天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第17話前編『花束と手紙を届ける』

めっちゃ短い前回までの話。

「由紀夫が千明から貰ったチョコレートには、とんでもない秘密が潜んでいた。それが何かを知りたかったら、16話プロローグからもう1度読んでね(笑)」あらすじちゃうやんけーっ!!

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今日の由紀夫ちゃんのお仕事

その1.届け物「花束と手紙」届け先「村木由布子」

「兄ちゃん」
事務所のソファの上でスーツのまま長々と寝そべり、ポッキーなんぞをくわえながら雑誌を眺めている由紀夫に、正広は言った。
「そんな事、いくら弟でも、人に言う事じゃないと思ったら、そう言ってくれていいんだけど」
「あぁ?」
回りくどい言い方をされて、由紀夫は体を起こす。
腰越人材派遣センターには、今、男3人しかいなかった。奈緒美はエステ、典子は銀行、千明は、どこだか解らない。
「何?」
「あのね…」
ころころ椅子を転がして由紀夫の側まできた正広は、こそこそっと尋ねる。

野長瀬には、あまり聞かれたくなかった。野長瀬は、男らしく、さっぱりとしたいいヤツなのだが、精神のどこかが「おばちゃん」化している。社長の影響と言えなくもない。つまり、異常に物見高い。
「あの」
「だから、何」
「3月、14日の予定ってぇ…、どうなって、る?」
尋ねられた由紀夫は、何を聞いているんだ?という顔と気持ちでじっと正広を見つめた。
見つめられた正広は、焦ったように手を振って、
「そ、そうだよねぇ」
と帰ろうとした。その椅子をがしっとつかんで、由紀夫は聞いてみる。
「何曜日?」
「ど・土曜、日…」
「…じゃあ、会社休みだし、別になんもねぇんじゃねぇの?」
「だって、ホワイトデーだよっ?」
思わず出した大声に、ハっ!と口を押さえたが、珍しく真面目に仕事をしていた野長瀬は気付かなかったらしく、顔も上げなかった。

ホっとした正広は、もう一度小さく聞いて見る。
「ホワイト・デー、なんだよ…?約束とかぁ」
「ホワイトデーだぁ?何で休みの日まで、千明だの、奈緒美だのに会わなきゃいけねぇんだよ」
「あぁ、そぉ…?」
うーん、と正広は唸りながら、コロコロと机に戻り、じぃーっとその書類を眺め、もう一度戻ってくる。
「じゃあ、あのー…、し、仕事、する…?」
「悪いっ。3月14日は、10時から2時間置きに5人ほど、会う約束してたわっ」
「そーゆー妙にリアルな事言わないでよぉーっ!」

俺は自分の事をエコノミックアニマルを呼ぶぞ。
土曜日、楽しげな街を、指定された花屋に向かいながら由紀夫は思った。
あの日、正広が困惑しきった様子で、それでも由紀夫に相談したのは、腰越人材派遣センターのポストに、いきなり現金入りの封筒とともに入れられていた依頼についてだった。
3月14日、午前中に、都内某ホテルのフロントに花と手紙を届ける。届け先は、その日の午後チェックインする予定の、「村木由布子」
渡す手紙は依頼の文章と一緒に入っていて、花は日比谷花壇に、「早坂由紀夫」名で注文してあると言う。
もう、お金が入っちゃってるから…。
正広は訳解らない風に言ったけれど、由紀夫にはまぁ、大して面倒なこととも思えない。ホワイトデーだし、何かの演出じゃねぇの?軽く言って、軽く出て来て、そして大して気にせず、フラワーアレンジメントを受け取る。
その段階で、お、と思ったのは、アレンジメントに使われてる花が見た事もない花だったからだった。
白い、小さな花なんだが、よくよく見ると、その一つ一つが、ぴんと耳を伸ばした、小さなうさぎの形をしている。
こんな花があるんだぁ。
名の通ったホテルだからと、やっぱりグッチのスーツで、可愛らしいアレンジメントを持ってる由紀夫は、好むと好まざるに関わらず、随分と目立つ。
ピンと伸びた背筋、緩やかになびく長い髪、まっすぐな目線、10時過ぎのホテルのロビーにいる女性客の視線は、由紀夫一人に釘付けになった。

冷静な表情の下に、「うわ!こっち来る、来る来る来るっ!来たぁっ!!」という気持ちを押し隠した女性スタッフが、必死の作り笑顔で応対する。
「はい?」
「こちらにお泊まりの、村木由布子さんにお届け物です」
「村木様…」
感情のない瞳で、軽く頭を下げて手元の端末を操作しているスタッフを見ていた由紀夫は、聞き覚えのない声で名前を呼ばれた。
「早坂、さん?」
え?
振り返ると、背中を向けてただけに、遠慮なく浴びせられていたロビー中の視線が突き刺さって、ちょっとたじろぐ。
由紀夫に声をかけたのは、玄関ホールから入ってきたばかりの、明るいニットを着た20代前半の女性と、彼女に似てるから、多分妹なんだろうという中学生くらいの女の子。
視力のいい由紀夫は、さっと上から下まで二人ともに目をやって、結構美人じゃん?と思う。
「早坂さんじゃあ?」
もう一度言われ、由紀夫はうなずく。
確かに美人だな、とは思ったけれど、記憶にはなかった。少なくとも「早坂由紀夫」と呼ばれるようになってからは。
「村木です」
だから、そう言ってにっこりと笑われ、にっこり笑い返したものの、白くなった頭の中を立て直すのには少し時間がかかりそうだった。

「わぁ」
あからさまにがっかりした顔の女性スタッフたちのいるフロントから離れ、ロビーの中央にあるコーヒーショップで、そのうさぎの形になっている花を貰って、村木由布子と、その妹だという布美香は、嬉しそうに笑った。
「かぁわいい。ね、布美子」
「うん、可愛いぃー」
小学6年、この春から中学生だと言う布美子に嬉しそうに見上げられて、曖昧な笑顔を作った由紀夫は、とりあえず愛想よくうなずく。

自分を見て「早坂由紀夫」だと思うということは、自分の事を知っているというだけど、やっぱり、どこをどうつっついても、花を渡しても不自然じゃないほど親しい相手に、この顔はない。
「本当にせっかくのホワイトデーなのに、押しかけちゃってごめんなさい。待ちきれなくって、もう昨日から来てたんです。ね、布美子」
「うん」
「そうですか」
笑顔は愛想いいものの、由紀夫の言葉が短くなるのはどうしようもない。
「これ…、よろしいですか…?」
そっと見せられた封筒に、それを読めば事態が解るだろうと、どうぞ、と手で示して、後はもう運を点に任せる事にする。

由布子と布美子は、仲良く顔を寄せ合って、その手紙を読み、突然顔を曇らせた。
「大丈夫なんですかぁ?」
「え?」
「トモコちゃん」
「………」
実際には顔に感情が現われまくってしまう性格のため、日頃、ポーカーフェイスをするよう心がけていてよかったと思う。これまたトモコなんて知らない女の名前を出され、大丈夫かと聞かれても答えようがない。
しかたなく、由紀夫は困ったような笑顔で、小さくうなずいた。これで相手が適当に解釈してくれるだろう。
「あ、あの…」
まだいかにも子供子供した声で、布美子が言う。
「早く帰ってあげてください。トモコちゃんも、きっと、不安だと思うし」
「はぁ…」
「そうですよ、早川さん。ディズニーランドも、お台場も、いつでもいけますし、私たち二人でも行けますもの。いくら田舎モノでもそれくらいできますよ」
「そうですか…?」
なんだか解らないけど、このままこの場を離れちゃえば、とにもかくにも花と手紙は渡したんだし、最初から20万入ってた依頼には応えた事になるだろう。

すみません、と頭を下げて、立ち上がろうとした由紀夫に由布子は言った。
「お花、ありがとうございました。ホントにウサギがお好きなんですね」
由紀夫の動きが止まる。
「また、お手紙書かせていただきますね」

なぁるほど、ね。

急に、ピタピタっとパズルが組み上がった。
座り直した由紀夫は、村木姉妹に言った。
「よろしかったら、友達のうちに案内しますけど」

<つづく>

ちょい短めでございます。なんでかっつーと、1つにするには長かったから(笑)うさぎの形の花は、実際にあります。去年の母の日、だと思うんですが、通信販売のフェリシモが、母の日用の商品として販売してました!買いました!とっても可愛い!でも、今年はなかったから、名前が解らないーっ!!

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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