天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編1周年記念特別企画!大ゲスト大会!

『あの頃の早坂兄弟』(適当な題(笑)黒ラブちゃーんごめーん!!)中編

ご挨拶
「3人目のゲスト様!そーれーわぁー、
Toy kitchen
の黒ラブ様!かぁわいいじょー!」

yukio
 

正広は、瞬く間に溝口家やご近所のアイドルになった。体が平均より小さくて華奢で、その分どこの子より元気な正広は、大きな目と愛嬌のある表情で、大人達を翻弄した。

父親の膝は、正広専用となった。あぐらをかいて座っていると、いつの間にか正広がやって来て、ちょこんと座っている。
 風呂場でも、正広が独り占め。3人一緒に入ったりしている(正広の希望による)と、父親と湯船に一緒に入るのは正広で、その間に武弘は体を洗う。武弘が入ると、正広たちが出て、体を洗うというタイミング。
 時々は、武弘が体を洗っていると、湯船に沈んでいるのをがまんできなくなった正広が、ばっしゃん!と出てきたりする。手をバンザイさせて、
「兄ちゃん、洗ってー!」
と言ったりする。
めんどくせぇ、とか思いながら、弟の体をごしごし洗ってやったりもした。
 正広は溝口家の王様だった。けれどそれは、正広がわがままだったり、父親が実子を余計に甘やかしているとかいうのではなく、武弘の遠慮と、正広のすばしこさが、ほんのちょっと噛み合わなかっただけだった。

 ある時、溝口家では、ピクニックをすることになった。
 母親の得意料理はいなり寿司で、武弘は、このおいなりさんが、大好物。正広のほうは、好きな物がこれ、というよりは、嫌いな物、食べられない物が多くて、どちらかと言うと偏食気味。メニューは正広中心に決められるのが常だった。武弘は、おいなりさんさえ入っていれば嬉しかった。けれど、声に出して言うのは
「何でもいいよ」
という台詞。
 ピクニック前日の台所で、正広は、いろいろ注文を付ける。
「えっとねー、トマトと、なすと、セロリと、ピーマンと、ひじきは、やだからね!」
「入れない物のお願いばかりじゃないの。入れてほしいものはなぁに?」
「たまごやき!おにく!あとね、おにぎり!ひろちゃんね、ひろちゃんね、おにぎりね、たらこのが、いいなぁ!」
ぴょんぴょん跳ねながらおねだりをする正広を横目で見て、武弘は思う。あ、たらこのおにぎりか・・・じゃあ、おいなりさんは無しだよね・・・・そう思いながら、そっとその場を抜け出した。母親の甘い言葉を背中に聞きながら。
「仕方ないわねぇ、ひろちゃんには、特別よ、たらこのおにぎり、作ったげる」
「うわーい!おにぎり、おにぎり!たらこ、たらこ!」
正広は、母のエプロンに手を掛けて、足を曲げてぶら下がった。きゃっきゃっという声が、遠くから聞こえ、武弘は玄関のドアを閉めた。
「ほら、ひろちゃん!お母さんお台所してるんだから、つかまったりしたら危ないでしょ!武弘、武弘、ひろちゃんを見ててあげて!・・・あら、いないわ。お酢を買ってきてもらおうと思ったのに。」
武弘は早とちりしてしまったけれど、明日の主食は、いなり寿司の予定だったのだ。正広のたらこのおにぎりは、別注品。

 正広は、いなくなった兄を探しに行った。外に出ていくと、武弘が自転車に乗って出かけるところだった。
「兄ちゃん!どこ行くの?」
「お前の知らないとこ!」
「兄ちゃん!」
 正広は母親のところに戻る。兄ちゃんがいなくなっちゃったって。お母さんは言う。優しい笑顔で。戻ってくるわよ、じきに、って。
 でも、正広は不安で。
 お母さんが全然心配してるように見えないのが、ものすごく不安で、怖くて。
 兄ちゃんに、頭をちょんとなでてほしくて、安心させてほしくて、外に出た。武弘を探しに。
 もう夕暮れ時で、ちょっと寂しくなった正広は、その分足を早めて、兄ちゃんを追っていく。武弘の自転車は、もう見えなかった。
 正広は、いつも武弘にくっついていく道を、どんどん歩いていった。確信はなかったけど、兄ちゃんはこっちにいる、となぜだか思い込んでいた。
「おさかな、おさかな、兄ちゃんはぁ、つりがぁ、好きだからぁ・・・・」
歌うように言いながら、正広は、川の方に向かった。平日だと学校帰りに、休みの日は朝から、武弘はよく釣りに行く。正広は武弘の自転車の後ろに乗せてもらったり後からトコトコ付いていったりするとき、天気がよくて、気持ちよくて、やたら楽しかったのを思い出した。
 でも、今は・・・・
 だんだん暗くなってくるし、ちょっと涼しくなって来ちゃったし、行っても行っても兄ちゃんの姿は見えなかった。
 だんだん不安になってきて、小走りになった。
 小走りは、本気の全力走りになった。
 河原についたけど、兄ちゃんも、兄ちゃんの自転車も見えない。はーはー言って、苦しかったけど、そう言えば、もっと先のほうまで出かけたこともあった、と思い出して、川を逆行していった。

武弘は、あたりをふらっと1周して、出かけて2時間くらい経った頃帰ってきた。
玄関には、例のスカーフおばさんがいた。
「武弘ちゃん!まぁ、まぁ、まぁ、どこに行ってたの?おばちゃん心配しちゃったわー」
「え・・・ちょっと、そこまで」
「ひろちゃんに、会わなかった?」
「ひろ・・・?どうかしたの?」
「いないのよ、さっきから!」
正広が、見当たらないと言う。食事と明日の弁当の用意をしていた母親がふと気付くと、姿が見えなかった。友達の家にもいないし、公園にも、近場の遊び場にはどこにもいない。
 父も母も、探しに行っているという。

 

 どこを通ってそこまで行ったのか、よく覚えていない。
 帰ってきたとき、どんな言葉で叱られたのか、もしかしたら、何も叱られなかったのかもしれないが、その記憶も、武弘にはない。
 ただ、1回だけ正広を連れていった上流のため池近くで見つけた時、ぎゅっとしがみついてきた、涙でぐちゃぐちゃになった顔のアップ、やわらかい腕の感触は、今でもはっきり覚えているけれど。

 家までずっと、正広は、武弘の背中にしがみついていた。この歳でこんな力があったのかと思うくらいの力で、ぎゅうぎゅうしがみついてきた。涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を背中に押しつけられて、小さい子特有の体の熱さもあって、武弘のTシャツはかなり湿っていたけれど、そんなことはどうでもよかった。

 

 ピクニックは中止になった。

 台所のテーブルに、仕度しかけの食材が、明日のピクニックを待ちわびるように並んでいた。いろいろなおかずの材料に混じって、煮染めた油揚げと、五目を混ぜ込んだ寿司飯と、焼いたたらこが存在をひっそりと主張している。
 抱き上げようとする父親に逆らって、正広は兄の背中から離れようとしなかった。兄ちゃんから離れたら、またどこかに行ってしまうかもしれない。泣き疲れて眠ってしまうまで、武弘は弟の側にいさせられた。ぎゅうっと手を握られたまま。熱くて、湿った、正広の手のひら・・・・・

 

 ぱかっと目を開けると、なんか湿った熱い感覚がある。由紀夫は、その方角へと顔を向けた。
 果たして、由紀夫の右側には、正広が眠っていた。湿った熱い感覚は、いつの間にかつないでいたらしい弟の手。泣き疲れて眠ってしまった続きのような気がして、由紀夫は手を離せない。なんだか悲しそうな顔をしているし。
 と思っていたら、正広は、突然ぽろっと涙をこぼした。おお、と慌てる由紀夫の目の前で、また唐突にぱかっと目を開けた。しばらくぼーっと天井を見つめる、不機嫌そうな顔。汗で貼り付いた前髪をどけてやる。
 されるままになって3分。今日はエンジン掛かるのに時間かかったね、と思いながら話しかけた。
「ひろ、今日、さぁ・・・・・」
「兄ちゃん、今日ね、」
同時に言う。
返事も同時。
「何?!」
「え?」
もう1回。
「今日ピクニック行かねぇ?」
「今日ピクニック行こうよ」

 ぼけっと見つめ合った後、にこ、と笑った正広が、体を横にしたままで言う。
「今ね、俺がちっちゃいころ、みんなでピクニックに行こうって言ってた時の夢、見てた」
「・・・うっそ・・・!」
「あんねー、俺が兄ちゃん探しに行って、・・・」
「俺がため池のところでお前を見つけた」
「そう!それ!」
「・・・もしかしてさぁ、そんで、俺の手ぇ握って寝てるとこまで、見てた?」
「・・・うん・・・兄ちゃん、ひょっとして・・・・」

つないだままだった手をぶんぶんと振って、由紀夫は言った。
「急がねぇと、時間なくなっちゃうんじゃねぇ?」
「うんっ!」

ご飯を炊いて、おかずを作って、おやつや飲み物をたくさん買い込んで。
 朝起きてからの、二人の行動はそれは見事なものだった。主食はもちろん、おいなりさんとたらこのおにぎり。おやつは、スカーフおばさんに敬意を表して、バナナを買ってみた。

 

 きゃいきゃい言いながら(これは正広)ぶつぶつ独り言を交えて(由紀夫)支度をしていると、由紀夫の携帯が鳴った。
 「あ、由紀夫ー?休みの日に悪いわね、今ねぇ、届け物の依頼があったのよ。急ぎだって話なのね、悪いけど、ちょーっと行ってもらえないかしら?」
「誰だよ、営業日じゃねーのに」
思いっきり不機嫌そうな様子を前面に出して由紀夫は言う。
「なんだか不思議な人なのよ、そのクライアント。スカーフして、エプロンかけて、どこから声出てんだかって声してしゃべんのよー。」
「・・・スカーフおばさんだ・・・」
溝口家の近くに住んでいた、名前も忘れてしまったおばさんの顔が、一瞬にして思い浮かんだ。

つづく


いやぁー!きゃー!可愛いぃー!!おろおろしちゃうわ!おろおろ!あ、あたしも準備して一緒にいかな・・・!
なんでやねーん(笑)!

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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