天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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ギフト番外編184話プチ後編『伝説に挑戦したい』

 

<これまでのお話>

なにか『伝説』に挑戦したい、と正広は思っていた。
何か一つのものを食べ続けるとか。
一ヶ月を1万円で生活するとか。
で、正広は家計簿まで買って、予算だてをして、どうにかできるかも!と思ったものの、兄に節約生活を拒否られてしまったのだ・・・!
おぉ!悲劇のヒーロー正広!どうなるのか正広ー!

「兄ちゃん、大変だねぇ」
「いや、移動が多いだけで、そんなに大変って訳でもねーんだけど」
由紀夫が出張することになり、正広はその日程にため息をつく。
「だって、日本全国津々浦々じゃん」
「あー、でも微妙だろ」
東京から書類をもって出発。新潟県で、書類を渡して、次の書類をもらい、今度は、愛知県へ。ここでは、書類と、ちょっとした荷物を受け取り、宮崎へGO。
「何その仕事」
「おまえが受けたんだろうが!」
「だってさぁ、奈緒美さんのさぁ、なんかすごいお友達ってゆーか」
「お得意さんだろ」
「そーなんだってぇ。何食べてくるの?」
「・・・受け取って移動、受け取って移動。1泊くらいはするんじゃねぇの?」
「うそん。そんなはずないよ。あ、ほら。これ日程表」
「・・・に、日程表?」
明日から出発、という夜。自宅でそんなものを渡されて、由紀夫は目をぱちくりさせた。可愛らしかった。
「そーゆーもんは先に渡せ!って・・・」
しかし、実際にその日程表を見た由紀夫は、もっともっと目をぱちくりさせて、より可愛らしかったのだ。
「なんでこんなに泊まりが・・・?温泉まで・・・?」
「・・・兄ちゃんね、一人で寂しいと思うけど・・・。それも、仕事だから・・・」
「えっ!?」
由紀夫は、ぱっ!と両手で口を押さえ、ソファに横すわりになる。
「そ、そんな接待!?お座敷の奥には赤いお布団!?」
「ぎゃーーー!!!兄ちゃん、何接待ーーーーー!!!」

実際には、奈緒美が今後泊まりたい宿をピックアップしてあり、よくよく見てくるのが仕事の一環なのだった。

「バカなのか!?あいつは本物のバカやろ様なのか!?」

こうして由紀夫は、届け物がメインなのか、宿視察がメインなのかわからない旅に出ていった。日程は五泊六日。
『身軽でいいわよ♪着替えなんかはそれぞれの宿に送っとくから♪』
そんな言葉を受け、斜めがけバック一つで由紀夫は旅立ち、正広は、ちぇーーっと思いながら六日間の一人暮らしを始めることとなった。

「て、ことわぁ」
そう。もちろん伝説に挑戦ができるのだ。
「1週間5000円生活!くらいならできんじゃないのかな。どうだろ・・・やってみたいかもー!」
由紀夫が出かけたのが月曜の後、会社に向かいながら正広はそんなことを考えていた。が、でかけていった会社では、大変なことがおきていた。

「おはよーございまーー・・・!?こ、これ・・・?」
「あっ、ひろちゃん!」
「こ、これどしたんですか!?」
野長瀬が小走りに駆け寄ってくる。
「社長のご実家からなんです・・・!」
「な、奈緒美さん!」
「だからぁ!あんた、何考えてんのぉ〜!」
その奈緒美は電話に向かって怒鳴りちらしていた。
「は!?出来すぎた!?出来すぎたって、どんぐらいできるかなんか、植えるときにわかるでしょお!無駄にしたら承知せんて!ちょと!あんた!お母ちゃん!!」
がっちゃん!!と乱暴に受話器を叩きつけ、奈緒美は頭を抱える。
「信じられない!!何この量!このでかさ!!」
「果物屋さんでも見たことないです・・・、こんな量の、スイカ・・・」
腰越人材派遣センターは、スイカに侵食されていた。
「社長・・・、これどうします・・・?」
家の冷蔵庫には、丸まま1個のスイカははいらないだろうなーと思っている典子が尋ね、奈緒美の目は据わった。
「ひろちゃん」
「は、はいっ」
「挑戦しましょう」
「え・・・?」
「伝説に挑戦しましょう」
「な、奈緒美さん、ま、まさか・・・!」
「大量のスイカ、すべて食べきる伝説!ばーい!腰越人材派遣センター一同!」
「兄ちゃんずるーーい!!」

こうして、新たな伝説が始まった。
奈緒美、野長瀬、正広、典子の4人で、このスイカをすべて食べきるのだ。スイカ以外の食材は、ゴハンのみ可とする。
「なんで、そんな過酷なんですか!」
「バカね!スイカ食べるまで他にはなしよりマシでしょ!さすがに死ぬわよ、スイカだけじゃあ」
「だって、おなかたぷたぷになっちゃいますよぉ!」
「モデルは1日2リットルの水を飲むっていうわ。スイカをそれだけ食べたらすごい水分とれてお肌うるうるになるんじゃないの?」
「・・・そうなんですかぁ・・・?」
「利尿作用があるって聞いたことあるから、食べても食べても、すぐに水分欲しくなるんじゃないかしらねぇ」
「あの、あのっ!」
正広が手を上げる。
「ごはんにふりかけはありですか!?」
必至の形相だ。
ふっ、と奈緒美は笑った。
「つけものをつけましょう」
「あ・・・」
ぱぁっと正広の顔は輝きかけた、のだが・・・。
「スイカの皮のね!!」
「なんでなんですか!しゃちょーーーー!!!」
腰越奈緒美、中途半端が嫌いな女だった。

「それにさぁ、ゆってもうちのおかあちゃんが作ったスイカな訳よ。食べてあげたいじゃない」
「いい話ですけどぉ・・・」
まずはスイカを、どんどん冷やさねばと冷蔵庫やら、ユニットバスやらにつけていった。
「塩いりますよね」
典子は、キッチンのストックを探る。
「スイカには砂糖をかける地区もあるらしいけど」
「え、そーなんですか!?」
「トマトにも砂糖とかあるんですよ、ひろちゃん」
「トマトに砂糖・・・。僕は塩がいいなぁ」
「ちょっと、あんたたちー!」
ノンキに喋っていると、奈緒美に手を叩かれた。
「行っとくけど、これ食べきるまで、ここで暮らしてもらうからね」
「・・・は!?」
3人は硬直する。
「当たり前じゃん!これだけの量あるのよ!?他のもの食べてる場合じゃないでしょ!?そのためには、ここでお互いに見張ってるのが一番なのよ・・・!」
「社長、そんなぁ・・・」
「お風呂は、スイカを引き上げて入ればいいし」
「スイカと共に暮らすんですか!?あぁ・・・!でも、うちにはトモコ(ミニウサギ大)が!」
「うちにだってしーちゃんがいます!」
「ペットは連れてきなさい!エサにしましょ♪」
「ウサギはあんまり水分多いものはダメだったんじゃあ・・・」
「いいから!はい!これからすぐ家に荷物とりにいってすぐ戻ってくる!途中で余計なもん食べたら承知しないわよ!典子!」
「はいっ!」
「あんたの机の中のお菓子を出しなさい!」
「お菓子が入ってるのはあたしの机だけじゃありません!」
「みんなだして!金庫にしまって!」
「き、金庫!?」
「な、奈緒美さぁん、そこまでしなくってもぉ・・・」
「あのね、ひろちゃん」
いっそ哀しいほど透明な目で、奈緒美は正広を見つめた。
「そうまでしないと・・・。私が、自分を抑えられないの・・・」
「奈緒美さん・・・!」

「正広・・・?」
そうして、およそ六日の後、由紀夫はおそるおそる事務所に足を踏み入れた。
家に電話をしても正広は出ず、PHSに電話をすると、ただ、事務所にいる、とだけ言われたからだ。
夏バテか?と思うほどにか細い声だった。
そして、ドアを開けたときから、なんだか様子はおかしかった。
「あ、にーちゃーーん」
「なんだ?この匂い・・・」
「お帰り、由紀夫ー」
事務所のメンバーたちは、なんだか、とても、穏やかな顔をしていた。
「お疲れだったわねぇ」
声も落ち着いており、動きも滑らか。
が。
「・・・あれ?なんか、透けて見えるような・・・?」
存在が薄くなってしまっているような気がした。
「何したんだ?で、この匂い・・・・・・・・。なんだ、このカブトムシみたいな・・・」

「カブトムシ!!」
四人は大声を上げた。
「カブトムシ連れてくれば食べてくれたんじゃないの!?勝手に!」
「そうですよ社長!」
「由紀夫!かぶとむしよ!かぶとむし!連れてきなさい大量に!」
「いや、何ゆってんだ!!」
「だって、後1玉なのよ!!でももう無理なのよぉぉーーー!!!」

伝説の最後は、腰越人材派遣センターのエースが投入された。
エース早坂由紀夫は、丸々1個のスイカに、スプーン1つで立ち向かい。
「か、完食・・・!」
「兄ちゃん、すごい・・・!」
「あー、さっぱりしたもん食いたかったんだぁ〜、俺。もーさー、温泉とか泊まらされると、もー、出てくるもんが濃い濃い。勘弁してくれって感じ」
「でも、これで・・・!」
奈緒美の目に光るものは、それは確かに涙だった。
美しい輝きを放つ、涙だった。
「完食ね・・・!」
「奈緒美さん・・・!」
「ひろちゃん!!」
「社長!」
「社長ーー!!」
抱き合っておいおい喜ぶ4人。あー、腹いっぱい、な由紀夫。

そして正広はおいおい泣きながら、絶対今晩は焼肉!!でも冷麺に乗ってるスイカは死んでも食べない!!と固く心に誓った。


スイカ1個をまるごと食べる、というのはすべての小学生の憧れではないでしょうか。
私もお友達3人と挑戦したことがあります。10分の1も食べれたもんじゃありませんね!

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!

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