天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第18話パラレル特別編前編『花束が届いた』

めっちゃ短い予告のような話。

「日の出銀行業務本部秘書課の水木小夜子は、新しく来た社長が不細工くんや、という理由で、美しいバラを美しい男に送った。それが彼女の憂さ晴らしであったが」いやいや、特別編やからね(笑)

yukio

その日の夕方、腰越人材派遣センターの野長瀬は、相当いい気分だった。だって、だって、万年カモ男、パチンコ店への永久貯蓄が楽勝で7桁を超える野長瀬なのに、今日は勝ったから!5万円が、5万8千円になったから!!
それでも勝ったと言える野長瀬は、幸せな人間だった。
しかし、ニヤニヤする訳にはいかない。彼は仕事中に本日開店のパチンコ店を見つけて飛び込んでしまったのだから。こんな事が会社の人間にバレたら、やっと勝った8000円を巻き上げられ、時給分、給料から差っ引かれ…!
それを思ったら決して愛想がいいとは言えない顔に、なお凶悪な表情が浮かぶ。
何故。何故、腰越奈緒美社長は、あんなにも金に汚いのか…!

その、なんであんなに金に汚いんだ!と思われている腰越奈緒美は、その日の夕方、あまり機嫌がよくなかった。
原因は、まさしくその金の話。
もう、酒止めよう。心の中で二日酔いの奈緒美は思う。
昨日の夜、奈緒美は酒の席で仕事の話をしていた。依頼者の地位に相応しいステイタスのあるバーで、人の金で飲む酒くらい美味いものはない。そう思っていつも以上に飲み、ついつい気持ちが大きくなったところで、依頼料を値切られたのだった。
あの、あの、最後の一杯だった…!由紀夫の仕事は、今までの実績から言っても、最低でも…。無意識に指は電卓の上を走り、由紀夫への依頼料がて・て・てっと弾かれ、奈緒美はため息をついた。
「ひろちゃんに怒られそ…」

その、早坂由紀夫担当マネージャー、溝口正広は、その日の夕方、かなりご機嫌だった。
「兄ちゃん、俺、嬉しいよぉ」
「もう、何度も聞いた、聞いた」
大型スーパーで、カート押しながら、少し後から来る由紀夫に正広は何度も何度も言っていた。
「だって、だって、オマールだよ?俺、オマールエビなんて、見た事もない!」
「そっかぁ?」
「そぉだよぉ!いっつも、俺は子供だからっておいてけぼりじゃん!」
ぶー!と文句を言いつつ、その顔は緩みっぱなし。
原因は、その日、由紀夫が仕事先から持って帰ってきたオマール。仕事先でえらく喜ばれた由紀夫は、まぁまぁせめてこれでもと、新鮮なオマールを渡された。いくら魚屋だからってそりゃねぇだろ!と呆然とした由紀夫だったが、魚介に目のない弟のため、猛烈ダッシュで事務所に戻り、ギャー!!と大喜びされる。
「これ作りたい!作りたい!!」
男性アイドルグループが作っている、謎の料理本を振りかざしながら正広は言った。
「ブイヤベース!これ、これ!」
「あ、美味そうじゃん」
「ね、ね?」
きゃいきゃい!と喜んでる正広に、典子が声をかけた。
「ひろちゃん、これ」
渡されたのは、スーパーのちらし。
「安いー?」
「結構いいでしょー?」
その喜びのままに、正広は近所の大型スーパーにやってきていた。由紀夫は単なる荷物持ちである。

「嬉しいぃー…」
「おっまえ、ホントに主婦みたいだぞ」
笑いを堪えかねる声で言われても気にしない。嬉しいのは本当だから。
「あった!えっと、なんとかフェンネル、と、り、え?リーキ…って、何だ?」
この材料のどこらあたりが「簡単」なんだ、という材料を求め、正広は大きなスーパーを駆け回り、ご機嫌なまま、由紀夫と会社に戻って来た。

「たっだいまぁー!」
元気よく戻って来た正広と由紀夫は、悲鳴のような声で出迎えられた。
「あんた、誰ぇーっ!!!」
奈緒美の声が鼓膜に響き渡る。
「誰ぇ?」
キーンと耳鳴りのしている両耳に指を突っ込んだ由紀夫が、軽いステップでフロアに降りて奈緒美の額に手を置く。
「老化現象かよ。俺は俺だろ」
「ゆ、由紀夫、ちゃん、ですよ、ね…?」
背中から小さく聞えるのは野長瀬の声で、野長瀬の本体は、キャビネットの向こうからこっそり覗いている。
「何だ?おまえらおかしいぞ」
あ、それはいつもか。カカカと笑いながら、由紀夫は自分のデスクに買い物の荷物を置こうとして、その花束に気がついた。
「何、これ」
見た事もないような淡いピンクのバラの花束。
「すっごーい!すっごい綺麗!何?どしたの?どしたの?うわぁー…」

「本物?本物…?」
「だって、さっきだってホンモノでしょうー…?」
「ひろちゃんがいるんだから、本物じゃないですかぁ?」
「バッカねぇ。ひろちゃんは、由紀夫が白って言ったら、パンダだって白クマよぉ?」

「んな事言わねぇよ!!」
「俺、そんなバカじゃないもん!」
額を寄せて、こそこそ喋ってる3人に由紀夫たちが怒鳴る。
けれど、3人は不信感を顕わに、由紀夫をじぃぃーーーーーっと見つめた。
「なんなんだよぉ、さっきから!本物ってなんだっつってんの!」
と、「本物」という言葉に、由紀夫は自分で反応した。

「あ。もしかして、溝口武弘でも現れた?」

笑いながら言って、正広も笑ったのに、事務所の空気は凍った。

「T!武弘!」
「でもそれじゃあTMですよ!」
また額をくっつき合わせる3人に、ついに由紀夫が切れた。
ばぁーん!と奈緒美のデスクを手の平で叩く。
「いいから!1から話してみろ!!」

パチンコから、いやいや、営業活動から事務所に帰ろうとしていた野長瀬は、ふいに声をかけられた。
「あの、ちょっとすいません!」
振り向くと、バンの運転席から由紀夫が顔を出している。
「あれえ! どしたんです!」
野長瀬は驚いて駆け寄った。由紀夫は、一応偽造免許を持ってて、車の運転ができない事はないが、それは仕事上やむを得ない場合だけ。まして、こんなバンは腰越人材派遣センターにないし、手配した覚えもない。
由紀夫の事だから、またきっと勝手な事してんだな、すいませんだなんて、由紀夫らしくない事言うのは、ちょっと困ってるんだろう。可愛いなぁ。
そんな風に思いながら運転席に到着した野長瀬は、目を点にした。
にこっと笑った由紀夫は、こう言ったのだ。
「すいません、このへんに『腰越人材派遣センター』ってありませんかね。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
腰越人材派遣センターは、このへんにある。
確かにある。
あるけど、由紀夫は社員で、場所なんか良く知ってるはずだ。
野長瀬の脳は、そのゆっくりした動きを今にもストップさせそうになってきた。
「な…なんでそんなこと聞くんです?だって、由紀夫ちゃんでしょ、由紀夫ちゃん?」
ストップする前に、と、絞り出すように尋ねると、由紀夫はちょっと不思議そうに首を傾げた。
「ゆきお?」
そして、あぁ、と目を見開く。
「ええ。早坂由紀夫・・・・って、何で知ってんですか?」
「しっ、知ってるってだってあなた・・・・。ね、ねぇ、どうかしました?もしかしてまたどっか、このへんガンッてぶつけたですかっ?」
言葉がおかしくなりながら、野長瀬はバンに頭をぶつける真似をした。
だって、由紀夫のことなら知ってる!男前で、ちょっと性格悪くて、足が早くて、弟思いで、時々子供みたいに可愛い事もある、そんな、そんな由紀夫なのに!!

けれど、由紀夫は、困ったように眉を寄せる。
「あの・・・・もういいです。すいません失礼しました。」
そして、口早にいい、バンを発進させた。
「あっ、ねぇ、ちょっ、ちょっとお ――――――!」
どぉーしちゃったんです、由紀夫っちゃーんっ!!!!
白い灰になりながら、野長瀬は叫んでいた。

「毎度ありがとうございます、日比谷フラワーセンターです。」
奈緒美と、典子だけの事務所に、随分とよく通る声が響いたのは、そろそろ5時半の定時になるところだった。
花?と奈緒美が顔を上げ、ハンコハンコと、典子が顔を上げ、え?と二人は思わず立ち上がった。
何の冗談だか、さっき正広と買い物に行ったはずの由紀夫が、グッチのスーツとは全然違う、生成のエプロンに、Tシャツとジーンズという姿で立っていた。
「あの・・・・」
声だって間違いなく由紀夫なのに、日比谷フラワーセンターってのは、何?
「早坂・・・・由紀夫さんにお届け物なんですけど・・・・いらっしゃいますか・・・・?」
「ゆ、由紀夫・・・・?」
由紀夫が、由紀夫に、花束を届けに来た?なんの冗談??
左手に書類、右手にハンコを持ったまま、奈緒美は混乱したため、ぱたぱたと手を動かす。
だって、由紀夫なのに。
え、何?何、何ぃ??
「ええ。これ・・・・この花束、由紀夫さんにお届けしろとのことで。」
「ゆ・・・・きお・・・・って、・・・・あ、あんた・・・・」
奈緒美の脳はすごいスピードで回転を始めたが、あまりに早すぎて熱を持ちすぎてきた。いいたい事がまとまらない。

「あの、なんかまずいことでも・・・・?」
由紀夫は、時々見せる困ったような顔で花束を見せて、助けを求めるように典子を見た。にこっと微笑まれて、典子も凍りつく。
他のメンバーに比べれば、由紀夫の典子に対する扱いは、もしかしたら正広に継ぐくらいいいもの(ただし、他者との比較における。正広が100なら、典子はせいぜい12くらい)だったが、こんな風に穏やかに微笑まれるような事はついぞなかった。
典子が凍ったまま反応できなかったせいか、由紀夫は事務所内を見回す。
まるではじめてみるかのように。
記憶がまたなくなったのか!?
蒼白になる二人の前で、ポケットから伝票らしきものを取り出した由紀夫が、奈緒美のデスクにそれを置く。
「すいませんが、ここにサインか印鑑もらえますか?」
「なに、なんなのよちょっと、どしたの? 由紀夫?」
奈緒美は必死に尋ねているのに、由紀夫は一度うなずき、冷静な顔で答えるだけだ。
「ええ、“はやさか・ゆきお”さん宛てですけど、サインは代理のかたでけっこうですよ。あとでご本人に渡して頂ければ。」
「代理・・・・って、だって・・・・どっ、どういうこと? 由紀夫じゃないの?」
相変わらず手をバタバタしてる奈緒美に、由紀夫はキツい表情を向けた。いつもの、親愛の情をうっすらとベースに引いたものじゃなくて、本気の顔で。
「だから、ここって腰越人材派遣センターですよね?だったらいいんです!届け先はここなんだから!由紀夫さんてここの社員なんでしょう?」

壊れた…!
二人は確信した。
由紀夫は壊れてしまったのだ…。
自分のことを忘れてしまったのだ…!
あの、ワガママで、生意気で、飛びきり男前で、赤ちゃんみたいに無防備なところもある、あの、早坂由紀夫は、いなくなったのだ…!

「あの、ごめんなさい。ちょっと失礼します。」
呆然としてる奈緒美の手を由紀夫、いや、元由紀夫はつかみ、そのハンコを伝票の上に押し付けた。
花束を押し付け、伝票をデスクに置く。
「そちら、お客様控になっておりますので。早坂さんに花束渡すまで、その控なくさないで下さいね。いいですねお願いしますよ。」
事務的な口調で言いながら、元由紀夫は後ずさる。まだその体に慣れていないのか、階段を昇り損ねて転びそうになったけれど、二人は笑うどころの話じゃあなかった。
もう、2度と会えなくなるであろう由紀夫を、じっとこの目に焼き付けておこう。
「どうもありがとうございました!」
怒鳴る声で言った由紀夫を、こちらこそありがとう…、そんな思いで見送った二人だった。

「で?」
「だから、あんたじゃないの…?」
「俺のアリバイはあるだろうが!正広の荷物持ちさせられてたんだから!」
驚くほど美しい花束の隣に、あまり美しくないスーパーの袋。
「だから、ひろちゃんだったら、由紀夫が赤だと言ったら、日の丸だって赤旗でしょう?」
「…なんか、危険な思想みたいですね…」
「だぁかぁらぁ!そんな事して、何の意味があるっつーの!」
「うーん…」

しかし、この3人が、由紀夫とは相当親しいはずの3人が間違えるほど、由紀夫に似た人間がいるのには間違いがない。
「あー!ひろちゃぁーん!」
そして、間延びした声で千明が登場する。入り口からすぐ見える場所にいた正広によよよ、とすがり、由紀夫を見て、あれ?と驚く。
「もぉ、帰ってたんだぁ!ひっどぉーい!あたしのことぉ、シカトしたでしょー!」
「シカト?」
「あっ!!千明ちゃんも見たんですねっ!?幽体離脱した由紀夫ちゃん!!」
「違うわよ!あれは、パラレル世界の由紀夫なのよ!」
「どこにあるんだ!そんなもん!!」
話題についていけず、千明はきょときょとん?とあちこちを見る。
「千明ちゃん、どんな兄ちゃんみたの?」
「ど・どんなってぇ…。なんか、バンに乗ってたからぁ、あたしも乗せてぇー!って手ぇ振ったのにぃ、こっち見たのにぃ、シカトしたのぉ!」
「バン!私の見た由紀夫ちゃんも、バンでした!」

一体、それは誰なのか。
豪華なオフィリアの花束は、ちょっとぉ!こっち見なさいよぉ、オーラを噴出していたが、誰にも省みられる事はなかった。

「兄ちゃん・・・・ほんとに心当たりないの?」
「あるかよ、んなもん。誰だよこいつ・・・・。配送担当“T・K”って・・・・。」

<つづく>

私にはよう解ってるんですけど、不思議な話になってますか(笑)
由紀夫のそっくりさんは一体誰なのか!お楽しみにっ!!

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

今までのGift番外編へ

What's newへ

SMAPレポートへ

SMAPメニューへ

トップへ