天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第16話前編『チョコレートを届ける』

めっちゃ短い前回までの話。

「バレンタインのチョコレート買うためデパートをうろついていた千明は、具合を悪くしている女の子を助けた。が、お礼を言われるまでもなく、姿を消されてしまったため、ぷんすかムカついたものの、いつの間にか増えていたチョコレートに御満悦。しかし、無事由紀夫たちにチョコを渡せた翌々日の月曜日、事務所でテレビを見ていた千明は、自分が助けた女の子が行方不明といわれていた事を知った」面白くもなんともないあらすじですまん。

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「キャアーッ!!」
「面白い話してんじゃない」
「朔原ぁ?」
由紀夫とよく似た髪型の女刑事、朔原令子が千明の肩をしっかり抱いていた。
「ちょっと、あんた、久しぶりじゃない。何してたのよ」
由紀夫を拾った時に、いわば一緒に拾ったも同然なのが、この朔原。奈緒美とは、ギブ&テイクの間柄である。
「ちょっとね…」
「入院してたんっすよ、入院」
「余計な事言わないのっ!」
部下の筑波を怒鳴りつけた朔原の声よりも、奈緒美の声の方が大きかった。
「入院!あんたさぁ!あんまり姿見せないから、ガンじゃないかとか、もう死んだんじゃないかとか、色々言ってたのよぉ!」
「勝手に殺さないでよっ!」
「だって入院って!なんで?何科!?」
物見高いのは、社員一同同じで、口だけは挟まないものの、じぃーっと動向を窺う腰越人材派遣センターご一行。
「いいでしょ…、なんだって」
話を切ろうとした朔原だったが、空気の読めない筑波がサラっと言った。
「骨折しちゃったんですよ、足!それがねぇ!ほら、朔原さんバツ1じゃないですか、あれ?2でしたっけ?ま、いいやっ。そんで、その別れたダンナがよりを戻してくれって、朔原さんのマンション待ち伏せして言いよって、嫌がった朔原さんと揉めたあげくに、二人揃って階段落ちしちゃって」
ヒャヒャヒャヒャヒャーッ!!大笑いする。
「そんで、二人とも骨折しちゃったんですけど、もー!朔原さん、ガンコだから!絶対一緒の病院はイヤだって言い張って、無理矢理警察病院入っちゃってーっ!」

その時、すでに彼の姿は事務所から消えていた。
「すごぉーい、原田のジャンプみたーい…」(←旬のネタ)
ぶん投げられ窓から消えていった後ろ姿を眺め、正広は呟いた。

「あっそぉ、大変だったわねぇ」
奈緒美は、まぁまぁと朔原に椅子を勧め、正広はお茶をいれるため、給湯室にダッシュする。
「じゃあ…、あんたの用件は解ったわ」
真面目な顔で奈緒美が言った。そこに。

「まぁってちょーだぁ〜いぃ〜」
幻想的なまでに派手な仕事用の衣装をまとった、ジュリエット星川が現れた。
「あたしが占ってあげるわ。朔原令子が突然腰越人材派遣センターに現れた訳を!」
長い袖から水晶を取り出し、訳の解らない呪文を唱え出す星川。奈緒美と朔原にと、二人分のお茶を入れてきた正広は、Uターンして三つ目を入れに急ぐ。

「見えたっ!」
水晶に限りなく顔を近づけていた星川が顔を上げた。
「別れたダンナとよりを戻すかどうかについて、相談に来た!」
「来る訳ないでしょーっ!」
「え?違うの?あたしもてっきりそうかと」
「バカじゃないの?あんたたち。あら、何、このちっこいの」
「ち、ちっこいの…っ?」
三人分の玉露を用意し、やかましい女達にサーブした正広は、初めて会う迫力ある美人刑事からそう言われ、目を白黒させた。
「あぁ、由紀夫の弟」
「へぇー!まぁ、お兄ちゃんと違って素直そうな僕ちゃんだこと!」
ポンポンと腕を叩かれ、あ、どうも…、と頭を下げた正広は、お盆を抱いて、そそくさと兄の元に戻る。

「ほら、女3人集まるとかしましいとかって言うけど、あいつら女じゃなくて、おばさんじゃん?もう、一人でも十分うるせぇのが集まってっから、始末におえねぇよな」
「そぉよねぇー、おばさんってねぇー」
「こそこそ喋ってるとこ悪いんだけどぉ〜」
低い低い奈緒美の声が、本当にコソコソと喋ってる一行の足元から這い上がってくる。
「悪かったわねぇ〜、年寄りなんだけど耳だけは達者なのよぉ〜」
ガン!ガンっ!ゲンコツは千明と罪のない野長瀬の上にだけ落ちた。
「全く…。あ、もう大丈夫、大丈夫。聞くわよぉ〜、朔原〜、じぃーっくり」
「だからそんな話しに来たんじゃ…、あ!ちょっと!ちょっとそこの!」
立ち上がった朔原が千明を指差す。痛い、痛いぃー!とわめいてた千明がきょとんと首を傾げた。
「あんた、さっきの女、知ってるって?」

あっと言う間に本来の敏腕女刑事の顔に戻った朔原に言われ、こっくりとうなずく千明。
「知ってる、ってゆーか…」
「探してるのよ、あんた、友達?」
「ううん。えっと、そうじゃなくって、デパートで」
「デパート?」
金曜日にあった事を喋ると、着てた服から、髪型から、あれこれ聞かれ、大して記憶力もなければ、観察力もない千明はろくろく答えられない。
「あー、もう!ちょっと、現場行くわよ、現場!」
「えぇーっ?」
「筑波!車は!」
「はぁ」
いつ帰って来た!と一同が驚く間もなく、自然にそこにいた筑波がうなずいて、先に事務所を出る。
「え、やだ、なんであたしも行くのぉ?」
「あんた目撃者なんだから!ほら、行くわよ!後でチョコレート買ってあげるからっ!」
「わぁーいっ!…って!そんな事でぇーっ!!」
じたばた抵抗しても、相手は朔原令子。タフな女刑事は、うさぎのようにくくられた、ロリータ心をくすぐる千明の髪をがっちりつかんで離さない。
「たぁすけぇてぇ〜〜!ゆぅきぃおぉ〜〜!!」

「な、正広解るだろ?あーゆー風に、昔からしばしば警察のご厄介になるような事をしてると、悪い事をしてなくても警察ってだけでびびるような事になるんだぞ?」
「わーいにーちゃん、含蓄ある言葉―」
パチパチとやる気なく手を叩きながら、平板なセリフを正広は口にした。

「それでさぁ…、朔原、ホントに何しに来たのよ」
ぽつんと星川が呟いた。
「それを占うのがあんたの仕事じゃないの?」
「いや、まぁ、そうなんだけど」
(ちなみに、何故退院祝いを寄越さない?という用件だったが、そもそも入院してることも言わなかった事は気にしないらしい)

千明が次に事務所に顔を出したのは、次の日の事だった。
「ひどぉいの!朔原さぁ〜ん!」
1日デパートを引きずり回されていたらしい。
「ご飯もちゃんと食べさせてくれないのよぉ?せっかく銀座なのに!銀座なのにぃ!ファーストフードとかなのよぉっ?」
「しょうがねぇんじゃん?刑事なんて薄給なんだろ」
「そぉよぉー。でも、朔原のはただのケチ」
チョコレートも買ってくれなかったしぃー!とぶーぶー言う千明を慰めてくれるのは、常備されてるお菓子を出してくれた正広だけだった。
「そもそも、何で朔原がその子を探してんのよ。ただの行方不明じゃないわけ?」
口にチョコレートを詰め込んでる千明は黙ったまま首を振る。
「違うの?」
「…、知らなぁ〜い」
ごっくん飲みこんで、子供のように千明は言った。
「聞きなさいよぉ。あんた、気になんないの?」
「なんないもんっ」
「だから、あんたはバカだって言うのよっ。由紀夫ちゃぁ〜ん?由紀夫ちゃんは気になるわよねぇ〜?」
「えっと、正広。今日の仕事は?」
そそくさと奈緒美に背中を向け、正広のデスクにある、自分の日程表を広げる。
「今日はないのぉ〜」
背中に、ねっとりとくっついてくる奈緒美の声が現実である事に、由紀夫は小さく舌打ちする。
「…なんでいれとかねんだよ…っ!」
「ごめぇん…っ!」
小声で怒鳴られ、小声で正広は謝った。いや、別に正広が悪い訳ではなかったんだが。

「…何が気になんだよぉ」
諦めて由紀夫が振り返る。社長の席に座ったままの奈緒美は、爪やすりをひらひらさせながら由紀夫を見ていた。
「証券会社のOLが半月前から行方不明で、連絡がつかないって田舎の両親が出てきて、誘拐らしき連絡もないってんで、公開捜査してくれって言ったんだろ?家出だか、事故だかしんねぇけど、別に気にするような事ねーじゃん」
「兄ちゃん、すげぇー…」
1度見たくらいのニュースを覚えている由紀夫に、心の底から感心して正広はパチパチ!と手を叩く。叩かれた由紀夫は、自分の記憶力がやだ…と思っている。
「だからよ」
「え?」
「あたしと朔原には共通点があるの」
「はいっ!おばちゃんのところ!」
ほっぺにチョコレートをくっつけた千明がゲンコツを食らう。
「タフガイなところっ?」
「誰がガイよ!誰がっ!」
もちろん野長瀬もゲンコツだ。
「び、美人のところ…」
「それはあたしだけでしょ」
奈緒美の目が期待してたので、おずおずと正広は言い、ゲンコツを食らわされなかった事でとりあえずホっとする。
「えーと、寿司はヒカリモノから?」
「そんなピンポイントな…」
一人黙々と仕事をしていた典子に、巻き込まれる気はないらしい。

「金に汚い事だろ?」
「利に聡いと言って頂戴」
この二人が、特に気が合う訳でもないのに、ギブ&テイクの間柄を続けているのは、「利に聡い」という共通点があるからだった。
二人とも、「利」がない限りは、そうそう動かない。
「その朔原が!ただの行方不明ごときで動くはずがないわっ!」
調べましょう!
ビシっ!と奈緒美は宣言した。そして、今週の腰越人材派遣センターの、最優先ジョブになったのだった。

「だからって何で俺が!」
「千明は、あんたの言うことならよく聞くから」
「聞かねぇよ!」
「えぇ〜、あたし、ちゃんと言うこと聞いてるじゃなぁ〜い」
銀座の某デパートの地下食料品売り場。すでにホワイトデー商戦は始まりつつあるらしい。
そこまで引きずってこられた由紀夫は、右に奈緒美、左に千明という、どーしようもない状態に置かれ、ぐったりしている。
「どこで会ったの?」
「えっとねぇ」
ちょうど催しの入れ替わり時期になるため、日々ちょっとずつ変わる売り場は、昨日も同じ話をしてるはずの千明を戸惑わす。
「えっと…。あれ、んーとね。この辺…?この辺で、うずくまっててぇ、それで、あたし、その子を座らせてあげようと思ってぇ、それでぇ」
とことこっと歩いて、自分が引きずったベンチを指差す。
「このベンチを引きずってって座らせてあげたの。そしたら、水が欲しいって言ってぇ、だから買いにも言ってあげたのに、帰ったら、いなかったの。ひどいでしょー?」
「…それだけ?」
「それだけだよっ」
「なんかさぁ、おまえ、もうちょっと手がかりとかない訳ぇ?」
「…んーとぉー…」
千明の小鳥のような脳は、前日に朔原に絞り取られてしまったらしい。
「あんた、せめて朔原に言ったことぐらい思い出しなさいよねぇー?」
「んーと、んーーとぉー…、あ!」
「何っ?」
「何だっ!?」
「キティちゃんのハンカチぃー!」
返してもらってなぁーい!
わめく千明の首根っこをひっつかんで、3人はおもちゃ売り場に上がった。
「買ってやるわよ!それくらいっ!」
「わぁーい、えっとねぇ、んっとねぇ、どれにしよっかなぁー。マイメロディでもいいぃー?」
「いいわよっ」
禁煙なのに、タバコを出そうとして由紀夫に目で止められた、そこに携帯がなる。
「はいっ!」
『あ、社長!』
「あぁ。何、なんか解ったの?」
『そ、それなんですけどっ!なんか、やばいかもしれないです!』

野長瀬の電話を受けて、由紀夫たちは事務所に戻る。
こっちでは、野長瀬と正広が田村に調査を依頼していて、こっちもさっき戻ったところだという。
「またねぇ、なんか、なお一層不気味なんですよぉ〜」
「んな事はどーだっていいわよ。ひろちゃん、どういう事?」
「あの、また、これ警察情報なんですけど…。行方不明になった女性は山野美智子さんって言って、証券会社のOLさんなんです」
「証券会社?」
「はい。それで、証券会社って、結構今、あちこちで問題が出てるでしょう?」
「うん」
「それで、このOLさん…。何かの書類を持って、逃げてる、かもしれないんです」
「かも?」
メモを見ながらの正広の話に、由紀夫が聞き返す。
「かも。なんでかっていうと、自分で姿を消したのか、消されたのか、解らないからだって。会社は、会社で探してるみたいだし、家族はそんなの関係ないから探すでしょう?」
「だ、だからぁ、朔原さんは、少なくとも会社より先に、彼女を見つけたいんです」
「はぁー…。証拠付き、かもしれないんだ」
「会社側は黙ってますからねぇ。でも、内偵中の会社らしいんでね」

そのOLを、千明が最後に見ている。
「…自分で姿を消したんじゃないかなぁ」
「そうだよなぁ」
正広の言葉に由紀夫が同意した。
「ノンキにチョコレート買ってるくらいだから、会社にどうこうされた訳じゃないだろう?」
「でも、逃げてる女の子がチョコレートなんて買う?」
メンバー一同の中でいえば、もっとも普通の女の子に近い典子は、周囲からの視線を感じて顔を上げた。
「買う?逃げてる時に」
「え…。逃げてる時ですかぁー…?あのー…、まぁ、自分が犯人だったら、どっか遠くに逃げると思いますけど、好きな相手もいるんだったら、買うくらいするかもしれないですねぇ。バレンタイン前のチョコレート売り場くらい、女の子が姿をくらますのにいい場所ないでしょ」
そう言って、典子は油断するとすぐ貯まる、請求書だの、領収書だのの発行をせっせと続けるが、一同は心の底から納得した。
女の子が一人で銀座のデパートにいても、誰もなんとも思わない。下手に田舎に逃げるより、ずっといい。
「じゃあ、都内だ…」
「しかも、かなりの都心?」

「そうね!」
挨拶もなく、ずかずかと朔原が入ってきた。
「由紀夫、あんたに仕事頼みたいんだけど」
「え?」
「山野美智子が持ってる書類。あたしに届けて」
「はぁっ!?」
「ちょっと待ちなさいよ!それ、相当高いわよぉっ!?」
「こっちで下手に捜査費用使うより、そっち使った方が早いって判断なのよ」
進まない捜査にイライラした風に朔原はいい、さんざん八つ当たりされたらしい筑波がぺこぺこ頭を下げる。
「あんたんとこ、例の犯罪マニアがいるんだから、こっちの情報は筒抜けよねぇ」
「あら、なんの事かしら」
田村のやってることは、十分違法なため、奈緒美がシラは切る。
「今、あちこちの企業で、贈収賄について調べてんのよ。そんな中、事情を知ってる人間が殺された、なんてことになったら、他の証言者がびびっちゃうの!急ぐのよ!とにかく!」

むぅ…、と朔原を睨んだ奈緒美は、ちょいちょい、と正広を手招きする。
「どうする?マネージャー」
「えと」
敏腕マネージャーは首を傾げ、担当タレント、じゃなくて、担当届け屋を見つめる。
あーあ、と由紀夫は宙を仰ぐ。そんなの無理だって思うのに、引き受けざるを得ない状況。
「じゃあ、お引き受けします。一応、書類…?」
「そうね。とりあえず書いてもらって。料金踏み倒されたんじゃたまったもんじゃないから」
「そぉんな事はしないわよぉー」
にっこり笑い合うと、おばちゃん同士のばかしあい。関わりたくない、と心の底から由紀夫は思う。

「じゃあ、これ!由紀夫!とにかく急いでね!」
契約書を正広に渡しながら朔原に言われた。
「警察が見つけらんねーもん、俺に頼むなっつーの!」
「はい、これ、書類一式。住所、学校、自宅、履歴書などなど」
「全く…」
ごく若い、都会的なOLの写真を横目に、由紀夫は、書類の内容を頭に入れ始めた。

<つづく>

朔原令子、ガン克服記念(笑)いたんか、いたんです特集なんです(笑)なんやそれ!!筑波も好きでした…。朔原がバツ1とかって設定、あったと思うんですが、解らなくなっちゃいました…。私ってそんなヤツ…。

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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