天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

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ギフト番外編155話後編『ウミドリに届ける』


 

<これまでのお話>

長い夏休みをとっていた早坂兄弟は、今、宮城県は、松島海岸にいた。
そこで、食い意地のはった正広が、果たしてこの貴重な時間に、貴重な一食として、何を食べるか!と、考えつづけているのだが・・・!

「カモメに決めてもらいます!」
正広は、そういいきった。
思わず、カモメみくじを想像する由紀夫。
「あのー・・・、正広さん?」
「さ!いきますよ!兄ちゃん行きますよっ!」
ぐいぐい手を引っ張られ、由紀夫は今来た道を戻っていく。
こんなにしっかりとした足取りで進むということは、ひょっとして有名!?ウミドリみくじ!?と思っていたら。

「・・・」
「はい、お金払って!お金!」
「何だこれ」
「急がないと出ちゃうよぅ!」
このままにしておくと、ひっくり返って手足をばたばたやりだすのでは?というだだのこね方をする正広がやりたかったこと。
それは。
「遊覧船って!」
「松島ですぞ、兄ちゃん。海に出ないでどーすんだよ!こんなにいい天気なのに!」
「遊覧船って・・・」
「いいからはやくーはやくー」
「大人1枚と、子供1枚・・・」
「大人2枚です!兄ちゃんせこいー!」
「あ、いやいや、つい・・・」
「子供って思ってる?もしかして思ってるね?俺のことっ!」
「いやいやっ!」
きっぱりと由紀夫は言った。
きりっとした表情で、じっと正広を見つめて、改めて首を振る。
「そんなこと、一瞬だって」
「嘘つきっ!」
「うーん。目に嘘って書いてあったかー」
「やっぱり子供って思ってるーー!」
「すいませーん、この大人に遊覧船のチケット1枚ー」
「兄ちゃんも買うのー!乗るのーーーーっ!」
「あー、じゃあ、もう1枚」
「もー!」
ぷりー!と膨れる正広は、その後、にやり、と不敵に笑った。
「今にそんなにクールじゃいられなくなるんだからね」
「どんなんだよ、エキサイティングな遊覧船ってよ」

しかし。

その遊覧船は、由紀夫の想像だにしない遊覧船だった。
エキサイティングな遊覧、という言葉からは、大波小波の中、木の葉のように舞う小船を連想するが、そんなのが観光遊覧であるはずがない。
そうすると、断崖絶壁の間を通過するアドベンチャーなクルーズか?とも思うが、島数は多くとも、そんな冒険は期待できそうもない。
天気のいい静かな海を、さわやかに進む単なる船だと、そう思っていたら。

「さ、いきますよ」
出航するやいなや、正広が立ち上がった。
「2階席に行きますよ」
「2階席?」
「あっ!有料でやんの!兄ちゃん、お金お金」
「何が?有料?2階席?グリーンって」
そりゃあ高いところから見た方が眺めもいいだろうが・・・
「大体、正広、そんな島とか見るの好きだったかー?」
「島じゃないよ。言ったじゃん、カモメに決めてもらうって」
「何を」
「じゃーん!!」

船内の狭い階段を上がったところで、正広が指差したのは、売店にある小さなプレート。
書いてある文字は。

『カモメのえさ』

「・・・・・・。俺の目にはかっぱえびせんに見えるが」
「・・・・・・。うん。かっぱえびせんに見えるね」
じゃーん!といったものの、そのものの正体には正広も驚いたようだった。
「カモメのえさって・・・」
「カモメの餌付けができるんだよ!」
「カモメの餌付け!」
「それでー、お昼に何を食べるか決めてもらおうと思って」
「・・・どうやって」
「え。だから、まずー。俺と兄ちゃんで勝負するの」
「どういう」
「餌付け競争でしょう!」
「何をもって勝ちとすんだよ!」
「えっと、早くえさを上げられた方が勝ち!」
「何、それは、あのー、おいでおいでーってやって、カモメがやってきて、えさを持ってったら勝ちってことか?」
「そう」
・・・由紀夫は軽く眉間にしわを寄せた。
えさはかっぱえびせん。そんなもので、果たしてカモメがやってくるというのだろうか。
「で・・・、まぁ、それで勝負が決まったとして、そ、それで?」
「だからー、勝った人が、店を決められるの」
「いや、俺は何でもいいんだけど。牛タンでも、海鮮でも、仙台牛でも・・・」
「言わないでっ!」
正広は耳をふさぎうずくまる。
「決められないんだからー!俺はー!」
「じゃあ、正広が勝ったらどーすんだよ」
「大丈夫!」
すくっ!と立ち上がり、正広は胸を張った。
「兄ちゃんに限って、俺に負けるようなことはないから」
「だったら、こんなことしなくても、俺が決めたらよかったんじゃねぇの?」
「うわ!やな人だぁ〜」
「何で!」
「絶対自分がかつと思ってるー。思ってるでしょー」
「・・・正広・・・」
「ま、しょうがないけどねー、兄ちゃんなんでもできるしねー。きっと女の子カモメが寄ってきちゃって寄ってきちゃって大変だよねー」
「女の子カモメにモテたって・・・」
「そうだよ、兄ちゃんが勝つに決まってる!だから兄ちゃんが決めたらいいんだよ!」
「わっけ解らねぇこといってんじゃねぇよ!とにかく、やるぞ餌付け!」
「ちょとまってちょとまって。ルールが・・・!」
慌てる正広を尻目に、カモメのえさ二つ!とカッパエビセンを手にした由紀夫は、甲板に出た。
カモメの餌付けなんてどうやってするのかと思いながら。

ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー!

「・・・ヒッチコックの、鳥か・・・」
由紀夫の視界に入ったのは、船に追いすがる大量のウミドリだった。
それなりのスピードで走る船に、羽の力で追いつくしかないウミドリたち。その光景は、鳥に追われて逃げる船としかいいようのないものだった。
「うわ」
一歩遅れた正広も、その一歩を引っ込める。
「こ、怖いね・・・」
「すごいな」
しかし、由紀夫は、一歩先に進む。こんなに近くを飛ぶカモメたちを見たことがなかった。
「でかいなー」
「こ、怖くない?」
「大丈夫だろ」
他の客たちを見てみると、かっぱえびせんを手に、船から手を伸ばしている。そしてその手から、カモメたちはえびせんを取っていくのだ。
「すげ、なんか面白そうじゃねぇ?」
「えーえー・・・?」
自然に猫背になりつつ、兄の背中に隠れようとする正広は、いったーい!という女の子の声に、びくぅ!となる。
「い、痛いって・・・っ?」
「指食われたんだろ。やろやろ。すげえってこれ」
「ゆ、指食われた・・・!?」
もちろん、その時正広の脳裏には、食いちぎられた血まみれの指があった。
「指食われるくらい平気だろー」
目測を誤った鳥に、指を『はさまれる』くらいのことは、全く気にしない由紀夫は、かっぱえびせんを1本取り、カモメの方に手を伸ばす。
「あっ、あぶないよっ!」
「へーきだって、おっ!きたー!」
そのえびせんは、あっという間に、一羽のかもめにもっていかれた。
「すげー!ちけぇ!」
力強く飛んできた鳥が、高速で、自分の手からえさを、かっぱえびせんだが、を、もっていく。
これはなかなかエキサイティングな体験だ!
「おもしれー!ちょっと、正広もやれって!」
「やだー!指食われるー!」
「大していたかねぇって!」
「嘘だー!やだー!」
「子供か!」
ほら、と、正広のえびせんの袋を開け、1本手にもたせる。
「ほら、腕伸ばして。伸ばせって」
「やだやだやだ」
「やだじゃねぇだろ」
腕をつかんで伸ばそうとする由紀夫。どうにか縮めようとがんばる正広、その指先で振るえるえびせんを狙うカモメ。
しかし、さすが動物。カモメの判断は早く、正確だった。
いける。
彼なりの確実な判断で、一段強く羽ばたき、正広の指先のえびせんを確実に捕らえる。
「わあ!!」
えびせんを奪われ、至近距離をそれなりに大きな鳥に通過されたということで、正広の腰が砕ける。
「こここ、こわーーーっ!」
「いやいやいや。何もそこまで!」
甲板にへたり込んだ正広に、由紀夫は大笑いする。
「大丈夫だって。そんなびびんなくっても。でかいしーちゃんだと思えば」
「でかすぎるよー!しーちゃん、指食べないしー!」
「食べるだろ、あいつは!むしろ、痛いだろ!」
「そんなことないよー。齧るぐらいだもん」
「食べてんじゃん」
「・・・。食べるは。ごっくんすることだよ」
「・・・。しーちゃんは、場合によっては、ごっくんするだろ。さかむけとか」
「・・・。するね・・・・・・」
「つまり、ここの鳥は、しーちゃんより、乱暴ではない、ということだ」
「えーーー!そんなことでごまかされるほど子供じゃないよぅーー!」
へたり込んだままブーブー文句をいう正広を放って、由紀夫はウミドリに向かい合う。
まずアイコンタクト。そして、袋からえびせん1本。
『こい』『いくぜ』
一人と一羽の間には、確かな魂の交流があった。
「うわ、どーしよこれ、すげ楽しい!」
さっさかさっさkと、次々にえさをやりながら、由紀夫は上がるテンションを押さえられなかった。
「正広、お前それ使わないんだったら」
「使うよ!」

まだ足元でへたってるもんだと思っていた正広の声は、すぐ隣から聞こえた。
はっ!と振り向くと、正広は、鳥にめがけてえびせんを投げていた。
「すご!ナイスキャッチ!」
手から上げるのはあまりに怖いが、投げれば、受け止めてくれるということに気づいたのだ。
そうなると、元野球少年。
風の向き、強さ、カモメの位置、えびせんの軽さ。
それらを瞬時に計算し、最適な強さでえびせんを投げると。
「ほら!あいつすごいんだよ!」
もちろん、受け取る側にもそれなりのセンスが必要だ。正広が狙いをつけたウミドリたちは、まず間違いなく受け止めるという。
「なんか燃えてきた・・・!」
「おまえもか・・・!」

こうして、早坂兄弟は、二人合わせて、カモメのえさを、7袋購入。えさをやりつづけたのだった。

およそ1時間の遊覧が終わり、地面に戻ってきた早坂兄弟。
二人が向かった先は、牛タン屋でも、海鮮市場でも、ステーキハウスでもなかった。
「大人2枚!」
二人を下ろし、また出航しようとする船に乗るため、チケット売り場に急いだのだ。
「俺、見たよ!口にかっぱえびせんくわえてる人!それでやってたよ!?」
「口に!?んーーー・・・!」
「兄ちゃん、負けちゃだめだよ!」
「正広も手からやってみろって。齧られるのも楽しいぞー!?」
「うーうー、どうしようかなーーー!うーーー!」

こうして、ウミドリとともに、早坂兄弟の夏休みは終わった。
夕方、ようやく船を下りた二人は、もうへとへとで、どこにでもあるようなファミレスでふっつーのご飯を食べるにとどまった。

そうして家に帰ってからは、しーちゃんに、えさ空中キャッチをさせようとしては、迷惑がられるようにるのだ。
私のペースで食べさせて!
ちょっとは付き合ってくれる飼い主思いのペット、白文鳥のしーちゃん、心の叫びであった。


これは、実際松島でやれますが、ほんとに楽しいです。エキサイティング!松島の島々の説明なんか聞いてる場合じゃありません。チャンスがあれば、体験を!ぜし!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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