天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第21話中編『息子を届ける』

今までの簡単なあらすじ。

「おつかい中の正広が拾ったおじさんは、有名ホテルのスィートルームに泊まっていた。由紀夫、正広と同い年くらいの息子たちと離れて暮らしているというおじさんを、正広は少し可哀相だと思い、連絡先を教える」

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「遅くなりましたぁーっ!!」
正広が腰越人材派遣センターに飛び込んだ時、遅いっ!と全方面から、さまざまなトーンの声が上がった。
「ごめんなさーい!はい!アンアンですっ!」
「これこれー!」
「やだ、あたしもぉーっ!」
奈緒美のデスクに典子が突っ込んで行き、二人はひゃーひゃー言いながら雑誌を眺め出す。
「ひ、ひろちゃぁーん!」
「あー!野長瀬さんごめんなさーい!待っててくれたんですよねぇー、これぇー」
「そ、そぉだよぉー」
野長瀬は、昼から正広がお使いに行く方面に、好きな鯛焼き屋があり、そこの鯛焼きをたくさん食べようと、ランチは半分しか食べていなかった。
「つ・・・冷たい・・・」
「あっためます!あっためますって!!」
大好きな鯛焼きが冷たいと、7つ入り紙袋を胸に、悲しそうな野長瀬から紙袋を引ったくり、はて、これは、電子レンジにするべきか、はたまたオーブントースターにするべきか?と考え込む正広。

とりあえず急げ!とレンジで一個チンして、番茶とともに野長瀬の元に運び、えーと、次は・・・!

「あ!兄ちゃん!」
「はいっ?」
他の3人に比べて、「おそぉーい」と、ただ義理で言っただけの由紀夫は、2倍速ビデオみてぇー・・・と面白がって見ていた正広に、突如目の前に顕れられ、驚いたように顔を上げる。
「えっと、兄ちゃん!兄ちゃんには・・・」
「俺、別に何も頼んでないぜ」
「あ。そか」
「何。えらく遅かったな」
「あ、うん。あのね・・・」
正広は、何があってこんな風に遅れたか由紀夫に話した。
「なんか、可哀相だなって思って」
「何で。いくら宝くじ当たったからって、あのホテルのスィートルームに泊まるとかってヤツだろ?そーゆーノンキなヤツのどこが可哀相だってぇー?」
「だって。だってさあ。せっかく家族がいるのに、外国で会えないとかって、可哀相じゃん。それに、すっごく広かったんだよ。うちよりひょっとしたらでかいかもしんないくらいの部屋で、それで一人でなんて・・・」
いやぁ、そりゃ一人じゃねぇだろ。
そうは思っても、そういう汚れたことを、正広の前では口にしない由紀夫。

正広はちょっと黙った兄に気づかず、なおも言った。
「俺はさぁ、俺は確かに両親いなくって、兄ちゃんだって、突き詰めて行けば血の繋がりもないから、一人だけじゃん?でも、兄ちゃんは、やっぱり俺の兄ちゃんで、家族で、一緒に住んでられて、それでよかったなーって思ったんだぁー」
「正広っ!」
ヒシ!と正広を抱きしめ、由紀夫は言った。
「なんていい子なんだろう!そんないい子には、あのおばちゃんが美味しい夕ご飯を食べさせてくれるよっ!」
誰がおばちゃんよっ!!!と奈緒美が怒鳴ろうとするより半瞬早く、正広の声がした。
「何言ってんの。この事務所におばちゃんなんていないでしょー?」

「さすがにひろちゃんは物事がよく解っているわねぇー」
じゃあ、今晩はバリっ!と寿司でもっ!正広の言葉と、男性アイドルの裸体(裸体って・・・)ですっかりご機嫌の奈緒美は、ウキウキと予約の電話を入れだした。予約の人数が3人なのを確認し、早坂兄弟は体の下の方で、小さくガッツポーズ。
由紀夫のトスを正広がアタックする、誠にこずるい食費の浮かせ方だった。

 

「美味しかったぁー・・・!」
「あのトロが・・・!」
「兄ちゃん、言わないでぇ!思い出しちゃうー!」
たらふく食べて、満足しきった早坂兄弟は、一人はソファ、一人はベッドでうっとりとさっきまでの食事内容を思い浮かべる。
「ちょっと、当分、寿司食えないな」
「うん!あー、どーしよぉー!」
って、別に日頃からお寿司を食べてる訳でもないのに、正広はベッドでじたばたする。
「あ、ねぇねぇねぇ」
浮かれた様子で、正広はぴょんと立ち上がり、由紀夫に話し掛ける。
「兄ちゃん、ホテルのスィートルームとかって、入ったこと、ある?」
「入った事?入ったことは、あるかな」
「あるのぉ!?」
「届け物とかあるから。でも、キョロキョロもできねぇし。泊まったことは、ないんじゃない?」
「そっかぁー。なんかさぁ、すっごいんだよねぇー・・・」
かなり上等な寿司を食べたせいか、正広の脳は、お金持ちっていいなモードに入ってしまっている。
「いいなぁー。あんなとこ、泊まってみたぁーい!!」
「一泊50万だぞ」
「・・・ウソ」
「ってほら、織田裕二が」
にっこり笑顔で由紀夫は言った。
テレビでは、100万でレイさんの隣の部屋に二泊するんだよぉと、織田裕二扮するキャラクターが言っている。
「兄ちゃん・・・。バカ?」
「それくらいするとこあるんじゃねぇのー?まぁ、6桁は下らないかな。あのホテルだったら」

ほえー・・・と感心した様子で、はっ!我に返った正広はナイター!とチャンネルを変えた。

 

そのスイートルームのおじさんから、一人でうちにいた正広に電話がかかってきたのは、次の日だった。

「あ・・・!はい、溝口正広です」
『あぁ、あの、高橋ですけれど。あのね、ちょっと、お願いがあるんだけど』
「はい?」
『おじさんねぇ、やり直ししてみたいんだよ』
「は?」
『小さい頃から、子供の事を全然かまってあげてなくてね、まぁ、だから子供たちは外国にいるのかもしれないけれど』
明るく言ってる、寂しい声。
『だから、ちょっと、親子みたいなことを、ね』

色々あったんだろう。
それは、俺の知る事じゃないけど。
正広は、おじさんの事を気に入ってしまっていたから、親子ごっこをするのも悪くないなって思った。
「俺、いいですよ。何します?」
『そうかい?よかった、正広くんは優しい子だね』
「え?いえ・・・」
電話しながら、ぶんぶん手を振る。何だか、すごく照れた。

「今度の日曜日に会いたいって、言われたんだ」
「・・・」
仕事から帰ってきた由紀夫に、『おかえり!あのね、おじさんからね!』に続いてそう言われ、由紀夫は、一度ゆっくりと瞬きした。
「はい・・・?」
「だから、おじさんから電話があって」
「電話?おまえ、電話番号教えたの?」
「え?うん。PHSの」
「おっまえ、なんでそーゆー事すんだよぉー」
ソファに座込みながら呆れたように言うと、正広はなぁんでぇ!と頬を膨らます。
「そりゃ、PHSなんて解約しちゃえばいい事だけど、よく知らないヤツに電話番号教えたりすんじゃねぇよ」
「だって、連絡したいって・・・」
「だったら、相手の連絡先聞いときゃいいんだよ。ホテルなんだから」
「・・・俺、コンパで焦らす女の人みたいなことできねーもんっ!」
「・・・よく知ってんね」

ぶー、と膨れた正広は、じぃーっと上目遣いに由紀夫を睨む。
じっと睨まれながら、表情を変えずに胸のうちで由紀夫は小さくため息をつく。
まぁ、日頃慎重な正広が気に入ったんだから、そんなあからさまに怪しいヤツじゃないんだろうけど、本当に怪しいヤツは、見た目怪しくないもんだし。
「どこで会うんだよ」
これは付いて行かねばなるまい。場合によっては、野長瀬や千明を動員してでも・・・。
そんな兄の心を知らず、ニコっ!と正広は笑った。
「あのね!ここ!そんで、兄ちゃんもいてくれるよねっ?」

なんでやねん。

家まで教えたら、何されるか解らない。
由紀夫は正広が席を離れた瞬間、田村に電話をして、高橋についての調査を依頼した。したが、解ったのは、ホテルに残っている住所は、地方のとある巨大団地の住所であって、部屋番号までを書いていないため、嘘だか、本当だか調べるには時間がかかるという事だけだった。

めちゃめちゃ怪しいじゃねぇか!!

いざとなったら叩きのめす!そこまでの覚悟を決め、野長瀬を近所に待機させて、由紀夫は日曜日を迎えた。

「あのね。ここでお昼食べて、それから公園にいって、遊ぶ予定です!」
「・・・は?」
「テーマは日曜日の家族。最初はお弁当持ってピクニックって話もあったんだけど、うちが見たいって言われたから」
そっちにしときゃあよかったんだよっ!
そう思いながら、由紀夫は表面上、ふーんとうなずいた。
「そんで、こうも張り切ってる訳ね」
「えへ。兄ちゃんも手伝ってよぉー」

こないだのお寿司には及びもつかないけれど、今日のお昼は手巻き寿司。
家族っぽくない?その正広の言葉には、素直にうなずく。溝口のうちでは、よくやっていたから。
「家族っぽい事がしたいんだってぇ」
そこで、ようやく由紀夫も気がついた。正広も父親のいる風景が久しぶりに見たいんだ。手巻き寿司なんて、入院してからはやってないだろうし。
「おまえ、あれだよな。あんまり中身入れすぎてさぁ、手巻き寿司って言うより、寿司サンドみたいになってんの」
「だってさぁ、入ると思うしー。いろんな味が入ってたら、美味しいじゃん?」
「入れすぎ。しかも、一口で食おうとするし。おまえさぁ、いつか絶対アゴ外すぞ」
「んな事ねぇよぉー!」
言いながら、ぱぁーくぱくと大口開けて、アゴの調子をこっそりチェックしている正広をみて、由紀夫が小さく笑った時、ノックの音がした。

「あ、来た!」
パタパター!と駆け出した正広がドアを開けた。
「いらっしゃい!下のビデオ屋、びっくりしたでしょー?」
「いや、いいビデオがいっぱいあるね。ちょっと見せてもらっちゃったよ」
・・・この、声?
お茶でも入れるかい、とキッチンにいた由紀夫は、ひょいと顔を出す。

そして。

「おぉ、康晴」
「・・・何しにきやがった!このクソ親父ぃーっ!!」
忘れようにも忘れられない、実の父。俺が知る限り、世の中で一番の大ぶろしき野郎、岸和田裕二郎が笑って手を振っていた。

<つづく>

短いっすね!ここで終わるはずだったのにっ!いけない、いけないっ!がんばんなきゃ!

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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