天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編1周年記念特別企画!大ゲスト大会!

『感動の再会を届ける』最終回

ご挨拶
「前々回が『前編』で、前回が『2回目』。そして今回が『最終回』(笑)いつ終わるかわからなーい!といってたふくちゃんだったが、終わったのだった(笑)もー、ふくちゃんてばぁ(笑)でも!でも可愛いのだ!ありがとうなのだー!」

yukio
 

腰越人材派遣センターで夕食に誘われた為、会社へはそのまま直帰の連絡を入れ、奈緒美行き付けのブティックでスーツを調達して貰った後、これまた行き付けのレストランに連れて来られた中居は、由紀夫を交えた3人で、優雅でちょっぴり緊張した3時間を過ごした。
店を出て先に帰るという奈緒美に丁寧に礼を言って見送って、彼女を乗せたタクシーが角を曲がった途端、ジャケットを脱いでネクタイを緩めた。
「あーつっかれた。何かスーツって堅苦しくてさぁ。おめぇ、毎日それ着てて疲れねぇ?」
「別に。もう慣れたから」
「あっそ。慣れりゃへーきなんだ。ふーん…。なぁなぁそれよりもさ、どっかで飲み直そうぜ。さっきの料理旨かったんだけど、なぁんか堅苦しくってさ」
ほろ酔い気分で機嫌の良さで、着ていた制服を入れてある紙袋を振りながら、中居が笑う。"届け先までのこの後の指示"を奈緒美からしつこいほどに言い含められていた由紀夫は、仕事がスムースに行きそうな感触に心の中でガッツポーズ。これならばそんなに遅くならずに家に帰れることだろう。
「じゃ、奈緒美から金出てることだし、普段は行かねぇようなトコ、行こうぜ」
「えぇー?もう堅苦しいトコは面倒だべ?そこらの飲み屋で十分…」
「いや、行く!俺が行きてぇの!夜景も綺麗なトコだし、せっかくスーツ着てんだしさ、いいだろ?」
「夜景??なんか木村みてーなこと言うな、届け屋って…」
ただ飲みに行くだけなのに夜景にこだわるなんて、まるで、目の前にいるのが由紀夫じゃなくって自分が良く知ってる木村のよう。そう思ったままを口にすると、未だに"届け屋"と呼ばれていることにムッとしながら由紀夫が不思議そうに尋ね返した。
「だから届け屋じゃなくって早坂、早坂由紀夫だって。ところで木村って?」
「ん?あぁ俺の同期。木村拓哉っつーんだけど、そうだなぁ早坂をもうちょっと軽くした感じだな。おめ―達、すっげぇ似てんの。早坂と会って、木村のこと思い出したもんな」
「思い出したって?そいつ、今は?」
「研修で3年前に海外行っちまってそれっきり。薄情なヤツだろ?俺と同じくらい配達が早くてさ、ずっとコンビ組んでたんだぜ」
酔ってるせいか、それとも緊張感から解放されたからか、饒舌になって聞いてもいないことを中居は喋り続けた。そんな彼に相槌を打ちながら、由紀夫は中居がトイレに立った隙に奈緒美から説明された依頼を思い出していた。

『今回の依頼はこの中居さんを新宿Pホテルに宿泊中の木村さんに届けること。何でも3年ぶりの親友の再会なんですって。だからなるべく感動を生むように劇的にってのが依頼人側の希望よ』
『ふぅん…感動ねぇ…』
『ひろちゃんは先に木村さんとホテルに入ってるから、迎えに行ってあげなさい。あ、そうそう、依頼人が言うには、積もる話があるだろうから一部屋で十分てことだったけど、万が一2人が喧嘩した時の予備に、木村さんがいる隣の部屋も押さえてあるからね。必要に応じて使って』

(なるほど、そーいう訳か)

おぼろげながら見えてきた状況に、由紀夫は瞳を和らげて尋ねた。
「そいつに、会いたい?」
「………」
「会いたい?」
「分かんねー」
眉間に皺を寄せ、中居は転がっていた空缶をポーンと蹴った。ノンキで騒々しいだけではない、意外に繊細そうな内面に驚きながら、そんなことはおくびにも出さず、由紀夫は空車のタクシーを止め、中居と共に乗り込んだ。

 

「はぁー食った食った。やっぱ和食が一番だよなぁ…」
「すっごい食べてたね、木村さん」
「そういう正広は好き嫌い、多いなぁ…。そんなんじゃでっかくなれねぇぞ」
「どうせもう成長止まってますぅ!」
プーッと膨れた頬を指で突つきながら、木村が声を上げて笑う。拗ねながら視線を落とした正広は、シャツの胸元についている茶色い染みを見つけて青くなった。
「あー!!シャツに染みつけちゃったぁ…。どうしよ、奈緒美さんに怒られる…」
「こりゃ速効洗うしかねぇな。部屋戻ってさ、楽な格好に着替えようぜ。で、ランドリーに出しておけばすぐ洗ってくれるだろ」
「でも仕事中だよ、まだ…」
「気にすんなってそんなこと。すぐに洗って染みを落とすのと、すぐ洗わないでおいて、染みを残すのとどっちが良い?あのオバサンに怒られたら、相当恐そうだぞ」
奈緒美の性格を読み切った木村の問いに、正広が選べる答えはたった1つ。
「すぐ洗う方が良い…」
「よし、じゃあ決まりな。あースーツなんて久し振りに着たもんだから、肩凝ったぁ」
まだ廊下だと言うのに、早々にネクタイを緩めながらエレベーターに乗り、部屋のある階数ボタンを押す。機械音と共に独特の浮遊感。階数表示が数字を増やして行くのを見ながら、そう言えばと正広が不意に口を開いた。
「ねぇ、何で木村さんは髭、剃らないの?」
「へ?どうした?いきなり…」
「何となく。スーツに無精髭って変だよぉ」
「そうかぁ?」
顎を撫でて髭の感触を確かめながら、木村は首を傾げた。そんな彼に、すっかり慣れて遠慮のなくなった正広は思いっきり首を縦に振る。
「変!ロンゲに髭でしょ?それにスーツってやっぱ合わないよ。兄ちゃんもロンゲだけど、仕事中は髪1つに結んでるし、髭は毎日剃ってるよ。木村さん、昔の写真は格好良かったのに、今は何かガラ悪い人みたい。奈緒美さんも折角の男前が勿体無いって言ってたし…」
「あのおばさんがどう思おうと俺にはカンケーねぇけどな。日本てそうだよなぁ。小綺麗なのが好きっつーか。向こうじゃ俺、髭生やしてないと子供扱いされてさー。日本人て元々童顔だから苦労したんだぜ」
「ふぅん、そうなんだ。でも、ここは日本だから、もう剃っても良いんじゃない?」
「でもなぁ…折角ここまで伸ばしたからなぁ…」
木村が名残惜しげに顎を撫でている内に、エレベーターは目的階に到着した。 

 

都内某所からタクシーを飛ばして無事Pホテルに着いた由紀夫と中居の2人。が、料金を払って降りてみれば、先に降りた筈の中居はエントランス側の柱の影に蹲っていた。
「どうした?」
「…気持ち悪い…」
「…何!?」
嫌な予感は大抵当たるもの。今回も例に漏れず、予想通りの返事が返ってきたことに、由紀夫はアチャーと顔を顰める。
「俺、タクシー苦手なんだよぉ。うー胃が回ってるぅ…」
「分かった。とにかく中、入るぞ」
途中からやけに口数が少なくなったな、とは思っていたものの、まさか本当に酔っていたとは思いもしなかった由紀夫は慌てて彼を支えた。食事中にかなり飲んでもいたし、タクシーとのダブルパンチが堪えたのだろう。
ロビーのトイレに中居を放り込み、その間にフロントでチェックイン。奈緒美が予約したというもう1部屋の人間が在室なのを確認して、中居の様子を窺いに戻る。
「大丈夫か?」
「もうちょっと…」
洗面台に縋るように凭れていた中居の顔色は、未だ青白い。タクシーに乗るまでの賑やかさは何処へやら、これはひとまず休ませようと由紀夫は中居の身体を支え、歩き出した。
「取り敢えず部屋、行こう。そこで休めば少しは良くなるだろ?」
「部屋ぁ?」
「そ。奈緒美が取っといてくれてる部屋があるから。ほら乗って」
「何であのオバサンがこんなホテルの部屋を取ってんの?俺、そんな義理ないぜ。まさか…」
酔っていても意識ははっきりしているらしい中居が更に蒼白になる。何を想像したのか容易に分かってしまうその表情に、由紀夫は笑って首を振った。来たエレベーターに乗り込み、中居と共に壁に凭れる。
「ちげーよ。中居が考えてるようなことなんてねぇよ。部屋入ったら奈緒美がガウン姿で待ってるなんてことは絶対にねぇからさ」
「じゃ何で…?」
身体目的でも何でもなく、ただの好意でこんなに良くしてもらえるなんて有り得ないと言い張る彼に、由紀夫は種明かしすることにした。
「俺の仕事、分かるよな?」
「届け屋」
「ってことは、依頼を受けて受取人までモノを届けるのが仕事だよな?」
「うん」
「実はこれも仕事の一環なんだって言ったら?」
「ふぅん、そう。………へ??」
エレベーターから降りながら相槌を打っていた中居は1分後に言われた言葉の意味を理解して立ち止まった。そんな彼を振り向き、由紀夫がゆっくりと説明する。
「届け物が中居。依頼人はお前の会社の稲垣って人」
「ごろお!?どーいうこと?まさか、届け先って…」
「中居が会いたがってた木村拓哉」
「帰る」
「ちょ、ちょっと待てよ」
木村の名を聞いた瞬間、中居がクルリと踵を返す。降りたばかりのエレベーターに乗り込もうとするのを、由紀夫は襟首を掴んで引き戻した。
「離せ!俺は帰る!」
「何でだよ、会いたくねぇの?」
「あんな薄情な奴、知らねーっつっただろ!」
「だったらそれ、本人に言えばいいじゃん。中居の事情は知らないけど、とにかく俺の仕事は中居を木村拓哉に届けること。悪いけど業務は遂行させてもらうから」
「何すんだよ!離せよ!」
抵抗を止めない中居をヒョイと腰の高さに抱え上げ、由紀夫はしっかりした足取りで歩き出した。
「お前軽いなぁ…ちゃんと食ってんのか?あぁでも、さっきは俺よりも食ってたっけ。痩せの大食いなんだな、中居は」
「おい、届け屋!離せってば!」
「早坂。痛ぇから少しは遠慮しろよなっと…。お、ここだここだ」
白い、重厚なドアの前で足を止め、ルームナンバーを確認してインターホンを押す。2人の他には誰もいない軽やかな音に中居の抵抗がピタリと止んだ。

『はい?』
「届け屋です。メールサービス会社Sの稲垣さん他、同期の皆さんからのお届け物です」
『吾郎達から届け物?』
ドアの向こうでいぶかしんでいる声に、中居の身体が強張る。腕を通って伝わってきた彼の緊張に、由紀夫は口元に小さな微笑を刻んだ。そっと抱えていた身体を下ろし、ドアから死角になる位置に中居を立たせ、逃げられないようにしっかりと腕を掴む。
ほどなくして開かれたドアの向こうに立っていたのは、端正な顔立ちの青年だった。シャワーを浴びた後らしく、髪がしっとりと湿り気を含んでいる。バスローブ姿のまま、不信感も顕に眉を寄せている彼を見て、なるほど奈緒美が騒ぐのも無理ないレベル。長髪と僅かな顎鬚が、匂い立つような男らしさを放っていた。
一緒にいる筈の正広が出て来ないことと、バスルームから微かに聞こえる水音を気にしながらも、由紀夫は木村に向かって営業スマイルを浮かべた。
「木村拓哉さん、ですね?」
「そうだけど…」
「メールサービス会社Sの稲垣さん他、同期の皆さんから、木村さんへお届け物です。お受け取り下さい」
言いながら俯いたままの中居を引き寄せ、木村の前に立たせる。
「中居!?どーしたんだよ、お前!え?届け物って…。中居が俺宛の届け物?何でまた…」
「3年ぶりなんだろ?俺は『感動の再会を届けるように』って言われただけ。ほら中居」
躊躇い、立ち尽くしている背中を由紀夫がもう一度押して促す。すると、中居は覚悟を決めたかのようにゆっくりと顔を上げた。
「木村……」
木村の姿を認めてハッと息を飲んだ中居は、3年ぶりの再会をどう受け止めているのだろうか?小さい顔の中でも特に印象強い猫目が、驚愕で更に大きくなっていくのを観察しながら、由紀夫は黙って2人の様子を窺っていた。
と次の瞬間、中居の腕が目にも留まらぬ速さで動いたかと思うと…

パシッ!

綺麗な音を立て、見事な平手打ちが木村の頬に炸裂した。
「何すんだよ!お前は!いきなりっ!!」
「おめーこそ、その汚らしい髭っ面はなんだよ!それにその髪!」
「似合うだろ?今の流行だぜ」
「バカ言ってんじゃねぇ!ロンゲに無精髭なんて、渋谷うろついてるガラ悪いチーマーと同じじゃねぇか!」
「チーマーって…。3年ぶりの再会の言葉がそれかよ…」
「あぁそうだよ!」
赤くなった頬を押さえて睨み付ける木村に、負けじと中居も声を張り上げる。
「……あっつーい。木村さん、誰か来たの?」
そんな時、不意にバスルームのドアが開き、タオルで髪を拭きながら正広が出て来た。勿論、格好は白いバスローブ姿。仕事中の筈の正広の思いがけない寛ぎ姿に、由紀夫は点目になる。
「ひろっ!?」
「兄ちゃん!今来たの?」
「仕事中だろ?何シャワー浴びてんだよ」
「だって兄ちゃん達いつ来るか分からなかったんだもん。それにシャツに染みつけちゃって…。奈緒美さんに怒られるの嫌だったし…」
「奈緒美は勝手に怒らせておけば良いんだよ。あいつが俺らに服買ってくれんのは趣味なんだからさ」
「でも…」
何か言いたげな正広の額をコツンと指先で突つき、由紀夫は手短にこれまでの経過と今の状況を説明した。
「なぁんだ、それで兄ちゃんが中居さん係で俺が木村さん係だったんだね」
「そーいうこと。奈緒美もなぁ、こーいう時は凝るからなぁ…。感動させる為に、2人の再会を遅らせようとしたみたいだけど……」
「喧嘩になっちゃったって訳?」
「喧嘩…喧嘩なのかなぁ?これも…」
「兄ちゃん…どうしよう…?」
「うーん、これはこいつらの問題だからな。気がすむまでやらせるしかねぇだろ」
感動の再会の筈が一転、ムードもへったくれもない口論に、口を挟むことも出来ず、ただじっと息を潜めて成り行きを窺うことにした早坂兄弟。2人が見ていることも忘れているらしく、その間も、木村と中居の言い争いは続いていた。

「俺が知ってる木村はそんなロンゲで髭面のガラ悪い奴じゃねぇっっ!!」
「ロンゲと髭の何処が悪いんだよ!」
「俺が認めねーつったら認めねーんだよ!」
「中居!」
「俺に近付くなって言ってるだろ!!」
いい加減、言い争いが嫌になり、何とか宥めようと近付こうとした木村に向かって、中居は思い切り右足を蹴り上げた。

ボスッ!

「ぐ……」
「あちゃぁ……」
「うっそ……」
あろうことに、勢いよく持ち上げられた右膝が木村の鳩尾を直撃。蹴られた場所を押さえ、思わず膝をついた木村は、自分を見下ろしている中居に向かって手を伸ばし掛けたが、途中で力尽きてしまった。
「とにかく俺は髭面なんて認めねぇからな!とっとと出直して来い!!」
肩で息をしながら叫び捨てた中居は、動きを止めた木村に一瞥を食らわせ、続き部屋になっているベッドルームへ駆け込んでしまった。ドアを力任せに閉め、内側から鍵を掛けてしまう。

「中居!」
「木村さん、大丈夫?」
まさか中居が実力行使に出るとは思わず、慌てた由紀夫がノックしても、篭城を決め込んだ彼からは何も答えは返ってこない。
「……兄ちゃん、気絶しちゃってる…」
「やっぱ…ミラクルヒットだったもんなぁ…」
情けなく床に転がっている木村を見下ろしながら、由紀夫が感心したように呟いた。
「兄ちゃん、どうしよう…」
心配そうに立ち上がった正広に、由紀夫は腕組みをして暫し考え込む。
「どうしようってもなぁ…。ベッドルームは中居が篭城してっし、取り敢えずソファーに移動させとくか。まぁ空調きいてるし、気付くまでここに置いといても大丈夫だろ」
「いいのかなぁ?」
「もう1つの部屋に動かす方が大変だぜ。俺らが消えれば、中居がその内、様子見に出てくんだろ」
何だかんだ言いつつも会いたがってたんだから……。彼の態度や言葉の端々からそう感じ取った自分の勘を信じることにして、木村を取り敢えず、ソファーに運ぶ。何か言いたげだった正広も、大丈夫だから、という由紀夫の決定に異を唱えることはなかった。

「あ、そうだ!」
ふと、思い出したかのように、バスルームへ駆け込んだ正広は、片手に小さな箱を握って戻ってきた。それを未だ気絶したままの木村の顔の横に置いてやる。
「何それ?」
「シェーバー。だって、中居さんは木村さんが髭剃ったら、会ってくれるんでしょ?だから…」
正広らしい優しい心配りに、由紀夫は自分より頭一つ低い彼の髪をいささか乱暴に掻き混ぜた。
「もう、兄ちゃん、止めてよぉ!」
「悪い悪い。じゃ俺達も行こうか」
「ねぇ兄ちゃん、この様子じゃ隣の部屋って使わないよね?」
踵を返し掛けた由紀夫のジャケットの裾を、正広がクイクイッと引っ張る。期待に満ちた眼差しに、由紀夫は口の端を上げて微笑した。
「泊まりたい?」
「うん!だってこんなスゴイ所に泊まれるなんて、滅多にないことだよ。それにさ、まだ受け取りの写真、撮ってないじゃん。気絶したままの木村さんを撮る訳にはいかないでしょ?」
「それもそうだな…。よし、じゃ俺らも泊まってこうぜ。受け取りは明日撮れば良いし」
「ヤッター!あのね、ここのお風呂、TVがついてんだよ、凄いんだよ」
頬を紅潮させてジュニアスィートの内装の素晴らしさを語り出した正広を促し、由紀夫は木村達には必要のなくなったもう1部屋へと移って行った。

そしてジュニアスィートの豪華なリビングには、帰国直後に不幸にも手荒い歓迎を受けた木村が一人、意識を失ってるまま残されたのである……。

 

翌朝…

由紀夫がチェックアウトするのを、正広はロビーのソファーに座って待っていた。ちょうど時間がギリギリということもあり、フロント前はかなりの人だかり。だが、先程から見回していても、木村と中居の姿はなかった。
「まだ、寝てるのかなぁ…?でも、ドアの所には何も出てなかったし…」
由紀夫が戻って来るまでに姿を見せなかったら、部屋に電話してみようと思いながら、正広は欠伸を一つ。滅多にないホテルライフについはしゃいでしまい、ルームサービスだ何だと、由紀夫と2人、夜更かしをしたのがいけなかったらしい。

とその時、
「モーニン正広!朝からでっかい口開けて欠伸してんじゃねぇよ!」
やけにハイトーンの声が聞こえてきたかと思うと、正広はいきなり背後から抱きつかれた。突然のことに目を白黒させながら振り向くと、そこには見知らぬ男性が笑顔で立っていた。
履き古しているようなジーンズにTシャツにGジャン。すっきりした顔立ちに、少し茶が入った髪には緩やかなパーマが当てられている。人懐こそうな瞳が、笑うとほんのちょっと垂れ目になる。
「おはよ。何?お前達も昨夜はここに泊まったんだ」
初対面の筈なのに、話し掛けてくる口調は非常に馴れ馴れしい。だけど、記憶にはない顔。ずば抜けた記憶力を持つ由紀夫なら分かるかもしれないと、まだフロントに行ったままの兄を待ちながら、正広は困惑の表情を隠せなかった。
「うん……。えーと…あの・・・…誰?」
「ひっでぇなぁ…。一晩たったらもう忘れちまった?俺のこと」
口を少し尖らせながらもクスクス笑う彼の声には、聞き覚えがあるような感じ。でも容姿は初対面だから、誰かと声が似ているだけなのだろう。その誰かが思い出せず、正広は地団駄を踏む。
眉を寄せ、正広は彼を上から下まで舐めるように見た。そんな反応に、彼は肩を落とし、溜息をつく。
「おいおい、マジかよ。こんな男前の顔、忘れるなんて、俺ショックだぜ。昨日、一緒に食事までした仲なのに?」
その一言に、正広の瞳が大きく見開かれる。
「食事…?嘘、木村さん?!嘘―!別人みたーい!!」
ここがロビーだということも忘れて、正広が素っ頓狂な声を上げてしまったのも無理はない。何故なら、今、正広の目の前にいる木村は、昨日の木村とは全く違った容姿をしていたからだ。
長かった髪も中途半端な無精髭もなく、すっきりサッパリした顔立ち。昨日思ったガラのそさは全く感じられない。まるで別人のような変わりように、正広は点目になって立ち尽くす。
彼の反応に満足し、木村は顔をクシャッとさせて笑った。
「ピンポーン!大当たり!!賞品はキス1つな」
「ちょっと木村さん!!」
「遠慮すんなって」
再び抱きつかれたと思ったら、頬に唇を近づけられ、正広は身を捩った。が、いかんせん10代と20代では体格の差がかなりある。やけにハイテンションな木村は正広の抵抗を軽々と封じ、んーと頬に唇を寄せて来た。
ギュッと抱き締められ、もう逃げられないと、正広はギュッと目を閉じ、身体を強張らせる。

バシッ!

「いてぇっ!」
不意に身体を解放され、恐る恐る目を開けた正広。立っていた筈の木村は後頭部を押さえてしゃがみ込んでおり、木村がいた所には、会社の制服を着た中居が仁王立ちしていた。
「てっめぇ、公衆の面前で何してやがんだ!少しはTPO考えろ、このアメリカかぶれ!」
「何すんだよぉ。頬へのキスなんて挨拶代わりじゃねぇか!それにまだ未遂だぞ」
半涙目状態で上目遣いに見上げてくる木村を、中居は冷たく見下ろす。
「しようとしたのは事実だろ?アメリカじゃ挨拶代わりかもしんねーけど、ここは日本だ!忘れんなっ!!」
「何々?あっもしかして、中居もしてほしいとか??」

ガンッ!

「一昨日来やがれ、バカ木村!いつまでも時差ボケでボケてんじゃねーよっ!」
再び蹲った木村には目もくれず、中居は正広に向き直って頭を下げた。
「ごめんな、驚いただろ?」
木村にキスされそうになったことにも驚いたけど、その後の中居の剣幕にも驚いたなどとは言えず、正広はただただ首を横に振るばかり。
「それから昨日はこいつの面倒、みてくれてありがとな。大変だったろ」
「そんなことないよ。木村さんのアメリカ話、楽しかったし…。でもビックリした。いきなり髪も髭もなくなってるんだもん。別人かと思った」
「こいつもやること極端だからさ。朝いきなり髪切りに行ったんだぜ。どうせなら坊主にしちまえば良かったのにな。こんな中途半端にしやがって」
口調はキツイけれども、木村を見下ろす瞳は優しい。カカカカカと笑い飛ばす中居は何だかとっても楽しそうで、3年ぶりに木村と再会したことがよっぽど嬉しかったんだろうということが、正広にもよく伝わってきた。
見ている方まで嬉しくなって、思わず正広も笑みを零す。
「中居ぃ〜」
「ったく、世話が焼けるヤツだなぁ…」
恨めし気に見上げる木村を、嫌々そうにしながらも引っ張って起こしてやる。昨日のはちょっと違うかもしれないが、ついさっきの口論は何てことはない、ただのスキンシップの一環なのだ。そう悟ったら、昨夜から右往左往し続けた自分がちょっぴり情けなくなった正広であった。
「届け…じゃない、早坂は?」
「今、チェックアウトしに行ってる」
「そっか。じゃよろしく伝えてくれよ。昨日は色々サンキュって」
「うん。あ、でもちょっと待って。兄ちゃん、まだ受け取り撮ってないから…」
今すぐにでも帰ってしまいそうな気配に、最後の仕事を思い出し、正広がパタパタとフロントへ駆けて行き、由紀夫を連れて戻って来る。
「おはよ。もう出るんだって?じゃその前に写真、良い?」
「写真って?」
挨拶するなりポラロイドを翳した由紀夫に、木村と中居、2人揃って首を傾げる。
「受け取りのサインの代わり。受取人と届け物と、一緒に写って貰うから」
「受取人は木村さんで、届け物が中居さんなんだよね?はい、並んで並んで」
「じゃ、撮るぞ」
言われるがままに2人が並び、由紀夫がカメラを構えた時、不意に木村が口を開いた。
「なぁ、これって受取人と届け物が一緒に写ってれば良いんだろ?」
「そうだけど?」
「ただ普通に並んでるだけってつまんねぇと思わねぇ?」
「じゃどうやって撮る?」
「こーいうの、どう?」
言うなり、中居の背後に回った木村が、目の前の華奢な背中に抱き着いた。
「必殺、おんぶオバケ!」
「木村、重ぇよっ!!」
胸の前でギュッと組まれた腕を振り解こうと、中居が手を掛けてもがくが、木村はますます腕に力を篭めるばかりでビクともしない。どころか、もがく自分への嫌がらせとして、脇腹等をくすぐられてしまったのである。くすぐったがりの中居としては、もう、木村を振り解くどころではない。
「木村、やめろって、くすぐってぇ…」
「撮って良いぞー!ほら早く!」
こそばゆさに気を殺がれ、中居の抵抗が止んだのに気付いた木村が由紀夫に全開の笑顔を向ける。
「OK」
目尻に涙を浮かべてくすぐったがっている中居と、くすぐりながら笑顔全開の木村。2人の楽しそうなじゃれ合いをファインダーに収め、由紀夫はシャッターを切った。
「…たくよぉ、いきなり何すんだよ!」
「だって普通に並んで撮るんじゃつまんねーやん」
「だからってくすぐるこたぁねぇだろ!」
「変に畏まってるより、楽しい写真の方が良いやん。な?」
「まぁな。でも、木村のおかげで良い写真撮れたと思うよ」
「だろ?」
得意満面に鼻を膨らます木村に、中居は呆れた溜息を一つ。ふと視線を落とした腕時計で、出社時間がかなり迫っていることに気付いた。
「ヤバイ、木村!遅刻する!!吾郎にどやされっぞ!」
「げ…」
「んじゃまたな、届け屋!今度ゆっくり飲みに行こうぜ」
ここで遅刻をしたらまた"遅刻キャラ"に逆戻りだと、中居が一目散に駆け出した。
「待てよ中居!じゃ正広もまたな」
「うん。あ、感動の再会になった?」
「バッチリ。ちょっと痛い目にあったけどな」
ウィンクしながら親指を立て木村が微笑する。置いていかれてなるものかと、中居の後を追って走り出す彼の先では中居が大きく手を振っていた。
もう一度2人揃って由紀夫達にお辞儀をし、踵を返す。2人の背中が瞬く間に小さくなって行くのを、由紀夫と正広はポカーンと口を開けたまま見送っていた。

「行っちゃったね…」
「最後の最後まで慌ただしい奴等だったな、本当に」
「写真、どう?」
「バッチリ。これなら奈緒美も満足だろ」
浮かび上がってきた写真を、由紀夫が正広に手渡す。
さっき見た通りのままに写っている木村と中居は、3年ぶりに再会したばかりだとは思えないほど、楽しそうな表情をしていた。
その雰囲気に何だか自分までも嬉しくなって、正広はニパッと傍らの由紀夫を見上げた。
「本当だ!木村さん、髭も剃ったしね」
「髪も切っちまったけどな」
「でもこっちの方が良いよ!早く見せてあげようよ!」
「そうすっか」
撮ったばかりの写真を大事そうに抱え、由紀夫と正広も出社すべく、Pホテルを後にした。

 

 

「おっかえりなさーい!!」
「3年ぶり、木村君!」
「元気そうだね!またよろしく!」
「昨夜はゆっくり過ごせた?」
会社に着くなり、クラッカーの音と拍手で迎えられた木村は、照れくさそうに鼻の頭を掻きながら、3年ぶりに見る同期達の顔を見渡した。
「ゆっくりも何もねぇよ。いきなりこいつに蹴り食らってさ」
「うっせぇ!おめーが髭面でロンゲだったのがいけねーんだろ!ったく、似合わねぇ格好、しやがって!」
「えー木村君のロンゲー?俺、見たかったよー」
「木村君だったら似合うと思うのに…」
「だろ?なのにさ、こいつってば…」
髪を切ったばかりと聞いて悔しがる剛と慎吾を相手に、木村はブチブチ愚痴った。一人悪者にされた中居は憮然と仕分けされたメールを鞄に詰めながら、森相手にこれまた文句を言い募っていた。
「はいはい、お取り込み中の所悪いけど、これ…」
いつまでも愚痴りそうな木村の肩を吾郎が叩き、話を中断させる。渡された紙袋を、木村は首を傾げながら覗き込んだ。
「何?これ…」
「何って制服だよ。今日から仕事復帰でしょ?」
「ちょっと待て!昨日、帰国したばっかだぞ俺!もう今日から働かなきゃなんねぇのか!帰国休暇ってねぇのかよ!」
「そんなもの、うちの会社にある訳ないじゃん。向こうで散々遊んできたんだから、少しは働きなよね。感動の再会、出来たんだしさ」
「それに関してはお前に礼を言うよ。色々サンキュ」
「どういたしまして。じゃこれ、木村君担当分ね」
にっこりとメールの束をごっそり渡され、木村は重い溜息をつく。
「頑張れよ、木村。じゃ中居正広、メール配達、行ってきまーす!」
「あ、俺も行く!」
「俺も!」
中居、森、慎吾の3人が紙袋とメールを抱えて立ち尽くす木村の肩を擦れ違い様、叩きながら次々に配達へと出て行く。
「行ってらっしゃい」
とどめとばかりに吾郎と剛に手を振られ、木村はもう一度溜息をつく。仕事に関しては容赦ない会社だと、心の中で愚痴りながら、紙袋を引きずってロッカールームへ消えて行った。 

 

「はい、お待ちかねの写真」
出社早々、由紀夫は奈緒美の前に今朝、撮ったばかりの写真を放った。
「ありがとう。あぁやっぱり、髭剃った方が男前だわねぇ……あら?嘘っ、髪切っちゃったの!勿体ない!」
喜んだり驚いたり、目まぐるしく変わる表情があまりにも予想通りで、正広は身体を縮ませて笑っていた。
「何笑ってんだよ」
「だって……」
後ろを通り過ぎ様、ポカリと頭を叩いて、由紀夫はメッセンジャーバックを肩に担ぐ。
「んじゃ行ってくるわ」
「行ってらっしゃーい。お土産よろしくぅ」
「覚えてたらな」
振り返らずに手を振りながら、由紀夫は配達に出掛けて行った。 

 

初秋の街を自転車で目的地へ向かって走りながら、ふと顔を上げた由紀夫は、赤ブルゾンにカーキ色のパンツという見慣れた格好の人間が、カラーリングのおとなしい自転車にまたがってキョロキョロしているのに気付いた。どうしよっかなぁと思いつつも、中居の同僚だと思うと放っておくことも出来ず、彼の目の前で自転車を止める。
「どうした?」
「あ、お前は確か…届け屋だっけ?」
「あぁ木村…。俺は早坂由紀夫」
「ごめん。そういや俺達、互いに名乗り合ってなかったんだな。俺は木村拓哉。よろしく早坂」
こんな所で会うなんて奇遇だなと木村が笑って右手を出す。昨夜のバスローブ姿、そして今朝の私服を由紀夫は見ていた訳だが、今の、制服を着ている木村が一番"らしい"感じがした。
「昨日と今朝と色々ありがとな」
「それが俺の仕事だから、気にすんなよ。それより何、もう働いてんの?」
「そ。うちの会社、人使い荒くってさぁ…」
「うちも変わんねぇよ。で、どした?こんな所で」
「道、迷っちゃってさぁ…。やっぱ3年ぶりじゃ忘れてるわな。この辺、俺の持ち場だったのに」
「何処?あぁここはもう一本手前を曲がるんだよ」
悔しそうに地図とにらめっこしている木村の手元を覗き込み、由紀夫は手短に道順を説明した。
「サンキュ。悪かったな、足止めさせて」
「いいって。まだ待ち合わせには時間あるからさ。じゃ頑張れよ」
「早坂もな」
ニッと口の端を上げ、右手を軽く上げる木村に、由紀夫もペダルに足を掛け、小さな笑みを返す。

パンッ!

自転車で去り間際、木村の掌に由紀夫は自分の右手を軽く触れ合わせた。仕事に対する互いの健闘を称え合う意味合いと、これからも宜しくという挨拶、そしてまた会おうという約束とを篭めて……。

由紀夫の自転車が角を曲がって見えなくなってから、木村は3年ぶりの配達に向かう為、教えられた方向に向かって自転車を漕ぎ出した。

 

そうして、何事もなかったかのように、中居と木村の『感動の再会』は、たった1日で『日常』へと形を変えたのである。

END


素敵・・・!ふくちゃん!ふくちゃん素敵よぉ!!あぁ、やっぱりこれは、由紀夫と、木村と、拓と3人で合わせなきゃ!おねいさま!野長瀬智子おねいさま、聞いてらっしゃる!?今度は3人!よろしく(笑)!

これで、たくさんの方にお願いいたしましたギフト番外編大ゲスト大会はひとまず終了ー!来週からは、代わり映えのしない元木の話に逆もどりー!あっ、てめっ!今がっかりしたヤツ!前出ろー!!

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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