天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第23話『傘を届ける』

これからの簡単なあらすじ。

「由紀夫は様子のおかしい弟を自転車に担ぎ上げ、いきなりターンをかました。絶対手ぇ離すな!と言った由紀夫は猛ダッシュで黒尽くめの男を振りきる。
由紀夫たちの姿を見送った男の前に、黒塗りペンツ!が止まった」次回のあらすじに続く(笑)

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雨、ね・・・。
千明は心で呟いた。
日本には四季があって、梅雨があって、情緒があって、とっても素敵・・・。

「だなんて事ぜぇったいに思わないからぁーっ!!!」

「千明ちゃん!大丈夫ー!?」
「大丈夫じゃなぁーいぃー!」
ずぶぬれで事務所に飛び込んできた千明を見て、正広はタオル片手にすっ飛んで行く。
「もぉ、新しいワンピースなのにぃー!」
「ちょっとあんた!その辺に水飛ばさないでよぉ〜?」

イベントコンパニオンも一応抱える腰越人材派遣センターなので、多少はそれらしい制服もあったりする。とりあえずそれに着替えた千明は、ブーっと膨れた顔で髪を拭く。
「どこ行ってたの?」
「あのねぇ、買い物してたのぉ。でもぉ、欲しいのなくって、そだ、由紀夫に会いに行こー!と思ったら、雨振り出してぇ」
じっと見詰められて、それまで我関せずだった由紀夫も見つめ返す。
「ゆ、由紀夫・・・?」
「梅雨時に傘も持ち歩かないってのが、千明らしい頭の軽さだよな」
「ぶぅ」
唇とがらせて、ブゥブゥ文句を言う千明に、正広が紅茶を手渡す。
「あっ、ありがとぉー」
「ひろちゃん、それ、ティーバックでしょうねっ?」
「ひっどぉーい!奈緒美さんったらぁー!」
千明用のマイメロマグカップを両手に、きぃー!と立ち上がり、正広が慌ててマグカップを押さえる。
「こっ、零れるっ!」
「あ、ごめぇん。あのねっ、ひろちゃんっ、あたし、おなかすいたぁ」
「クッキー食べる?」
「食べるぅ」

正広の机の上に舶来の(笑)クッキーの缶が広げられ、きゃいきゃいっ!と昨日のテレビをし始めた二人を見て、マニキュア中の奈緒美は小さく呟いた。
「ここは女子校の教室・・・?」
「ディケアセンターよりマシだと思うけど」

「何っ!?それ、あたしに言ってんのっ!?」
由紀夫の言葉に、ソファにうつ伏せになり、野長瀬に背中を揉ませていたジュリエット星川が声を上げる。
「大体、あんたそこで何やってんのよっ!」
「マッサージでしょっ!こいつの数少ない取り柄なんだからっ!」
「あー、やだやだっ!梅雨どきになると関節に来るらしいわねっ」
「人を年寄りみたいに言わないでよねぇー!」

今現在、腰越人材派遣センターには、社長の奈緒美以下、社員の野長瀬、由紀夫、正広。客、とは言い難いが、他に説明のしようもないジュリエット星川と千明がいた。
窓の外は雨。いかにも梅雨らしい、シトシトとした雨だった。

「梅雨かぁー・・・」
仕事が自転車メインの由紀夫は雨が嫌いで、うっとぉしい表情で窓の外を眺める。
「俺が寝てる間だけ降りゃいいのによぉ・・・」
「そよねっ、あたしもそ、思うっ!」
クッキーでおなかを膨らませた千明が、ぴょんっ!と由紀夫の腕のつかまろうとして、空振りする。
「きゃんっ!?」
由紀夫は反射神経の固まりなため、座っていた自分の席から立ち上がっていた。
「いったぁーいっ」
それくらいの事で座席に鼻をぶつけてる千明を見て、由紀夫はひょいとかがんだ。目の高さを千明に合わせて、首を傾げる。
「運動神経、どこに落として来たの?」
「えっ?」
「あっ!あたし見たわ、千明の運動神経」
「どこぉ?」
「あのー、あそこのコンビニの前の溝」
「うっそ。違うよ、角の喫茶店でさ、窓際の席の下に転がってたぜ?」
「見えた・・・っ!あんた!海よ!海に行きなさい!北の海!水晶は嘘をつかないから!」
「取ってくるぅー!」

すくっ!ぱたぱたっ!走り出た千明を見て、一瞬全員は言葉を失った。

「え?」
正広が大きな目を真ん丸にした時、ドアが開く。
「・・・あたし、そこまでバカじゃない、もん」
「そだよねぇー」

びっくりした顔のまんま、正広は千明を迎える。今度はアイス食べる?と誘い、うん、と千明はうなずいた。
腰越人材派遣センターは、再び女子校の教室になった。

 

千明自身にも不思議だったけれど、千明は傘を持っていない。
大きな理由は、買っても、どこかに忘れるから。
「だぁって、好きじゃないんだもぉーん」
あれから何日かして、千明はまた雨に降られ、レストランの軒先で雨宿りをしていた。テレビ大好きな千明だけど、天気予報なんかは見ないから今日の降水確率が100%だった事ももちろん知らない。
「やだなぁ、やっだなぁー」
スリップドレスに、底厚のサンダル姿の千明は、えい、えいっと、落ちてくる雨粒を蹴る。静かに降り続ける雨を見あげてると、なんとなく口をついた歌。
「・・・あっめ、あっめ、ふっれ、ふっれ、かぁーさんがぁー・・・♪」
「あれぇ?」
レストランの裏口付近に立っていた千明は、後ろから声をかけられた。
首を巡らした千明の目に入る、後ろで一つにくくられた長い髪。大きな、綺麗な二重の瞳、テンプレートになるほど綺麗な眉、柔らかそうな唇。
「あ」
「千明ちゃんじゃん」
「・・・拓ちゃんだあ」

由紀夫とうりふたつの拓が、花屋のエプロンをした姿で立っていた。
「あ、何?千明ちゃんも俺ら区別つくようになった?」
「だって、由紀夫、『千明ちゃん』っなんてゆってくれないもんっ」
「あ、そっか」
由紀夫と拓は顔の作りはうりふたつ。表情だって二人とも魅力的なものばかり。声も、口調も、区別をつけられるところは、ほとんどない。
千明が解るのは、自分に優しいのは拓くらい。
「どした?傘、ない?」
「うん。ないの」
「俺さ、今、中で活け込みしてんだけど、後ぉー、30分くらいかかっちゃうんだよなぁ・・・。あ、傘あるから、それでよかったら貸すけど?」
「え、んと・・・」
千明はすぐにはうん、と言えなかった。
「あの、ありがと。でも、いい」
「そう?」
「だって、この服に合う?」
「あ。そりゃ無理。ごめん。透明ビニール傘だし」
気を悪くした風もなく、さすが女の子!と拓は笑った。
「似合わない傘を持つくらいだったら濡れた方がマシ!」
偉い!と肩を叩かれ、えへ、と千明は笑う。
「じゃあ、どーする?車で待っててくれたら、送ってけるけど」
「んー・・・」
どっしよっかなぁー・・・、と千明が考えていると、すぐ側を傘を持ったお母さんと、そのお母さんの足にまとわりつくような、レインコートを着た子供が通り過ぎて行った。
「あ」
「ん?」
「あの、ねぇ」
「うん」
「そう言えばあたしねぇ、ジャノメって、知らないの」
「ジャノメ?」
ミシン?と足踏みの動作をする拓に、首を傾げる千明。
「どんな乗り物?」
「乗り物ぉ!?」
「だって、ジャノメでお迎え、でしょう?」
「あぁ、雨、雨、降れ降れ、かーさんが?」
「うん」
こくん、とうなずかれ、拓は小さく笑った。
「違う。あれは傘だって」
「傘ぁ?」
「時代劇とかで、持ってる傘あるだろ?あれが蛇の目」
「時代劇・・・?」
千明は時代劇は見ていないので、それが頭に思い浮かばなくて、ん?ん?ん??と首を傾げて、傾げて、このままじゃあ、インコみたいに一回転するんじゃあ!?というところまで傾げて、「わかんないっ」とくるっと元の位置に戻す。
「でも、今まで知らなかったか。これで一つ賢くなったね」
よしよし、と拓は千明の頭を撫でる。由紀夫の弟である正広とか、この千明とか、自分と大して年が離れている訳ではないのに、妙に幼いところがあって、拓は気に入っていた。

えへ、と笑った千明は、子供にまとわりつかれながら歩いていったお母さんの背中を見送る。
「いいなぁ。あたしぃ、おかーさんのお迎え、とかなかったもん」
「え?」
「あたしね、おかーさんいなかったからぁ、お迎えはね、なかったの」
まだお母さんの背中を見ながら千明が言う。
「でもね」
そして、急に拓を見上げた。
「みんな、服に合わない傘ばっか持って来てたの。なんとかちゃんちのおかーさん、センスなぁーい、とか思ってた」

ケラケラ笑って、千明は少し雨脚の弱まった空を見上げる。
「なんか、やむかも知れないから、もうちょっと様子見るっ」
「ん。じゃあ、30分してもやまなかったら、乗ってきな」
「うんっ!もぉ、拓ちゃんってぇ、すっごい優しいぃーっ!」
キャー!!と千明に手を振られ、レストランに戻って残りの活け込みをやっていた拓は、窓の外の風景に、思わず笑った。

 

「あっめ、あっめ、ふっれふっれ、かっあさっんがぁー、じゃっのめっで、おっむかっえ、うっれしっいなぁ〜♪」
雨の日は嫌い。濡れちゃうし、似合う傘はないし、・・・お迎えもないし。
そんな事を思いながら、千明は歌っていた。
「ぴっちぴっち、ちゃっぷちゃっぷ、らん、らん、らんっ♪」
「おっめぇ、音痴だなぁ・・・」
「由紀夫ぉ!」
今度は迷う間もなく言えた。そりゃもう、グッチのスーツに、銀の自転車、ポラロイドの斜めがけ。定番スタイルの由紀夫が、ビニール傘を手に自転車にまたがっている。
「何やってんの?おまえ、また傘持ってない訳?」
「うん、だってぇ」
「あ。ちょーどいいや。おまえ、これ持て」
「えっ?」
よりにもよっての透明ビニール傘を持たされ、えぇっ?となる千明。けれど、濡れた手を惜しげもなくグッチのスーツで拭いた由紀夫にてきぱき!と指示された。
「後ろのステップ乗って、この傘、差し掛けてろ。片手じゃ運転しにくくてしょうがねぇよ」
「えっ!乗せてくれるのっ!?」
「傘持ちだしな。ほら、急げって。濡れるだろ?」
「はぁーいっ!」
ヒールの高いサンダルでも、平気でステップに足をかけ、由紀夫の上に傘を差しかける。
「そこまで降ろしたら前みえねぇ。もうちょっと上」
「こぉ?」
「んなもんかな。おっこちんなよ」
「うんっ!」

自転車が雨の中走り出すと、雨と自転車の向き関係により、千明の体にはあまり雨がかからなかった。
あれ、と思う。
あれ。だって、由紀夫が濡れちゃう・・・。
けれど、傘を降ろそうとすると、ジャマだ!っつてんだろ!と怒られる。
・・・だって、透明な傘なのに・・・。粉は吹いてるけど・・・っ。
「由紀・・・」
「正広から招集かけられてさ、事務所でなんかするつってるから、おまえも来るだろ?」
来るだろもへったくれも、自転車にまで乗せといて。
だから、千明は思いっきり由紀夫に抱き着いた。
「行くぅー!!」
「バカっ!倒れるっ!」
「由紀夫、だぁいすきぃーっ!!!」

急ブレーキをかけた自転車から千明は振り落とされ、腰越人材派遣センターまでの250mを透明傘を手にダッシュする事になった。透明傘の先を握り締めた由紀夫が自転車をぶっ飛ばしたせいである。

 

活け込みが終わって、拓はバンに残っていた鉢植えを千明に上げようと腰越人材派遣センターを訪れた。
「ちぃーす、日比谷フラワーセンター・・・、あぁっ!!」
「あ、拓さんだぁ」
「何やってんだよぉ!」
これが営業中の事務所か!?という事務所内を見て、拓が声を上げる。そして、一同が声を上げた。
「流しソーメーンっ!」

『梅雨をぶっとばせ!大流しソーメン大会!!』
派手な垂れ幕が事務所のあちこちにかかってる。
「もう、ジメジメした気分はまっぴらだから。拓くんも食べてく?」
「こーゆー事なら、どーして俺を呼ばないんですっ!器とかだってもっと!あー・・・でもなぁ、やっぱ、自然の元でやってこその・・・」
何にせよ、本物好きの拓はブツブツ言うが、これは結構本格的。本物の青竹をつなぎあわせてつくったレーンに、冷やした天然水に、小豆島手延べそうめん。アジャスターをつけて、事務所のすみずみにまで行き渡るようにしたもんだから、そこらじゅう水びたし。
「拓さんも食べません?付けダレも色々なんですよっ。お勧めはねぇ、このツナゴマタレ!」
正広にガラスの器を差し出され、勢いで受け取った拓はとりあえずいただくか、と、そのお勧めのタレを器にいれた。

明らかな作為が見えたくじ引きの結果、そうめん流し役を仰せつかっている野長瀬がそうめんを流し、ピラニアのように上流でかまえている一同が、慌ててそれをすくいあげる。
「おっまえ、不器用だなぁ」
全然とれてないのが千明で、長めの塗り箸で苦労していた。
「え。塗り箸しかねぇの?」
箸使いにはそれなりに自信はあるものの、流しそうめんで・・・?と不安を覚えた拓が聞くと、当然!と奈緒美が答える。
「フォーク、ナイフを美しくつかえるように、お箸だって美しく使えなきゃしょーがないのよっ!さっ!流してっ!」
「社長、食べさせて下さいよぉー」
「くじに負ける、あんたがいけないんでしょぉー?」

「そだ、千明ちゃん、これ上げる」
一段落ついた頃、拓は持ってきていた鉢植えを千明に渡した。
「わぁ紫陽花ぃ?どして?どしてくれるのぉっ?」
「ん?花言葉がぴったりだから」
「なぁにっ?」
ワクワクっ!とする千明に、にっこりと拓は言った。
「『浮気』」
「えぇーっ!?なぁんで、なぁんでぇっ!あたし、浮気なんてぇ!」
「せっかく俺が送ってってやるっつったのにぃ、ビニール傘の人なんかと行っちゃうしぃ」
「あ、だって、それ・・・」

「え。じゃ、あの、拓さんと、千明ちゃん、ってぇ・・・」
おどおどと正広が二人を見て、拓とそっくりの顔の由紀夫を振り返る。
「あ。由紀夫、ちょっとショック受けてんじゃん?」
「・・・ショック」

ショックですってぇーーーーーーーー!!!!あたしが、拓ちゃんと付き合ってるって、由紀夫にはショックな事なのねぇーーーーーーーーーーーー!!!!

舞い上がり、舞い上がり、天井を突き破ってでも舞い上がろうとした千明は、地上15cmで叩き落とされた。
「庭先に来てた子供の野良猫が、ある日腹がでかかったくらいショック」

どゆことよぉっ!!

ぎゃーーー!と怒鳴る千明に、知らん顔する由紀夫。
意地悪ばっか言う!全然優しくなぁい!
でも、由紀夫がお迎えにきてくれるんだったらぁ、ビニール傘でも、破れた傘でも、折れた傘でも、なんだかわかんないけど、ジャノメでも、なんでもさすっ!
由紀夫が迎えにきてくれたから、雨も悪くないなって、今日の千明は思っている。

 

<つづく>

先日、赤い怪獣に、今日のギフト何がいい?と尋ねた。今日の!?と言われた。そんな前々から考えてるかい!!しかし、彼女はひろちゃんを出してくださいとしか言わないので、あまり参考にならない(笑)
なので、突然、野長瀬智子おねいさまの拓様に出ていただいてしまった・・・!おねいさま、許可もなくごめんなさいっ!!

 

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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