天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第17話後編『花束と手紙を届ける』

めっちゃ短い前回までの話。

「由紀夫はホワイトデー当日に、奇妙な依頼を受けて出かけていたが、そこで、由紀夫を知っている、しかし、由紀夫は相手のことはさっぱり思い出せない姉妹を出会った」お、なんかあらすじらしいやん(笑)

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見慣れた、ボロいドアを由紀夫は相当乱暴な調子でノックする。
「どなたぁ?」
休日の昼前だというのに、野長瀬の声はしっかりしていた。
「俺」
張りのある声で一言言うと、薄いドア越しに野長瀬の焦ってる様子が伺えた。
「友達さぁ、連れて来てんだよ。おまえんとこのうさぎ見せて欲しくってぇ」
「う、うさぎぃ?」
「うさぎ。いるだろ?」
まだ、ドタバタドタバタしている様子に笑って、由布子に頭を下げる。
「すいません、ヤロウの一人暮らしなんで、中はすごいんだと思うんですよ」
「いぃえ」
「野長瀬ぇ!?」
「はっ、はいっ、はいぃーっ!」
3分ほど、どったんばったんしてる音がして、まず布美子が、続いて由布子が笑い出した頃、ようやくドアが開く。そっと薄く。
「ゆ、由紀夫、ちゃん…」
「どぉもー」
人の悪い笑顔を満面に浮かべ、ドアの隙間に手を入れた由紀夫は、思いっきりそれをひっぱり開ける。
「悪いねぇ、ホワイトデーなのに」
何度か来た事のある室内をざっと眺める。
「ほら、布美子ちゃん、あそこ。ウサギいるだろ?」
「ホントぉ!」
目を輝かせて、布美子は玄関から野長瀬のウサギ、「智子」を見つめる。
「上がってもいいだろ?」
由紀夫の声に、野長瀬はこくこくうなずき、視線は、じっと由布子に向けられている。

「この子、名前はぁ?」
野長瀬が動かないので、由紀夫に案内された布美子は、奥の部屋で、何?という顔で、ちょっと後ずさろうとしているウサギを、嬉しそうに見つめながら尋ねた。
「智子」
「え?」
「一緒なの。山口智子の、智子」
「じゃあ、理由も早坂さんと一緒なの?」
「え?いや、野長瀬がなんで智子ってつけたかはしらないけど。野長瀬ぇ?いつまで玄関に立たせとくつもりだぁ?」
「あ、す、すみません、汚いとこですけど、あの、どうぞっ」
野長瀬が焦りまくっているのがおかしくて、小さく由紀夫は笑う。
「あの…。早坂さんの、智子ちゃん、大丈夫、なんですか…?」
「え?あぁ…。うん。ちゃんと、病院入れてるから」
「病院!?そんなにぃ?」

またドアがノックされたのは、その時だった。

「野長瀬さぁーん」
「正広?」
「ひろちゃん!」
由布子を台所の椅子を勧めたものの、まだ玄関先にいた野長瀬がドアを開けると、あまりに急に開いたドアに目をぱちくりさせてる正広がいる。
「な、何…。あれ、兄ちゃん」
「え?早坂さんの、弟さん?」
「はい。弟です…」
「いやだ、弟さんがいるなんて、全然知らなかった」
綺麗な人からそう言われ、ホワイトデー、美人、ついに現れた由紀夫の恋人!?とびっくりした正広は、一瞬言葉を失った。
びっくりしてしまったため、口から出てきたのは、言おうと用意してた言葉だけ。
「野長瀬さん、稲垣先生が、これ、野長瀬さんに渡してって」
「えっ!?」

稲垣吾郎。正広のペット、白文鳥のしーちゃんと、野長瀬のペット、ミニウサギの智子の主治医で、どこかおかしなお人柄。
手の平に乗るくらいの小さな包みを、がっちりした野長瀬が余りにおそるおそる受け取るのを不思議そうに由布子と布美子が見つめる。
「稲垣先生?」
首を傾げた布美子に、由紀夫は動物病院の先生、と答えた。
「えっ!?じゃあ、智子ちゃんのっ!?」
「あ、そう。智子がお世話になってる」

「智子ちゃん、大丈夫ですか?」
「…え?」
まさか自分に言われているとは思わなかった正広は、キョトンとして由布子を見返した。
「大丈夫ですよ。な、正広」
「あ、はい」
こくん、とうなずいた正広を、まるで母のような眼差しで由布子は見つめる。
「野長瀬、それ、何?」
「え。え、こ、これ…。何、かなぁ、ひろちゃん…」
手の上に爆弾を置かれたような野長瀬は、全身を硬直させて正広に聞いた。智子を飼い出して、初めて稲垣動物クリニックに行った時の事を思い出す。
『はぁ、うさぎですか』
『はぁ』
『ミニウサギの智子ちゃん…。そういう趣味ですか?』
『はぁ?』
『この方ねぇ、男の子ですけど』
『えっ!?』
『あ、でも、大丈夫かなぁ。うさぎって、成長過程で性別が変わるんですよ』
『そっ!そうなんですかぁっ!?』
『えぇ、まぁ。生活環境とか、食生活とか、ねぇ。だから、やっぱり女の子の方がいいんでしたら、うさぎフードというよりも、やっぱりニンジンですねぇ…。それと…。あ、野長瀬さん、智子ちゃんはケージ飼いで?』
『はぁ…。昼間は家にいないんで…』
『あー…、それは…。それじゃあ、そうですねぇ、東向きに窓のある部屋でぇ…』

『稲垣先生』
真剣に野長瀬が話を聞いていると、落ち着いた声が背中からした。
『患者さんにデマを流すのはやめて下さい』
『剛ぃ』
『野長瀬さん、すみません。稲垣先生、よくあぁいう事いうんです。うさぎの性別なんて変わる訳ないのにねぇ』
『そうなんですか!』

真剣に信じていた野長瀬に、稲垣先生の瞳がキラァーンと光った。
稲垣先生(鳥、爬虫類担当)と一緒に働いている草なぎ先生(犬、猫、小動物など担当)は、あ、新しいおもちゃを見つけた目だ…、と、新たなおもちゃ野長瀬の、智子を抱き上げながら、お気の毒に、と胸の中で手を合わせた。

そんな訳で、それからも命に関わらない程度の嘘はいくつもつかれたし、面倒ないたずらもしかけられた。
そんな新たな悪戯が今、自分の手の中にある…!
「いいから見ろって。あ、でも、由布子さんも、正広も、こっち来な」
由紀夫は二人に向かって手招きして、今自分のいる和室に招きいれる。
「ど!どゆことですかっ!」
「いや、爆発でもしたら困るし」
「ばっ!爆発するんですかぁっ!?」
手だけは動かさずにじたばたしている野長瀬に正広が言った。
「だ、大丈夫だよぉっ!俺、ちゃんと持ってこれたじゃーん!」
「あ、そっか。正広に変なもん運ばせないか」
「どゆことですぅっ!」
「ごめんなぁ、布美子ちゃん、おっちゃんうるさくって」
膝の上に智子を抱いている布美子は、もう耐えられないというようにクスクス笑う。
「早くみたぁいー!」
「なぁー?ほら、野長瀬ぇ、布美子ちゃんも見たいって!」

死ぬほどの決心で、小さな紙袋を開けると、中からは綺麗な六角形のボックスが出てくる。
「なっ!何っ!何っ!?」
テーブルの上にそれを置き、きゃーっ!!と野長瀬は部屋の壁にとりつく。
「あれぇ…?」
大事に智子を抱いたまま、首を伸ばした布美子はそのボックスを眺める。
「これって、キャンディーだぁ。ホワイトデーの、プレゼントぉ…?」

パッチリ目を見開いて、正広は野長瀬を見つめる。
「おまえ、稲垣先生にバレンタインのプレゼント上げたの?」
由紀夫は気にせずはっきり聞いた。
「あげる訳ないでしょーっ!!」
「じゃあ、その、稲垣先生からのアプローチなのかしらね」
楽しそうに由布子がいい、野長瀬は頭を抱えた。

抱えたまま固まった野長瀬の代わりに、正広がお茶の準備をしている間、由布子たちは智子と遊ぶ。
智子は、このうちに来てからこんな大量の人間に囲まれた事はなく、軽いパニックに陥りそうになったが、どうも、こいつの膝はいい感じだと、布美子の膝の上では大人しくする。
そういやぁ、自分の世話係は何をしている?と、小さな頭でキョロキョロと周囲をうかがうと、台所からよろよろと現れた。
腹減ったぞ、世話係。とっととオヤツをよこしやがれ、と思ったのに、智子の世話係と来たら智子をスルーして、自分が膝に乗ってる人間の隣にいる、いい匂いの人間にお茶を出した。
む!?違うだろ、世話係!
しかも、自分の前にもマグカップを出したけど、俺はこんなもん飲めないだろ!

「あ、ジャマ?」
由紀夫は飲むのにジャマになるだろうと、智子を布美子の膝から抱き上げ、そのまま床にぽん、という感じで置く。
「ううん、大丈夫だけど」
大丈夫だっつってんじゃねぇかぁ!!
布美子の膝が気に入っていた智子は、きぃっ!と由紀夫を睨み、じゃあこっちだっ!と由布子の膝に近寄っていく。

「あ」
「あ、お姉ちゃん」
けれど、智子は布美子に抱き上げられ、また膝に乗せられた。
「お姉ちゃん、今日、綺麗な服着てるからねぇー」
よしよし、と頭を撫でられ、そりゃまぁ、こっちの方がいいけども。あ、それより、腹減ったって言ってんだろ、世話係ぃーっ!
と、智子がじたばたしてると、またまた由紀夫に持ち上げられた。
「暴れてんじゃねぇよ。ケージ入っとくかぁ?」
にゃ、にゃにおうっ!?
てめぇ!俺を誰だと思ってるぅ!!
今後、どでかくなる予定のミニウサギ、名前は智子、でも男、な野長瀬智子は、こいつ許さんっ!と自分を乱暴に扱っている早坂由紀夫を睨み付けた。
「おなかすいてんじゃないの?野長瀬さん、何か食べ物とか、あるの?」
そう言ってさっさとうさぎお菓子を持ってきてくれたちっこいのには、ん、おまえは世話係2くらいにしてやってもいい。寛大な気持ちになる野長瀬智子だった。

でも、やっぱり、やっぱり、と布美子が智子を抱きたがり、こいつだけは何かが違う!と納得の智子も、大人しく抱かれている。全員にお茶が行き渡り、なんとなく静かになった時、布美子が、カラーボックスを見て、あ、と声を上げた。
「これ…。ね、これ、そうですよね、早坂さん」
「え?」
「これ見て、あたし、早坂さんにお手紙書いたんです」
手を伸ばして、布美子が取り出して来たのは、ペット雑誌だった。
「あっ!!」
それを見て野長瀬が手を出した時にはもう遅い。
ここに、智子ちゃんの写真が…、と開いたページから、写真が一枚落ちた。

「あーあ」
由紀夫が小さく呟く。
「ごめんね、俺ね、早坂由紀夫なんだけど、それに載ってる早坂由紀夫じゃないんだ」
落ちたのは、由布子と布美子と、3匹のうさぎが映ってる写真。
「こいつが、俺の名前を勝手に使って出したみたい」
ペットの情報交換ページに、『ミニウサギの智子ちゃんのパパです。でも、新米パパだから、色々教えてくれると嬉しいなぁ♪』などというふざけたメッセージと共に、由紀夫の名前と年齢が載っている。住所だけは野長瀬のものだった。

「そっかぁ…。何かおかしいなぁって思ったんです。なんか、あんまりうさぎに慣れてないみたいだったし…」
「そーでしょ」
ケラケラ由紀夫が笑うと、野長瀬が突然土下座した。
「申し訳ありません!!」
「えっ?」
「この写真を最初に送っていただいて、それで…!どうしても、どうしても由紀夫ちゃんになりきってみたかったんですぅっ!!!由紀夫ちゃんもごめん!ほら、由紀夫ちゃんカッコいいから、それだったら、長く文通もできるかって…」
「え、でも、多分…。手紙書いたのは、布美子ちゃんだろ?」
「あたし」が手紙を書いたと言ったから。

「文通って、そうなんだよねぇー」
凍ってる野長瀬に、困ったように笑ってる村木姉妹を見ながら、正広は呟いた。
村木由布子狙いだった野長瀬は、今まで自分が書いてきた、あまりにこっぱずかしい文章の数々(例:今日は星が綺麗でした。由布子さんの瞳を思い出します)を思い出し、このまま死んでもいい…!という気分に陥る。
「ごめんなさい、あの…。早坂さん、って、えっと?えっと、野長瀬さんじゃない早坂さんの写真見て、25歳だし、小学生なんか相手にしてもらえないって思って、それで、写真も送っちゃったことだし、お姉ちゃんになっちゃえばいいかなって、思って…」
丁寧に智子を膝から下ろし、布美子もごめんなさい!と手をつく。
「ま、じゃあ、お互い誤解も解けたって事で、じゃ、野長瀬、二人をディズニーランドにでも連れてってあげたら?あ、由布子さん、大丈夫です。こいつ、こういう顔ですけど、小心者ですし、悪い事はできないヤツですから」
そして、由布子は声もなく笑っていた。
「お…、おかしすぎます…」

「あのボケ、来週になったらただじゃおかん」
ムっとしたように由紀夫がいい、正広は智子に餌をあげている。
「いいじゃん。由布子さんのこと、好きなんでしょ」
「だからって人の顔と名前使うってありかぁ?」
「俺、びっくりしちゃった。兄ちゃんの彼女かと思って」
「ま、あれだけ美人だったら、野長瀬の、っていうより、俺の、っていう方が自然だよな」
人の悪い笑い声を上げて、由紀夫は帰る準備をする。
「しーちゃん大丈夫か?」
「んー、稲垣先生んとこに入院しちゃった…」
「うっそ!大変じゃん!」
「でも!明日には退院!」
「あぁ、びっくりした」
じゃあね、智子ちゃんバイバーイ、と正広は手を振るが、由紀夫は知らん振りで、余計に智子の怒りを煽る。

そして、野長瀬の部屋には怒りに震え、家具と言わず、コードと言わず、齧りまくる智子と、意味不明な獣医稲垣からのキャンディーだけが残された。

<つづく>

書きたかったのは、野長瀬智子と、早坂由紀夫がいかにして仲が悪くなったか(笑)早坂由紀夫、動物との相性はあまりよくないようです(笑)
それにしても、稲垣先生…。好き…(笑)

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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