天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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ギフト番外編161話ミニミニ後編『怪盗あらわる』



ついに、怪盗かわいいもの泥棒が現れた。
驚くべきことに、その姿は、正広に瓜二つなのだ。
バカな野長瀬が、前髪を下ろした怪盗かわいいもの泥棒を見て、ひろちゃん!?と声を上げてしまうほど瓜二つなのだ。
野長瀬くらいバカな、怪盗かわいいもの泥棒の手下が、前髪を上げた正広を見て、ミ、ミスター!?と声を上げてしまうほどにも瓜二つなのだ。
つまり、この空間に、バカが二人いる、ともいえる。

由紀夫にとってみれば、『怪盗かわいいもの泥棒』などと抜かす存在も十分バカだが、本人はいたって真面目だ。
もちろん、この場でmina+ヤコブセンの椅子をすり替えできなかった場合のことだって考えてある。
怪盗かわいいもの泥棒の手が、するりとポケットにいれられる。
その手は、握りこんだものを腰越人材派遣センターの床に投げつけた。
「わっ!」
「か、火事!」
突如吹き出る煙。
「ルパン3世か!」
「るぱんるぱーん!」
反射的に歌ってしまった正広も声が上ずっている。
「椅子―!椅子どこー!」
ひし!と椅子にしがみつき、持っていかないでぇーー!と騒いでいたが、煙が収まった見てみると、それは単に自分の机であり、梱包されたままの椅子には、野長瀬が飛び乗っていた。
「あ」
その野長瀬を見つめる正広。
大きな目には、『先に座ったね・・・!?』と書いてある。
見つめ返した野長瀬の顔には、薄い微笑みとともに、『これが椅子に対する想いじゃないって言えるかい?』と書いてあった。

「いやいやそうじゃなくって、あいつは!?」

由紀夫の声に、全員が怪盗かわいいもの泥棒と、その手下がいた空間を見つめたが、もちろんそこには誰もいない。
ただ、二人のたっていた場所が、うっすらとした影で残っているだけだ。
「これ、どーすんの・・・!」
そう。
腰越人材派遣センター内は、前面白い粉でうっすらと覆われてしまったのだ!
「片付けー!全員でーー!至急ーーーー!!!」
奈緒美に怒鳴られながらの清掃作業は、遅くまで続けられた。

「まったく・・・」
その頃、こちらも、うっすら全身を白く染めた怪盗かわいいもの泥棒が眉間にしわを寄せていた。
ぱたぱたと、その粉をはたきながら、やあ、ミスターって、白くなっててもカッコいいや、と手下は思っている。
ともかく、その運送屋の服を脱げばいいようなものだが、考え込んでいる怪盗かわいいもの泥棒は動かなかった。
怪盗かわいいもの泥棒は、マンションに住んでいるがそれはとても素敵なマンションだ。
築25年物件をリノベーションしたもので、なにせ、『かわいい』
とにもかくにもヨーロピアンで、かわいい。それが怪盗かわいいもの泥棒の住まいなのだ。
フローリングというより、板張りと呼びたくなる素朴な床に、あの椅子がどれだけ似合うと思っているのか!
簡単なことのはずなのに、失敗してしまったことに腹を立てていた。
そしてもちろん、必ず取り戻すと思っている。
彼にとって、あの椅子は、自分のための椅子なのだから。

その日の、その夜とは思うまいと、草木も眠る丑三つ時、怪盗かわいいもの泥棒は、再び腰越人材派遣センターに現れた。
やけにガラスがぴかぴかしている。
明かりは消され、中に人の気配はなかった。
まさかと思っているのか、のんきなのか。
自分の考えの確かさに満足しながら、正面から鍵をあけて事務所に入る。鍵を開けるくらい、怪盗かわいいもの泥棒にはお茶の子さいさいなのだ。
そう。彼は怪盗かわいいもの泥棒なのだから。
くー!やっぱりミスターカッコいいぜ!と手下もついて中に入ったが。

「・・・ない」
「・・・ありませんね」
あのでっかい。頑丈に梱包された椅子が。
このドアからは運び出すことができなかったでっかい椅子が。
「一体どこから?」
さすがの怪盗かわいいもの泥棒も、一見はめ殺しに見えるこの窓が、取り外しできるようになっているとは気付いていなかった。
しかしそれも時間の問題。
怪盗かわいいもの泥棒は、あの『自分の』椅子が、溝口正広の自宅に移動させられたに違いないと見抜いてしまったのだ。

「ドアよーし!」
正広の大声が玄関のところでしている。
ものすごくもったいなさそうな顔で、兄ちゃんも好きに座ってよね!と言われた椅子には触れもせず、由紀夫は寝ようとしていた。
「窓よぉーし!」
怪盗かわいいもの泥棒が来るかもしれない!と正広は戸締りに余念がない。
そんなことをしても入ってしまうのが怪盗なんじゃないのかと由紀夫は思いながら、ハードな事務所清掃作業に疲れ、早くも眠りに入りそうになっていた。
「心配だなー・・・」
本当なら、椅子も一緒にベッドに入れたいくらいの正広だったが、そんなことをしたら兄に叩きだされてしまう。
いや!自分はいい!
自分がたたき出されるなら我慢できても、きっと椅子がたたき出される!
しかも窓から!搬入された窓からたたき出される!それだけはいやー!
と、正広はぽん、と手を叩いた。
椅子をベッドに入れるのがダメなら、自分が椅子で寝たらいいんじゃないだろうか。幸い座り心地むちゃいい!だし。
うん。それがいいそれが。
「待てこら」
「え?」
「椅子で寝るつもりだろう」
「な、なんでそれを!」
「いいからちゃんと寝ろ!」
「だってぇ〜〜」
「だってじゃない!」
今は2月。部屋は寒い。頼むから普通に寝て欲しい。そう思う由紀夫だった。

そして、寝つきのいい早坂兄弟がすっかり眠った頃。
丑三つ時より、30分ばかり過ぎたころでもあろうか、怪盗かわいいもの泥棒は、早坂兄弟宅に現れていた。
事務所の机にあったアドレス帳を見てやってきたのだ。怪盗かわいいもの泥棒のやることに無駄はない。
「この、2階だな」
「そうですね、ミスター・・・」
一階はつぶれたビデオ屋。ここにあの椅子があるはずがない。そして、あの窓から、椅子は運び込まれたに違いない。
それなら、自分も。
華麗にあの窓から入ってやるまでさ!

「じゃあ」
「はい」
しずしずと、手下が電柱に手を付き、台になった。
怪盗かわいいもの泥棒はその背中を軽く蹴って飛び上がる。見る間に電柱を上っていってしまう姿はまるで。
「やまねみてぇだぁ〜」
時折エセ東北人になる手下だったが、生やまねなど見たこともない。
軽々と早坂家の窓に到達し、芸術的な手際で窓を開けてしまう。
部屋の奥には、まるで自ら光を放っているかのように、美しく浮かび上がる青い椅子があった。
「あぁ・・・」
思わずため息をつく。
待たせてしまって、ごめん。

と、一歩踏み出した怪盗かわいいもの泥棒は。

「ぐえっ」
あろうことか、早坂由紀夫の横っ腹をふんずけていた。
「て、てめっ!」
「あぁっ!怪盗かわいいもの泥棒っ!」
「椅子を返してもらおうか」
「この椅子は僕のだー!」
「いや、あの椅子は私の部屋にこそ」
と言いながら、怪盗かわいいもの泥棒は、早坂兄弟の部屋をぐるりと見渡した。
「いい加減足をどかせろ!」
横っ腹を踏まれたままの由紀夫が、そのまま起き上がりあわや!怪盗かわいいもの泥棒転倒か!となったが。
「ふん」
くるりと宙返りし、ひらりと床に降り立ったのだ。
「渡さないぞ!この椅子は!」
椅子に座ったまま、つれていくなら自分ごと!となっている正広をじっとみつめ、怪盗かわいいもの泥棒はゆっくりと近づいていく。
「に、兄ちゃん!」
「こらこらこら」
しかし、すぐに後ろから首根っこをつかまれる。
「あれはうちの弟のだ。いい加減に諦めろ」
「いや、ちょっと待て」
首根っこをつかまれようと、怪盗かわいいもの泥棒はクールに決める。
「おまえ、そこに座ってみろ」
「え、あの・・・」
もう座っていた。正座して座って、ひし!とひじかけをつかんでいる。持っていかせるか!ポーズ。
「もうちょっと普通にだ」
「え、だ、だって・・・」
「その椅子を愛するものとしての私を信用しろ」
バカかおまえは、と言おうとした由紀夫は、それならと素直に言うことを聞く弟を見て、あああ!バカがここにも二人!と目頭を熱くする。
そして、青い綺麗な椅子に座った正広を見た怪盗かわいいもの泥棒は言った。

「かわいい」

「は?」
「それにこの部屋もかわいい」
ぐるりと部屋を見回して、怪盗かわいいもの泥棒は言う。
「この部屋なら、この椅子を置いていてやってもいい」
「いや、だから。これはうちの弟のだから」
「ただ、この部屋が少しでも可愛くなくなったら、いつでもこの椅子はいただく」
ぽん、と椅子に手をかけ、するりと撫でた怪盗かわいいもの泥棒はふと微笑んだ。
あ、き、綺麗だ・・・!
とか思ってしまう正広はプチナルシスト。
そして。
この子は確かにこの椅子にお似合いのかわいい子だとか思っている怪盗かわいいもの泥棒は150%ナルシストだった。

「じゃあ」
そういい残し、ひらりと身を翻した怪盗かわいいもの泥棒は開け放たれた窓から出ていく。
あ!と地面を見下ろした時には、ただそこには風が吹いているだけなのだ。

「怪盗、かわいいもの泥棒・・・!」
そのかわいさで見事宝物の椅子を守った正広は満足そうにしている。
そして、怪盗かわいいもの泥棒も満足していた。
今日はたくさんかわいいものを見たと。

「・・・なんなんだよ・・・」

ただ横っ腹を踏まれた由紀夫だけが満足していない。
この後、怪盗かわいいもの泥棒は、可愛くない環境におかれているかわいいもののために、なお一層励むことになる。
成金趣味の奈緒美の部屋から、小さな可愛いものがなくなるまで後少しだ!!

がんばれ怪盗かわいいもの泥棒!
それいけ怪盗かわいいもの泥棒ーーーー!!


あくまでも怪盗かわいいもの泥棒は和賀英良さんでひとつお願いします。それはどうぞ(笑)
次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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