天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第16話中編『チョコレートを届ける』

めっちゃ短い前回までの話。

「千明が助けたOLが、もしかしたら、巨悪を倒す一撃になる、かもしれない、ということが解った。そのOLは、自分で逃げた、のかもしれないし、誰かに消された、のかもしれないが、とにかく、彼女が持っている、かもしれない書類、とかそう言ったもの、を、自分に届けるよう、由紀夫は朔原から依頼された」訳の解らんあらすじですまん。

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「兄ちゃん、俺、手伝えること、ある?」
「えーっと…」
どうするかなぁー…、と頭の中であれこれシミュレーションしている由紀夫は首を捻る。
「会社に顔だすのはまずいだろうから…。社員名簿あったよなぁ」
「はい、これ」
「解るかどうかあれだけど、これで、山野美智子と同じ課のOL調べてみてくれるか?」
「由紀夫は?」
奈緒美に尋ねられ、髪をまとめながら答える。
「マンションまで行ってみる。千明、おまえもこい」
「えっ!デートぉっ?」
「バァーカ、鍵開けられるんだろぉ?」
「開けられるっ!んっと、開けられたら、何、くれるぅ?」
「ペロペロキャンディでも買ってやるよ」
ほら!と猫の子のようにワンピースの襟首をつかまれ、千明はずるずると引きずられ、事務所から姿を消した。

残された正広と野長瀬は社員名簿をめくって、山野美智子の名前を探し出し、同じ課の人間を探し始める。

「まぁまぁ、こんなもんだろうなぁ」
山野美智子のマンションを見上げ、由紀夫は言った。
「どゆこと?」
「一人暮らしのOLが都内で住むマンションにしたら、妥当な線だろ」
ごくごく当たり前の6階建てのワンルームマンション。
「だからぁ?」
「どこかから、特別な金を貰ってたりはしてないんじゃねぇの?」
「そっかぁ」
彼女の事は、名前と顔しか解らない。ましてワンルームマンションじゃあ、近所との付き合いはなかったに等しいはずで…。

「おまえ、開けられるか?」
「うん。多分」
4階の彼女の部屋の前で聞いた時、千明はピンを取り出して、にこっと笑った。

「おまえさぁ、もう、空き巣で生計たてたら?」
本当にすぐに鍵を開けてしまった千明に言いながら、由紀夫は部屋に入る。狭いながらも、女性らしい整った部屋はカーテンが引かれ、シンと静かだった。明るいのは、留守電のメッセージボタンくらい。
「随分綺麗にしてるな」
「そだねぇ」
不思議そうに千明は辺りを見回した。
「どーせおまえの部屋はぐちゃぐちゃだろ」
「ここよりはねぇー」
ケラケラ笑いながら部屋に入ろうとした時、由紀夫の携帯がなった。
「はい」
『兄ちゃんっ今どこぉ?』
「え?部屋。入ったとこ」
『早く出て!』
「な、何が?」
『警察がそっち向かってるの!』
「えっ?」
『もう一度調べなきゃいけないことが出たんだって!朔原さん、だと思うんだけど、入ってるのが他の警察にバレたら!』
「あんのババァーッ!」
今、まさに床に素足を下ろそうとしていた千明の首を引っつかむ。
「おまえ補導歴あるかっ?」
「えぇー…?そりゃ、ある、けどぉー…」
どうしようかと一瞬思った由紀夫は、確実にドアノブに残ってる二人の指紋を、グッチのスーツで拭き取った。
「いいの…?」
「もし、俺ら意外に入り込んでるヤツがいたって、指紋なんか残してねぇよ。今時子供だって知ってるって」
スーツの裾でつかんだノブを回し、室外のノブも拭う。
「行くなら行くで、先に言えっつんだよ…」
ブツブツ言いながら、二人がマンションを出て自転車で戻り出した時、パトカー2台とすれ違った。目を合わせることはしなかったが、そのうちの1台に、朔原令子が乗っていた。

「前にも調べたんだろ?」
「調べたんだよ。えぇっとね」
事務所に戻った由紀夫が正広に尋ねる。
「したんだけど、おかしな事があって」
自分で書いたメモを見ながら、正広は返事をした。
「え?」
「留守番電話なんだって」
「留守番電話?」
チカチカと点滅していたランプを思い出す。
「あのね、美智子さんがいなくなったって解るより前、実家のお母さんが何度も電話してるんだって。それで、お母さんは、必ずメッセージを残しててたの。でも、元気にしてる?とか、そういう程度だから、返事がなくっても気にしてなかったんだけど、ある日、録音できなくなったんだよ」
「…一杯になったってことか?」
「そう。メッセージが一杯になって、それ以上録音ができなくなった。それで、家に帰ってないってのが解ったの」
「でも、留守電にメッセージ、入ってたぞ…?」
なぁ、と、千明を見ると、コクコク千明もうなずく。
「入ってたよぉ」
「ね?おかしいでしょ?お母さんが、もしかしたらと思って電話してみたらそうだったんだって。ってことは、誰かが一杯になったメッセージを削除して」
「セットしなおした」
「そう」

なるほど、と、由紀夫は納得した。
「山野美智子が帰ってきたのか、それ以外のヤツが入り込んで、留守電をセットしたのか。それを調べに来たわけか」
「そんなの、解るのぉ?」
千明が首を傾げる。
「解るだろ。玄関のドアノブは俺が拭いちまったから、しょうがないとして、山野美智子だったら、その辺に本人の指紋はべたべた残ってるだろうし、すくなくとも電話にはあるはずだろ?それ以外のヤツだったら、あちこちが随分綺麗になってるんじゃねぇか?山野美智子の指紋だけ残して、なんて無理だろうし…」
「あ!あんた!野長瀬っ!あんた朔原に電話しなさい!」
黙って報告を聞いていた奈緒美が声を上げた。
「は?はぁ…、な、何の用で」
「バカねぇ!ドアノブよ、ドアノブ!拭いちゃってんだから、それは違うって言っとかなきゃ」
「あ!そうですねっ!」

「何だ、やっぱりそうだったの」
例によって案内もなく朔原が入って来た。
「鑑識は、おろおろしてたけど、ま、それはいいわ」
「どうだったのよ、朔原」
ソファに深く腰掛け、足を組んで朔原はタバコに火をつける。
「結論から言えば、山野美智子の指紋は残ってたわ」
「じゃあ、本人が帰ってきたんだ。…生きてるし、どこかに捕まってる訳じゃない」
「そっか!じゃあ!…どゆこと…?」
「あんたが、正解」
首を傾げた千明を、朔原が指差した。
「えっ?」
きょとんとあたしっ?と自分の顔を指差す千明。
「生きてるし、どこかに捕まってる訳じゃない。それだけよ、今、解ってるのは」

腰越人材派遣センターは重苦しい空気に包まれた。
「あ、あのっ!」
それを払拭するかのように千明が手を挙げる。
「はぁい」
奈緒美が呆れたように、爪磨きで差した。
「えっとぉ、警察の人が入ったって、事はぁ、タンスの中とかも、見たんですかぁ?」
「え?見たけど?」
「あのぉー…、あたしの、キティちゃんのハンカチって、ありましたぁ?」
「この378倍バカっ!!」(by 忍ペンまん丸)
由紀夫、奈緒美、朔原からトリプルサラウンドで怒鳴られ、気に入ってたのにぃー!と千明はうずくまって泣き真似をする。
「千明ちゃーん…」
一緒にうずくまった正広は、一応聞いてあげた。
「どんな、キティちゃん…?」
「超珍しいのよぉー、キティちゃんが、ボディコン着てるのぉー」
「そりゃバッタもんだ!バッタもん!」

怒鳴っておいて、由紀夫は朔原の前に座り込んだ。
「会社の方は?」
「表面上動きはなし」
「んー…」

「はいっ!」
「またあんたぁ!?」
「男だと思いますっ!」
いつもよりは早いテンポで千明が言った。
「男ぉ?」
「一人暮らしの女の子の部屋が、あぁんなに綺麗なのは、男だと思いますっ!」
普通、女の子の部屋は綺麗なもんだろうと由紀夫なんかは思ったが、千明はそのかなり個人的な見解を推し進めるつもりらしい。
「お!千明ちゃん、するどいっ!」
「ねっ、典子ちゃんもそう思うでしょっ!?」
「ってゆうか…。男はいるでしょう」
「何で?」
奈緒美が尋ねると、今日も真面目に事務処理をしていた典子があっさりと答えた。
「だって、バレンタインのチョコレート買いに行ってたんでしょ?」

「あ」
ふいに千明が立ち上がった。
「チョコレート」
「何だよ、おまえぇー、まだチョコ食いたぇってのかよぉ」
それじゃあ、と、野長瀬が秘蔵の「京のエスプリ(←知ってる人はそれなりのお年ね(笑))」を引き出しから取り出したが、そうではなかった。
「由紀夫にあげたチョコレート、あたしが買ったんじゃあないの」
「てめぇ!何よこしやがった!」
「だってぇ、由紀夫にはぁ、あたしが、あまぁい美味しいチョ・コ・レ・イ・ト!のはずだったんだもぉーん!だからぁ、買ってなかったのにぃ、帰ってからデパートの袋みたらぁ、見たことないチョコがぁ、入ってたのぉ」
「うわっ!万引きだ」
「万引きねぇ!」
「いやだ、奥さん、お聞きになりましてぇ?」
ニセ奥さんの野長瀬に引っ付いてこられ、正広は困り果てた笑みを浮かべる。
「ちがぁうの!」
千明はじたばたと地団太を踏む。
「あたしだったら、あんな、地味なのとらなぁーい!」

「…そういう問題なの?」
「あぁん、そじゃなくってぇ!」
「あれが山野美智子のかも知れない!?」
「そう!」
千明のヴァンプネイルの爪が由紀夫に向けられる。
「ちょ…!それが由紀夫のとこにあるって事!?」
朔原が身を乗り出した。
「それ、どこにあるの!」
「…捨てた」
「捨てたぁ!?」
「ひっどぉーいーっ!」
朔原と千明のダブルの叫び声が窓ガラスに響き震わせる。

「うるっせぇ!何食わされるか解ったもんじゃねぇじゃねぇかっ!」
耳を塞いで、由紀夫も負けずと怒鳴り返した。
「えーっ!ひろちゃんは食べてくれたでしょーっ!?」
「捨てさせたっ!」
「いっくらお兄ちゃんだからってやっていい事と悪い事あるわよぉー!だって、ひろちゃんわぁ、あたしのチョコ食べたかったはずなんだからぁっ!」
右からねぇ!と言われ、左からんな訳あるかっ!とも言われ、あわあわする正広。

しかし、彼があわあわしている間にも、事態は大きなことになりそうだった。チョコレートを捨てたのがいつで、ごみの収集場所、集収日は、そもそも中味くらい見ろ、指紋はどうした。なんだ、かんだ、あーだ、こーだ。
「あ、あの…」
「大体なぁ!おまえが鍵まで開けて部屋に入ってくんのが悪ぃんだろ!?俺ぁ、寝起き機嫌悪ぃんだよっ!」
「じゃあ、夜の方がいいのぉーっ!?」
「あのー!」
「だから来んなっつってんだろー!」
「あぁーっ!のぉーっ!!!」

渾身の力を込めて正広は叫び、うっ、と心臓を押さえて、ソファにうずくまった。
「正広ぉ!!」
「む、胸が…!」
「キャーっ!ひろちゃーんっ!!」
「ひろちゃん!こっち!こっちで横にっ!」
「びょ、病院!典子!森先生呼んでっ!」
「はいぃっ!」
事情が解らず呆然としてる朔原と筑波を置いて、一時事務所は騒然となったが、由紀夫に支えられてる正広が、よろよろと手を挙げた。
「だ…、大丈夫、でぇ〜すぅ〜…」
「んな…」
「だ、大丈夫。兄ちゃん、ホントに、平気だから」

「よかったぁー…」
脱力した千明がぺたんと床に座り込む。
毒気が抜かれたように、それぞれが脱力し、何か、すべてが終わったような気がした時、ハ!っと正広が顔を上げた。
「そうじゃなくって!」
「何がっ!」
自分の肩を抱くようにして支えて顔を覗き込んでいる兄に、正広は言った。
「チョコレートまだあんの!」

「やっぱりひろちゃんは違うわねぇー」
急遽早坂家に場所が移動され、感心したように奈緒美が言う。
「ホントっ!由紀夫ってば、なぁんでそんなに冷たぁいのぉ〜?」
ブー!と膨れながら、でも、そぉんな由紀夫がス・キ♪と抱き着こうとした千明の額は力いっぱい押し返された。
「なぁんで捨てなかったんだよぉ…」
クロゼットの奥をごそごそさせてる正広は、由紀夫に文句をつけられて小さくなる。
「だって…。ほら、千明ちゃんにしてはシンプルなパッケージだったから…。だから、本命チョコなんじゃないかなぁ…って思って」
ウルウルっ…!千明の瞳が潤み、正広の背中から抱き着いた。
「ひろちゃんっ!ひろちゃんったら、なぁんて可愛いのーっ!」
「どけ」
襟首どころか、頭頂部をわしづかみにして千明を引き剥がした由紀夫は、シッシッと猫にでもやるように追い払う。

「あった!ほら」
朔原から渡された白手袋をして、取り出した二つのチョコを顔の前にあげる正広。
「こっちが俺ので、こっちが兄ちゃんの。ほら、やっぱりこれって本命チョコっぽいでしょ?」
「そぉねぇ…。ちょっと地味だけど、上品といえないことはないか」
「…開けて、みるか…?」
こっちも白手袋をさせられてる由紀夫が、そっと取り上げた。

<つづく>

前回、朔原令子、ガン克服記念!と書いたら、赤い怪獣よりそういう設定でしたっけ、と聞かれた。いやいや、倍賞美津子が、だから(笑)さらに、前回、千明が由紀夫たちの部屋の鍵をナチュラルに開けてますけども、えっとぉ、そーいやぁ、あそこにはチェーンもあったんでした(笑)最近来てなかったから油断してたって事で…、一つ(笑)

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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