天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編27話前編『妙齢の女性を届ける』

前回までのあらすじ
「人気歌劇団、竹ノ塚歌劇の新作にヒントを与えたと知りもしない由紀夫だったが、今週はややヒマだった。ヒマだったので、寝てばかりいる。そして、金曜日も寝ていた。あらすぎちゃうやん!!」

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「あら」
週末、金曜日。もうすぐ定時の午後4時。腰越奈緒美は、手元に届いた書類を見て小さく声を上げた。
そっけない白い封筒に差出人の名前はなく、中には便箋と写真が一枚。映っているのは、若い女性。なかなかの美人だが、奈緒美はそんなものを見て声を上げた訳ではなかった。
「ちょっと、ひろちゃん、由紀夫」
「はーい!」
「んー・・・?」
ひまー・・・と机に突っ伏して寝ていた由紀夫は、眠たそうに頭をかきながら奈緒美の前に立ち、大あくびをして睨まれる。
「新しい仕事よ」
「あ、はい」
「どんな?」
「この女の子を届けて」
「・・・女の子ぉ?」
写真を渡されて、由紀夫は首を傾げる。ワンピース姿の、いかにも大人しそうな女の子。
「この子が、今度の日曜日の2時に、日航ホテルで人と会ってるから、丁重に連れ出して、この住所まで連れていくの」
簡単でしょ?
机の前に立っている早坂兄弟を見上げ、ん?と奈緒美は首を傾げたのだが。

「それって、誘拐、って言うんじゃ?」
由紀夫から指摘され、まぁ!!と奈緒美は力一杯驚いた顔をする。
「違うわよ」
「え、だって・・・。人と会ってる、んでしょ・・・?」
「そうよ」
「その人を、連れてっちゃうって、って言う、のは・・・?」
「誘拐、だろ?」
兄弟から畳み掛けられ、やれやれと奈緒美は肩をすくめる。
「誘拐ってのは、利益目的でさらって、閉じ込めちゃう事でしょー?この住所見てみなさいよ」
「さくら児童公園」
「そんなとこに連れてって、何が誘拐?」
「んな事言ったって、この公園に車でも待ってたらどーすんだよ」
「まぁさか、そんな!」
大袈裟に目を見開いて、奈緒美は首を振る。
「そんなこと、ある訳ないじゃない」
「なんの根拠で?」
実際に働かされるのは自分のため、由紀夫の追求は容赦ない。
「・・・おまえ、もう金貰っただろ」

立ち上がった奈緒美は、にーっこり!と笑った。ポン、と正広の頭に手を置く。
「そういう事だから、下調べ、よろしくね?」
「は、はいぃ?」
「野長瀬、出掛けるわよ、車!」
「あっ、はいっ!」

「下調べ、ったって・・・」
手元に残された資料を見て、正広はため息をつく。
あるのは、写真と、届け先の住所だけ。
「兄ちゃん、この女の人知ってる?」
「知ってる訳ねーだろ。普通の子じゃん」
「え。普通よりは可愛いよ」
「おまえが不細工だって言う女にお目に掛かって見てぇよ」
だって、可愛いのに・・・。ぶちぶち言いながら、届け先の住所を確認する。
「うーん、確かに公園。それも、小さいね。公園のどこ、って待ち合わせじゃなくっていい感じ」
「近くになんかあんの?」
「住宅街」
由紀夫は正広が広げている住宅地図を見下ろす。
住宅が密集している中にある公園。おそらく、子供連れの母親たちが溢れかえってそうな。
「んー・・・、こんなことで、嫌がる女を車に押し込んだりしたら」
「間違いなく、大目立ちだね」

誘拐、じゃないのか・・・?
写真に問い掛けたって、答えは返ってこなかった。

とりあえず田村に照会しとけ、そう言われた正広が、写真のコピーをとってFAXで送ったところで定時の5時。
スキャナで取り込んで、メールで送る、という技は、現在の腰越派遣センターにはなかった。

 

「連絡来たかぁ〜?」
風呂上がりに、長い髪をタオルで拭きながら由紀夫は尋ね(サービスカット)、正広は、横浜ベイスターズ日本シリーズ優勝記念・プロフェッショナルベースボールVIVA横浜バージョンに熱中しつつ、首を振る。
「いくら田村でも、写真だけじゃなぁ〜」
ビールビールっと冷蔵庫から取り出し、ソファに横になる。
「兄ちゃん、ソファ濡れちゃう」
「おまえは小姑か」
こーすりゃいいのか!こう!と、タオルをくるんと頭に巻いて、出勤前のおねいさんを演出する由紀夫を見て正広は大笑いし、画面の大魔人佐々木は、タイムリーツーベースを打たれた。

土曜日。
正広はあれこれ家事を片付け、由紀夫はごろごろする。
ごろごろしていたのだが。
「出掛けるわ」
「んー?どこ行くの?いつ帰る?」
「おまえは、おふくろか」
「いや、夕方に帰ってくるんだったら、買い物お願いしちゃおっかなーと思って。夜中まで帰ってこないとか、朝帰りするとかだったらいいけど」
「あら、やだ、正広くん。まるであたしが朝帰りしたことがあるみたいな言い方しちゃってっ!」
えへー!と由紀夫は笑い、うふー!と正広が笑い返す。

「そんな遅くはなんねーよ」
「あ、そぉっ?」
その沈黙の耐えかねたように由紀夫が言うと、正広は、えいっ!とスーパーの広告を取り出した。
「あのねー、あのねー、このスーパーでねー、卵が安いのー。でもねー、お一人様、1個なんだよねー」
正広は近所のスーパーでは顔が知れ渡っている。パートのおばちゃんは、正広が2回、3回とレジを通ろうが気にはしないだろうが、正広は気にした。
締まり屋さんながらスタイリッシュ。
「だから、兄ちゃんも行って!そんで、卵と、ティッシュと買って来てー!」
「ティッシュ?」
「これもお一人様一箱なんだもん」
「はいはい。他は?自転車で行くから、ある程度は積めるけど?」
「んー・・・」
お昼ご飯がすんだばかりの正広は、夕食のメニューまではすぐに思い付かず、首を振る。
「俺も買いに行くし。なんかあったら電話する」
「んじゃ、行ってくるわ」
「行ってらっしゃーい!卵とティッシュお忘れなーく!」
「へいへい」

 

「田村ぁー」
ドアの前で一応声をかけ、そーっとドアを開ける。玄関に使いもしないだろうにたくさん靴があって、それを部屋の中に放り投げると、上からどさどさとあれこれ落ちて来た。
「殺す気かぁ!」
その中に、電話帳などを見つけ、由紀夫は部屋に踏み込む。
「俺の靴ぅ!」
「出掛けもしねーのに、履かねぇだろ!」
「なぁんなんだよぉぉ!」
田村は、急に現れた由紀夫から隠れるように、カーテンの中に入ろう入ろうとしている。
「この女の事、なんか解ったかと思って」
「女ぁ?」
差し出した写真を見て、田村が首を傾げる。
「おまえの女かぁ?なんか、地味だなぁ〜」
「ちげーよっ!昨日FAX送っただろっ?」
「FAX−?」
田村のFAXにはあれこれ多機能で、そして、今現在も何か出力しているのだが。
「来てねーよ、そんなの」
「えっ?」

その頃、夜通しの接待から帰り、倒れ込んで寝ていた野長瀬はようやく目を覚まし、愛兎智子(オス)に齧られたFAXを見て、呆然としていた。
「調べろ、って、俺、が・・・?ひろちゃん・・・?」

 

一応調べては見るけど、こんな地味な女はなー・・・と、イマイチ乗り気ではない田村に、急げよ、と念押しし、由紀夫は部屋を出る。
帰り道で、届け先の公園を覗き、思った通りの子供と母親だらけの光景を確認する。
大型の車では入るのも難しそうな狭い道に面してて、近所はごくごく当たり前の住宅街。

日曜の真っ昼間に、こんなのどかな場所で何かが起こるとも思えないけど・・・。
感心にも、日曜の仕事のために、公園内をあれこれ覗いていた由紀夫は、スーパーに行くのをうっかり失念。卵とティッシュー!と正広にわめかれる事になった。

つづく


70週ですって!70!まー。お笑いだわ(笑)来週も、また続くのね!

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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