天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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ギフト番外編165話中編の2『歩こう』



<これまでのお話>
稲垣獣医に誘われ、マラソン大会に参加することになった早坂兄弟。実際は、マラソンではなく、マラソンがスタートした後に行われるウォーキング大会だ。ど
うやら、ハワイはホノルルマラソンをぱくった企画だという。早朝、夜明けの海を眺めながら10km歩く。
素敵だ。初夏にはぴったりだ!早坂兄弟は盛り上がっていたのだが。
なんとその会場は、北海道だったのだー!どーしてなのだー!稲垣獣医ーー!

「う・・・」
ほの暗い部屋に低いうめき声がこもる。
そしてけたたましい目覚ましの音もした。
「うるちゃい・・・!」
「うるちゃくてもしょうがないだろー!」
うるちゃい音の元を探り、あたりかまわずばんばん叩いていた正広は、由紀夫の顔面をもばんばん叩いていて叱られる。
「うーーー、うるちゃいーーー」
正広の目は、まったく開いていない。真一文字になったまま、うるちゃいうるちゃいを繰り返していた。
目が開いた、その瞬間から動けますという体をしている由紀夫は、じりじりじりじりなり続けている目覚ましを、そのまま正広の耳に押し付ける。
「うううううるちゃーーーーい!!」
「何時?あー、4時半・・・」
二時間半の眠りということになる。
「はー・・・」
さすがに由紀夫も眠いと思いながらも、シャワーを浴びた。これで目を覚まそうとして、そして成功はしたのだが。
「おいー!」
数分でシャワーを浴びて出てきたら正広の姿がない。
「何やってんだおまえは!」
いない訳ではなく、小さく小さく、やまねのように小さく丸まって、ベッドの足元の方で布団をかぶっていたのだ。
「ねぶいー・・・!」
「おまえが歩くっつったんだろうが!」
布団をはぐと、やまね様の正広の目は、今なお、ぴったりくっついている。
「ほらそれ着て!」
「ね、ねぶい・・・」
「着ないなら、そのまま連れていくぞー!」
もちろん、ホテルの浴衣で寝ているので、正広はちょっとした海苔巻き状態になっていた。その海苔は、概ね背中側に周り、帯だけは綺麗に胴の真ん中でくくられている。
「う、うん・・・」
こくこくと、ぼけっとつっ立ったままの正広は何度かうなずき、そのままドアに向かう。
「いやいやいやいや!確実に病院運ばれるから!脳の病院に!」
「うーー。ねぶいようーー」
未だ、目は一文字のままの正広に、由紀夫は無理やりスポーツウェアを着せていく。
「ちょっとは協力せんかい!」
「くつしたをーぬがせなさーい」
「牡丹と薔薇ごっことかしてんじゃねぇ!しかも今ははかせてんだ!」
こんなバカなことをしていても、部屋を出るのは4時45分。
男の身支度はこうでなくちゃいけない。

「あっ」
そして廊下には稲垣獣医がいた。
昨日とはやや違う、やはり白いジャージをまとってはいるが。
「・・・先生・・・」
「言わないでっ!」
稲垣獣医はいつもの稲垣獣医ではなかったのだ。
「髪が」
「うるさいっ!行くよっ!」
「ねぶーーい」
未だ、目は真一文字の正広は気付かなかったが、稲垣獣医の髪が。
爆発、していた。
「あの、それ・・・」
「いいの!ちゃんと持ってんだから!」
「持ってるって?」

それは、レンタカーに乗った時に解った。
稲垣獣医は、よろよろと助手席に乗ろうとしていた正広を、後部座席に放り込み、カーナビの電源がどこから来ているか調べて引っこ抜き。
「ど、ドライヤー・・・!」
ドライヤーをかけだしたのである。
「そんなのあるんですか!?」
ぶおおおおおおお〜〜〜とかなりな音を立てているドライヤーに負けじと由紀夫は言った。
「車で使えるって!」
「作ってもらったんだよ!あつらえってやつだね♪」
「だね♪じゃないですよ!なんか、えっらい車遅いんですけど!」
「気にしなーい、気にしなーい」
「うるちゃーーい、ねぶだーーいぃ」
ぶおおーーーーーー。

ともかく、騒々しい車であったことだけは間違いないだろう。
五時に集合場所に到着した時、稲垣獣医はいつもの稲垣獣医だった。
しかし、正広の目はまだ一文字のままだった。
後部座席に放り込んだのがまずかったのか。正広はまた眠ってしまい、由紀夫は1からやり直しをする羽目に陥ってしまった。

「マラソンは今出たとこだね」
歩くだけの人も結構いるようで、辺りはにぎやかだ。
そこに目が真一文字の正広を引っ立てるようにして由紀夫も入っていく。
「えっと、5時半にスタートで、10kmだから」
いかにもスポーツ用です、という腕時計を稲垣獣医はこつこつとはじく。
「まぁ、2時間半でいいか。ね。お兄さん」
「いいか、ってなんですか?」
「大体2時間半かかるでしょ?10km歩くのに」
「それぐらいですかね」
「てことは、8時。それから空港にいって」
「は!?」
「だって、帰らないと!」
「帰るんですか!?」
「お昼から診察あるもん!」
「お昼までにですかぁ!?」

「お昼何食べるって!?」

ようやく起きた正広は食欲に支配されていた。
さすが動物である。

「え!?お昼までに東京帰るんですか!?」
さすがのことに正広の目もぱっちり開いた。
「そう。だから、車で空港まで行ってくれるかな」
「そりゃかまいませんけど・・・。大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。歩くだけだから。フルマラソンになっちゃうとちょっとキツいかなーと思ってやめたんだから」
「・・・でも、そんなに急ぐんだったら、何も、ここまで、来なくても・・・」
「だって、海を見ながらゆったりと歩いてみたかったんだもん」
「もん、って・・・」
由紀夫は、遠い空の下で微笑んでいる草g助手に思いをはせる。あぁ、いつもこのような人間と、一緒にいるのか、彼は、と・・・。
「なにせやっぱり、男は仕事だからね」
ぎこちなくウインクなどして見せ、稲垣獣医はストレッチを始めた。
「ちゃんとストレッチしないとダメだよ?怪我しちゃうからね。たかが10kmなんてなめてると」

「わー・・・」
正広は思わず声を上げていた。
藍色の空が、水色に代わり、海の方から太陽が昇ってくる。
「綺麗ー・・・!」
その美しさは、さっきまでの途方にくれていた気持ちを拭い去ってくれるようだった。
そう。
正広は途方にくれていた。
「重い・・・」
由紀夫も途方にくれていた。
「綺麗だね〜」
由紀夫の背中にいる稲垣獣医の声からは、途方にくれているかどうかは読み取れなかった。ただ、純粋な喜びだけが感じられた。
「綺麗だねー、じゃないでしょー・・・」
「だって綺麗だよ。すごいよね。この色のコントラスト。空気が綺麗だからなのかなぁ、鮮やかだねー」
「えっと、兄ちゃん。ここ、ここ上がれるんじゃないかな」
のんきな稲垣獣医は放置して、正広は由紀夫に道を示した。
そう、道を示さざるを得ない状況に3人は置かれていたのだ。
「・・・大体、なんであなた、落っこちるんですか」
「不可抗力だと思わないかい?あんなのストレッチをしたとか、しなかったとかって問題じゃないじゃないか」

五時半。まだほの暗い中でウォーキンググループは出発した。地元の人たちが参加する、のんびりした会だった。みんな散歩気分でのんびり歩く。稲垣獣医は時計をきちんとセットして、時速4kmをキープする体勢だ。早坂兄弟は、それに合わせて歩いていた。
空が徐々に明るくなり、鳥のさえずりが聞こえる。
平坦な道でもあり、このまま平穏に10kmを歩ききることができると、誰もが思っていた。
その時。
「あ、あの鳥は」
稲垣獣医がふらっとコースを外れ、鳴き声を追いかけていく。
「稲垣先生ー?どんな鳥ですかー?」
正広も鳥を飼っているだけあって、普通についていく。そうなると、由紀夫も一緒に行くしかない。
正広たちが歩いていたのは、愛冠岬へ向かう海沿いの道で、高い崖にもなっている場所だった。鳥の声は崖より下でしていたのだ。つまり。そう。
稲垣獣医は、あっさりとその崖から転げ落ちていったのだ。
とてもあっさりと。
「うそ!」
「ま、マジで!?」
急に目の前から消えた稲垣獣医に、早坂兄弟は呆然とする。
「ちょ!稲垣先生!?」
可憐な鳴き声をあげていた鳥は飛び立ち、稲垣獣医は崖の途中で転がっている。
「稲垣先生ー!生きてますかー!?」
「死んだかー!?」
崖といってもスキー場なみの斜度で、草が生えているため、死んでしまうほどの危険はないが、それにしても足や腕の一本くらいはどうにかなりそうな高さではある。
「稲垣先生ー!」
正広の声に、うつぶせに倒れていた稲垣獣医の手足がうごめいた。
「生きてる!」
「生きてんのか」
「イヤそうな声出さないの!」

こうして早坂由紀夫は、足首をぐね、っとさせた稲垣獣医を背負い、崖をあがらなくてはいけなくなったのだった。

<つづく>


中編の2ってなんだそれ!!

次回は短いぞー。ものすごくきっと(笑)!

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!

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