天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第22話後編『代理で届ける』

これからの簡単なあらすじ。

「男から逃げようと駆け出した正広は、角を曲がったところで、向こうからやってくる兄を見付けた。由紀夫も正広に気づき、スピードを落とそうとするが、正広はそれを手を振る事で合図して、自分がそっちに向かって走った。それは正広に許された限界のスピードだった」次回のあらすじに続く(笑)

yukio
 

駅に置いてあった、ケッタマシーン正広号をぶっ飛ばして家に帰った正広は、足音をひそませて階段を上がり、そっとドアを開けた。
部屋の中は、シンと静かで、電話の前に大人しく座っていたしーちゃんが、あっ、と飛んでくる。
「しーちゃん・・・、シー・・・」
ちちっ!と鳴くしーちゃんに向かって指を立てて、なおもそぉーっとベッドに近寄った。由紀夫は、正広が出かけた時と同じ体勢で眠っていた。バケツに突っ込んだ氷は溶けてミネラルウォーターのボトルがぷかぷか浮かんでいるし、タオルはすっかり底。
息を殺して、ベッドに近寄って由紀夫の顔をのぞき込む。

枕に埋もれた顔は、普段はすっと形のいい、整った眉が寄せられて、滑らかな額に深い皺が刻まれていた。
汗で髪が張り付いて、苦しそう・・・と、正広までが苦しくなる。
いつの間にやら、ひえぴたの姿もない。
正広は、渾身の力でタオルを絞って、そっと汗の浮かんだ額に当てた。
「ん・・・・・・?」
「あ、兄ちゃん・・・」
うっすらと開いた瞳は、寝起きと、熱で潤んでいて、泣いてるように見える。
「あのね、薬、買ってきた。それと、何か食べた方がいいから、おかゆとか。・・・なんか、食べる?それか、飲む・・・?」
そこで由紀夫がうなずいたから、うんっ!と元気にうなずいて、コンビニの袋から、ポカリスェットを取り出す。
「えっと・・・」
自分が寝込んだ時に使う吸い飲みに移し替えて、口元まで持っていくと、ほんの二口ほど飲んだ由紀夫が、イテ・・・と小さく呟いた。
「痛い?どこ?」
「・・・ノド・・・」
「じゃあ、あんましゃべんないで。えっとね・・・」
山盛り買ってきた薬を取り出して、効能を真剣に読む。おなかに入ってなくても飲んでも大丈夫なのは、んーっと・・・。
「漢方・・・。兄ちゃん、これ、粉薬だから、オブラートに包んだげるね」
いやいや、飲めるけど・・・と、反論しようとして、喉がおっそろしく痛いため、諦めた。ここで粉薬を飲むと、なんか、荒れた喉に漢方薬の苦みがまとわりついて。
・・・そう考えただけで気持ち悪くなってきた。
「漢方だから、すぐに効くって訳じゃないけど・・・。あ、兄ちゃん、ひょっとしてちゃんとパジャマ着てないんじゃ?」

その通り。
正広がさすがの技術で小さく小さく丸めたオブラートを、ほんのわずかなひっかかりだけで飲み下した由紀夫は、いつも通り、グッチのシャツにおパンツという姿だった。
「ちゃんとパジャマ着ないと・・・」
由紀夫はパジャマを持っていない。惜しげもなくグッチのシャツをその代わりにしているのだが、それじゃあ汗をあまり吸わないんじゃあ、と正広が引っ張り出してきたのは、自分が持ってるタオル地のパジャマ。
「俺にはおっきいから、兄ちゃんでも大丈夫だと思うんだよね。あっ、タオル、タオル。ついでに汗ふいちゃって・・・」
ぱたぱたっとキッチンに入った正広は電子レンジで濡れタオル2つ3つチンさせる。
「兄ちゃん、起きれる?」
「んー・・・・・・」
時間の感覚がおかしくなっていて、正広が恐ろしいスピードで動いているように感じられる。何人いるんだ・・・なんてぼんやりと思った。
何だ?起きれるって?・・・そりゃ、起きれるだろ・・・。
いつもと同じようにベッドに手をついて、腕の力で起きあがろうと。
起き上がろうと、して。
「・・・あれ・・・?」
「あ、無理?ちょ、っと、いい・・・?」
本人はさっさと起きあがってるつもりだったのに、手をついたまま、じっとしてるだけだったようで、正広が手を貸して、よいしょっ!と由紀夫の上半身を引っ張りあげる。
「テテ・・・っ!」
「ごめぇんっ。どこっ?」
「ふ、節々ぃー・・・・・」
「熱、あるから・・・。んでも、ちょっとガマンしてね?汗ふいて、パジャマ着たら多分楽になるから、ね?」
起き上がっただけで、肘やら膝やらが悲鳴を上げる。顔をしかめたまま、由紀夫はじっと正広を見た。この痛さをどーすりゃいいんだよっ!という、何かに八つ当たりしたいような瞳。
「大丈夫。薬もちゃーんと効くし、熱はね、体の中のバイキンとか、殺してくれるんだって」
けれど正広は子供に言い聞かせるように言うと、ボタンを留めてなかったシャツを、そーっと腕から引き抜く。
「兄ちゃん、はい」
温タオルを一つ由紀夫に渡し、正広は背中をコシコシと拭く。それが温かいのと柔らかいのが気持ちよくて、由紀夫はタオルをなぁんとなく胸の前に抱えたまんま、ぼけっとされるがままになった。
「・・・兄ちゃん?」
いや、それは、自分でやってもらおうと・・・。
声かけようとした正広だったが、由紀夫の潤んだ瞳は、重たそうな瞼がおっこちそうになっていたため、これはっ!と慌てる。
ちゃんと汗拭いてっ、パジャマ着せてっ、あっ、ズボンもだっ。
上着は簡単だったが、半分眠りに落ちかけの由紀夫にズボンをはかせるのに四苦八苦して、汗かきながら正広も頑張った。
「よっしゃっ」
できたー!!首をかくんと折ったまま、じっとしている由紀夫に可愛いうさぎのワインポイントがはいった淡いピンクのパジャマなどという、にっ、似合わねぇーー!!ってものを着せて、満足そうに正広はうなずく。
「ちょと、待ってねっ」
もう、寝るぞー!って感じの由紀夫に、やっぱり何か口に入れた方がいいだろう!と風邪っぴきさんへの永遠の定番、モモの缶詰を小さ目に切って持ってきた。
「つめたぁーいから、気持ちいいよっ」
熱で乾いて、荒れてしまった唇に当たっただけでも、その冷たさが気持ちよくて、思わずパクっと口に入れる。
これは岡山の白桃缶詰。事務所への届け物をぱちって、もしくはへちって、さらには、ぎって、きた一級品。こっちも荒れた喉を、するんと通っていった。
「おいし?」
コクンとうなずいた由紀夫は、潤んだ大きな瞳をようやくちゃんと開けて、にこっと正広に笑いかける。
つられて正広も、にこっと笑った。
ようやくちゃんと兄の顔が見られたような気がする。
「食べるでしょ?」
フォークに突き刺した白桃を見せられて、こっくり由紀夫はうなずいた。

シロップまで飲んだ由紀夫は、また、イテテっと騒ぎながら横になる。
「ごめんね、起こして・・・」
正広に言われた由紀夫は、ううん、と首を振って、今度は頭痛にイテっと眉をしかめて目を閉じた。

静かにソファまで移動して、正広はホっとため息をついた。
よかった・・・。食べられるくらいだったら、そんなにまだ心配しなくっても・・・。
はー・・・!ソファに大の字になって、イテっ!と起き上がった。
「あっ!」
背中とソファの間に入り込んでいたのは、斜めがけにしたままのポラロイド。
「俺・・・、とてつもないカッコ、だった・・・」
出かけた時のままの妙なスーツ姿。こんなカッコだったのに、由紀夫からのリアクションがなかったってことは、やっぱり具合悪いんだ・・・。
大丈夫、かなぁー・・・。
ポラロイドをテーブルに置き直し、由紀夫の方に意識を向けようとした正広は、かさりという音にはっと我に返った。

音の正体は、正広が受け取ってきた封筒。
「次、何時・・・っ?」
封筒の中身は厳重に封をされた封筒と、メモ用紙。そのメモに12時半、新橋から有楽町行き、グレーのスーツ。眼鏡。と書いてあった。
「うわっ、急がなきゃ・・・!しーちゃん、しーちゃんっ」
はぁーい。素直にすっ飛んできて、ちょこんとテーブルに降りたしーちゃんを、真剣に見詰める。
「ね、覚えてる?兄ちゃんになんかあったら、ボタン、3つ押すんだよ?いい?」
え、いや・・・。どうかんがえても、それは・・・。
「ねぇー、お願いだからぁ!ね?ね、しーちゃん、お願いっ」
だから、いくらてをあわせられても・・・。そりゃ、あたしだってひろちゃんのいうことはきいてあげたいけども、とりにもできることとできないことが・・・。
それでもしーちゃんは一応うなずいた。
大好きなひろちゃんに逆らったりなんて絶対できないしーちゃんなのだから。

 

パタン。
静かにドアが閉じた途端、ぴくりともせずに眠っていた、はずの由紀夫がガバっ!と起き上がった。が、イテテテテ・・・・と関節の痛みにのたうち回る。
「イッテ・・・、チキショ・・・っ」
しかしその痛みを無視して、窓にひっつき、正広の行方を伺う。ビデオ屋の出口から出てきた正広が自転車で去って行く方向を確かめ、駅か・・・と大よその見当をつけた。
いっくら熱があって視界がぼやけてたって、これだけの至近距離で見て、正広の異常な様子に気づかないはずがない。
最初に、何だ、この頭、と思って、それから、ネクタイ・・・?スーツ・・・・・・!?ポラロイドぉっ!?
全身像を確認して、それが自分の仕事用のスタイルだと思い至った。
兄が熱を出している時に、兄のカッコをして楽しむ趣味は弟にはなんだろうから、それは自分の代わりに仕事をしようとしていると考えるのが自然。
これは放っておくわけにはいかん!!と弱った体にムチ打って起き上がる。
「イッテ・・・」
苦労して、Tシャツとジーンズに着替えた由紀夫はスニーカーをひっかけて、よたよたとベッドから離れる。
「どっこ行ったのかな・・・」
駅と行っても、列車は2方向に向かっているし、本数を考えても、すでに列車に乗ってる可能性も・・・。
「しー。おまえ、正広がどこに行ったか・・・、しんね・・・?」
あっ!おにいさんがおきてるっ、こ、これは、ひろちゃんにゆったほうがいいのっ?ど、どぉしようっ!
きょときょとっと首を動かすしーちゃんは、ぱたぱたっと軽く飛んで電話に近寄る。おせるっ?あたし、おせるっ?
「あ」
しかし由紀夫は電話の側でかわゆらしく首を傾げてる、そんなしーちゃんに頓着せず、今までしーちゃんがいた場所においてあるメモを手にした。
「12時半、新橋・・・」
しーちゃんがふんづけていたらしい。
「しー!よくやった!後で、肉でも、魚でも食わしてやっからなっ!」
え、いや、あたし、にくもさかなもたべませんし、あら、にいさんっ?おにいさんっ!?

イテテテテっ!!しかし、そんな声を残して、由紀夫の姿はもう部屋にはなかった。

 

2度空振りして、新橋駅から3度目のスタートになる正広は、ふぅ、とため息をついて3両目に乗る。
しっかり封筒は持っているから、これを渡すだけでいいはず。後は、受け取りだけど・・・。兄ちゃん、どうしたんだろ・・・。だって、こんな電車の中でポラロイドなんか撮ったら目立ちまくりだし・・・!
んっと、ずっと遠くから撮るとか。
いや、それじゃあ盗撮マニアみたいになっちゃうし・・・。
うーん・・・。
正広はさっきから、そればっかりを考えている。ポラロイド、ポラロイド・・・。そんなもんだから、電車の揺れに抵抗しきれず、何度か人にぶつかった。
すると、真っ昼間にしてはちょっと混んでいる社内で、でも、ことさら近づいてきたグレーのスーツで眼鏡をかけたおじさんが、正広が持ってるのとそっくり同じ封筒を網棚に上げた。
あ・・・!
ドキっとしながら、正広も同じように封筒を置く。
しばらく動きがないから、あ、違うのかなと思った時、電車は有楽町につき、間違いなく正広の封筒を手にした男が電車から降りようとした。
あ!と自分も封筒を手にホームに降りた正広は、どうにかして受け取りを・・・!と焦って、それでも、でっきるだけさりげなく追いかけるんだが、男は全然気がつかない。
あー!せめてトイレにでも入ってくれー!!と思ったら、自動販売機の前で立ち止まり、ジュースを物色し始めた。封筒を顔の側にあげて。
・・・撮れって、事・・・?
焦りながらも、ポラロイドを開いて正広はシャッターを押し、男はそのままジュースを買わずに改札を抜けた。

あ。よかった・・・・・・。
ホっと胸をなで下ろし、代わりの封筒を見る。中身は空で、次の指令はもうない事をあらわしていた。

 

よかったぁー。これで後は兄ちゃんの看病ができるー・・・。
そう思いながら、帰りの電車に乗ろうとした正広は、どん!とぶつかられて、よろける。
でも、「すみません」と謝って、電車に乗り込む。
さっきはモモカンだったから、今度は、ゼリーとかプリンとかしようか。いや、ちゃんと料理つくって、おかゆとか、雑炊とか・・・。

考えてみれば、あまり兄のために何かできる事ってないよなぁー・・・、と常日頃、家事を一手に引き受けているにも関わらずウキウキしてしまう正広だった。

 

さて。時間を少し溯ってみると、由紀夫は電車に乗るガッツもなく、タクシーで新橋駅に乗り付け、正広の最後の1回に間に合う事ができた。
昨日と同じだから、たいして面倒はないとは思うけど、相手を間違わないかとか、受け取りの撮り方がちょっと特殊なんだけど、とか、はらはらしながら正広を見ていたら、ちょっと見覚えのある顔が、何やら一心に考え事をしている正広に近づいていくのが見えた。
目立たない、おやじジャンパーにおやじズボン。まさか受け取り相手じゃないだろうし、でも、だったらなんで覚えてるんだ?
熱でボーっとする頭で、色々な人物を思い浮かべる。
手持ちのおやじカードは、仕事柄いくらでもあって、しかもやたらと鮮明だったりするもんだから、苦しくなってくる。
やば・・・、吐きそう・・・。
そう思った時、電車の揺れに任せて、男が正広にぶつかった。
「あ・・・っ!」
思わず声が出て、慌てて口を押さえる。
思い出した・・・!

田村のコンピュータに映っていた映像。
『これなぁー、有名な、スリの顔写真ー。電車乗ったら、気ぃつけなぁー』
スリ・・・!って事は、正広の財布っ!?

すぐに有楽町に電車はつき、正広はグレーのスーツの男を追いかけたが、由紀夫はぷらぷらと正広から離れた男の襟首をとっつかまえ、有無を言わせず引き摺り下ろした。
「なっ、何だっ!?」
「てめぇ。今、掏ったもん、返せ」
「・・・何だとぉ・・・?」
年期の入ったドスの効いた声と顔だったが、こちとら熱で頭がガンガンして、電車の揺れで吐きそうになってる、不機嫌極まりない由紀夫。そんなもんじゃあひるみもしない。
「てめぇがスリなのは解ってんだよ。とっととあいつに財布返してこい。さもないとなぁ」
一目につかない柱に男を押し付けた由紀夫は、低い声で言った。
「吐くぞ」
「へ?」
「俺、今吐く寸前だからなぁ。頭の上っから吐いてやろうかぁっ?ついでに指も折っとくか?調子悪いからなぁー、加減できねぇしなぁー」
へらへら笑いながら、いきなるウッ!と口元を押さえた由紀夫に、男は慌てて頭を庇う。
「どーすんだよぉ。返すのか、返さねぇのかぁ」
「か、返します」
「よっし。ポケットの中のもん、全部出せ」
「え?」
「出せよ。人質だよ」
「そんなぁ・・・」
「逃げようったって無駄だからな。俺の記憶力なめんなよ。てめぇの顔、ぜってー!忘れねぇからな。ここで逃げたら、絶対つかまえて・・・」
くくく、と笑われて、男はポケットの中身を巻き上げられ、ただちに正広に財布を返した。

よしご苦労、とえらそうに人質を返してやった由紀夫は、安心した男の側でまた口元を押さえ、あわわ!と逃げられるが、
「飲んじゃった」
とケロっと言い捨て、改札を抜けた。

やはり電車に揺られて帰るガッツはないのだった。

 

「ただいまー・・・」
あれこれ材料を買い込んで正広が帰った時、由紀夫はちゃんとパジャマを着てスースー寝ていた。
「しーちゃん、ただいま」
なんだか、すっごくきょときょとしてるしーちゃんに話し掛けながら、とりあえず着替えて(でも、ネクタイは切ってやろうか!!ってくらい時間がかかった)、兄の額に手を当てると。

「うわあ・・・」
熱い。汗もかいてるし、顔も赤い。
「出かけたりして、ごめんね・・・」
ちょっとぐすっとなりそうになりながら、汗を拭く。
兄にはまだ起きる気配はなかった。

 

その日、正広の献身的な介護のかいあって、夜には自力で起き上がれるようになった由紀夫だが、いつまでも、いつまでも、腕が痛いだの、足が痛いだの言っては甘えてくる。
もう、にーちゃん一人で食べなよぉー。
なぁんで、にーちゃん、そんな重たいもんもったら、腕あがんねーよぉー。
正広の介護心を満足させ、由紀夫の楽したがりをもカバーした、突発性の原因不明熱は、次の朝、発生と同様にいきなり完治した。

 

<つづく>

いや、あの、由紀夫の病気シーンは、もう一人の私がとめてくれなんだら、もっと延々書いてたんやろな・・・って感じ(笑)アホですわ。アホ(笑)

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

今までのGift番外編へ

What's newへ

SMAPレポートへ

SMAPメニューへ

トップへ