天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編27話後編『妙齢の女性を届ける』

前回までのあらすじ
「日曜日にホテルから女の子を連れ出せ。それは誘拐だろうと由紀夫は主張したのだが、すでに依頼料が振り込まれていた奈緒美は、強行するのだった。ひどい!なんて人でなしなんだ!あれ、ちょっと違うかなぁ??」

yukio
 

正広からわめかれ、卵とティッシュを買いに行かされた由紀夫は、ティッシュの影に北海道直送たらばがにを入れられた事に気付かず、レジを通ったところで、目を点にした。
「9千円っ?」
「ふわぁー、おいしそー!」
「ちょ、正広っ?」
「おごりぃ?兄ちゃんのおごりぃっ!?」

早坂家の家計をすべて握っている上に、この弟はなぜこうなのか・・・!

そうは言っても自分もたらふく食べたもんだから、ふわふわと満足した気持ちのまま、由紀夫はお台場の日航ホテルにいた。
結局田村から連絡はなく、由紀夫は写真1枚を手に、ロビーを眺める。
地味目の女、地味目の女・・・。
日曜日の人気ホテルだけに、若い女の子は多く、なかなか見つけられない。その由紀夫の前を、振り袖を着た女性が通り過ぎて行き、何気なく見送った由紀夫は、2秒の後、
「げ」
と小さく声を上げた。
「・・・めちゃめちゃ、写真映り悪ぃな・・・」
苦笑しながら、由紀夫は華やかな振り袖を追う。

その女性、というより女の子はロビーにおいてある椅子に座った。
じっと見れば、確かに写真の女の子だが、イメージがまるで違う。
目、だな、と由紀夫は思った。
写真では伏し目がちにしているけれど、実はかなり大きな、ぱっちりした瞳で、まつげが冗談みたいに長い。
写真の地味なワンピースと違ってよく目立つ振り袖姿で、人目を引いた。

時間は1時55分。彼女が誰かと会う約束の時間まで、後5分。依頼内容は、『日曜日の2時に、日航ホテルで人と会ってるから、丁重に連れ出して、指定された住所まで連れていく』
・・・じゃあ、会わせてからの方がいいって事か?

考えながら見ていると、その子の前に、かなり派手な和服のおばちゃんと、スーツの若い男が現れた。
「・・・見合いか」
見合い会場から女の子を連れ去れって事は、依頼者は彼女の恋人とか、そんなところなんだろう。
立ち上がった彼女は、恥ずかしそうに微笑み、軽く頭を下げた。
おばちゃんは豪快に笑い、若い男を促して先に歩き出したが、後からついていくべき彼女は、表情を消して俯いた。
じっと立ち尽くしたまま動かない彼女を見て、由紀夫は声をかけていた。
「あの」
「はい」
振り向いた女の子の今にも泣き出しそうなぱっちりお目々に一瞬たじろぎながら、写真を見せる。
「これ、あなたですよね」
「あ・・・」
最初っから、由紀夫には無理強いするつもりは一切なかった。
「俺は届け屋で、あなたを、さくら児童公園に連れていくように・・・」
いくら奈緒美が先に金を貰っていようと誘拐なんてするつもりはないし、ましてこれはどう見てもお見合い。本人がお見合いしたいのか、したくないのかそれが重要、と思っていたのだが。

「あ、いい、んです、ね・・・?」
彼女は、きゅっと唇を閉じたまま、おっきなお目々が落っこちるんじゃないかって勢いで首を縦に何度も折った。
事実、和装用の髪から、髪飾りが一つ落ちた。

 

「ホントに?だって着物汚れちゃうかもしれないぜ?」
「だって・・・」
とても口数の少ない女の子で、困った顔をして首を振るか、素直にこっくりと縦に折るかのどっちか。口以上にモノを言うのはその目で、じっと見詰められると、言う事を聞いてあげたくなる。
だから、今現在の由紀夫たちの姿はとてもおかしなものだった。

由紀夫の自転車の荷台に、振り袖の女の子。
きちんと膝の腕に畳まれた袖を片手で押さえ、開いた片手で、そっと由紀夫のスーツの裾をつかんでいる。
風は涼しく、陽はぽかぽかとしていて気持ちがいい。
これだけ人目を引かなきゃな・・・。
道行く人の、何か間違ったものを見ているような視線を次々に受け、由紀夫は小さくため息をつき、スピードを上げた。

 

さくら児童公園に到着しても、その状況はあまり変わらなかった。
天気のいい日曜日の公園には家族連れも多く、姿勢よく立っている彼女はよく目立つ。
「・・・ここに連れて来る、までが俺の仕事なんですけどね?」
「はい・・・」
「依頼者は、あなた?」
じ・・・っと由紀夫を見詰め、こっくりと、彼女はうなずいた。

「お見合い・・・、断れなくって・・・」
自力で逃げる勇気もなくて、誰かに連れ出して欲しかったと彼女は言った。
「そういう事は、彼氏に頼みなよぉ」
「だって・・・」
くしゅんとうな垂れた彼女は、小さな声で呟く。
「だって、迷惑、かけちゃったら、悪い・・・」
「・・・いくつ?」
「え?」
「年」
「19・・・です」
19歳でお見合いをするって事は、結構いいところの子かも知れない。そこに、付き合ってる男が同年代であれば、今すぐ結婚がどうこうともできないだろう。
だから、彼には言わずに、一応、自力でどうにかしようとしたのか。
「だったら、彼のとこまで届けてあげたのに」
ううん、と彼女は首を振った。
「勇気がないから・・・、ここまで連れてきてもらったけど・・・」
ぱっちりお目々は、上目遣いじゃなく、由紀夫を見上げた。
「ここからは、自分で、歩いて行きます」

大人しいばかりだった女の子が、ほんの少し、強く見えた瞬間。
「そっか」
「はい」
けれど、すぐに恥ずかしそうに顔を伏せ、小さく頭を下げる。
そこへ
「ゆうちゃん?」
ノンビリした声がかかった。

「あ!勇ちゃぁん!」
「ユウちゃんにユウちゃんっ?」

声をかけてきたのは、どう見ても10代の若い男の子で、コンビニの袋を片手に持っている。
「ゆうちゃん、どしたの振り袖なんか着て。お見合いみたいじゃん」
「お見合いだったの・・・」
「えっ?」
びっくりする彼に、「ゆうちゃん」は更に言った。
「逃げて来たの・・・」

声もなく驚く彼を見て、しょうがないなと由紀夫は思った。10代の男の子が、付き合ってる彼女からお見合いの席から逃げて来たって言われても困るだろうと思う。
ゆうちゃんも、顔を伏せてしまった。

しかし、もう一人の「勇ちゃん」は、一転大きな声で笑い出した。
「お見合いっ!?ゆうちゃん、お見合いしたのぉ!?」
「してないっ、だって、逃げたもん」
「そーだよねぇ!」
ニコニコしながら、彼は言う。
「ゆうちゃん、可愛いし、はにかみ屋さんだし、大人しいし、お見合いなんかしちゃったら、一発で気に入られちゃうもんね」
「あ・・・?」
予想だにしていなかったリアクションに、由紀夫が目を丸くした。
「ね、ゆうちゃん、可愛いでしょう?」
「あ、あぁ・・・。何?君らは二人とも、ユウちゃんな訳?」
「そうです。僕が浅井勇太で、彼女が田淵ゆう子。えっと」
「早坂由紀夫」
「早坂さん、ゆうちゃんの言う事聞いてあげなきゃ、って思いませんでした?」
素直に、由紀夫はうなずく。どうも、自分はぱっちりお目々に弱いらしいし。
「でも、そんな大人しい子じゃないんですよ」
「もぉっ、なんでよぉっ」
長い袂でゆうちゃんは、勇ちゃんを叩く。
「ほらね?」
叩かれながら勇ちゃんは笑う。
確かに、彼が来るまでとまるで違って、泣き出しそうな大きなお目々が、楽しそうに輝き出している。

「でも、逃げちゃったのはまずいでしょ。お父さん、お母さんとこ、謝りにいこ?」
「でも・・・」
手を取られて、ゆうちゃんは小さくイヤイヤする。
「イヤじゃないじゃん。また、後先考えずに逃げたんだろ?」
「また?」
「あの、俺は小さい頃からゆうちゃん知ってるから、お見合いには向かないって解ってるんですけど、ほら、見ての通り可愛いでしょ?お母さんとかは、もう、可愛くて、可愛くてしょうがなくって、悪いムシがつくまえに、相手を決めようってね、何回かお見合いしたよね?」
「ううん」
「あ、逃げたのか」
「うん」
おなかが痛いだの、電車の事故で列車に閉じ込められただの、道に迷ったおばあさんをお孫さんとこに連れてって上げただの、ありとあらゆるネタを使って来たが、ついにネタ切れしたらしい。
「俺は最終手段か!」
「そう言えば、ゆうちゃん、この人に助けてもらったの?」
「あぁ、俺は届け屋で。このゆうちゃんから、ゆうちゃんを、この公園に届けるように言われただけ」
「どうもすみません」
ぺこんと頭を下げる。
「ありがとうございます」
そして顔を上げてにっこり笑った。
「ね・・・、勇ちゃん・・・?」
「ん?」
手を取られたままのゆうちゃんが、ちょいちょいと手を引く。
「怒った・・・?」
「怒る訳ないじゃん。俺がいるからだろ?」
ぱっと顔中を赤くして、袂で勇ちゃんを連打しながらもゆうちゃんはうなずいた。
「ワガママでも、お姫様でも、俺もゆうちゃん好きだし」
「ひどいっ」
連打!連打!連打!!

それを見ているうちに、だんだん由紀夫もおかしくなってきた。
「何?それ、人前でいちゃついてるって事?」

「そんなことない・・・っ」
「そうです」

勇ちゃんはにこにこと言う。
「だって、早坂さんカッコいいし。ゆうちゃん、面食いだから」
「そんなことないよ。だって、勇ちゃんの事も好きだもん」

バカップルー・・・!
軽いめまいを押さえ、由紀夫は言ってみる。
「何だったら、二人まとめて、ゆうちゃんちに届けてやろうか?」
「いいえ」
しかし勇ちゃんはきっぱりと断った。
「ここまで届けてもらいましたから、ここからは、お荷物二人で、よちよち行きます」
「私お荷物っ?」
「うん。ゆうちゃんは俺のお荷物で、俺はゆうちゃんのお荷物。ちゃんと持っとかないとダメなんだなー」
彼女の顔を、耳から、首筋から、きっと指先まで真っ赤にさせるような事を、あっさり口にして、それじゃ行こうねと手を引く。
「あ、ちょっと」
由紀夫はその二人を呼び止めた。
「受け取り」
「受け取り?」
「今回は、差出人と受取人が一緒だけど、一応決まりだから。ほら、並んで、って言わなくても並んでるか」

振り袖の可愛い女の子と、その子の手をそっと握ってる、Tシャツの上にシャツを羽織った、余った手にはコンビニの袋を提げているジーンズ姿の男の子。
このポラロイドで、こんな可愛い写真撮ったことあったっけ、と思いながら由紀夫はシャッターを切った。
「じゃあ、これ」
2枚撮ったうちの1枚を二人に渡し、叱られてこい、と背中を押す。

「だってね、言ったのよ?私、勇ちゃんと付き合ってるのって。でもね、お母さん、ホンキにしないの。お母さん、勇ちゃんの事、息子にしたいくらい可愛いって言ってるのに、なんかね、勇ちゃんの事、ずっと小さい男の子みたいに思ってるみたいで、なんか、ちょっと頭悪いみたいで」
「お母さんの事そんな風に言わないの。可愛いお母さんなんだから、ゆうちゃんそっくり」
「私そんなに頭悪くないもんっ!」
「またそゆこと言う。その振り袖新しいだろ。買ってもらったヤツだろ?」
「そ、そだけどっ」

 

姿が見えなくなっても、まだ声が聞こえるほど、二人は延々喋りながら遠ざかり、聞くともなく聞いてしまった由紀夫はどっと疲れを覚えて、よろよろと帰りつくことになってしまった。
家に帰ったら帰ったで、興奮した正広からFAXを渡され、それによって、彼女の身分が、とある総合巨大グループ企業会長の孫であることを知る事になるのだが、それにリアクションするよりも、それだけの身分がバックにあっても、彼女にぴったりなのは、きっとあののんびりした勇ちゃんなんだろうな、と由紀夫は納得してしまった。
ちょっと面白かったけど。
でもバカップルの面倒を見るのはもういやだ。と心に誓った由紀夫なのだった(今日のわんこ風)。

つづく


えっと。イメージはうちのたろ姫(笑)たろ姫はある意味見合いに向き、そしてある意味、最も見合いに向かないタイプなのだった(笑)

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

今までのGift番外編へ

What's newへ

SMAPレポートへ

SMAPメニューへ

トップへ