天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編1周年記念特別企画!大ゲスト大会!

『あの頃の早坂兄弟』(適当な題(笑)黒ラブちゃーんごめーん!!)後編の2

ご挨拶
「今日で完結!
Toy kitchen
の黒ラブ様の『あの頃の早坂兄弟(だっせータイトル!)』!さて、このステキな黒ラブさんのGIFT番外編に合わせまして、イラストが届いております!イラスト!yenさんのイラスト!さぁ見に行って!可愛いわ!!とっても可愛いわ!」

yukio
 

隣の部屋には、大きな台の上にゴリラが寝ていた。
「ああ、済まないねー、鞄持ってきてくれて。」
 顎に手を当てて片方の手を肘に添えながら、なぜか流し目で微笑みつつ、その男は言う。スカーフおばさんの息子で、しーちゃんの主治医と同じ名前の、稲垣医師だった。
「この動物園の専属の獣医さんが、風邪のための高熱で、ダウンしているんです。それで、フリーの稲垣先生に、診療のお願いを。」
説明したのは、ゴリラの飼育係。草なぎと名札に書いてある。クリニックの草なぎ助手にそっくりな草なぎ君に、正広が聞き返す。
「診療って・・・獣医さんの風邪のですか?」
 その問いを由紀夫はげんこつで却下する。
「獣医というのも、町で開業している人は多いけれど、こうやって大型の動物を見られる人は不足していてね、病気で倒れたり、学会があったり、育児休暇を取ったりする人の代わりは、結構需要があるんだ。まーね、産休医師とか言われることもあるし、さすらいの流れ者っていうか、自分ではフリーと名乗ってるけどね。」
「はぁ・・・・」
「今日はその大事な商売道具をママのところに忘れたってわけだ。」
「じゃあ、何を持ってここまで来たんですか?」
「車だったんだよねえ、今日。車ってほら、真剣になるじゃない?脇目も振らずって言うかさ、危険な乗り物だからねえ。とても荷物のことなんか、覚えてなくってさ」
 うんうんと納得しながら、稲垣医師は続けた。
「こないだは、鞄を忘れないようにしなくちゃ、って気を遣ってたら、事故っちゃったからねぇ。」
日本の運転免許制度は間違っている、と3人は思った。

「ところで君たち、どこかで会ったこと・・・・ないかな?」
 早口で聞かれて、由紀夫と正広は顔を見合わせた。
「覚えて・・・・ないですか?」
「おばさん・・・お母さんに頼まれて、来たんですけど」
「ママの病室に置き忘れてたからね。近かったんでしょ、病院からお宅のオフィスが。違うの?・・・・悪いけど、鞄開けて、道具並べてくれるかな。あ、この部屋じゃないよ、あっちあっち。」

 ゴリラが寝ている隣室に入る稲垣医師に従って鞄を持って行きながら、由紀夫と正広はひそひそ話した。
「兄ちゃん、覚えてないのかな」
「そうらしいな。俺達変わったもんなー」
「この人も、変わったのかな、俺、わかんなかった。しぃちゃんの先生かと思ったもん」
「っていうか、おばさんの息子っていっつも出張してて、まともに会ったことなかったんじゃねぇ?」
「あ、そうか!」

 そんな訳で実は初対面に近かった元ご近所の3人と草なぎ飼育係は、ゴリラの「しんご」の治療を開始した。助手代わりに居合わせた3人全員をこき使って、案外テキパキと仕事を進めていく稲垣医師。しーちゃんの稲垣先生とは、だいぶ違うなぁと正広は思った。
 「しんご」は大きな体の割に気が小さいらしく、熱を出したことでぐったり病人風になっていたが、病気は、ただの風邪らしかった。餌と一緒に薬を与えて、室温の注意などをして、診察は終わり。
 正確な判断と適切な治療ぶりを見ると、日本の獣医師免許制度は間違っていないらしかった。

「さてと。じゃあ、帰っていいよ。どうもありがとう。」
「その前に」
由紀夫は、受け取りのポラ撮影を頼んだ。
「ええっ?!困るなあ、そういうことは早く言ってくれないと。」
 何やら焦って、稲垣医師は大きなお医者さん鞄から道具を取り出した。クルクルドライヤーと、ヘアムースと、大きな櫛。ぶおーん、とドライヤーを掛け、前髪と後れ毛をチェックするまでわずか2分。かなり手慣れているらしい。
「お待たせ。じゃ、どこで撮る?白衣は脱ごうか?バックは無地の方がいいよねぇ、ええと・・・」
「・・・・ここでいいです」
 きっと先生の決めのポーズなのだろう、後ろ体重で片手を顎に、片手を肘で組んで、稲垣医師はポラに収まった。

 その間に草なぎ飼育係がコーヒーを出してくれて、話もしたかったので、勧められるままにその辺の椅子に座った。
 意外と美味しいコーヒーを飲みながら切り出してみると、やっぱり稲垣医師は元ご近所の兄弟を、ちっとも覚えていなかった。
「へぇー、溝口さんちの!そうなんだー。ほら、うちはママがさ、全部やってくれちゃってるから、あんまり近所づきあいとかしたことなくて。」
「・・・ママ・・・」
「ママねー、入院してるんだー。あ、知ってるよね、それでこれ、届けてくれたんだもんね。ママがいないとねえ、回覧板の回し方も知らないの、僕。」
 遠い目をして語る稲垣医師。回覧板を回すような近所づきあいは早坂家でもしていないけれど。
「あの、バナナ食べて下さいね。お母さんからのおまけの届け物ですって。」
「あー、バナナ。僕の大好物。」
 稲垣医師は、華奢でアンニュイな雰囲気をぶちこわしながら、バナナを美味しそうに食べ始めた。
「君たちも、どう?」
「俺達は、この中に持ってますから」
お弁当の入ったバッグをぽん、と叩き、ね、兄ちゃん?と由紀夫を見上げる。
「知ってますよ、俺。バナナ持って、おばさん、パリまで行ったことあったでしょ。」
「あったかもしれないなー。僕がまだ駆け出しの頃だ。よく知ってるねえ。」

 正広の出産で溝口の母が入院していたとき、スカーフおばさんにお世話になった話をした。正広は、由紀夫が、普通の家族みたいに母のことを話すのが、すごく嬉しかった。
 草なぎ飼育係も含めてしばらく談笑し、最後に「しんご」を励まして、由紀夫たちはその場を後にした。
 裏に車を停めていた稲垣医師を見送ると、車ってハンドル動かさなくてもまっすぐ進むモノなんじゃなかったか?!という常識がゆらいだ。日本の自動車製造技術は、間違ってると、兄弟は思った。
「しーちゃんの先生と似てるけどだいぶ違う、ってさっき思ったんだけど・・・やっぱり同じかもね。」
「変人度はなぁ。」

 あちこちから動物の鳴き声がして、子供達がばたばた走り回る、平日の動物園。都会の中とも思えないのどかさに、二人もすっかりリラックスしていた。親子連れに混じって芝生の上で弁当を広げる。持ってきたレジャーシートに乗り切らないくらい、おかずが広がった。
「兄ちゃん、あんときも、お父さんとお母さん、こうやって動物園とか、連れてきてくれるはずだったのかなぁ?」
「そうかもな。うちにいたって、動物園みたいなもんだったのにな。」
 小うるさいサルもいたし、と言いながら正広のおでこを指でトンと突く。ひゃらっと笑う由紀夫を見て、やっぱり兄ちゃんの弟になれてよかった、と正広は思う。あの頃の兄には、もうあまり見られなくなっていた心からの笑顔。今だったら、いつだって見られる。いつだって、正広が笑顔を向けさえすれば、必ず見られる。
 えへ、と笑い返されて、由紀夫も嬉しかった。由紀夫の好物のいなり寿司と、正広があのとき食べたかったたらこのおにぎりと。ちゃんと食ってる?まだあるよ?どんどん食え、と食べさせ合いっこして、すっごく気持ちよかった。

 

 お腹いっぱいになったところで、キャッチボールもしてみた。おにぎりを包んできたアルミホイルを丸めてボールにして。ころころ笑う正広を見て、やっぱりこいつの兄になれてよかった、と由紀夫は思う。あの頃の弟の、ちっとも嬉しくなかった心からの笑顔。今だったら、いつでも嬉しい。由紀夫がそう望んでいるから、いつだって嬉しい。

 

 昼寝もした。大の字になれるように、頭を逆向きにして、手足を互い違いにして、寝た。すかーっと寝て、起きたら、正広の鼻の頭は真っ赤。由紀夫と違って色白で、普段も体に気を遣って外に出る時間も少ないから、すぐ真っ赤になる。
 のんびり片づけて、いろんな動物を見て、あれこれくだらないおしゃべりをした。

「兄ちゃん」
「ん?」
「受け取り、撮っとこうよ!」
「受け取り?何の?」
「届けたのも俺達だし、受け取ったのも俺達だけど。」
「じゃあ・・・・これも届け物か。」
 レジャーシートいっぱいに広がるお弁当は、自分たちからのと言うより、10何年も前の、二人の両親からの、届け物という気がした。
 カメラを高くかざし、正広の肩に手を回して、由紀夫はシャッターを切った。

 急な坂を下って、また二人乗りになって、スカーフおばさんのお見舞いに行く。
「えへ、おばさんきっと、俺達が届けたんだって知らないもんね、びっくりするねー」
スカーフおばさんの口真似をしながら病院に向かう。
「『あらー武弘ちゃんに、正広ちゃん!あらあら武弘ちゃんたら、すっかり変わっちゃって!小さい頃のあなたに戻ったみたいねぇ〜!ひろちゃん!ひろちゃんは、あらあら、おっきくなって!』」
「『武弘ちゃんは、あれからどうしてたの?ねぇ、おばちゃん心配だったのよー。まぁ、すっかりいい子になって!立派になったわねー』」
「『ひろちゃん、可愛くなって!お父さんやお母さん亡くなったって聞いて心配してたけど・・・お兄ちゃんに大事にされてるのねー、お兄ちゃんに感謝しないとねぇ!』」
「・・・・はい、してます。感謝してます、兄ちゃん、いつもありがとね。」
急に地声に戻った正広に、思わずブレーキを踏みそうになった由紀夫だが、緩む顔を引き締めながら、文句を言ってペダルを踏み続けた。
「んなこと、言うなよ今更。いいの、黙って感謝してれば」
「あー、兄ちゃん照れてる?」
「違うっ!お前の方だろ、ドキドキしてんの、背中でわかるんだからなー」

 スカーフおばさんは、由紀夫たちのシミュレーション通りの驚き方で、昔と変わらないその顔に涙をいっぱいに溢れさせて、密かに気に掛けていた元ご近所の兄弟の身の上話を聞いてくれた。

 また来るね、と言って二人は病室を後にする。由紀夫の実の母親も、正広の実の両親で由紀夫の義理の両親も、もうこの世にいない。その親たちを知っている人との交流も殆どない二人にとって、ご近所に住んでいた優しいおばさんと再会できたことも、誰かからの、大きなギフトだったのかもしれない。

 

終わり


黒ラブ様どうもありがとうございましたー!来週のゲスト様は、ゲスト大会最後のゲスト様だ!

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

今までのGift番外編へ

What's newへ

SMAPレポートへ

SMAPメニューへ

トップへ