＜これまでのお話＞

テレビっこ正広のうちのテレビになにやら異変が！？
どうするテレビっこ正広！
そして兄由紀夫！

「いや、あの、正広さん」
正広はテレビっ子だが、由紀夫はそこにＡＶマニアという側面を加える。新しいテレビが買えるのっ？キラキラキラン☆と瞳を輝かすタイプだ。
電気屋さんに行って、ありったけのカタログを集めるタイプだ。
しかも、カタログで重視するのはスペックだ。表紙からではなく、裏表紙からめくっていって、スペックをうっとりと眺めるのが好き。
なのに、正広は、テレビがもっと愉快に壊れるのを待つという。
「だって、見たくないの？そんな変な風に壊れるテレビー！」
「いや、そんなものは・・・」
そもそもプラズマか、液晶か。いやいや、できればＳＥＤを待ちたいなど、由紀夫は色々と思っているのに。
「がんばろうよ、兄ちゃん！今以上に俺テレビ見るし！」
「いや、今以上に見るのは不可能だろ」
正広は、家にいる間中テレビを見ている。
「そ、そうだけど。そ、それに、テレビ動かすの大変じゃん！」
「んーー、それは確かに」
早坂家にあるテレビは、結構どでかい。どでかいので、そのままではなんだかもったいない、という感じで、テレビの上は、物置になっている。
テレビの上に棚を設置し、その上にあれこれ乗っているのだ。レコーダーだったり、食玩だったり、ＶＨＳテープだったり、ＤＶＤだったり、あれこれあれこれと。
「大体さぁ、今時のテレビは困るよ。薄いじゃん！ものが置けないじゃん！」

は・・・っ！

新しいテレビーー、と浮かれていた由紀夫は、目からうろこが落ちた気がした。
薄型テレビというのは、単体で見れば、なかなかに美しい。
すっきりしたフォルムをしていて、んーー、こりゃいい、と思うのだ。
しかし。
「そうか・・・。テレビを変えるってことは・・・」
「この辺、全部変えなきゃいけないんだよ！」
正広は、テレビ台をびしっ！と指差す。にぎやかで楽しそうな空間は、どでかいブラウン管テレビによって支えられている。
「あーーーー、ってことはーーーー」

正広は、よしよし、これでテレビはこのままだと思った。
このテレビも、野長瀬せんちに負けないほど、ステキに育ってくれればいいなぁ、と思う。だって、画面の中が台形になるなんて、絶対見てみたーい！

「家具から変えなきゃいけないんだ」
「はっ？」
「テレビ台から変えなきゃいけないんだろ？」
「え？えっ？」
由紀夫の目が、さらにキラキラしていた。ドラマなんかで見る、丸や、☆型の照明を当てて、目の中に模様を作っているかのように。
「に、兄ちゃん？」
「ホームエレクター・・・♪それともＭＵJI？カリモクもいいかもなーー」

由紀夫はそこにＡＶマニアという側面を持つが、ここに収納家具までが加わると、目がキラキラどころか、ほっぺバラ色になる。エステいらず。元々必要ないが。
電気屋さんでテレビ、家具屋さんで収納系のカタログもらってこなきゃ！
「兄ちゃん、兄ちゃんっ」
日頃暴走しがちな正広は、人の暴走を止めるのは苦手だ。
日々暴走している奈緒美とかならともかく、めったに暴走しない兄となるとどうしていいか解らない。
「ま、と、とにかく、今のところ、テレビおかしくないんだしさ！みよう！テレビ、ねっ？」
正広は、今このテレビを動かしてほしくはなかった。そりゃ、見られなくなるのは怖いけど、そのテレビの上だの、横だのに置かれているものも、正広には大事なものたちだった。
せめて、今年のシーズンオフまではこのままでいたい。
いや、野長瀬に負けないくらいおかしな状況になってくれたら、それで満足するのだが。
そのためにはどうすればいいのか・・・！
考えろ！考えろ正広！
「あ、ワールドカップ始まる」
「え？今日何戦？」
「えっとね」
正広は、サッカーより野球だが、由紀夫はサッカーの方が好きだ。
毎日やってるワールドカップを、一晩中見る。
そうすることによって、テレビの寿命はさらに短くなっていくのではないだろうか。
よし、これだ！
「もー、眠いよねー、でもやっぱりリアルタイムで見たいよねーー！」

テレビをおかしくさせたいという正広の想いと、新しいテレビ、新しい収納家具を、散々吟味してから買いたい由紀夫の想い。
果たしてどっちの想いの方がより強いのか。
勝利の女神を呼び寄せるのは、どちらなのか！