天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?
『Gift番外編』
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ギフトプチ番外編192話後編『GWの思い出』
<これまでのお話>
腰越人材派遣センター社長腰越奈緒美は、今年のGW、ほんの二週間ばかしバカンスに出かける。
しかも、全社員を成田で見送りさせての旅立ちだ。
しかし、その社員たちも翌日からGW。見送った後戻った会社では、なーーんの仕事もせんと、定時がくるのをおしゃべりしながら待っていた。
そこに荷物が届いたのだ。
大量の仕事が、それには付随していた。
おそろしいことに、アンケート用紙は千枚をゆうに超えていた。
正広は、1000枚×バスネット1000円を買うのにいくらかかるの!?と思ってめまいがした。ゼロが一杯すぎる。
「千枚超えたかー・・・」
「ざっと1200枚はありますよー。封筒、足りるかしら・・・」
「住所がちゃんとしてるのがどれくらいあるかだな」
「1200枚、一人400枚・・・」
「残念、一人300枚」
「え、あっ、そうかっ」
正広、1200÷4ができなくなっている。GWモードに入っていた脳が、元に戻ってこないらしい。
「100まんえん・・・」
そして野長瀬は小さくつぶやいた。
「100万年!?」
「いや、100万円です!パスネット代が!」
「だから金券ショップで買ってこいって言ってんだろ!」
「でもー!金券ショップにも1000枚もあるかどうかー!」
「何軒でも回れ!・・・いや、ちょっと待てよ?そこらのパスネットでいいのか?」
「え?」
「この企画、奈緒美発案じゃねぇの?」
「そうです」
「じゃあ、事務所用に作ったパスネットがどっかにあるんじゃあ?」
「・・・・・・!」
野長瀬の顔色は、パパパ!と変わった。赤から青に、そして白、そしてまた赤。
「ど、どこにあるんでしょう・・・!?」
「ダンボールの中じゃあ?」
正広が覗きこんで見るが、アンケートで一杯だったダンボールは、ただ空っぽになっているだけだ。
「典子、なんか最近奈緒美に荷物来てなかったか?」
「来てました!」
「何が!」
「服とかー、バックとかー、美味しいお水とかー」
「通販の買い物は家に届くようにしろって言え!」
「そうですよねぇ!だって見せびらかすだけ見せびらかして、結局家に持って帰るんですもんねー!」
「でも、お菓子は嬉しいよね、典子ちゃん♪」
「ね、ひろちゃん♪」
「あ!そだ!冷蔵庫にプリン入ってる!奈緒美さん、昨日届いたの食べるの忘れてるっ!」
「そーれーよーりー!パスネット!」
バスネットバスネット、と唱えながら、四人は事務所の中を這いずり回った。
「まーさーひーろーーー」
そんな中、集中力が途切れがちな正広を、由紀夫が叱る。
「何コントの真似だ!それはー!」
「だって、どんな形になってるか解らないじゃん!」
正広がのぞいていたのは、冷凍庫の中にあるフリーザーバックだった。ちなみに中身は冷凍されたカレー。
「なんでわざわざそん中にパスネットいれるんだよ!使えなくなるだろ!」
「そーかなー。ただのカードでしょ?熱いカレーじゃなくて、もう冷えちゃったカレーにいれて、冷凍するくらいで壊れないんじゃないかなぁ」
「そんなことは後から実験しろ!パスネットはおそらく1000枚単位だ!」
「あ、そっか」
てへへー、と冷凍庫を閉め、正広は事務所に戻ってくる。
「1000枚のパスネットって、どれくらいー?」
「100枚がこんなもんだろ」
由紀夫は指をちょっとひろげた。
「え?そんなもん??じゃあ、それが10倍でも」
「たいした大きさにはならない。から、面倒なんだよなーー」
「あーー!」
「典子ちゃんっ?」
「奈緒美さん、またこんなの頼んでるぅー!」
典子が、奈緒美の机の引き出しから発見したのは、いわゆる一つの15万円クリームだ。
「・・・100万あっても、6個しか変えないからな」
「パスネット15枚分だ」
「150枚、1000円なら」
「0の一杯ある計算なんかだっきらいだっっ!」
うきー!となった正広が、冗談で自分の机の上の書類をひっくり返した。
「あれっ?」
紙ばっかりだと思っていたのに、思わぬ抵抗があり、正広はその音の正体を探す。
「え?何これ」
「え?」
3人が正広の周りに集まり、そっけない紙袋を見つめる。その紙袋は、どこからどう見ても、宅急便屋が使っている袋で。
「・・・『品名:パスネット』・・・」
「えーーー・・・?」
由紀夫が読み上げ、正広は小首を傾げる。
「あれ?だって、これ、僕あてじゃなくって・・・」
「会社あてになってる。こんなの受け取った覚えないんだけど」
「あ・・・」
思い出した、と、正広の顔は曇る。
「あのぅーー。一昨日、かなぁ。おつかい行く時に、外で受け取って、そのままに・・・」
正広は、上目遣いーで周りの3人を見上げる。
「カワイコぶるな!」
「ちがうもーん!可愛いんだもーーん!いだっ!」
とりあえず軽く叩いておいて、由紀夫はパスネットを野長瀬に投げる。
「封筒あったか?」
「今の家捜しで相当みつかりました。いけると思います!」
「じゃあ、さっさと宛名書き!っとー、中にいれる文書がいるんじゃないか?それはーーー、野長瀬書け!」
「あっ、は、はいっ」
もうここまでくれば楽勝だと、誰もが思った。
一人あたり封筒は300枚。
さっさと書けば、1枚書くのに何秒とかからないだろう、と。
しかし。
「だーめだーー!」
まず由紀夫がバンザイした。
「ダメだろこれ!」
と、自分が宛名をかいた封筒を正広、典子の前につき出す。(野長瀬は、文書を考えるのに必死だ」
「え、何がですか?」
「兄ちゃん、間違った?」
「違う!字!」
「字?」
何が?と、二人はまじまじと宛名を見つめる。
「え、なんだろ」
「・・・正広書いた?」
「書いたよー、さっさとね」
正広は封筒を誇らしげに兄に渡した。
「どーよ、これは」
それを、由紀夫は典子に見せる。
「あ・・・、あーー、なるほど」
「何ー?何何、俺間違えてる?」
「住所は間違ってないかもしれないが、字が汚い」
「ぎゃーーー!ひどいーー!」
「典子ーー、も、人のことは言えないか・・・」
「どーせ丸文字ですよー!大体、最近、手で文字書くことなんかないじゃないですか!綺麗な人だって汚くなってますよ!」
「元が綺麗だったみたいに言うな!」
どうする?
再び腰声人材派遣センターの空気は凍った。
このまま、なるべく丁寧に手書きで宛名を書くのか。
パソコンにデータを入力するのか。
結局のところそれらの決断は出ないまま。
ゴールデンウィークの前半を、彼らは失ったのだった。
「硬筆習字、習いに行く・・・」
うわごとのような正広の言葉には、典子が答えた。
「私、パソコンのタイピングかなんかの教室行きますよ・・・」
「その前に筆跡鑑定習った方がいいかもな・・・」
1200枚のうち、3割で、何が書いてるのかはっきり解らない(特に数字)という事態も起こっていた。
そしてなにより。
野長瀬はまだ文書を作っていた。
「後はできあがった文書コピーして、中にいれて、封するだけだからー」
「がんばってねー、野長瀬さーん!」
「あーもー、へとへとーーー」
果たして野長瀬はせめてゴールデンウィーク後半に間に合うように発送ができたのか。
それはパスネットを受け取った人だけが知っていることだ。
もう6月なのに♪てへ♪
てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!