「あれ？」
テレビっ子正広がテレビを見ながら声を上げた。
「何」
「今、画面ちょっとおかしかった」
「えー？」
由紀夫も映画をよく見る男なので、テレビ画面がおかしいと言われると放ってはおけない。
「どうしたって？」
「なんかね、色がおかしくなったような・・・」
「今は、別におかしくないけど？」
「うーん・・・。いや、きっと気のせいだよ」

などと言っていた三日後。
「わっと、これかぁ！」
「何？どした？」
「今、画面の色がおかしくなった」
「あ！そうそれ！」
早坂兄弟は首を傾げる。
「テレビなぁ、壊れるまで使ったことないからなぁ」
「んー。兄ちゃん、どっちかって言うと、テレビを壊すって感じだもんね」
「そうそう。どっちかって言うと、テレビを凶器に、こら！」
ま、そんなことはどうでもよく、早坂兄弟は心配そうにテレビを見守ったが、その後、画面の色がおかしくなる現象は起こらなかった。

「私、テレビがおかしくなった経験あります・・・」
買った家電が初期不良である率、おそらく５０％を超えるであろう男野長瀬は、しんみりと言った。
それは、彼が、十年以上前に手放したテレビで起こった出来事だった。
「画面が、斜めになったんです」
「斜め？」
正広がカワイコぶって小首を傾げ、斜め、を表現する。
「いや、こうです」
野長瀬は立ち上がり、前傾姿勢になった。それはまるでパントマイマーのようで、おぉ！とはからずも拍手が起こった。なんの支えもなく、前傾になるその様は、あたかもマイケルジャクソン風味でもあった。
「・・・まさか野長瀬にこんな特技があったとは・・・！」
「えぇ、それでですねぇ」
すすーーと、斜め後ろからひっぱられたように、野長瀬の体勢が元に戻る。
「画面の上の方は紫になってるんです」
「え？どゆことなんですか？」
「こう、だから、こうなってるでしょ？」
褒められて嬉しくなった野長瀬は、また前傾姿勢になる。
「ここが、画面ですよ」
と、おでこのあたりを示す。
「足元は？」
「奥まってるんですよ」
「そんなことあるかぁ〜？」
由紀夫が声を上げるが、野長瀬は前傾のままあります！と断言した。野長瀬が一人暮らしした時に買って、ずっとずっと持っていた１５インチのちっちゃなテレビは、そのようなへんてこな状態になり、泣く泣くお別れしたという代物だ。忘れることなんてありえない。
「ま、これくらいいかないと、テレビが壊れるなんてことは言ってもらいたくないですね♪」
「すごいなー。そんなの見てみたかったなー」
「じゃあ、ひろちゃんとこのテレビも、ほっとけばそのうち、そんなステキな感じになると思いますよ」

「育てよう！兄ちゃん！」
「・・・」
「テレビさ、どこまですごいことになると思う？」
「いや、だって、ちょっと画面の色がおかしくなるって、電圧とかの関係かもしれないし」
「電圧？」
「なんか、どっかで雷落ちたとか、ブレーカーがどうとか、とか」
「雷落ちたの？」
「いや、解らないけど」
「だってさー、見たくない？斜めになってんだよ？紫にもなるんだよ？？」
「だからっておまえ、顔の上半分紫色の原監督とか見たい訳？」
ぐっ。
正広は言葉を失った。
今年の原ジャイアンツには、正広もウキウキしている。その原監督の顔が紫になるというのは・・・！
「んーーーーーーー・・・・・・！！！」
「やだろ？」
「んーーーーーーーーやだけどーーーーーーーー・・・・・・・・・・！！！」
「ま、だから、これ以上おかしくなったら新しいテレビにするってことで」
「いや！そこまでおかしくなるのは、このシーズン中は無理だと思う！日本シリーズくらいまでは持つよ！このテレビ！」
「はぁ？」
「だって、野長瀬さんのテレビ、すっごい時間かけてそうなったんでしょ？うちのテレビもきっとそうだよ！だから、今年のペナントは、このテレビで闘えると思う！」

なんの根拠で・・・・・・・

そんなことを聞いてもムダだということを、由紀夫はイヤというほど知っていた。

どうなる！早坂家のテレビ！