天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編1周年記念特別企画!大ゲスト大会!

『新宿Fallen−Angel  ―――野長瀬の恋―――』前編

ご挨拶
「ギフト番外編が1周年を迎え、ありがたくももったいなく、ゲスト様においでを願う事ができました。第1回のゲストは、野長瀬智子おねいさまこと、
TripleTの、木村智子おねいさまでございます!きゃーーー!!すごぉーい!!しかも、野長瀬でございます!クールで、シリアスな、かっちょいい野長瀬!今週より3週に渡ってお楽しみ下さい!」

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 野長瀬定幸は、決してブ男ではなかった。

 美男、とは言えないかも知れないが、上背はあるし体格もいいほうで、顔だって男っぽい野生味にあふれ、『個性的な風貌』くらいの評価はされてもいいだろうと、彼自身いつも思っている。なのに彼は女にモテなかった。幼稚園時代から女にはいつもコキ使われるばかりで、情けなくも心優しい、アッシー君&メッシー君&ツクシンボ、を28年間つとめあげてきた。

(いつか俺にだって女神が微笑むさ。)

ふられるたびにそう自分をなぐさめてきたものの、いったい女神はどこをほっつき歩いているのだろう。運命の女性とはいつになっても出会えず、彼につきあってくれるのはせいぜい、プロフェッショナル・レディーだけであった。

野長瀬は、伯父が経営する消費者金融会社、『新宿シティファイナンス』の社員であった。オーナー社長の血縁ゆえ彼は、まぁとりあえずそんな肩書をつけていろという、営業課長の名刺を渡されていた。課長といっても社員は彼を含めて8人しかいない。雑居ビルの6階に事務所を構えた、零細なサラ金会社であった。

つれあいをおととしガンで亡くして以来、伯父はギャンブル狂となり、競馬競輪競艇、果てはプロ野球賭博にまで大金をつぎこみ、キャデラックを乗り回して遊びほうけていた。会社は専務の倉林と、しっかり者の女性事務員・三田の2人でもっているようなものだった。野長瀬は、新規客の開拓と貸付け、当然ながら回収というサラ金社員の通常業務を、特段何の夢もなく、日々の生業(なりわい)として繰り返していた。将来伯父が亡くなれば自動的にオーナーは彼になるのだが、サラ金の社長になどなっても別にカッコよくない。まぁソープへ通う金を、基本給は最低であとは歩合制の給料から食費まで削って捻出する必要はなくなるかなと、その程度の希望しか、野長瀬は持っていなかった。

そんな彼の前に留美子は、まず『客』としてあらわれたのだ。

 

「あのぅ、すみません。」

入り口のドアをあけて、彼女はおずおずと声をかけてきた。たまたまデスクにいた野長瀬は、読みふけっていた風俗情報誌を引き出しに押し込み、
「はいはい、いらっしゃいませ。ご融資でしょうか?」
と、対応すべくカウンターへ立っていったが、
「ええ。額面は多くないんですけど・・・・お願いできますか?」
ためらいがちな微笑を浮かていべる彼女の、清楚な美貌に目を見張った。年齢は24〜5歳だろう。薄化粧はしているがルージュはひいていない。素の唇の自然な赤みに、野長瀬の胸はときめいた。

「・・・・あ、ああはいはい、ええけっこうですよ。えーと・・・・まずはこちらの申込書に、お名前と生年月日、それとご住所を記入して頂けますか。」
野長瀬の差し出した用紙に、彼女は必要事項を書き入れた。彼が中学時代に憧れていた女教師と、そっくりな美しい文字だった。
「野島、留美子さん・・・・ね。少々お待ち下さい。」
用紙を持って彼は奥の部屋へ入った。信用調査のためである。データバンクに接続されているコンピュータに向かって、留美子の個人情報を入力する。住所とそれに電話番号。普通だったらあれほどの美女から、聞き出すだけでもヒトホネだろう。彼は妙にウキウキして、コンピュータの検索結果を待った。

「・・・・あら?」
プリンタが動いた。ということは他店に借り入れがあるのだ。
正直、ちょっと意外であった。こういう店に金を借りに来る女は、やはりそれなりにどこかズ太い。一般OLなら銀行や、有名クレジット会社のカードローンを使うのが普通で、町金融(マチキン)にはめったに手を出さない。だから留美子のような生真面目そうなタイプは、新宿シティファイナンスにとっても初めての客だった。

彼は打ち出されたリストを見た。大手のサラ金2店から15万ずつ借り入れしている。
(なんだ。合計でたったの30万か。年収630万とあるからワク内ゆるゆる。融資OKだな。)
サラ金は普通、個人融資の上限を、年収の1割に設定している。それ以上になると調査はグッと厳しくなり、店によっては連帯保証人を立てさせる。が、留美子にそんな必要はない。彼は回線を切ってフロアに戻った。

「どうもお待たせしました。」
彼女の希望を聞いてやれるのが、野長瀬にはひどく嬉しかった。
「ご融資できますので、こちらの契約書に改めてご記入下さい。」
「そうですか。ありがとうございます。」
わざわざ立ち上がって、留美子は頭を下げた。こんな礼儀正しい客も初めてだった。

「ふうん、お友達のご結婚式ですか。おつきあいも大変ですねぇ。」
記入漏れがないかのチェックをしつつ、野長瀬は言った。融資金の使用目的にその旨記載されていたからである。
「はい。高校の時の親友なんです。贈り物もしたいし、それに独身最後のパーティーをやろうって企画してて、何人かで幹事やるんですけど、そういうのもやっぱりいろいろ・・・・お金がかかって。」
「そうでしょうねぇ。」
お客様控えとともに1万円札20枚を、野長瀬は留美子の前に置いた。マニュキアのない指で紙幣を数えバッグにしまい、彼女は控えの『担当者』欄を見たものらしく、
「お手数かけました、野長瀬さん。」
そう言ってぺこりと頭を下げ、事務所を出ていった。
留美子のコロンの残り香に、野長瀬はしばし、夢うつつのまま漂っていた。

 

留美子の住所と電話番号を、野長瀬は暗記してしまっていた。覚える気などなかったが、自然に頭に焼きついたのである。さりとて連絡する訳にはいかない。返済は銀行振込で、彼女は月末にきちんと、元利均等の金額を返済していた。
(・・・・少し遅れてくれればいいのに。そうすれば催促電話くらい、かけられるのに。)
そんな馬鹿げた恨みを、彼は感じた。

給料日には必ず行くことにしている池袋の店で女を抱きながら、彼はそのとき、留美子の笑顔を思い浮かべた。何だか彼女を汚してしまった気がして、延長もせずに野長瀬はソープを後にした。

(いい歳して、バカだな、俺。)

留美子は金を借りにきただけ。返済が済めばそれで終わりだ。第一彼女は自分のことなど、とっくに忘れているだろう。しがないサラ金の貸付担当なんか・・・・。

「野長瀬さん。ねぇ、野長瀬さん!」
事務所でぼんやり物思いにふけっていた彼を、呼んだのは事務員の三田だった。
「へ? はい? わたし?」
「へじゃないわよ。新聞、さかさ!」
「あら? あららっ、いつの間に!」
「まったく、なぁにやってんだか。」
フン、と鼻を鳴らして呆れ、三田は言った。
「お電話よ。外線4番。野島さんって女の方から。」
「のじま?」
誰だ? と思って出た彼はたちまち、
「あ、もしもし野長瀬さんですか? こんにちは。お世話になっている野島留美子です。」
 極楽鳥のさえずりもかくやという、透明可憐な声に硬直した。彼女は、
「実はお借りしてるお金・・・・ちょっと都合がついたんで、一括でお返ししようと思うんです。明日銀行にお振り込みします。利息の金額を教えて下さいますか?」
 口から心臓が飛び出しそうだった彼は、一転して失望にうちひしがれた。一括返済。それは彼女との別れを意味する。
「もしもし? 野長瀬さん? どうかなさいました?」
 不審げな声に彼は自分を取り戻し、少々お待ち下さいと告げて、残り分の利息を計算した。それを彼女に教えてやると、
「本当に、野長瀬さんのお陰で助かりました。ありがとうございました。」
そう言って電話は切れた。彼は重い鉛のように受話器を置いた。

 

「ねぇ、ちょっと・・・・。どうしたのよ野長瀬さぁん、今日はずいぶん激しいじゃなぁい?」
馴染みのソープ嬢が彼の下で言った。彼は答えなかった。手の届かぬ女のことなど、すっぱり忘れようと心に決めた。腰が重たくなるほど女を求めた。しょせんオレを相手にしてくれるのはこういう女さ。世の中は不公平なものなんだ。

翌朝の太陽は寝不足のせいで黄色く見えた。面白くもない一日がまた始まる。だらだらと書類整理をしていた彼は、

「こんにちは。」

カウンターの向こうに現れた、妖精の微笑みに目を疑った。

留美子だった。小柄で華奢で色白で、柔らかなセミロングの髪を肩のところでくるんと内巻きにしたそのひと。駆け寄る途中で野長瀬は、ゴミ箱を2つ蹴飛ばした。
「お振り込みしようと思ったんですけど、近くまで来たんで直接行っちゃえと思って。そうすれば振り込み手数料かからないし、それに契約書も返して頂かなきゃならないでしょう?」
 もう会えないと思っていた留美子に会えた。そのことで舞い上がってしまった野長瀬は、彼女がずいぶんと『サラ金馴れ』していることに気づかなかった ―――いや、気づこうとする心に蓋をしていた。

「はい、これ。昨日教わった金額、ちょうどです。」
 紙幣と小銭を、彼女は青いトレイに乗せた。それらを自分のデスクに運び、野長瀬はなるべくゆっくり手を動かした。
「よく、サラ金は怖いっていう子がいますけど、そんなことないですよね。」
 親しげに、彼女は話しかけてきた。
「銀行マンにも横柄なのがいるし、カード会社って案外金利が高いし。野長瀬さんみたいに親切な担当者さんがいてくれたら、絶対に安心ですよね。」
「いや、そんな・・・・。別に僕は、何をしたわけでも。」
 3か月前に彼女が書いた書類に完済印を押して、一式全部を返してやる。担当者と客というか細い絆が、ぷつりと切れる瞬間であった。
「本当に、ありがとうございました。野長瀬さんに助けて頂きましたね。お陰で友達に肩身の狭い思いしなくて済んだし、すごく頼りになる人がいるお店よって、あたし友達に宣伝しちゃいました。」
「いや・・・そんな・・・・。」
 野長瀬は服の袖で汗を拭いた。留美子には内心笑われているだろうなと思った。彼は耳まで赤くなっていた。
「・・・の、野島さんみたいなお客さんばかりなら・・・・僕も、すごく幸せなんですけどね。きちんと返済して下さったし、それに・・・・」
 その先は言葉にできず、彼はハンカチを出して顔中こすりまわした。美人でキュートで頭もよさそうでスタイルがよくてとどめが上品。こんな女性が果たしてこの先、自分の前に現れてくれるだろうか。
「それじゃあ、私はこれで。」
 留美子は立ち上がった。野長瀬も席を立った。せめてエレベーターホールまで見送りたい。エレベータは7階に停止していた。下向き三角のボタンを押し、到着を待つ。ホールには誰もいない。見えない何者かが野長瀬の背中をこづいた。もしかしてこれは、人生における最大のチャンスかも知れない。金を返された今、彼女はもう顧客ではない。夢のように美しいひとりの女。そして、自分は ―――男。

 軽いベルの音がしてドアが開いた。留美子はもう一度彼を見て、

「じゃ、失礼します。本当にありがとうございました。」

 歩み出しながらそう言った。待ってくれ、と彼は思った。今ここで言わなかったら、妖精は二度と戻ってこない。

「の、の、の、の、の・・・・ のー、のー、Noー!」
「え?」
 閉じかけたドアが、再び開いた。
「なにか?」
 首をかしげて問いかける・・・ああ、その小鳥のような仕種。
「の・・・のっのっのじまさんっ!」
「はい?」
「こっ・・・・こっこっこっこっこっこっこっ!」
「・・・・こ?」
「こっ、こんど・・・お、おおおおお食事でもっ! よろしければごいっしょにいかがでしょうかっ!!」
 言えた ―――――! やった、言えたじゃねぇかべらぼうめ。男野長瀬、なせばなる! はぁはぁと息を荒げ、目を閉じていた彼は次の瞬間、

「・・・・よろしいんですか?」

 その返事で一気に天国へ駆け昇った。

「はっ、はい! はいはいはいはいっ、あ、ありがとうございますぅ ―――――っ!」

 何の騒ぎだと向かいの歯医者が顔を出した。留美子はそんな野長瀬に微笑みかけ、
「私、特に予定って・・・・ないんで、野長瀬さんのご都合のいい時に、いつでもいいですから。」
 予定はないということは・・・留美子はもしや、フリーなのか?
「光栄です ―――――――っ!」
 土下座せんばかりに彼は頭を下げた。
 人間、言葉にしなければ駄目だ。よくぞ最後の土壇場で言った。定幸えらい。よくやった俺。まさかOKしてもらえるなんて、100回生まれ変わっても無理だと思ったのに。

 野長瀬は翌日、床屋へ行った帰りに西武で新しいスーツを買った。さらに男性用のパックまでして留美子との初デートにのぞんだ。留美子は、薄いピンクのツーピースにパールのピアスという、野長瀬が感極まって卒倒しそうないでたちで現れ、そればかりか、
「野長瀬さんて、『純・日本男児』って感じで素敵ですよね。へんに髪の毛伸ばしたり、脱げそうなGパン穿いてる人より、私、古風な男の人って好きなんです。」
 などと、男を骨抜きにした挙げ句、幸福のサラダオイルでマリネにしそうな言葉を口にした。
「あっ、あっあっあっあっあのそのっこっこっこれからもとっとっときどき会って頂けますかぁっ!」
 タクシー乗り場で、気をつけどころか小さく前習えしてしまった彼の言葉に、留美子は、口紅を塗らない裸の唇を小さく噛んで、うなずいた。
「嬉しいです。ありがとう。」
そう言い残して彼女はタクシーに乗った。車が走り去ったあと、野長瀬は万歳三唱を20回くりかえして交番に連れていかれた。最初から最後までキラキラの笑顔でハキハキ質問に答える彼に警官も苦笑いし、すぐ開放してくれた。

ケーサツが何だ軍隊が何だ。幸運の女神は俺の味方、矢でもテッポーでも持ってこい。

留美子・・・・俺の女神。お前のためなら俺は、全宇宙を敵に回したって悔いない。

 交番の前で彼はバク宙し、勢い余って壁に激突し大きなたんこぶを作ったが、警官はもう相手にしなかった。野長瀬は新宿駅西口を後にし、バク転とスキップを交互に繰り返しながら家路についた。

<つづく>

くぅ、かっちょいい・・・!なんてかっちょいいのよ、智子おねいさま!!これから野長瀬がどうなっていくのか・・・!
来週もお楽しみにー!

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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