天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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ギフト番外編158話『プリンを届ける』



正広がその雑誌と出会ったのは、ほんの偶然だった。

そんなに本を読む方でもないので、本屋に行くのはもっぱらマンガを買う時だけという正広は、いくつかの本屋のマンガコーナーにはそこそこ精通していた。
だから、レギュラーのお店にいけば、正広の足取りに迷いはない。まっすぐにマンガコーナーに行き、お目当てのマンガをゲットするだけだ。で、少年マンガ誌が発売されない日や、今月の新刊コミックの発売日でなければ本屋に入ることはない。

あなたには信じられないことかもしれないが、世の中には用がなければ本屋の前を素通りできる人間もいるのだ。

そんな正広がジャンプもマガジンもサンデーも発売されない曜日に本屋にいたのは、お使いを頼まれたからにすぎない。
「えーっと、家計簿、はぁ・・・」
11月になったので、そろそろ家計簿つきの奥さん雑誌が出るはずだと奈緒美に言われたため、奥さん雑誌コーナーに正広はいた。
奈緒美は年末になると奥さん雑誌マニアになる。家計簿なんぞつけもしないくせに、今年の家計簿はここがすごい!などとテンションあげていたりする。
由紀夫に言われると、守銭奴の血が騒ぐんだろう、ということだが、正広の血も騒いでいた。
面白い・・・!奥さん雑誌というのは見出しだけでもこんなにわくわくさせられるものなのか・・・!?
『貯金&やりくりこれなら続く!』
『カリスマ読者の片付け収納技』
『食費が減った!貯蓄が増えた!』
『100円グッズ収納アイディア』

世の中の奥さんという方々のお金と収納に対する恐ろしいほどの意識が伝わってくるじゃあないか。
毎日5分で食費が5000円も下がるって、どういうことなんだこの見出し!
結局まだ家計簿がついているもは発見できないままに、正広は根が生えたように奥さん雑誌コーナーに立ち尽くしていた。
できるなら、根こそぎ買って行きたいほどだ。すくなくとも、このやりくりカレンダーっていうのがついてるヤツは買ってもいいだろう。そんなことでは奈緒美は怒ったりするまい。
どうしよう。読んでみたい。どんな夢のような収納技や、節約技が載ってるんだろう・・・!
で、考えすぎて煮詰まって、も、もうだめだ・・・!と一度その場を離れた時だった。
正広の目の前に。

「東京で、一番美味しいスイーツは、どれ・・・」

果たしてそんな魅力的なタイトルの雑誌があっていいものか。
しかも、正広は男性雑誌のコーナーに足をいれていたというのに。
どうしよう、どうしよう、と頭は考えていたが、体は正直だった。
手はすでに雑誌をつかんでいたし、足はすでにレジに向いていた。
ダメ!ダメだよ、奥さん雑誌を!奥さん雑誌の節約特集を見るつもりだったのにーーー!

これでは一気に浪費の道へ。
そう思っている正広の表情は笑顔としかいいようのないものだった。

由紀夫がその雑誌と出会ったのは、必然ともいえた。
由紀夫はあぁ見えて結構活字好きなので、用がなくても本屋に足をいれることが多い。
珍しい本や雑誌があるかな?と専門書のコーナーに足を踏み入れることもしばしばだ。
あなたには信じられないことかもしれないが、世の中には用もないのに、何時間でも本屋内をうろうろできる人間もいるのだ。
今日も今日とて、未知との遭遇を期待しながら由紀夫は本屋内とぷらぷらと流していた。
雑誌が充実している本屋も好きだなと思いながら、何業界かも解らないような専門書を眺めながら歩いていると。
「・・・。東京で一番美味しいスイーツはどれ・・・」
タイトルを見ただけで、弟の顔が思い浮かぶ。
由紀夫の弟正広は、大変な甘いもの好きだ。
いや、由紀夫をのぞき、腰越人材派遣センターは、アリ並みに甘いもの好きが集まっている。
だったらこんな雑誌、もう事務所にあって、大騒ぎになってそうなもんだけど・・・。
おそらく、いつも奈緒美や典子が見ている女性誌ではないから気づかれていなかったんだろう。
正広も野長瀬も本屋に入るタイプじゃないから、コンビニでさえ見つからなければ。
そんな風に思いながら、あまりにサボりすぎたかと、由紀夫は事務所へ急いだ。

「ごちそーさまー!」
その日の夜、もういい、もうはじめようと鍋をした早坂兄弟は、満腹感の幸せの中にいた。
「いいよねー、いいよね、これー」
鍋料理のしめといえば何?と聞けば、それぞれの人から、それぞれの答えが返ってくるに違いない。
ご飯の人、うどんの人、餅の人、ラーメンの人。それぞれに美味しく、一つには決められない人も多いだろう。
なので、早坂家では、小鍋に分け、食べたいものをすべて食べる!というシステムになっている。
どれもこれも美味しくいただいた正広だが、今日は特にラーメンに固執していた。
「これ絶対いいと思うー!」

インスタントの袋麺を放り込むという、やや韓国チックなものだが、簡単ですぐに食べられるところがいいんだという。
「だってご飯はご飯炊いてないとできないし、うどんも一度はゆでとかないとできないじゃん。餅はチンとかしてなかったら時間かかるしー、でもラーメンは早いよねー」
どれだけ食べることに重点を置いているのだと思うが、正広はよく食べる。
「でも、ラーメン急がないとダメだからなー」
「兄ちゃん堅い麺好きだから」
「ちょっとおいとくと、すぐふにゃふにゃになるのがな」
「とか言いながら、ラーメン投入されたら一気食いじゃん!」
アルデンテじゃないインスタントラーメンなんて食べたくないと、ラーメンを食べる時の由紀夫のスピードは恐ろしく速い。
「でもほんと、よく食べたよねー」
「おまえがな」
「えっ?兄ちゃん、食べてないみたいに言わないでよね!」
鍋をするなら材料は基本的に3人前以上。しめに食べるものをカウントすると、4.5人前はいってしまう二人だ。
「で?」
「で、って?」
「アイスとかも食うんだろ?」
しめのホントのしめは甘いもの。正広の中ではその公式が出来上がっているので、今日も冷蔵庫にはアイスが入っている。
「んー・・・」
しかし正広は難しい顔をした。
「えっ!ま、まさか正広くん、別腹までがいっぱいに!?」
「そういうことじゃないんだけどっ!」
正広の脳裏を、冷凍庫で待ってくれているイチゴアイス100円がよぎった。昨日、それを買った時はとても幸せだった。コンビニでもスーパーでも手軽に買えるイチゴアイス。大好きなイチゴアイスなんだけど・・・!
「ん、えっと、あ、後にする」
「後?」
「さっ!片付けまーす!これは明日分でとっとくでしょ?洗いましょう、洗いましょう!」
「えっ?おまえアイス食わないのっ?」
「だから、後で」
「腹痛いの?」
「洗いますよー、洗いますよー。はいはい兄ちゃんのお皿も洗いますよー」

明らかに正広の様子はおかしかった。
しかも、食器を洗ったあと、速攻でベッドに向かったのだ。
「正広!?おまえ具合悪いのか!」
「えっとーそうじゃないんだけどーー!」
布団にもぐりこんでおきながら、なんだその言い草!と思いながら、問答無用でとりあえず布団をはいでみたところ。

「東京で一番美味しいスイーツはどれ・・・?」

正広がこそこそ眺めようとしていたのは、まさにその雑誌だった。
「にいちゃーん!俺にだってプライバシーってもんがー!」
「いやいや、こそこそベッドにもぐってやるのは、もっと別のことにしてくれ。・・・えっ!?それをオカズに!?」
「するかっ!」
「よかったー、軽い変態かと思ったー・・・」
いくらの正広でも、スイーツに欲情はしない。正広はただ、あまりにも楽しみで楽しみで、じんわりと読んでみたかっただけだった。
「俺も今日、その雑誌みたよ。こんなの事務所においてたら大騒ぎだと思ったけど、帰りに買った?」
「ううん」
正広は首を振る。
「お使いの途中に見つけて、これいいや!と思ったんだけど・・・中身ちらっと見たら・・・」
「中身?」
「こんなの事務所もってったら大変なことになる、と思って・・・」
「すごい?」
「すごい。だって、1つのケーキに、50店ノミネートしてるんだよ?」
「は?」
「チョコレートケーキで50店、プリンで50店、ってなってるから、全部で何百ってお店になってるんだよ!?ほら!」
見せられた雑誌には、見開きで50個のショートケーキが並べられていた。

「・・・多分、これを全部買って食べるって、言うと思う・・・」
「言うな・・・」
ノミネートされたケーキをすべて並べるくらいのことを、奈緒美はやってしまうだろう。
その程度のことをやらかす財力も、気力も残念ながらあるのだから。
「ケーキ大好きだけど、50個目の前に並べられても、どうすることもできないって思って・・・」
「正広・・・」
よしよしと、由紀夫は弟の頭をなでた。
「おまえも、いつの間にかちゃんとした大人になってたんだな」
「兄ちゃん・・・!」
「正広・・・!」
「とりあえず格ジャンル1位のお店にいくくらいで我慢しようかと!」
「それもどうよおまえーーー!!」

その後、雑誌をオカズにアイスを食べた正広だった。

そうして。

世の中にアホの種は尽きまじ。

翌日、そんな雑誌が出る!と小耳に挟み、雑誌を事務所に届けさせていた奈緒美は、こう由紀夫に言うことになる。

「この雑誌に出ているプリン50個を、私に届けて頂戴!」

ある意味届け屋人生最大ともいえるピンチを迎えることを、由紀夫はまだ知る由もないのだった。


翌日はシュークリーム50個、翌日はロールケーキ50個。食べるのか、奈緒美よ・・・!
今回は、一部下ネタ混じりですみませんでした。一部ね。ちらりとね。てへ。

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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