天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編26話後編『チケットを届ける』

前回までのあらすじ
「東京駅で、顔も知らない女探して、40分で竹ノ塚まで移動。また顔も知らない女探して、チケットを渡せ。こんな依頼を引き受けさせられた由紀夫。果たして女たちは見つかるのか!?」

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通常の仕事なんぞは、さくさくと終わらせ、夕方、由紀夫は東京駅にいた。
平日だというのに、新幹線ホームは結構な人出で、見逃したら大変だなと思いながら、到着する新幹線を待っている。
ちょっと時間があったから下見をしておいたところによると、由紀夫の足を持ってすれば、新幹線ホームから3・4分もあれば京浜東北線のホームにいける。
ただし、邪魔がなければ。
由紀夫は内心、小さく舌打ちした。目の前をお上りさんの団体客が通過していく。
最近の由紀夫は非常に人当たりがよく、そういった匂いを確実に嗅ぎ分けてくる鋭いおばあちゃんとかの格好の餌食になってしまう場合がままあった。
これではいかん・・・!
心に溝口武弘を思い浮かべ、冷たい空気を身に纏う。
今日は誰も話し掛けてくるんじゃねぇぞ。
道が解らないだの、荷物が重いだの、孫がどっかいっただの、俺は知らねぇからな!!

それはしっかり成功。誰からも声をかけられることなく、由紀夫は17時42分着の新幹線を出迎えた。
待ち合わせ時間が18時30分。しかもその時間は、多少後ろにずれるとは言え、開演時間でもある。
「170cmぃー・・・、いた!」
12号車の前より出口で、前から3番目に立っていた背の高い女性を由紀夫は見つけた。
「あの!大川さん!?」
由紀夫の声に、はっと顔をあげた女性は、
「あ、あの・・・?」
新幹線から一歩足を出した状態で、固まった。
「大川、さん・・・、ですよね・・・?」
こっくり。
「駒田さん、からチケットを・・・」
後ろから出てこようとする客の邪魔にならないよう、由紀夫は彼女に手を貸して新幹線から出てもらう。
「預かるように、と。あ、腰越人材派遣センターの早坂ですが、あの!?」
あんまり反応がないものだから焦りもあって声を上げると、ようやく我に返った大川嬢が息を吹き返した。
「す、すいません。あの、これチケットです。間に合います・・・?」
「合わせます」
ニっと笑ってストップウォッチのスイッチをいれ、由紀夫は走り出した。

そろそろ帰宅ラッシュの時間。ごった返す在来線のコンコースを身軽に走りぬけながら、由紀夫は上野方面へ向かう京浜東北線ホームへ向かう。
山手でも、京浜東北でも、早く来た方に乗ればいい。やってきたのは京浜東北線で、そのわずかな移動中に、もう1度経路を確認した。

「は?」
「あのね、ここはね、走り」
準備しろといわれた正広が、あの手この手で調べて来た竹の塚へ1番早く到着する方法。
「JRの御徒町から、日比谷線の仲御徒町まで走るの。兄ちゃんは普通の人よりずっと早いから、それがいいと思う!」
確かに、普通では乗り換えられない電車に乗れるかもしれはしないが・・・。
「それで、北千住まで行って、伊勢崎線ってのに乗って、そこから竹ノ塚」
「乗り換え多いなぁ」
「でも、兄ちゃんの足だったら、きっとその方が時間稼げるよ」
確かに。由紀夫は、じっと電車に乗ってるのがあまり好きではない。さすがに自転車という訳にもいかない短時間だったから、しぶしぶ乗ってるだけ。
そして、その電車に乗ってる鬱憤をはらすかのように、普通なら5分はかかる移動時間を、3分弱に短縮。やってきた地下鉄に飛び乗って、軽い満足を覚える。
ここまで、予定時間より4分ほど早い。
あ、これはいけるな。
由紀夫はその感触をつかんで、軽く微笑んだ。
近くにいた女子高生が、友達同士手を取り合って、声にならない喜びの叫びをあげた。

「早坂由紀夫をなめんなよ」
18時19分。微笑んだまま竹の塚の劇場前に到着した由紀夫は髪をほどきながら、チケット売り場を探し出し、そして笑顔を引っ込めた。
「・・・。待ち合わせ場所かよ・・・!」
そこは、多彩な、幅広い年代の女性で、埋め尽くされていた。

年代を問わず着飾った女性が多い。中でも、中年以上の女性は・・・。
「派手だなぁー・・・」
おまえが舞台に出るのか?そう聞いてみたくなる派手さ。わずかに、腰越奈緒美の香りも感じられる。(『なぁんですってぇーっ!!』)
自分が、待ち合わせしている相手もこの手か、と並んでる女性の顔を一人ずつ見ていく。若い子はスルーして・・・、丸顔・おかっぱ、茶色のバックにアンサンブル・・・。
・・・ん?これは、地味じゃん??
地味なおばさん、地味なおばさん・・・。
派手の海の中に、地味な小島が浮かんでるんだから、目立たないはずないんだが・・・。
まだ来てないのかな。
あれ?と、少し場所移動をした由紀夫は、それにつれて、多くの視線が動いたのを感じた。
由紀夫は、人から見られる事には慣れている。イチイチ気にすることもないが、それにしても・・・。
わざと場所を変えると、あまりに多くの視線がくっついて来る。
「おいおい・・・」
えらく注目されてんなぁ・・・。何だ、何だ、男好きかぁ?そりゃ、好きか。心の中でぶつぶつ言いながら、このままでは埒があかんと、チケット売り場に近づいた。
男が珍しいんだろう。と、まとわりつく視線はそれで無視し、人ごみの後ろの方にいる人たちにも目をやる。
細面、小顔、丸顔!だけど、髪なげぇ・・・、丸顔、でも、服が・・・。ざーっと眺めて、どうも条件に当て嵌まるのがいない。時間ぎりぎりになるっていってたからまだ来てないのかな。
首を傾げながら、再度目線を全体にやった時。
『お、美人』
由紀夫の目が止まった。
特別派手な訳じゃないが、上品な顔立ちで、ぱっちりした目元に、かわいらしく微笑んだ口元。色も白いし、肌綺麗だし、いい感じじゃん。ちょっと年はいってるかもしれないけど、まぁ、奈緒美に比べたら!
まっすぐな黒髪がボブになってて、柔らかな茶色の、ニット・・・っ!?
その美人のバックが大きな茶色のショルダーだったのを見た時、由紀夫は、ずい!と彼女の目の前に近づいた。
「すみません、駒田さんですか?」
「はい・・・!腰越人材派遣センターの・・・?」
「もー!美人なら美人って言ってくださいよっ!」
脱力して、がっくりその場にしゃがみこんだ由紀夫は、ストップウォッチを押し、(40分フラット!)その声とともに、起き上がり、バックからチケットを取り出す。
「これ、大川様からのお届け物です」

待ちわびてたチケットだろうから、それは喜んでくれるだろうと思っていた由紀夫は、彼女の目線が、じっと自分の顔に向けられているのを感じて、いや、チケットはここ・・・と手を振る。
「あの」
呼びかけても反応がない。
「えっと、俺、解りませんでした?男、俺くらいだから見つけてくれるかなって思ってたんですけど」
「あの。グッチのスーツを着ていて、ポラロイドを持っていて、髪をくくってるっておっしゃられてたから・・・。それに、私、ポラロイドっていうのは、こういう形のヤツしか・・・」
ごくごく一般的なポラロイドの形を、彼女は空中に描いた。由紀夫のみたいに折り畳みのタイプは知らないらしい。
「あ。そーですか。すみません、ちょっと暑かったもんですから。それで、チケットは・・・」
「・・・ユウキの、親戚の方、ですか?」
「勇気の・・・?愛?」
どこかで見た、愛と勇気で生きていくとかいうCMが頭を過ぎったらしい。
「えっ・・・!あの、お兄様とか!?」
「あぁ、兄です」
立場で言えばもちろん兄。弟ではない。
「えっ、えぇっ・・・!?」
目をうるうるさせ、彼女がじっと自分を見ている。しかし、もう時間もない。
「もう、始まるんじゃないんですか・・・?」
「あっ!」
そうだ!と大事そうに彼女はチケットを胸に抱き、由紀夫はポラロイドを構えた。
「写真を」
「え!いいんですかっ!」
「えぇ、受け取りの代わりで、えっ!?いやっ!」
ぐい!と腕をつかまれ、『竹ノ塚劇場』というちっぽけな看板の前に由紀夫は引きずられた。
どうやら、記念撮影の名所らしく、会場に入る前に写真を撮っていこうと何人もの女性が固まっていた。
「あ、じゃあ、ここで」
「お兄様も一緒に・・・!」
「・・・俺、ですかぁ?」
まぁ、手を伸ばして自分を入れることもできるけども。

そして、その場で駒田嬢と並んだ受け取りの写真を撮り、どんどん辺りの空気が不穏になってくるのを感じた由紀夫は、そそくさとその場を立ち去ったのだった。

 

「ホントだー!綺麗な人ー!」
「なぁー?美人なら美人って書けってんだよ。過ぎた謙遜はイヤミだっつーの!」
もちろんその仕事がその日のラストだったため、まっすぐにうちに帰った由紀夫を待ち受けていたのは、松茸(の味お吸い物入り)ごはんだった。
「まぁ、体型の方は脱がした訳じゃないからあれだけど」
「嘘。兄ちゃん、見ただけで解るでしょ」
「まぁ、大概はなぁー!って、おい!」
「あ!やっぱり解る?」
「補正下着までは無理だなぁー」
「解るんじゃん!」
「解るんか!」
松茸(の味お吸い物入り)ごはんには、シメジが入っており、秋の味覚としてはある意味最高峰(笑)決して小食ではない早坂兄弟は、ぱぁくぱくと食べつづけ、5合あった松茸(の味お吸い物入り)ごはんは、そろそろ終わりを迎えようとしていた。

「あーあ、疲れた・・・」
ソファに横になって由紀夫が呟く。
そのソファの足元に座って、いただきストリートをやっている正広は、ひょいと顔を向けた。
「やっぱ大変?写真ないと」
「写真ないと大変。なーんか、あんまり男が行くとこじゃないみたいで、ジロジロ見られたし」
「そっかぁ」
「ちょっと、やっぱりやめよーぜ、インターネットってのさー」
正広が言い出した事ではあるけれど、実際やってみて、結構大変って事は解った。
「俺やっぱり、直接会って、仕事する方がいいわ。依頼人から頼まれて、それぞれに大事な荷物を直接届けるって仕事は、うん、まぁ、気に入ってるし。それぞれの顔が、顔って言うか、その人自身が見えたりとかするのが、いいって言うか・・・。でも、インターネットだと、下手すりゃ、全然顔見せなくても、いい訳じゃん。なんかそういうのはあんまり・・・。まぁ、それに、届け先の写真がないってのは、一回やってみ?結構大変だって」
「んー・・・。実際やってないから、確かになんとも言えないけどー・・・」
正広は、テーブルの上のポラロイドに手を伸ばす。
元々美人なのに、幸せそうに笑顔が輝いていて、本当に嬉しそう。
「でも、俺・・・。きっかけはなんでもいいと、思うな」
「きっかけ?」
「こういう、兄ちゃんみたいな仕事がある、って知ってもらって、いざって時には、ここに頼ればいいんだって思うきっかけがインターネットなのは、全然いいじゃん?」
正広は由紀夫を見上げる。
「俺、さぁ。あんま電話って好きじゃないのね」
「電話?」
「友達んとことか電話すんのは全然いいんだけど、知らないとことかに電話するのって、相手がどういう状態か解んないから、もし不機嫌だったりとかしたら、怖いなぁって思っちゃって、事務所でも、ちょっとどこそこ電話して、何とか聞いてって言われると、すごい困る」
「いいじゃん。典子でも、野長瀬でも使えば」
「そぉーんな訳いかないでしょー!俺が一番下っ端くんなんだからぁ!」
ぶぅぶぅ。頬を膨らませ、簡単に言わないでよっ!って顔で由紀夫を睨む。
「だから、それがメールでできたらいいだろうなーとは思うもん」
「メール」
「特に、届け物の依頼って、名前とか、住所とか、日付とか、間違えちゃいけないもの多いし、メールとかFAXとか、そういったもので、お互いにちゃんとこれが届きましたよって確認できた方がいいでしょ?それで、じゃあ、こういう人から依頼がありましたよってのが解ったら、俺とか、野長瀬さんとかが、ちゃんと調べて、品物受けとって、写真ももらって。ほら、ここからは一緒だもん」
「きっかけねぇ」
「きっかけだよ。たくさんの人に知ってもらうきっかけ。それによってね」
真剣な表情で正広は由紀夫を見詰め、由紀夫もなんだ?と真剣に見詰め返す。
「腰越人材派遣センターの売り上げが伸び、業績上昇に伴う給与の増加があれば、あの松茸(の味お吸い物入り)ごはんが、単なる松茸ごはんになるんだよ!!」

・・・奈緒美そっくり・・・。

大事な弟を腰越人材派遣センターなどで働かせた事を、かるーく後悔する由紀夫だった。

「ま・・・、きっかけくらいだったら、いいのかなぁー・・・」
「いいと思うけどね。兄ちゃん、新しいものはすべていけないと思うのは、老化の始まりだと思うよ」
「・・・。老人ですから。正広ちゃんに比べれば、もぉ、棺桶に片足突っ込んだような老人ですからぁぁ!ゴホゴホっ!」
「あぁっ!おじいちゃん!」
「この鬼嫁わぁ、年寄りに、晩飯も食わせんのかぁぁ!」
「おじいちゃん!おじいちゃんはさっき、松茸(の味お吸い物入り)ごはんを4杯もお代わりしたじゃあありませんかっ!」
「4は死に通ずるのじゃ、縁起でもないぃぃぃ」
しばし、ボケ老人と鬼嫁コントを楽しみ、由紀夫はいきなり素に戻った。
「おまえ、インターネットはいいけどさ。会った事もない子に、いきなりプロポーズとかすんなよ」
「えっ?」
「まぁ、結構するまでに、色々と試しといた方がいいから」
「試すって、何?」
「大丈夫」
ポン、と正広の両肩に手を置く。
「俺は、結婚するまで綺麗な体でいろとか言わないから」
「兄ちゃんに言われても、説得力のかけらもなぁーーーーい!!」

 

その後。
竹ノ塚歌劇団、プロフィール不詳の、男役トップ。愛ユウキには兄がいるという話がタケヅカファンの間で持ち上がる。その兄は、双子のように愛ユウキに似ていて、中日の公演を見に来ていたらしい。
そして、その兄の仕事を題材に、座付き作家のモトスミ先生が「Gift」という戯曲を書き上げ、これが竹ノ塚歌劇団伝説の舞台となるのだが、それはまだ先の話である。

つづく


竹ノ塚が沿線である、という方が何人かおられます。なので、その方々の名前を、なーんとなく取り込んでみました。解りにくい。えぇ。取り込まれた本人でも気づかないくらいの取り込み方(笑)そして、メールで書いていた事と違ったのは、実際に私がドームでチケットやりとりさせていただいた美人奥様!書いてること違いすぎ!でございました(笑)さらに、愛ユウキや、綾瀬ゴロウを出す!とお約束した方(笑)出せなかった・・・!ごめんなさぁーい!!さ、来週はどんなかな!

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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