天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?
『Gift番外編』
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ギフトプチ番外編185話『強制的に夏がきた』
クールビズ、なのだ。
チーム6%なるものがあるのだ。
温室効果ガスを6%削減するために、色んな人が、色んなことをしようとしているのだ。
「だからってさー、暑いものは暑いじゃない?」
自分ひとりくらいなら、と思わない、のが、こういった運動の基本だが、腰越奈緒美は暑さにガマンする気はさらさらないのだった。
「そうですよー、仕事してるときくらい涼しくいたいじゃないですかぁ〜」
とは言え、女性上位な職場なので、寒くてひざ掛けを使わないといけないほどでもない。平均冷房温度は25度程度。28度が理想だが、まぁまぁ許される範疇だろう。
許されないのは。
「やっぱし、これじゃなーい!?」
溝口正広のやり口だった。
正広の夏の楽しみは、ガンガンに部屋を冷やし、さむーい!と言いながらあったかい鍋焼きうどんを食べることだったのだ。
あろうことか、室温18度。
正広は、あえて毛布でぐるぐる巻きになりながら、キッチンで鍋焼きうどんを作っている。
「火には気をつけなくっちゃねぇ〜〜」
毛布にくるまってる俺って可愛い?とか思いながら、くつくつ煮えている土鍋を見つめている。
「ま、別に誰に見せる訳でもないんだけど〜」
そう。今、正広は家に一人だった。さすがにこんなことをしたら兄にまた怒鳴られるのは解っている。
由紀夫の帰りが遅いのを見越してのご乱行なのだ。由紀夫も、冬場にコタツでアイスっていうのは進んで参加してくれるが、夏場の鍋焼きうどんはイマイチらしい。
(ていうか、由紀夫はこの室温に対して怒るのだが)
(むしろ由紀夫は、暑い中で、汗だらだら流しながら暑いものを食べる方が楽しいと思っているのだが)
「おーー、いい感じ〜」
くつくつと鍋焼きうどんが出来上がり、正広はこたつまで土鍋を運ぶ。
こたつ。
そう。
『これ』をやるために、正広はこともあろうにこたつを引っ張り出してきていた。こたつを引っ張り出し、もちろんあったかーく暖めてある。
うひょひょひょ♪
しやわせな笑顔で、まず一口。
「あつーい!」
ひんやりした体に、あつあつのうどんが入ってくる。
これ・・・!これ!夏の醍醐味!あえて夏にやるのが醍醐味!だって、冬は部屋の中あったかいもん!
その時。
ザー・・・
「あ、雨だ」
正広は、別に雨が嫌いではない。ただし、自分が室内にいる時に限り。
「・・・兄ちゃんはー・・・、奈緒美さんが、車出してくれるかな?」
だったらもう安心。
海老天を食べるか、かまぼこにするか、鍋焼きうどんにしっかり立ち向かおう。
が。
またその時。
トン・トン・・・
聞きなれない音がした。
「ん・・・?」
部屋の中で、何か音がしている。雨の音よりも、もっとはっきりと聞こえてくる音。
「なんだろ」
何かを叩いているような音がするが、部屋の中にいるのは正広だけ。
「え・・・?」
ちょっと、怖くなってきた。夏といえばホラーでもあるが、まさか楽しかるべき鍋焼きうどんタイムにそんなものが入り込んでくるなんて・・・!?
「え、え・・・」
きょろきょろと、音のする方を探る。
ど、どこだ・・・?どれ・・・?何・・・!?
トン・トン・・・という音は、はっきりと聞こえる。聞き落としようもないほどにはっきり聞こえている。どこに太鼓があるというのだ・・・。
そうして。
正広は、本当の恐怖を知る。
「く、くうらあ!!!」
その『水音』は、クーラーからしていた。
クーラーから水音・・・!
うそぉぉぉ!!
水漏れてる!?水漏れてない!?どこ!?どこっ!?毛布にくるまったままの正広は、血眼になってクーラーをにらみつけた。あっちもこっちも見た。音は、確かにクーラーからしているのだが、幸いにも水漏れはしていないようだ。
「で。でも・・・」
それはそれで怖い。
どうして、音がしているのか解らないのがまた怖い。
「あっ、リモコン、リモコン!!」
正広は急いでクーラーの電源を切る。
「えー!なんでー!?」
しかし、音はやまない。トン・トン・トン・・・、と、軽やかな音が続く。
「なんで!?なんでなんで!?」
クーラーのスイッチも切ってるのに、まだ音がする・・・!水が、たまっちゃってるの?エアコンの中に?ど、どーしよう!!
正広の脳裏で、今後起こるであろう出来事が、一瞬のうちに駆け巡った。
それらを端的にまとめると。
『兄に怒られる』
だ。
どどど、どうしよう、どうしよう!兄ちゃんが帰ってくるまでにこの水音がやまなかったらどうしよう!兄ちゃん、絶対何したんだ!って言うよね!きっと言うよね!?じゃ、なんて答える!?
『クーラーがんがんに効かせて鍋焼きうどん食べてました』
いかん!ぶっ飛ばされる!
と、ともかく、この水音をどうにか・・・!まずはクーラーの内部をチェックして・・・!えっとーーー!!!
「さむっ。何やってんだ正広ー?」
残念ながら、その瞬間、由紀夫は帰ってきてしまった。
冷え切っている部屋。
こたつの上の鍋焼きうどん。
トン・トン・・・と、どこから聞こえている水音。
毛布にくるまれ、クーラーにしがみついている正広。
正広の大きな目は、うるうると涙目になっていた。
「・・・に、兄ちゃん・・・」
「おまえ何やったーーーー!!!!」
早坂家にクーラー禁止令が出たのは、この事件が原因だったという。
「夏は暑くて当然だ!」
その夜、雨にもめげずに窓を開けると。
なぜか、その水音は消えたという。
「なんだったんだよ、あれ・・・」
悲惨な夏を迎えそうな正広は、涙目になりつつ首を傾げるのだった。
クーラーから水音がすると、ひやっとしますね。
ほんとにひやっとします・・・。私にはおまえだけが頼りだ、とエアコンの見つめ思うあたくしです・・・!でも、クーラーの温度は28度ですよ。えぇ。基本的に。
てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!