天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?
『Gift番外編』
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ギフトプチ番外編186話後編『お利口な弟がきた』
<これまでのお話>
おバカキャラとして、日々兄から折檻(←大げさ)を受けている溝口正広。しかし、いつもいつも殴られてたまるものか!と正広は思い立ち、1日(←みじかっ!)良い子で過ごしてみようとしてみた。
現在、半日が経過。正広はすっかりいい子なのだった。
「ええーっと」
マジメに仕事をしようとしてみると、仕事はいくらでもあるのだった。
腰越人材派遣センターの根底を流れる思想は、『明日できることは今日するな』だ。いやいや、そうはいっても、なかなかいい人材派遣会社らしいのだが、根底に流れる思想がそれであるために。
別に急ぎじゃないやーとなると、結構そのままになっていたりするものが多かった。
「もー、ひろちゃんが遊んでくれなくてつまんなーい!」
「おまえそれでも社長か!」
「だから由紀夫遊んでー」
「だからおまえはそれでも社長かっつってんだろ!」
そんな兄の声を聞きながら、うふふ、と正広は思う。怒られてる怒られてる。でも、今日は俺は怒られないもんねー。おバカじゃないもんねー♪
この用に他に怒られる人がいるっていう状況はいいのだった。
あれはやっちゃいけないなーってところがはっきりするので、そこに気をつければいい。
しかし定時で帰ろうとして、正広はふと緊張した。これから先は兄と二人。
気をつけるべきポイントは、夕食のセレクトだ、と思う。
食い意地の張った正広は、何食う?と聞かれた時に叱られる率が高い。相当高い。かなり高い。
「に、兄ちゃんっ」
「ん?」
ちゃり2台を並べて帰りながら正広は兄に声をかけた。
「兄ちゃん、今晩なに食べたいっ?」
だから、今日は兄に選んでもらおうと思った。つまりそれくらい、いつもいつもいつもいつも、正広は自分の好きなものを選んで来ているということなのだが。
「今日?いや、おまえは?」
「いや、今日は兄ちゃんが好きなの食べようよー」
「そーだなー・・・」
自転車をこぎながら、由紀夫はちらっと正広を見る。
「そば、かな。軽く」
「・・・そば」
正広は正直、ちょっとがっかりした。おそば、おそばかー・・・。軽すぎやしないかい?軽すぎや。
「きのこあんかけそばとか」
天ぷらもなし!?
「おととい奈緒美に渡されたじゃん、きのこ山盛り」
「あそっか。そっか」
そうだったねーー、あれ食べないとねーー、と良い子で言いながら、なんとヘルシーな・・・と正広は思う。
でも、でも、大丈夫!
心の中で正広は自分を励ました。
冷蔵庫の中は、お菓子で一杯だから!おなかすいたと思ったら、それ食べたらいいから!
大丈夫大丈夫!
パーティーサイズのアイスクリーム2リットル入りをパッケージごと食べるようなことさえしなければ怒られはしないから!あ、でもでも、チョコソースはかけたいなっ。
「正広?いいのか?そばで」
「えっ?あ、いいよいいよ!きのこ天ぷらそば!」
「あんかけ」
「あ、あんかけ。うん、あんかけ・・・」
ちらっと横を見た正広は、由紀夫が笑ったような気がして、ううんっ!と首を振った。
「うん!あんかけ!きのこ!美味しそうー!秋の味覚ー!」
良い子はそうでなくてはー!良い子は旬とかにも敏感でなくてはー!
そうして、その夜の早坂家の夕食は、食材提供オール腰越奈緒美の、きのこあんかけそば。これがメインディッシュで、後はいたわさ。ちょっとだけそば屋っぽく。
「美味しかったー!」
作ったのは兄由紀夫。
正広は大層満足していた。味的に満足していた。しかし残念ながら。あぁ、残念ながら・・・。
もう一杯いけてしまいます・・・!
「俺、洗うねーー」
食器を片付けてキッチンに入った正広は、すでに頭をアイスクリームで一杯にしている。食器もちょっとしかなくってよかったっと。さっさと洗って、アイスたーべよっと。パッケージごと食ったら怒られるから、でっかい器にうつしてー。あっ、ガラスはいけないな。中身が見えるから、チョコソースまみれになってるのがばれる。
ささっと食器棚に目をやった正広は、カフェオレボウルに目をつけた。
よし。あれだ。
うふふ。とほくそ笑みにながら、とっとと洗ってしまおうとがんばっていたところ。
「正広ー」
「あっ?」
「なんかスポーツ特番やってるぞー。原監督出てるけど」
「何ーー!!!!」
がっしゃーん!
幸い、割れはしなかった。しかし、シンクに食器を放りなげ、正広は濡れた手のままテレビの前にダッシュする。
「わー!ほんとだー!」
興奮して振った手から水滴が飛び散る。
その水滴が。
ぴちっっ!と由紀夫の顔にかかった。
「あ・・・っ」
「正広・・・」
「あ、ごめんごめん!」
「いや、いいけども」
由紀夫は立ち上がり、キッチンに向かう。
「洗っとくわー」
「ありがとっっ!」
この瞬間、正広の意識は、良い子から遠くにすっとんだ。ジャイアンツ関係の前では、ただでさえ理性がなくなりがちだ。
濡れたエプロンをしたまま、テレビの前に仁王立ちになってじっと画面を見つめる。
その正広の手に、ポン、と置かれたのはアイスクリーム入りカフェオレボウル、チョコソースがけ。チェリーも添えて。
「んっ?」
「デザート」
そう言い、由紀夫は正広の肩も持って、はいはいこちらですよー、とソファに誘導。
「あああ、ありがとありがと」
画面からは目を離さずに、ごそごそとソファにすわり、まぐまぐとアイスを食べる。しーやーわーせーー!!
で、その特番は2時間。
正広はみっちり見た。
濃厚な時間だった。
「はー・・・」
と、満足した正広は、はっ!と気づくと、足元に、空になったアイスクリームパーティサイズがあるのに気がついた。チョコソースの汚れがついている。
「あれ?」
パックの中には、カレースプーンが突っ込まれている。
おかしい。あの可愛いカフェオレボウルはどこだ??
それは、ソファの下で転がっていて、床に溶けたアイスがたれてきていた。
「ああああ!!」
はっ!と由紀夫の姿を探す。すると、由紀夫は、ダイニングテーブルのところに座って、正広の方を見ていた。
「あっ」
そしてニヤリと笑う。
「に、兄ちゃん・・・!」
「さっさと片付けろ!!」
「ああああ!」
怒られた怒られた!離れてるから殴られてないけど怒られたぁぁ!!
心の中でしくしくしながら、正広はあちこち片付けた。
CMのたびに何か食べ物を用意していたようだった。ちくしょう。今度こそ、今度こそ・・・!良い子になってやる!!
正広は床を拭きながら誓う正広だった。
で、由紀夫は。
朝から、良い子の正広を見ていて、ちょっと面白かったので、それをずーっと見ていたのだが。
ずーっとだとちょっとつまらなかったので。
罠をかけてみていた。
結局、おバカなのは、早坂兄弟どちらもなのだった。
由紀夫にいちゃんも叱りたいだね?(←バカ!?)
てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!