天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第14話後編『お正月を届ける』

めっちゃ短い前回までの話。

「新年初の依頼で、島根県までやってきた腰越人材派遣センターご一行。行きがかり上、依頼先の大掃除までして、やっと全員がおせちにありつくことができた。果して温泉は?雪見酒は?カニは!?一行は、手に入れられるのか!」

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宴もたけなわ、酒が入れば騒がなくちゃ損とまで思ってるのか?といういつも通りの大騒ぎが、丘見家で起こっていた。
丘見自身は、見た目通り酒に強いタイプらしく、奈緒美持ち込みの日本酒をガンガン飲んでいるにも関わらず、姿勢も崩さなければ、顔色も変えない。
おせちはすでに空になり、典子と正広が、野長瀬に買い出しに行かせた材料で、お餅ペースのおツマミをあれこれ作っていた。
「んとねー、これはー、お餅・ア・ラ・マヨ」
ニコニコと正広が持ってきたのは、こんがりキツネ色に焼いた餅に、マヨネーズがかかっている、それだけの代物で。
「マヨネーズかけただけじゃねぇかぁ!」
「何言ってんです由紀夫ちゃん!これが美味しいんですよ!このね、こんがりと美しいキツネ色に焼けて、ふんわりとふくらんだお餅!この香ばしいお餅に、ちょっとお醤油をたらし、そこにマヨネーズを…!」
「一人で食ってろっ。なんか、餅以外のもん、ねーのかよ」
「典子ちゃんが、お餅好きだからねぇ…」
嬉々として料理をしてる典子の様子を見ようと、ひょいと土間を覗いた正広は、あ!と声を上げて、外に出る。
「雪!」
「え?」
「兄ちゃん、雪降ってる!」

山陰の事で、そりゃ、1月にもなりゃ、雪も降ってるだろう?という状況だが、東京の人間には十分珍しい。
「やったぁ!雪見酒―!」
だからと言って、いきなり酒を持って外に出ていく千明はやっぱり頭が悪い。すかさず戸を閉めた由紀夫に締め出され、
「ひどぉーいっ!あぁけぇてぇーっ!!」
と、大騒ぎした挙げ句、意外な頭の良さを発揮して、戸自体をよいしょっと外して入ってくる。
「すっげぇなぁ、おまえー!」
「えへ。だってぇ、ちっちゃい頃、よく押し入れに入れられなかったぁ?」
「あ、ごめん。うち、洋室しかなかった」
「そぉなのぉー?」
興味津々という顔で千明は尋ね、そうそうと由紀夫が返事をした。

ちょっと、正広が嬉しそうな顔になる。
二人が一緒に住んでいた溝口の家は、全室洋間だった。
「それに、俺は押し入れに入れられるようなドシはふまねぇよーん」
なー、と同意を求められ、正広はこっくり肯いた。
「兄ちゃんが悪い事する時は、もっと本格的だった」
「てめっ!余計な事言ってんじゃねぇよっ!」

「もう本当に騒がしくて…」
申し訳なさそうに、奈緒美が頭を下げる。けれど、丘見は微かに笑っていた。
「いつもこんな風ですか」
「はぁ。わたくしとしては、もうちょぉっと、上品な会社にしたいと思ってるんですけども…」
ホホホ、と作り声で奈緒美は笑う。
「賑やかで…」
けれど、そう言った丘見の声に、奈緒美は作り声笑いを止め、ひょいと、丘見の顔を覗き込んだ。
「一度、遊びにきます?」
「は?」
「うちの、事務所。こんなもんじゃありませんよ」
表情に微かな笑いを含んだまま、丘見は何も言わなかった。
「来てくださいね」
面白いですから。奈緒美はにっこり笑いながら、そう言った。

雪は本格的に降り始め、これは、もう帰れないなと、全員が、当主の許可もなく、勝手に泊まる意志を固めた頃、丘見が言った。
「露天風呂がある」
「「「「「「えぇっ!?」」」」」」
声は、由紀夫、正広、奈緒美、野長瀬、千明、典子が、ばっちり揃ったもので、丘見は大袈裟に耳を塞ぐ。
「裏庭の方に。温泉が出ててな」
「行きたいっ!」
典子と千明が手を挙げて、さっさと立ち上がった。
「ちょっと待ちなさい。えっと、タオルは…」
「何で、そんなもん!」
「バカねぇ。山陰よ、山陰。どこに温泉があるかなんて解んないでしょー?あんた、持ち歩いてないのぉ?」
山陰と温泉にどんな関係があるのか由紀夫にはさっぱり解らなかったが、奈緒美はしょーがないわねぇ、という顔で大袈裟に首を振り、しぶしぶと由紀夫と正広にタオルを貸してやる。
「あ、社長、私は…」
「もうない」
「あたしのハンカチでよかったらありますけどぉ?」
くすん、くすん、と泣き真似する野長瀬に、典子が言い捨て、はい!と放り投げる。
「のっ!典子ちゃんっ!あのねっ!こんなもんで、僕のマグナムはっ!」
「さ、行きましょうかね。丘見さん、よろしぃんですか?」
「行きましょうかとまで言っといて…」
ぽつんと呟いた由紀夫のすねを、すばやく蹴っ飛ばし、にっこり笑顔で、奈緒美は丘見に尋ねる。
「大したものじゃない。好きにしたらしい」
「ありがとーございまーす!」

「あの」
勢いで飛び出して行った正広が、静かになった囲炉裏端に戻って来た。
「ご一緒、しません、か?」
静かに茶碗酒を傾けている丘見の前に、ちょこんと膝をついて尋ねる。
「いや…、私は」
「でも」
「年寄りに、熱い湯はよくないからな」

「あ、そーか」
由紀夫も戻って来ていて、ポンと手を叩く。
「温泉ってさぁ、心臓の悪いヤツって、まずいんじゃなかったっけ?」
「あまりよくはないが…。心臓が?」
二人から顔を見られて、正広は慌てて首を振る。
「大丈夫だもん!平気っ!」
「ダメだって。体どうかしたらどーすんだよ。この雪だぞ?車も出せねーし」
「大丈夫だよぉー…」
「じゃあ、こうすればいい」

「大した事ないって…。これ…」
呆然と奈緒美が呟き、典子も黙り込む。バチャバチャ無邪気に泳いでいるのは、千明だけである。
「裏庭に、露天の温泉があるってだけで、十分おかしいですよね」
「そうよね…」
あるなんてものじゃなかった。ここは温泉旅館か?という大きな岩風呂で、二つに仕切られている。
「あたしぃ、由紀夫と混浴したかったぁー」
ロリータな人格ながら、ナイスバディな千明は、二つの岩風呂を仕切っている、竹の間から向こうを覗こうとして顔をくっつけた。

その頃、野長瀬は一人で泳いでいた。
「あっ!由紀夫ちゃーん!すごいですねぇ!」
「…すっげぇ…」
手入れは行き届いてないものの、雪が積もればそんな事は解らなくなる。周囲は一面の銀世界で、自然に沸いているという温泉に、静かに雪が舞い落ちる。
「うわー!」
服を着たまま後から、顔を出した正広も、一言言ったっきりポカンと口を開いたまま、きょときょととあちこち眺めた。
「ねぇ、俺、ホントに入っちゃいけないのぉー?」
「えっ?なんでです?あの日っ?」
「あるかっ!!」
「野長瀬さぁーん!今日、おやじーっ!」
「さびっ…!」
由紀夫はウェスト、キュっ!が丸解りのタオル1枚なので、一度大きく震えてお湯に入る。
「あっつ!これ雪でも降ってなきゃきっつくねぇ?」
「あのですね、こーやって、雪をですね?」
そのあたりの雪を適当に入れると、ちょっと温度が下がった。
「ま、江戸っ子は、このくらいあっつくないと」
真っ赤な顔で、野長瀬は得意そうに言う。

「ねー、にぃーちゃぁーん!」
こっちは不平たらたらの口調で正広が声を上げる。
「ホントにぃー?ホントに入っちゃいけないぃぃー?」
「だから、足だけだったらいいっつってんだろ?」
「足だけぇー?」
「え、ホントになんでなんです?」
「よく温泉って、心臓の悪い人は入らないように言われるじゃん」
「あ、そっか」
「そっかじゃなぁーい!ねぇ、野長瀬さん、大丈夫だよねぇー?」
正広必殺の「お願いお願い上目遣いアタック」が野長瀬に炸裂したが、由紀夫はブロックする。
「あんま文句言うと、足も入れさせねーぞ」
プッと頬を膨らせたものの、ちょっとだけでも浸かりたいと、脱衣室に戻った。

「さ、さびぃー…!」
「ほら、こっち」
ほっそい、白い体に鳥肌を立てつつ、歯を鳴らす正広を、由紀夫が手招きする。
あたりの岩から雪をどんどん落とし、一時的に温度を下げた場所に入れさせてもらって、なぁんだぁ!!と嬉しそうな笑顔で、由紀夫と野長瀬に向かって、ニコニコと笑った正広なのだったが。
「はい、それじゃ」
いきなり腕を取られ、平らな岩に座らせれた。
キョトン?と、正広は首を傾げる。
「兄ちゃん…?寒いよぉ…」
「はいはい。大丈夫、大丈夫」
桶まである露天風呂なので、由紀夫と野長瀬が二人がかりで正広の肩からお湯をかけ始めた。
「えぇー?やだぁー、やだ、やだぁー」
足だけお湯につけた状態で、ばしゃばしゃやりながら、正広は首を振る。
「ダメ、大人しくしてなさい」
「やぁだぁー」

「…なんかぁー」
「やなもんねぇ」
竹垣にひっついていた千明が、しおしおと奈緒美の元に戻ってくる。奈緒美は、大きくため息をついた。
「露天風呂…!静かに降り積もる雪♪隣から聞こえてくる水音に混じる、『やだやだぁ〜ん』の幼き声♪」
適当な節まわりを、手をマイクにした典子が口にする。
「あぁっ!だめぇーっ!由紀夫―っ!ひろちゃんに何するつもりぃーっ!!」
「何もしてねぇっ!!!」
「何がするんだったら、あたしにぃーっ!」
「人類最後の女がおまえらでも、なんもしねぇっ!!」
「『おまえら』って、社長と千明ちゃんはともかく、あたしはいいじゃないですか…」
ポツンと行った典子は、奈緒美と千明に沈められた。

「あいつら、脳沸騰してんじゃねぇか?」
王子にかしづく下男たちのように、せっせと正広に温泉をかけてやってる由紀夫は、野長瀬にぶつぶつ言う。
「いや、僕はひろちゃんだったら」
「だってよ。正広どーする?」
「『ごめんなさぁい。野長瀬さんの事はぁ、お兄ちゃんとしかぁ、思えないのぉ〜』」
「なっ!なんでっ!!」
二月前、野長瀬が仕事で知り合った女子高生をこっそり口説こうとした時、実際に言われたセリフだった。
「野長瀬、隙だらけだからなぁー」
しれっと由紀夫は言い、正広はケラケラ笑う。
「何でですっ?えっ?どこからっ!?」
女子高生に夢中になっていて、その喫茶店のすぐ後ろの席に、買い物に来てて二人を見かけ、つけて来た由紀夫たちがいた事になど、まったく気付いていなかった野長瀬の失態であった。

正広はその後、もう一度だけ肩まで浸からせてもらい、とりあえず納得したような顔をする。
「気持ちいいっ」
へへっ、と笑う正広の髪から、雪を払い落とす由紀夫を見て。
「いやーっ!あたしもするぅーっ!!」
服を着たままの千明が入って来ようとして、由紀夫たちはギョっとする。
「あたし、あたしっ、由紀夫の雪、払ったげるぅー!」
「いいから出てけっ!この痴女っ!!」
長い髪をぶるんと振るっただけで、やたらとタチのいい由紀夫の髪から、雪は落ちてしまう。
「すごぉーい。レトリバーみたぁーい」
意味不明な事を言って、パチパチと手を叩く千明だったが、奈緒美に首根っこをつかまれ、連行されて行った。

客用の布団があるから、と一行は土間の隣にある和室に布団を引いた。
今度こそ、と正広が食い下がって、丘見分の布団もその部屋に引かれる。
「修学旅行みたいですね」
典子の声に、修学旅行未体験の正広が嬉しそうに辺りを見まわした。
「こんななんだよね」
ごそごそと布団に入りながら言う正広に、典子が「そうそう」と返事をする。
「そして、修学旅行と言えば!」
千明が声を上げる。
「怪談か、恋の打ち明け話―!」
さすがに家の持ち主を目の前にして、枕投げを言い出す度胸はなかったらしい。
「まぁずは!丘見さーんっ!」
しかし、その丘見を、ピカチュウのネイルシールが貼られた爪で千明は指差した。
えっ、と硬直する一同だったが、打ち明け話?とちょっと黙っただけで、少しだけ話し出した。
10歳の頃の、年上の女性への初恋の話は、淡々とした語り口調ながら、その女性が若くして亡くなったというところで、涙を誘う。
「奥様も…?」
ふと、奈緒美が口にすると、丘見は病気で、と答えた。
「優美子は、田舎暮らしを嫌って出て行った」
「あら、そんな事」
ねぇ、と奈緒美は由紀夫たちに同意を求める。
「デパートって、今休みないですからね。それに嫌ってたら、わざわざおせちを届けてなんて言わないでしょ」
「綺麗だったよねぇ。お母さんも、綺麗な人ですか?」
「優美子は母親によく似ている」

ここから丘見優美子の話→それぞれの子供時代の話→それぞれの地元の話→理想の結婚相手の話→何でここのうちはこんなにでかくて温泉まであるのか?という話(旧家なので、昔からこのサイズらしい。温泉は勝手に湧いた)→奈緒美を後妻にするつもりはないか、という話→山陰地方の怪談…。などなど、話はどんどん変わり、一人が眠ったら、一人が起きるといった具合で、明け方まで話は続いた。

「まぶしぃーっ!」
雪は止み、太陽の光で、庭は目を開けていられないほど眩しい。
「車どうなってるんですかね」
「それを見るのが、あんたの仕事でしょ」
ジャージにサングラスという怪しすぎる姿で、野長瀬は深い雪の中を、泣きながらザックザックと進み、消えて行った。
「野長瀬さん、手伝ってくるー!」
嬉しそうに言う正広だったが、ちょっと待て、と由紀夫に止められ、オーバーにマフラーのぐるぐる巻きという姿にされる。
「行くぞ」
由紀夫の方は軽装で、シャベル片手銀世界の庭に出て行き、細い道を作り出す。
「俺もやるーっ!」
「こけんなよっ!!」
「大丈夫―っ!」

二人がはしゃぎ、自力で雪をかき分けた野長瀬が、ぜーぜー言ってる間に、奈緒美たちが前日残ったお餅をメインにした朝食を作る。
丘見を含め、7人で朝食をとり、ついに丘見邸を辞去することになった。
みんなして片付けをして、最後に由紀夫が挨拶に奥の部屋に向かった。ら。

「…丘見さぁん…?」
最初に丘見を見つけた部屋の襖が開いていて、隣の部屋が見えた。
そして、そこにあるのは、最新式のキッチン。
「これ…、どーゆー事ですかぁー?」
「年寄りが一人なのに、かまどは使えないだろう」
「あー、そーですけどぉー」
「先生、おはよーございまーす!」
そのキッチンについている勝手口から、二十歳そこそこの女の子が入ってきた。
「あぁ、おはよう」
「あら、朝ご飯は?」
「連絡しなくて申し訳ない、もう今日は先に」
「あら、そうですか。じゃ、お昼にまーわそっと」
「…丘見さん…?」
若い女の子は、初めて見る由紀夫に、ペコっと頭を下げ、あ!と慌ててその場に座り直す。
「失礼いたしました。わたくし、先生の生徒で」
「生徒?」
「え?」
不思議そうな顔をした由紀夫に、彼女が説明したところによると、丘見はこう見えて、茶道、華道、行儀一般の師匠をしており、大勢の門下生がいる。家事全般にも一家言あるため、弟子一同は交代で家事見習いで通っているらしい。
「毎日?」
「毎日。交代で。昨日はちょっと急用で、お昼までしかいられなかったけど」

「丘見さんー?」
正座したまま黙っている丘見に、由紀夫は詰め寄った。
「あれ、何だったんです?一人ぼっちの淋しい年寄りの演出は」
「やだ先生ったら!」
キャラキャラと彼女が笑う。
「またそんな事やってー!先生、こういうルックスだから、色々と勘違いされちゃうんですよぉ。それで、また、先生ノリがいいから、のっちゃってぇー!」

こんのボケおやじ!!

自らの父親に対して思ったのと同じ感情が湧き上がり、けれど、由紀夫は大笑いしてしまった。
「丘見さん、面白すぎ」
親指を立てる由紀夫に、同じポーズを返し、楽しそうに丘見は笑った。

「素敵だったわねぇ…。今時土間のある大きなお屋敷、あんなところに一人でお住まいだなんて、もう、淋しいし、大変でしょうねぇ…」
帰りのギュウギュウ詰めのレンタカーの中でうっとりという奈緒美に、当分真実は黙っておこうと思う由紀夫だった。

<追記>

空港で、カニを食べてない事を思い出した一行は、スポンサー奈緒美にカニ買ってコールを繰り広げ、指スマ3回戦トータル成績上位3人分を含めた4人前のカニを買わせる事に成功。後はライバルだ!とばかりに、帰りの飛行機で練習戦が続けられた。最終的に誰がカニを食べられるのかは、神のみぞ知るところである。

<つづく>

溝口の家が全室洋間だと書いたかどうかは定かではない!許して!!許してぇーっ!!でも、温泉にも入れてあげられてよかったわ。ひろちゃんはちょっと寒そうだけど(笑)

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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