天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第25話後編『願い事を届ける』

前回のあらすじ?
「夏といえば、怪談。怪談といえば、日本人形。そんな訳で、人形に体を乗っ取られてしまった正広の明日はどっちだ!!」

yukio
 

「あ・・・、頭、いたぁい・・・」
「んー?熱かぁ?」
鈍い頭痛とともに目を覚まし、低く唸った正広に、由紀夫は親切ごかしに声をかける。
「ね、つぅ・・・?」
「あ、熱ある!」
額に手を置いた途端大袈裟にそういった由紀夫は、これは大変!とそそくさと電話に近づいた。

「もしもしー?今日さぁ、正広熱があるから休ませるー。んで、俺も看病あるから休むなー、じゃあなぁー!」
「えっ!?」
ガチャン!と受話器のおかれる音とともに起き上がろうとした正広は、鈍い痛みに、またベッドに倒れ込んだ。
「イッタ・・・っ!に、兄ちゃん、何言ってんの・・・っ?」
「ん?熱があるから休ませるって」
「・・・だ、いじょうぶだってぇ・・・!」
今までだって、熱が出た事は何度もあったし、別に自分一人で大丈夫だった。けれど、確かに、この痛さは未経験のもので、さすがに病院行った方がいいかと正広は考える。
「・・・やっぱ、病院・・・」
「ん?いや、多分そこまでしなくても寝てれば治ると思うけど。水でも飲んでさ、あ、おかゆ食う?」
うん、と反射的にうなずきながら、なんでそんなに手回しが?と、ちらっと正広は思った。

だって二日酔いだもんねー♪
手回しよく用意していたおかゆを温めながら、由紀夫は小さく舌を出した。

 

「うまい?」
「ん・・・」
冷たい水がずいぶん美味しいと感じ、さらに、おかゆもあっさりしてて美味しかった。頭痛も治まるような気がした。
「なぁ、ひろ」
「ん?」
「これ」
綺麗になくなったおかゆの器を正広の膝の上からどかせて、由紀夫は、例の小さな人形を見せた。
「どこで拾ったって言ったっけ」
「それ?・・・だから、気がついたら、自転車のカゴに入ってて」
「どこ行った時?」
「・・・?買い物?あの、あそこのスーパー」
何を聞かれてるのか解らずに、正広は首を傾げる。
「何、どしたの、兄ちゃん」
「これさぁ、おまえどう思うよ」
ポンと手のひらに置かれて、じっと見つめる。赤と金の生地、子供が書いたような、目鼻立ち。バランスも悪いんだけど。
「可愛い・・・、よねぇ」
「それ、なんだと思う?」
「え?」
手のひらサイズの、三角形なお人形。
「何・・・って」
「何、それ」
そんな事聞かれたって・・・。
何だか頭も重たいし、あんまり考えたりできないのに・・・。
「・・・織姫」
けれど、ポツンと言葉が出た。

え?と自分でも驚くけど、確かに自分の声だし、一度そう言ってしまえば、それは確かに織姫だと思えた。

「七夕かぁ」
今日が、7月7日、七夕当日。ひょいと正広の手から人形を取って、しげしげと眺める。
「でも、七夕って人形なんか作るのか?」
「・・・そうだよ、ねぇ・・・。七夕って言えば、短冊に願い事でしょー?」
うーん、と正広は考え込み、ずきん、と頭痛を覚えて額を押さえる。

「これな、手作りだよな」
「そう・・・、だろうねぇ」
「多分、無くした人が探してると思うんだ」
「あ、そっかぁ・・・」
真剣な顔でじっと見詰められ、こくこくと正広はうなずいた。
「じゃあ、俺、探してみるよ。スーパーまでは空だったと思うし、だから、スーパーからうちまでの間のどっかで」
「いや、でも、おまえは今は動けないだろ?」
「そりゃあ、まぁ・・・」
「だから」
「うん」
「俺が、絶対に、元の持ち主のところに、帰してやる」
「あ、・・・うん?」
小さな人形を正広に見せて、もう一度由紀夫は言う。
「絶対、帰してやるから」

ちょっと首を傾げるようにして、正広はこくんとうなずいたが、その途端、手の甲に何かが落ちて、え?と手を顔に近づける。
「あれぇ?」
驚いて両手で顔に触る。
「何?何でっ?」
突然零れてきた涙に、正広はおろおろと目元を拭った。
「熱だろ。寝てれば治るよ」
濡らしたタオルを正広に渡し、くしゃっと前髪を撫でる。
「・・・なんか、俺、おかしくない・・・?」
横になろうとした正広は、心配そうに由紀夫を見上げるが。
「いや。いつもそんなもん」
「ちょー!それ、どーゆー事ぉ!」
兄の返事に大声を上げ、ズキーン!ズキーン!!と激しい頭痛に、きゅう、とベッドに倒れ込んだ。

寝なさい、寝なさい、と正広を眠らせた由紀夫は、昨日みたいな事になるかどうか観察していたけれど、正広はいつも通りの正広で、時々暴れはするものの、それもいつもと変わらない。

正広が人形がもらった日の事を思い出しながら、スーパーからうちまでの道のりを思い浮かべる。
何があるかなぁ、と考えていた由紀夫は、ふと、その日は風が強かった事を思い出した。
こんな時には、というか、こんな時にしか役立たないヤツが、と受話器を手にする。
「そう。3日前。んーと、夕方だな。夕方、この辺りってどっちからどっちにどれくらいの風が吹いてたか。・・・?バッカ、すぐだよ、すぐ。すぅぐぅ!解ったぁ?急げよっ!」
何様だおまえ!!という傲岸不遜さで田村との電話を切り、住宅地図を広げ、テーブルの上においた人形に、小さく声をかけた。
「絶対帰してやるから、大人しくしてろよ?」

「・・・・!」

と、ベッドの正広が何か言った。
「えっ!?」
ベッドに近づくと、もう一度、正広は言った。

「かえして・・・」

「解ってるけど・・・、ねぇ・・・」

 

さすがの田村から、5分で連絡を受けて、ここらあたりか!!と当たりをつけた由紀夫はおもむろに正広を起こした。

「ん・・・、なにぃ・・・?」
「俺、すっかり忘れてたんだけどさぁ、これ、野長瀬から借りてたんだけど」
目の前で、ちらちら振られてるものに焦点を合わせようとした正広は、頭痛をものともせず、ガバっ!と起き上がる。
「実況パワフルプロ野球エクストラ98っ!?」
「そりゃあ高橋も大活躍さぁ。やる?」
「やるっ!」

正広がもっとも高い集中力を見せるのは野球に関する事。それはナイター観戦であっても、プレステであっても、サターンであっても、64であっても関係ない。
二日酔いなんてどこふく風、パジャマのままテレビの前に陣取る正広は、キラキラ輝く瞳でゲームに熱中する。
由紀夫は、小さく笑った。
一度始めたら、5時間、6時間は当たり前。訳の解らないものに、勝手に体を使われるような隙は与えないはず。

「正広、ちょっと出かけるな」
「え。うん」
『ザ・生返事!』
けれど、それこそが目的だった由紀夫は、気にせずに、人形を持って部屋を出た。

 

「んー・・・」
スーパーまでたどり着いて、自転車置き場に足を向ける。カゴの中に入っていたって言うのなら、ここでと考えるのが自然だろう。
風向きがこうだから・・・、と考えながら、ポケットの中の人形を取り出す。

人形には、魂が宿るとか言うけど、そういうオカルトな人形かなぁ・・・。
明るい日の下では、そんなおどろおどろしいものは感じられない。
この着物地がちょっと怖いんだよなぁ。

「あぁーっ!!」

突然真横で叫ばれ、さすがにビクっ!とした由紀夫は手のひらから、人形を取りこぼす。
その人形をはっし!と受け止めたのは、まだ小さな女の子。
「おひめしゃま!」
「びっくりしたぁ!そう、お姫様」
「おりひめしゃま」
「よく解ったなぁ!こんなもんが織姫に・・・、って、えっ!?」
「ママァ!おりひめしゃまー!」

ジャンプともスキップとも地団太ともつかないステップで暴れている女の子は、手足をばたばたさせながら母親を呼ぶ。
「はいはぁーい、どしたの、みよちゃん!」
「これ、これぇ!」
「あらっ」

スーパーの袋を提げたお母さんは、みよちゃんの手の人形を見て、目を丸くした。

 

「あそこに下げてたんですよ」
スーパーの裏手にあるマンションの8階。由紀夫はコーヒーを前に、ベランダを見ていた。
七夕らしく、短冊の下げられた笹が飾られている。4歳だというみよちゃんがその笹から、青と金の着物地で作られたもう一つの人形を持ってくる。
「これ!」
「可愛いねぇ。みよちゃんが作ったの?」
まるっきり悪気なく言ったのだが、由紀夫の前におぼんを抱えて座っているお母さんが、はぁっ!と顔を伏せた。
「それ、私が・・・っ」
「えっ?いやっ、小さいのに、上手にできてるなぁ!ってっ!」
「かおは、みよちゃんが、かいたのっ!」
「そっかぁ!上手だねぇっ!」
慌ててみよちゃんを膝に抱き上げて、よしよしっ!と頭を撫でる。
「これが、パパで、これが、ママぁ」
「え?」
「なかにね、おねがいごともね、はいってるの。んっと、パパに、あえますようにって!」
それじゃ1年に1度しか会えないって事で、え、それって一体・・・っ?

何か深い事情が?そして、その思いが人形に伝わってっ!?

瞬間的に考えた由紀夫に、あっさりとお母さんは言った。
「パパはお船に乗ってるのよねー」
「よねぇー」
「船?」
「まぐろ漁船で・・・」

そりゃ会えないわな。

「もう慣れてるんですけど、七夕は織姫と彦星が、って話を幼稚園で聞いてきたらしくって」
みよちゃんを見ながら、お母さんはにっこり笑う。
「雛祭りと一緒になってるみたいで、人形作れ、作れってうるさいもんで。私、すっごく不器用なのに」
「そんな。ものすごく心がこもってましたよ」
「え?」
「二人一緒にいたいって気持ちが、びしびし!伝わってきました」
まぁ、と嬉しそうにするお母さんに、みよちゃんが文句を言う。
「みよちゃんのおにんぎょうはっ?」
「だって、七夕は織姫と彦星の話でしょう?あ、解った、じゃあ、彦星の連れてる牛にしたげる」
「いやぁん!」
もう作りたくないんだな。指にバンドエイドを巻いているお母さんを見ながら、由紀夫は笑った。

ようやく彦星の元に帰れた織姫も笑っているようだった。

 

「ただーいまー」
「すげぇ!兄ちゃん、これすげぇわ!」
「・・・何が」
「このミスター采配ってのが!」
「解った、解った。よし、解ったから、後1時間で終わらせろ」
「えぇ〜・・・・っ?」
この世の終わりのような絶望しきった顔を正広はする。
「1時間〜・・・?」
「おまえ、今までに3時間やってんだから、別にいいじゃん。七夕パーティに呼ばれたから、おまえも行くの」

 

その夜は、星も、月も綺麗な夜で、空の上でも織姫と彦星が会えたのは間違いなさそうだった。

<つづく>

ついに来週は・・・!来週こそは大ゲスト大会がスタートの予感・・・!ふふふ。うふふふふふ・・・!

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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