今年のＧＷは、その気になれば９連休という一年で一番の連休となった。
腰越人材派遣センターは、当然９連休。
社長の奈緒美が初夏のバカンスにでかけるためである。なお、奈緒美のバカンスは二週間続く。

「意味が解らない」
ＧＷらしいところから前後にさらに休みをくっつけ、定番すぎて恥ずかしいわぁ〜、といいながら、彼女はニースへと飛んだ。
それも、社員一同に見送りをさせてだ。
「しかも、俺らこの後会社戻って仕事だろ？」
「平日だもんね・・・」
奈緒美はちょいちょいに、『ここまで上っていらっしゃぁ〜〜い！』と、部下たちを千尋の谷につき落とすのである。

「ニースだってー。いいねー」
「いいですねー、社長ー」
もちろん会社に戻ったからといって、そんなに仕事なんかする気のない社員たち。
もう社長もいないんだから、と、のんびりかまえている。
「兄ちゃん、どれにするー？」
帰り道でケーキも買って来た。
「えーっと。・・・どれにするって、もうチーズケーキしか見えないんですけどっ？」
「ニューヨークチーズケーキ、スフレチーズケーキ、ブルーベリーチーズケーキ・・・」
「どれでもいいよ！」
ベリーたっぷりタルトだの、しっとりチョコレートケーキだの、和栗のモンブランだのは、すでに他の人間のお皿に入っている。
「えー、でも、全然違うよ？このチーズケーキー」
「どれでもいいんだよっ」
「んー、じゃあーー。おもたーーいニューヨークチーズケーキにしよ。兄ちゃんになんか似合うから」
「はいはい、ありがとうございますよ」
「由紀夫さん、コーヒー？紅茶？」
「コーヒーお願い」
「はーい」
「由紀夫ちゃん、どれにする？パンフレット」
「え？」
「由紀夫ちゃんはー、アメリカとかの方がいいかなぁ」
野長瀬が持っているのは、大量の旅行会社のパンフレットだった。野長瀬は手元にヨーロッパのものを置いてある。
「何をおかずにお茶なんだ・・・」
「兄ちゃん、アメリカ本土にするー？」
「いや、どうせなら、もっと秘境系がいいな。南米とか、イースターとか」
「あーー、そういうパンフレットはないですねぇ」
選んできたのは典子と野長瀬で、典子はもっぱら激安がキーワードだったし、野長瀬はセレブリティがキーワードだったので、安くなく、セレブの匂いもとりあえずしない地区は持ってこられていない。
「あー、どっか行きたいわぁ〜」
「こんだけ長いんだからいけるじゃん」
「だって、高いですもん」
「まぁなぁ」

などという話をしながら、４人はノンキにお茶をしていた。今日は定時でぴっちし上がる予定だ。

「今から海外って無理だと思う？兄ちゃん」
「場所によるんじゃねぇの？でも、とにかく一番高いからなぁ」
「日本国内も高いしねー」
「野長瀬さん、どっか行くの？」
「いやー、それがなかなか・・・」
３月くらいからパンフレットを集めていたほどの野長瀬だが、決められない性格のため、もう４月が終わろうとしている。ＧＷが始まろうとしている。
「せめて、飛行機に乗りたいと思ってるんですけどねー」
「野長瀬、免許とったら？飛行機の」
「えー！兄ちゃんとってよ！そんなすぐ取れるのっ？」
「免許そのものは簡単に手に入ると思うけど、それと操縦できるは別だなぁ」
「あ、免許そのものはね」
「そう免許そのものは」
公的証明書の類は、この事務所では簡単に手に入ってしまうのだ。恐ろしいことに。
「操縦してみたいなー、飛行機」
「車も運転できないのに無茶ゆーな」
ひゃははは！
こうやって、楽しくお茶の時間は過ぎていく。
もう、そろそろ定時がやってくる。
明日は会社だが、明後日からは長いお休みが始まるはずだった。

「失礼しまーす！」

その宅急便が届くまでは。

＜つづく＞