天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第15話『新しい愛を届ける』

めっちゃ短い前回までの話。

「新年早々、日本海まで仕事ででかけた腰越人材派遣センターご一行。大カニ争奪戦の結果は、1位、さすがの反射神経&天下無敵の負けず嫌い早坂由紀夫、2位、どこまでも野生の勘、秋山千明、3位、若さの勝利溝口正広、となり、カニはこの3名と社長である奈緒美の胃袋に収まった。負けてしまった、もしくは万が一勝ったにせよ、食べされては貰えなかったであろう、野長瀬定幸。何故かいつも不運な男野長瀬。そんな野長瀬の一日を追ってみよう」

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野長瀬定幸の朝は早い。腰越人材派遣センター、営業第1課課長である彼は、現在独身であり、いや、過去からずっと独身なのだが、家事は一人でやっている。
マンションと言うより、アパートという言葉の方が似合う部屋は、2DK。6畳の寝室から出てきた野長瀬は、よろよろとコンロに向かい、やかんを火にかける。ポットに沸かしているお湯ではいや。そんな野長瀬は、6時のNHKニュースをぼんやり眺めながら、ひたすらお湯が沸くのを待った。
もちろん、やかんは、野球部が合宿の時なんぞに使う、真ちゅうっぽい色合いの例のあれ。
ようやく沸いたお湯で、丁寧にお茶を入れる。ぐらぐら沸いたお湯にぴったりの茶葉は、なんたって、番茶。何ヶ月飲めるんじゃ?という大入り袋で、380円という特価が気に入っている。

まずは濃い番茶で目を覚ました野長瀬は、続いて、シャワーに向かう。彼の職場は女性の権力が強く、数少ない男性社員たちは、女性と言っても過言ではない美しさを誇っているため、野長瀬も、「せめてこざっぱり」をテーマにしていた。
短く、さっぱりと刈られた髪には、シャンプーよりも石鹸が似合う。リンスなんて不必要だぜ、トリートメントって何の事?彼愛用のシャンプーは、もちろんトニックシャンプーだ。

髭もそって、さっぱりした野長瀬の次の仕事は、朝食作り。
人間の基本は、食。中でも朝食は大事だ!野長瀬はそのように考えていて、朝食を抜くような真似は、遅刻しそうな時しかしない。しかも、トーストだの、シリアルだの、そんな横文字のふしゃふしゃしたものを食べてる場合じゃない。飯!朝は飯!!さらに、みそ汁に、焼き魚、漬物。野長瀬は、自らのぬか床まで持ってる男であった。
今日のみそ汁は、ワカメと豆腐。干物を焼いて、そうそう、納豆。キュウリのぬか漬けも食べましょう。もう一度、番茶も入れて、なんて立派な朝食。
美しい…!
感動する野長瀬であった。

7時半。2着で19800円のスーツに身を包み、野長瀬は部屋を出る。もちろん、布団は畳んであるし、窓辺にくる小鳥のために、米粒を置いておく事も忘れない。今日も一日、張切って働こう。
毎朝、野長瀬はとても前向きだ。

8時。野長瀬は腰越人材派遣センターに出社する。場合によっては、一番乗りになるため、鍵も忘れない。
のだが。
今日も、事務所に明かりがついていなかったため、鍵を開けようとした野長瀬は、逆に鍵がかかってしまい首を傾げる。
社長である腰越奈緒美は、基本が締まり屋であるため、鍵のかけ忘れなどはありえない。じゃあ、誰か明かりを点けずに働いているのか?いや、まさか、泥棒!?と体の割に心根は繊細な野長瀬はビクビクしながらこっそりと覗き込んだが、応接用ソファの上に人影を見つけて、さらにビクっ!とする。
「だっ、だれっ?」
ひっくり返った声をあげた野長瀬は、大あくびで迎えられる。
「うるっせぇなぁー…」
「ゆっ由紀夫ちゃんっ?じゃあ、あれっ」
「正広だよ」
腰越人材派遣センター、1・2を争う美人の早坂由紀夫が、あんた目の毒ですという姿で伸びをしていた。
「何してんですかぁ?」
椅子をいくつか並べた上で横になっていたらしい由紀夫は、鮮やかなブルーのグッチのシャツに、ボクサーパンツという、あまりな姿で立ち上がり、裸足でぺたぺた歩いて、ソファで丸くなっている正広の様子をのぞいた。
「昨日さぁ、うち帰ったらしーちゃんの様子がおかしくって」
正広の机の上にかごごと置いてある、白文鳥を指差す。
「獣医に連れてったら、最後の客で、ちょっと飲みにでもいくか、なんて言ったら、えらい盛り上がって、もう眠くって家までたどり着けなかったもんだから」
「もーっ、びっくりしたじゃないですかぁっ」
「んな事よりさぁ、コーヒーいれてくんない?」
二日酔いなのか、眉を寄せ、もう一度座った由紀夫は、たらんと両腕を足の間に垂らして、上目遣いに野長瀬を見上げた。
「あ、コーヒーより、いいもんありますよ」
いそいそっ、と給湯室に向かい、梅干し入りのお茶を持ってくる野長瀬。
「さっぱりしますから」
「サンキュー」
大ぶりの湯飲みを両手で受け取って、由紀夫はニコっと笑いかけた。
「だからじゃねぇ?」
「何がです?」
「気ぃ、ききすぎ。だから、いつまでも一人なんじゃん?『あたしがいなくても、いいのよ』って」
「なっ、なんで、一人だって決め付けるんですっ!」
「うっそ!誰かいんの?」
「どこにですっ?」
出社してきた典子が挨拶もせずにいきなり会話に加わってくる。
「野長瀬、女いるって!」
「嘘ですよぉ!そんなはずないじゃないですかぁ!」
「だから、なんの根拠でっ!」

「…いいから、服着なさい」
低い、迫力のある声が、入り口のある高い位置からした。
「あ、社長!おはようございます」
「おはようございまぁーす」
「うちは健全な経営、健全な社風が売りなのっ!ちゃんとしてっ!」
ビシっと言われた由紀夫は、いい客引きだと思うけどぉ?と口答えし、千明けしかけるよっ!と言われ、ロッカーにおいてある着替えに慌てて着替えた。

そんな騒ぎの中でも、寝起きの悪い正広は微動だにせず寝ていた。

午前中、野長瀬はデスクワークをこなす。
書類を作り、ハンコを貰い、コンピュータを恐る恐る扱い、電話をかける。
「野長瀬さん」
全員がじぃーっと見守る中、ようやく目を覚まして大慌てした正広だったが、すっかり落ち着いて、大好きなしーちゃんを一緒に、細々と働いていた。
「お昼、どうしますか?」
腰越人材派遣センターのランチは充実している。第1水曜は、手の空いてるものが作って、会社で食べよう、の日だった。
「あ、そうだなぁー。ひろちゃん、何食べたい?」
「んーと…あ!」
「何、何?」
「面倒かなぁ…。あの、手巻き寿司?」
「手巻き寿司」
「だって、あの、野長瀬さんって、元々大阪なんでしょう?大阪って、節分に、お寿司食べるって」
「太巻きをね、食べるんだよ」

その日のランチは野長瀬家の太巻き、というのを野長瀬が作り上げた。
しかもその太巻きをとある方向に向いて、何も言わずに食べるという風習については、意味が解んねぇ、と由紀夫には不興だったが、正広は面白がって大口をあけてかじりつき、さすがに苦しくなってのたうつ。
「でぇきないよぉ!」
一人、最後まで食べきった野長瀬は、ちゃんと準備してある寿司屋模様の湯飲みのお茶を一気に飲み干し、
「これで、今年1年の幸せがやってくるんです!」
「あんたには、もっとも縁遠い言葉よねぇ…」
しみじみと奈緒美が言った。

午後。野長瀬は外回りもする。
派遣社員の派遣先に行ったり、新たな顧客開発のため、飛び込みをしたり、ついでにスカウトもしたり。そのスカウトにちょっぴり私情も入っていたり。

それにしても、自分に彼女の一人もいないと、何故、誰もかれも決め付けるのか…。それは事実いないからなのだが、プライベートは秘密にしているつもりの野長瀬にはとても不思議だった。
暇そうにしてるからだろうか。色々考えていた野長瀬は、とある店の前で、ピタっと足を止めた。

「あっ!もう帰らないとっ!社長っ!お先ですっ!」
野長瀬は、時計を大袈裟に見ながら、バタバタッ!と事務所を出た。何だ?と全員が無言で見送っているのを感じながら、ちょっとほくそえむ。
もう、彼女がいないなんて言わせないぜ。
だって、俺にはもう素敵な彼女がいるんだからっ!!

「すみません!遅くなりまして!」
野長瀬が飛び込んだ店には、おっとりと可愛らしい笑顔の女の子がいた。一つにまとめられたロングの黒髪。シンプルなエプロンをして、軽く頭を下げる。
「お待ちしてました」
「あ、どうもっ」
いかつい顔を、ポッ、と赤らめながら野長瀬が微笑む。
「イイコにしてましたよ」
その彼女から、野長瀬にそっと手渡される小さなもの。
それは。
生後3ヶ月の、しろうさぎであった。
「いやぁー、可愛いなぁー」
フンフンと可愛くうごめく、小さな鼻。前足を野長瀬の胸について、野長瀬の匂いをかいでいる。

外回り中に、ショーウィンドーにいるのを見て一目ぼれしてしまった野長瀬は、あぁ、この子こそ、我が彼女!と決め付けていきなり買ってしまったのだ。
白いうさぎちゃん。
バニーちゃん…。
あぁ、いつの日か、可愛いバニーちゃんの姿で恩返しに来てくれないものか…!
時々、脳がショートしてしまう、気の毒な野長瀬であった。

やっぱり節分には太巻きだ。
今年もこれで幸せだぞっ!と思っている野長瀬はまだ知らなかった。

野長瀬にやってくるであろう不幸その1.
白い可愛い女の子うさぎちゃん、と思い込んで買った野長瀬だったが、そのウサギはオスである。
野長瀬にやってくるであろう不幸その2.
「ミニウサギ」という名称で、大きくならないんだと思い込んで買った野長瀬だったが、「ミニウサギ」は雑種のため、大きくなる可能性大。事実、野長瀬のウサギはかなり大きくなる。
野長瀬にやってくるであろう不幸その3.
そのウサギがやや病気がちであるため、稲垣動物クリニックに通うことになる。さらに稲垣医師にうっすらと気に入られる(笑)

そんな事とはつゆ知らず、大事にうさぎを抱きながら、夕食は何にしようかなぁーと商店街を歩く野長瀬の、明日はどっちだ!

<つづく>

前からやりたかった野長瀬すっぺしぁる(笑)でも、野長瀬には、小さな不幸がよく似合う。うさぎちゃんと仲良く暮らして欲しい(笑)

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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