・・・・・・」
「しょうがねぇだろ、そんなの」
その場でヤンキー座りをしながら、正広は何度もつぶやいていた。
「それってさーーそれってさー、舞台やってる時に、お客さんがいきなり舞台裏を通過してったようなさーーーーーーーーー」
雨は降るし。
思った通りには進まないし。
どうすればいいのさ!
このまま頭にカビをはやしてればいいっていうの?!
「ねぇ!兄ちゃんっっっ!!!」

結局。

由紀夫は、正広に心ゆくまで甘いものを食べさせた。

腹さえ一杯にさせればそれで幸せな弟だと知ってはいるが。その量はハンパではなく。
この梅雨シーズンになって、初めて、雨って嫌いだ・・・とちょっと思った由紀夫なのだった。


今年の梅雨は、やったらと梅雨らしいですね。梅雨らしくないです?ねぇ。ねぇねぇ!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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