天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?
『Gift番外編』
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ギフトプチ番外編188話前編『戌年がやってきた』
気絶するほど犬が好き、などという雑誌が出る戌年がやってきた。
早坂兄弟の年明けは、これ以上はないというほど地味なものだったという。
なにせ、まだ大掃除をしていた。
「兄ちゃん、おなかすいたよぅ」
「黙って片付けろ!」
早坂家では、日頃割と掃除をちゃんとしているので、そもそも大掛かりな大掃除をする必要はない。
二人とも、じゃあ、なんか適当にその辺掃除して終わりにするー?そーだねー、といったテンションだった。
30日くらいにちゃちゃっとやっちゃって、31日はおせち作りというレクリエーションを楽しんで、紅白など見るのがよいかなーと思っていたのに。
まず、30日が悪かった。
「天気、いいね」
「いいなぁ」
正広は、空を見上げて言った。今日の空は、やたらと高くて青くて、寒いけど気持ちがよさそうだ。
うずうずとしてきた。
「ねぇ、兄ちゃん」
「んー?」
由紀夫は由紀夫で、ベッドに寝転がって同じく空を見ていた。そう。やたらと青い、高い空を。
「明日でも、いんじゃないかなぁ」
「何がー?」
「大掃除ー」
「・・・そうだよなぁ」
なにせ、そんなに激しく汚れている訳ではないし、明日半日でもあればいいじゃないか、ということで、二人はでかけてしまった。
ま、その日はそれで楽しく過ごした二人だったが、あけて31日はやってくる。
二人とも、大掃除をしなくてはいけないなぁ、と意識はしていた。
昨日、実際に『大掃除』と口にしてしまったことで、やっけにそれは意識されてしまっていた。
「大掃除ー、どうするー?」
「どうするって?」
「どこからする?」
大掃除といえば、窓、換気扇、水周りなど。キッチンの油汚れなども侮れない。
しかし、大晦日もいい天気だったのだ。
「あ、でもさー」
正広は、はたと手を打つ。
「お餅買ってないじゃん」
「あ、そっか」
「新巻鮭もないよ」
「新巻鮭なんかいらないだろ」
「かずのことか」
「アメ横かよ!」
「やっぱいかなきゃいけないじゃーーーん!」
正広の目は、大晦日の風景を紹介する地元ワイドショーに釘づけになっていた。
そうして、アメ横に乱入した早坂兄弟。
あぁ、新巻鮭!新巻鮭!と興奮する正広。絶対買わない!と引きずりながら人ゴミを進む由紀夫。
しかし、由紀夫とてそれほど落ち着いたお人柄でもない。
「ん、まて。あれは安いんじゃねぇか?」
と、エビやらカニやらに食いついていく。
「やってしまった・・・」
「買ったね、兄ちゃん・・・」
「どーすんだ、このカニ・・・」
「楽しそうだったよ、兄ちゃん」
由紀夫は、店の兄ちゃんとの値段交渉を存分に楽しんだ。それは、他の客、隣の店をも巻き込んでの大掛かりなもので、よっしゃ!と手打ちをしたからには、やっぱいいですとは、一瞬たりとも言ってはいけない。
だからこそ、今早坂兄弟の手元には、10kgのカニがあるのだ。
クーラーボックスにいれられた10kgのカニが。
「美味しそうだったよねー・・・」
「俺は、ちょっとの量で、より安くでよかったんだ・・・」
それが、じゃあ、あーで、こーで、と盛り上がっているうちに、2kgが5kg、5kgが7kg、そして10kgになってしまっていた。
「兄ちゃん、もうここまできたら、新巻鮭も1本いっとこうよ!」
「いってどーすんだよ!」
「下げて歩きたいじゃん!」
「アクセサリー感覚か!!」
そして、本当にアクセサリー感覚で新巻鮭(小)も1本お買い上げ。
さらに、筋子お買い上げ。
これは、お手製イクラのしょうゆ漬けにする予定。
「重い・・・」
「兄ちゃんの10kgだもんね」
「なんで、こんなことになったんだ・・・」
小粋に新巻鮭を下げていた正広も、筋子2kgに苦しめられていた。
「もう帰るか」
「そ、そうだね」
「浮いたお金でタクシーだな」
どこにもかけらも浮いたお金などないが、タクシーだ。カニ10kg+新巻鮭(小)1本+筋子2kg+スナック菓子大袋5袋と、質量ともにずっしりとした荷物になっているのだから。
午前中から出かけており、タクシーに乗った時はお昼前。
本当は外でランチでもと思っていたのだが、12kgを超える荷物を持っていては無理というもので、一目散に家に向かう。
そして、家に帰りつき、何よりもまず冷蔵庫の掃除をスタートさせた。
12kgを超える海産物を収めるスペースを作らなければいけなかったからだ。
この後、この海産物たちが、早坂家に大波乱を巻き起こすことになるのだが。
二人は、ただ大掃除だけすればいいとしか思っていなかった。
<つづく>
あけましておめでとうございますーー。今年もノンキな早坂兄弟ーー!って話はまだ年末ー(笑)!
てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!