天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

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このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第22話前編『代理で届ける』

これからの簡単なあらすじ。

「その男こそ、香港からやってきた、とある組織の男だった。その男は、正広をどうしてもつかまえなくてはならなかったのだ。正広の命が、彼の運命を変えるといっても過言ではなかった。危ない、逃げろ、正広」次回のあらすじに続く(笑)

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由紀夫は頑丈で健康。2年前に腰越人材派遣センターでインフルエンザが蔓延して、あぁ見えて撃たれ弱い野長瀬が病院に担ぎ込まれてしまった時だって、たった一人、けろっとしていた。
逆に、そんな由紀夫であるから、自分の熱が39度などという高熱であると言われて、めまいを覚える。
「さんじゅう・・・、く・・・?」
「に、兄ちゃん、落ち着いて!」
体温計を振り回しながら、正広は、しばしその場でウロウロした。
「えっと。えーっと。んと、あ、病院!病院、いかなきゃ!」
「・・・いいよぉー・・・。かったりぃ・・・」
「あっ、動けないっ?んと、じゃあ、あっ!森先生っ!森、先生・・・」
おろおろおろ、と電話を取りにいき、一度がちゃんと取り落とした正広は、そのまま主治医の森医師の携帯電話が登録してある短縮ダイヤルを押した。

「あ、先生ですかっ?あの、溝口ですけどっ!あのっ!あの、来てもらいたいんですけどっ!」
一気に喋った正広は、はい。はい。お願いしますぅ!と何度も頭を下げて、電話を切る。
「に、兄ちゃん?だい、じょうぶだから、ね。うん。すぐ、に。森先生、来てくれる。し」

どこを見ているのかよく解らない、落ち着きなくきょときょと動く正広の目線を追おうとして、軽くめまいを感じた由紀夫は、うー・・・と目を閉じる。閉じているのに、目が回ってる感覚が気持ち悪い。

そうやって苦しそうに由紀夫に目を閉じられ、正広は、ぎゅっと唇を噛んだ。でも、ひえぴたはもう額にはっつけちゃったし、とりあえず正広にできる事はなくて、ただひたすら、じりじりと森医師がやってくるのを待っていたのだが。

「おはよぉー・・・」
やってきたのは稲垣医師だった。
医師だが、獣医。
「もー、さぁー・・・、昨日遅くって、さぁー・・・」
部屋に入るなり大あくびした稲垣は、目のふちに涙を溜めながら、白文鳥のしーちゃんの姿を探す。
「しーちゃんどうしたの?」
「い、稲垣、せんせ・・・?」
「ん?何、もしかして間に合わなかったっ?」
「あぁぁっ!」
白ーい、青ーい顔色していた正広は、ダッシュでベッドサイドに戻った。どん!と音を立てて膝をつき、目を閉じている兄に悲鳴のような声を向けた。
「ごぉめぇーんっ、短縮番号押し間違えたみたいでぇーっ」
「何、何、あ、お兄さぁん?」
「そ、そうなんです、あの、あの、稲垣先生、人間は・・・」
「や、や・・・、めろ・・・・・・・・」
苦しい息の下、由紀夫が呟いた。
稲垣医師に見てもらうくらいだったら・・・、近所の薬草を適当についできた方が・・・!

「失礼な」
前髪を軽く指で払いながら、稲垣が近づいてきた。
「薬くらい解るよ」
往診バッグをがさがさ引っ掻き回す姿が、熱でぼんやりしている由紀夫には、魔女が何か恐ろしい材料の数々をぶち込んだ、地獄のような鍋をかきまわしている姿に見える。
ダメだ、その薬を、飲む、訳には・・・!呪われる・・・っ!

「ほらほら、これー!」
そんな稲垣が出してみせたのは、小鳥にえさをやるための、ちょっと注射器っぽい例の器具。
「お兄ちゃんが、お薬飲みたくないよぉ、なぁーんてワガママ言ったら、これで飲ませてあげてね。はい」

ホントに困るよぉ。
文句を言いながらも、人間の病人にはかけらも興味がないらしく、とっとと稲垣は帰っていき、正広は大きく頭を振った。
しっかりしろ!
パン!と両手で顔を叩いて立ち上がる。
「ごめんね、騒がせて。今度こそ、大丈夫だから。森先生、呼ぶね?」

じっと電話を見て、短縮は1番、と言い聞かせてダイヤルを押す。ほどなくして繋がった電話からは、聞きなれた森医師の声がした。
ホっと、正広の体から力が抜ける。
具合悪くなった時でも、実際に森に来てくれる前に、電話で声を聞いただけで落ち着いたものだった。
「おはようございます、すみません、朝早くから」
『あれー?正広くん?』
「そうです。あの、先生・・・」
『なにぃ、慎吾に聞いたぁ?』
「え?」
そう言えば、まだ家にいるかと思ったんだけど、えらく電話の向こうがざわついている。
「森先生、今・・・
『もう成田だよぉーん!』
な、成田・・・!?
『もーさぁ、学会もさぁ、ワールドカップに合わせてくれりゃあいいのにさぁ、ロンドンなんか目と鼻の先なんだしさぁー』
日頃明るい森の声が、さらに浮かれあがって地についていない。
「そ、ですか。あの、じゃあ、気をつけて・・・」
『ありがとー!お土産、ちゃんと買ってくるからねー!』
「あ、はい。どうも・・・」

電話を切って、ちょっと血の気がひいていくのを感じた。何だったら、救急車・・・!
「まぁさ、ひろー・・・」
「はいっ!」
「とりあえず、寝て、るわ・・・。奈緒美に、休む、って・・・」
「うんっ!あ、奈緒美さん、来てもらう?」
「・・・いらねぇー・・・」
「千明ちゃんとか・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・死ぬ・・・」
これ以上喋らせる訳には行かない。電話に向かおうとした正広の背中に、苦しそうな声がかかった。
「事務所の連中には・・・、黙ってろ、よ・・・」
「うん、・・・兄ちゃん・・・」

奈緒美さんたちに、心配かけたくないんだ・・・!
う・・・、と泣きそうになるのをこらえる正広だったが、由紀夫の想いはまったく別のところにあった。2年前のインフルエンザの大流行の時、各家庭を回ってまでも自分の健康さをアピールするという嫌がらせをしたもんだから、ここで自分が39度も熱を出したとばれたら、どんな仕返しをされるか!と思っただけ。
腰越人材派遣センターの人間の執念深さは、2年前のことでも、昨日のように思い出すに違いない!と由紀夫は確信していた。

事務所の始業時間まではまだ間があるから、奈緒美のうちにかけようと思ったところで、電話がなった。
「え?」
コードレスの子機を操作しようとしていたところだったので、1コールで出て、相手を驚かせた。
『もしもしぃ?』
「あ、奈緒美さん」
ナイスタイミング!まずは由紀夫の事を言って、それから自分も看病があるから休みたいといおうとするより先に、奈緒美が喋り出した。
『ひろちゃん、ごめぇーんっ!』
「え?何がです?」
『ほら、由紀夫の担当はひろちゃんって決めたじゃない?なんだけど、さっき、緊急でうちに電話がかかってきたのねぇ』

届け屋の仕事の件で奈緒美のところに直接電話をかけてくる、ということは、相当の大口顧客という事だ。
つまり、めったなことでは断れないし、断らない。
「あの、どんな・・・」
『昨日のやつ。ほら、山手線の』
「あ・・・、でも、あれもう終わったんじゃあ」
『追加が出たらしいのね。だから、9時半前後に、目黒駅から恵比寿に向かって欲しいらしいの。後の指示は、その都度』
「・・・はい」
『大丈夫?なんか、具合悪そうだけど。由紀夫に直接言おうか?』
「えっ?いやっ、寝起き、だから。9時半、目黒駅ですね」
『そう。それで、昨日とは違う人が来るから、特徴だけ言ったのね、グッチのスーツで、髪が長くて、後ろで一つにくくってて、ポラロイドを斜めがけしてるって。これ、結構ポイントだから、ポラロイド斜めがけ。スーツでロンゲなんて、いくらでもいるだろうけど、ポラロイド斜めがけはめったにいないもんね!』
愉快そうに奈緒美は笑って、乗る車両は、進行方向前から3両目、になってるから、と付け加えた。

解りました、と電話を切った時には覚悟を決めていた。

自分がいくしかあるまい・・・!

幸いな事に、兄は気絶したかのように眠って意識を失っている。このまま死ぬんじゃないかと言うことは心配と言えば、心配だが、なにせ、このうちには、自分用以外の薬もない。
9時半に恵比寿・・・。10時には戻れるかな・・・。
そーっと、兄の様子を伺えば、深い寝息は、熱で苦しいというよりも、疲れて眠い、という方が近いようで、ホっと行きをつく。
スーツは、奈緒美が自分にも作ってくれたヤツがあるから、それでいいし、ポラロイドの斜めがけもOK。

問題2つは。

「これだよなぁー・・・」
一つ目は、髪の長さだった。正広の髪は、短いか!と言えば、いや、短かねぇよ?というくらいの長さ。首にはかかるものの、くくるほどではなかった。
「でも、くくっとかなきゃ、わかんなかったら、困る、し・・・」
不器用な正広は、由紀夫の髪ゴムを使って、どうにかこうにか、髪をくくろうと努力する。由紀夫のゴムは結構太かったりするので、それがすでに間違っていることには気づかない。
「んー・・・、とっ!?」
いけたかもっ!!と合わせ鏡で見てみると。
「・・・・・・すずめ・・・?」
鏡の中の自分に問い掛ける。
「しーちゃん。俺、すずめ?」
カゴから出してもらっているしーちゃんは、首を傾げるが、どうも、賛同しているらしい。

そして問題2は、ネクタイ。そう。17年の人生のおいて、ネクタイを結んだことなど、2回くらいしか思い出せないのだ。
あーでもない、こーでもない、由紀夫は確かこうやって・・・、と、必死に思い出しながら、ものすごく不器用にネクタイを、結ぶというより、くくる。それ多分、一生ほどけない、というくらいの勢いで、なんとか、見た目だけ整えようとして。

すずめのしっぽのように、ちょん、とくくられた頭に、そ、それ、無理矢理やろ、というネクタイという姿で、正広は出かける羽目に陥った。

どうか兄ちゃんが死にませんように。やっぱり、誰かに頼んだ方がいいだろうけど、多分兄ちゃんが後から文句言わないのは、そんで、心配がないのは、典子ちゃんぐらいだけど・・・。
あぁっ!!そうだっ!今携帯に電話すれば、まだ多分会社ついてないっ!

「もしもしっ?典子ちゃんっ?」
『あぁ・・・、ひろちゃー・・・ん?』
朝から比較的爽やかなはずの典子が、なんだかおかしい。
「典子ちゃん、どした、の?」
『二日酔いぃー・・・』
「だ、だいじょぶ・・・?今日、会社、休むの?」
『んー?ここ、会社ー。終電とっくに過ぎてたからぁ、ここで、寝て、た・・・、あ。おはようございますぅー』
やばい。誰か来たんだ・・・!
『それで、ひろちゃんはー?遅刻ー?』
「あ、んっと、ちょっとお休み、したくっ・・・て」
『はぁーい、伝えておきまぁーす。お大事にぃー』
「の、典子ちゃんも、ねぇー・・・」

こういうのって、八方塞っていうのかな。
アハ。
なんか、笑える、と正広は思った。
笑ってる場合じゃないけど、あんまり、うまくいかないから・・・。

「しーちゃん・・・!」
テーブルの上で、餌をつついている白文鳥に真剣な声で言う。
「あのね。なんか、あったら、ここと、ここと、ここ押して?」
電話機の、オンフックボタンと、短縮ボタンと、短縮5番を何度も指差す。
「これ押して、これ押して、これ、押したら、俺のPHSに繋がるから。ね?しーちゃん、お願いだからね?」
いやいや、そんな事いったって、あたしはただの白文鳥。体重も軽いですし、力もないですし、こんなボタンを押すなんて芸当は・・・。
「そう言わずにぃ。兄ちゃんが・・・、だって・・・」

ぐっと涙が込み上げてきて、正広はぎゅっと握ったこぶしでそれをぬぐった。

大丈夫、大丈夫!兄ちゃんは強いんだから。とにかく、急がないと、この仕事に間に合わない。兄ちゃんが仕事ちゃんとできないなんて事になったら、困るんだから!

ベッドの側にバケツを用意して、中に氷と水を入れて、ミネラルウォーターと、タオルを突っ込んでおく。目が覚めた時に、いるかもしれないし・・・。ちょっとは違うかもしれない。

タイムリミットぎりぎりまで準備して、正広は急いで部屋を飛び出した。

 

ラッシュアワーを少し過ぎた電車の中で、正広は、時々人の視線を感じた。相手から接触してくるはずだから、と思いながらも、どうしよう、やっぱりこの髪がおかしいから、迷ってんのかなぁ、と思う。
でも、スーツは、グッチなんだ。うん。兄ちゃんほど似合わないけど、これ、一応、グッチだし・・・。でも、ロゴとか入ってないからなぁー。それとも、ネクタイかなぁ。他の人のみれば、あきらかにこれ、おかしいの解るし、なぁー・・・。

周囲の女性たちは、なんか、可愛いのがいる、という程度で見ていただけなのだが、正広は段々身の置き所がなくなってきた。
山手線の一駅間など、あっと言うまで、ホームにおりて、ホっと息をつく。この電車じゃなかったか・・・。
その場合は、再び目黒駅に戻って、再スタート。何せ、9時半前後、で、どの列車ってのがないものだから、正広だけでなく、相手も同じように、行ったりきたりしてる可能性がある。

あー、もー、早く見つけてよぉー!!
再スタート2回目で、イライラと時計を見ていると、すっと隣に立ったサラリーマンがいた。
地味な、目立たない感じの、中年男性。
この人かなぁ、と、ちょっとポラロイドの位置を変えた時、電車が揺れて、その人が大判の封筒を落とした。
あ、と拾った正広は、そのままそれを手にして立ち上がる。中年の男は、何も言わなかった。

あ。これで、いいんだ。

・・・なんか、スパイ映画みたい。

少し、どきどきする。

恵比寿で降りて、ここからは猛ダッシュで家に戻る。途中で薬局によって、薬を買い込む事も忘れない。

兄ちゃんうまくいったよ!兄ちゃん待っててねっ!薬局の袋と、封筒を大事に抱えて、正広はうちに急いだ。

<つづく>

グッチのスーツに、すずめ頭、ポラロイド斜めがけのひろちゃん・・・。なんだかかわゆらしい・・・(笑)

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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