天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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ギフト番外編182話プチ後編『新入社員の忘れ物を届ける』

 

<これまでのお話>

新入社員田中孝は、本社へ届けなければいけない書類を、まんまと経由駅に忘れてしまった。
取りに戻ればいいようなものだが、一度その駅まで戻ればいいようなものだったが、それだと本社に行く時間がかなり遅くなってしまうのだ。
しかし、所詮田中孝は新入社員。彼が到着するのに遅れたって、書類が届く方がずっといい!・・・と、思う・・・。
そうして会社へ電話しようとしたところで、早坂由紀夫担当課長だという溝口正広から声をかけられた。

「届け物でしたら、うちの早坂にお任せください」

その少年はもう一度そう言った。
「は、はぁ・・・」
都会は怖いところだ、とちょっと地方から出てきている田中孝は思っている。
ここで、はい、と言えば、何かとんでもないことが起こるんじゃあないだろうか・・・!とビクビクしてしまうのだ。
「いや、あの。取りにいけますし」
「時間がないんじゃあないですか?」
「あ、まぁ、そうなんですが・・・」
にこっと溝口正広は笑い、これを、とパンフレットを差し出してくる。腰越人材派遣センターとなんだかかっちょよく作られたパンフレットだ。
「人材派遣ですか・・・」
まさかヘッドハンティング!?
人間慌てるとどんどん思考が乱れていくらしい。
「はい。人材派遣もそうなんですが、こちらが早坂由紀夫です」
ぺらり、とめくられたページに、えっらい男前が映っていた。
「届けるのは、この早坂です」
「こんな男前が宅急便ですか?」
「届け屋ですね」
「・・・届け屋」
「近場は自転車で颯爽です。手前味噌ですが」
「あぁ。あのー、自転車便ですね」
「解りやすく言うとそうですが、早坂は自転車以外も使います。今回だと、電車と車を併用するような形で荷物を持ってくるはずです」
「・・・あ、そうか」
宅急便なら車、パイク便ならバイク、自転車便なら自転車。今回みたいに、電車の駅に荷物を忘れたという場合に持ってきてくれる、というタイプの仕事じゃあない。
「でも、早坂由紀夫なら、大丈夫です。どうします?」

田中孝は、こくん、とうなずいていた。
こんな男前が目の前に現れるのか?と思うと楽しくなってきた。

「はい。なんだ正広」
『溝口です』
「解ってるよ」
『今、電車の中なので手短に言います』
「は?」
正広はてきぱきとした口調で、由紀夫に指示をしてきた。
「え?は?正広?」
『ではよろしくお願いします。×△駅で待ってます』
「あっ!こら!」
この時由紀夫は、微妙な田舎にいた。もちろん、由紀夫がその日どこに行くかは早坂由紀夫担当課長の正広が知っている。
「・・・無駄のないルートだとは思うけど・・・」
その微妙な田舎から、事務所に帰るルートに田中孝が書類を忘れた駅も、二人が向かっているという駅もある。
「しかし、なんだよ、その忘れ物は・・・」
ぶつぶつつぶやきながら、由紀夫は駅へ向かうためのタクシーを拾うべく片手を挙げた。

「すみません!忘れ物したんですけど、届いてませんか?」
指定された駅で由紀夫は駅員に尋ねる。
「はぁ、いつですか?」
「今日なんですけどー。えーっと、四時ぐらいに」
「そうですねー」
駅員は親切だった。届いている忘れ物をチェックし、間違いなく届けられていることが判明した。
「どうもすみません」
「いえいえ。はい、じゃあこちらに記入を」
「はい」
こうして、まず由紀夫は届けるべきものを手にすることができたのだった。

後は、正広と依頼人が待っているという駅に向かえばいいだけだが。
「・・・時間かかるな」
電車の本数があまりない駅で、このまま漫然と待っていたのでは時間がかかりそうだった。別の路線を使えばもう少し早い。でも、駅と駅の間は、乗り換えとはいえない距離があった。
「それじゃっと」
いい気候になった。夕方の涼しい風が頬に心地よい日だ。
「走りますか」
今日は自転車にも乗っていなかった由紀夫は、運動がてら気軽に走り出す。駅と駅の間は約2km。由紀夫にとっては楽勝ペースの距離だった。

「お待たせしました」
「えっ!どっから来たのっ!?」
きりっ!と仕事モードの顔で、改札を見つめていた正広は、なぜか後ろから現れた兄を見て、普段通りの正広になってしまった。
「え。西×△駅から」
「えっ!?それって遠くない?」
「いや?1kmくらいじゃね?こっちの方が早いし」
「あ、あの・・・」
正広と同じく、じっと改札を見ていた田中孝も驚いていた。写真でも男前だったが、目の前に現れた早坂由紀夫は、長い髪がやや乱れ、頬は赤く、やけに色っぽい。
「あ、早坂です。田中さん」
「あの、すみません。わざわざ」
「いえ、仕事ですから」
ニコ、と微笑まれ、なんだかドキドキする田中だ。
「もしかして、走ってこられたんです、か?」
「仕事で使う書類ならお急ぎだろうと思いまして」
「ほすぴたりちー。それが早坂由紀夫のモットーです」
えっへん!と胸を張った正広は。
「えっ!?走ったの!?1km!?」
と、ふと我に返って尋ねたりもした。

「じゃあ、こちら」
田中孝は、由紀夫から渡されたものを両手で受け取り。
「・・・あの」
と少し戸惑った。
だって。
自分は、忘れ物の書類を届けてもらったのだ。そりゃあ、彼にしてみれば仕事だろう。その料金はちゃんと支払う。
・・・そう考えると、自分は彼にとってはお客さんにはなるだろう。どうなんだろう。初回利用時は割引とかあるけど、そういうことなのかなぁ???
「これは〜・・・」
封筒に入った書類の上に、ぽん、と、ケーキの箱みたいなものが置かれていた。
「あっ、田中さん、すみません。それは、当社のものでして。申し訳ありません」
正広は、にっこり笑って、そのケーキの箱みたいなものを自分の腕の中に抱え込む。
「・・・・・・・正広?」
「そうだ、田中さん、急がないと!後日請求書お送りしますので!」
「あ!そうだ!すみません!ちょっとの遅刻ですみそうです!ありがとうございます!」
田中孝は大きくお辞儀をして、駅を飛び出していった。嬉しそうだった。

「いやー・・・・。やっぱり違うな、早坂由紀夫。いい仕事するなー」
担当課長の正広も満足だったが。
「請求書はお前に回す」
低い声で由紀夫に言われた。
「え!」
なんてことを言うの!と、兄を睨んだ正広は。

チョップ!!

と、頭頂部に手刀を受けた。

「何おまえは無理やり客を作ってまで自分の忘れものを届けさせてんだ!!」
「だって!!また戻るの面倒だったんだもん!!美味しいんだからここのプリン!!」
「理由になってねぇーだろそれ!!大体、プリン6個とか確認させられたんだぞ、俺は!」
「立ってるもんは親でも使えってゆーじゃんかー!兄ちゃん、どうせあの駅通るんだからいいじゃんかーー!!」
「俺は別の駅からここに来てんだよ!!」

「あ」

そんな訳で、正広はこのままでは泣き喚く!とDVかと近所が疑うほど泣き喚く!!と家で騒ぎ、どうにかこうにか美味しいプリンはどうにかこうにか食べさせてもらったものの。
通常料金より2割り増しの料金請求をされてしまったのだった。


電車で忘れ物したことがあります。すぐに見つかりましたが、本人のものかを確認するため、中身を聞かれました。
「気分へ形而上(うああ)」というマンガが入っています、とゆったのは恥ずかしかったなーー。形而上のところに、うああ、ってルビがふってあるんだなーー。それも説明しましたよ。へ・・・っ。

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!

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