天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編1周年記念特別企画!大ゲスト大会!

『新宿Fallen−Angel  ―――野長瀬の恋―――』中編

ご挨拶
「ギフト番外編が1周年を迎え、ありがたくももったいなく、ゲスト様においでを願う事ができました。第1回のゲストは、野長瀬智子おねいさまこと、
TripleTの、木村智子おねいさまでございます!きゃーーー!!すごぉーい!!しかも、野長瀬でございます!クールで、シリアスな、かっちょいい野長瀬!今日は第2回でございます!お楽しみ下さい!」

yukio
 

 半月に1度がやがて週に1度になり、留美子に会えない週末はないと、それが習慣になりかけていたその昼、雑誌で調べて下見もした店に、野長瀬は彼女を案内した。ランチタイムも終わりに近いので、さして混んではいなかった。
「ここのね、タン塩は絶品ですから。きっと留美子さんのお口に合うと思いますよ。」
 彼女は、野長瀬がプレゼントしたクレージュのペンダントを胸に光らせてテーブルに着いたが、何だか様子がいつもと違っていた。彼が前の晩から考えていたつまらないギャグに、楽しそうに笑ってくれる彼女であるのに、その日はどこか憂鬱そうで、彼の冗談にも乗ってこなかった。
「なんか・・・・元気、ないですね。どうかしたんですか。」
 思い切って彼は尋ねてみた。留美子はピクリと肩をふるわせ、
「ううん、何でもないの。つまらないこと。言っても野長瀬さんを心配させるだけだし。」
 そう言ってから深くうなだれた。柔らかな栗色の髪が肩の上で揺れる。

「そんな。心配ごとがあるなら、言って下さい。留美子さんのためだったら、僕、何でもしますから。」
 彼女は弱々しく首を振った。
「無理よ。それに、あなたに頼める筋じゃないもの。」
「そんなことありません!」
 野長瀬は強く言った。
「あなたの助けになれるなら、それでいいんですよ。言って下さい。話すだけでも楽になるかも知れないじゃないですか。留美子さん、何かあったんですか。」

 問い詰めるように聞くと、彼女は途切れ途切れに語り始めた。自分には両親がおらず、叔父夫婦の手元で育てられたこと。その恩ある叔父が心臓病で入院し、手術をしなければ危ない状態であること。だが叔母は元から体が弱く、仕事もできないので蓄えはわずかであること。
「私、叔父さんに手術受けてもらいたいんです。私が今日までこうやって生きてこられたのは叔父さんたちのおかげなのに、でも私にそんなお金、なくて・・・・。」
 彼女は声をうるませた。
「ごめんなさい。いいんです。これは私の問題ですもの。お気になさらないで。叔父さんへの恩返しは、私が自分の力でしなくちゃ。」
「恩返しって・・・・まさか、お金、作る気ですか。」
 かすかに留美子はうなずいて、
「綺麗ごとなんか言ってられないもの。お金になるなら私、ソープで働くくらいは・・・・」
「駄目ですよそんなの!」
野長瀬はバンとテーブルを叩いた。
自分が今まで幾度となく欲望のはけ口にしてきた女たち。名前も知らない不特定多数の男に、ガラスの向こうから値踏まれ選ばれ、1時間いくらで下着を外す。留美子が誰かにそれをすると思うと、全身の血が泡立った。

「そんなこと言わないで下さい! お金で、そんな、お金で体売るなんて・・・そんなこと考えないで下さい。僕はそんなに頼りにならないですか。」
「でも・・・」
「いったい幾ら、いるんです。」
 留美子は困惑の顔で彼を見た、ように思えた。
「僕が何とかします。言って下さい。幾らあったら叔父さんの手術ができるんですか。」
「野長瀬さん・・・・」
「あなたの力になりたいんです。いえ誤解しないで下さい、見返りなんか期待してません。あなたが困ってるのを、黙って見てるなんて、僕にはできないだけです。」
「駄目ですそんな。あなたにそんなこと・・・・。」
「いいえ、言って下さい。僕に何ができるんです。教えて下さい留美子さん。」

 彼は食い下がったが、とうとう彼女は額面を言わなかった。昼の逢瀬はまたたく間に過ぎる。2人は店を出、駅に向かった。
「今夜・・・・もう1度お会いできますか。」
 スクランブルの、長い信号待ちで留美子は言った。
「ひとりでいると・・・・辛くって。叔父さんのこととか、いろいろ考えてると、涙出てきちゃうんです。何だかこの世に一人きりみたいな気がして、寂しくて。」
「留美子さん・・・・」
「野長瀬さんと、一緒にいたいの・・・・。私、あなたにだったら、よりかかってもいいような気がして。」

 信号が青に変わった。野長瀬は、機械的に足を動かした。

「・・・・9時に、甲州口の改札にいます。もしお時間があれば、いらして下さい。」

 遠い世界からの声のように、野長瀬はそれを聞いた。社に戻って彼は、野島留美子の情報を検索してみた。

 借入が、激増していた。

 新規客への審査は厳しいが、短期間で全額返済した場合、上客として次回融資の上限は跳ね上がる。大手有名ローンズだけでなく市井のヤクザ絡みにまで、野島留美子は借入を起こしていた。総額およそ700万円弱。

 

 9時10分前に、野長瀬は新宿駅へ行った。留美子は待っていた。緑色のスーツにショルダーバッグを下げて、遠い街の灯を眺めてたたずんでいた。

 ――――かなしそうな顔だ、と野長瀬は思った。無防備で投げやりな横顔だった。『愛しい』と書いてかなしいと読む。ふとそれを思い出した。

「来て下さったのね。」

 えもいえぬ表情で留美子は言った。野長瀬は、つい今しがたまで彼女が見ていたはずの、Tokyo−cityのイルミネーションに目をやった。
 いつわりと、まぼろしと、かなわぬ夢と裏切りと、愛。
それらをきらきらと渦巻かせて、したたかに笑いさざめく万華鏡の街。
美しさも醜さもここでは区別がない。ゆらゆらと闇色の触手を伸ばし、何ものをも否定しないこの街、Shinjuku・・・・

「僕の権限であなたにしてあげられるのは、これが精一杯です・・・・。」

 ジャズピアノの流れる薄暗いバァで、野長瀬は小切手を留美子に渡した。額面は700万円。もちろん伯父には言っていなかった。
「どうぞ。これはあなたのものです。あなたが笑っててくれるなら・・・それだけで僕は、十分ですから。」
「野長瀬さん・・・・」

 

 こぼれ落ちる水晶の涙を、彼は裸の胸で受けとめた。留美子の体は柔らかかった。抱きしめたら折れそうに細くて、少女のような胸と腰はしかし、男の激しい凌辱を望み、幾度も彼をとまどわせた。
「ありがとう、野長瀬さん・・・・。ごめんね、ごめんなさい定幸さん・・・・」
 淫らな姿勢で彼を受け入れ、彼女はそう繰り返した。雪のような肌が彼の愛撫で薔薇色に染まる。留美子の体を抱きしめて、野長瀬は今ここで斬り殺されてもいいと思った。

 

 裁判所から彼のもとに簡易書留が届いたのは、留美子が姿を消して2か月後のことだった。

 

<つづく>

きゃあ!きゃあきゃあ!ら、ラブシーン・・・!きゃあ!そして来週はついに後編!どうなる野長瀬!来週もお楽しみにー!

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

今までのGift番外編へ

What's newへ

SMAPレポートへ

SMAPメニューへ

トップへ