天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編28話前編『稲垣医師を届ける』

前回までのあらすじ
「気候はすっかり秋から冬。由紀夫・正広兄弟が、グッチの新作コートをプレゼントされるのもそう遠い日の事ではないだろうことをここに断言する。だからあらすじじゃねぇって!」

yukio
 

「はい、終了っと」
撮ったポラロイド写真をバックに入れ、由紀夫はいつもの自転車にまたがった。今日は午前中に2件立て続けにあったけど、それ以降はフリー。ちょっと肌寒いけど天気はいいし、どっかで休んでいくかな、と漕ぎ出そうとした時。
「お兄さん」
斜め後ろから声をかけられた。
「あれ、稲垣先生」
早坂家の白文鳥しーちゃんと、野長瀬のうちのミニうさぎ(大)智子の主治医である稲垣医師が、白衣を着て路地から出てきたところだった。
「先生、何してんです?」
「うん、ちょっと、あれがね」
「え?」
あれ?と稲垣医師が指差した方に目をやって、あぁ、と由紀夫はうなずいた。
「自転車・・・、あぁ、チェーンはずれちゃったんですねー」
年期の入った、稲垣アニマルクリニックの自転車が、正々堂々と歩道のど真ん中に倒れていた。
「そうなんだよねー」
「でも、すぐ直せますよ、これくらい。ちょっと待ってて・・・、って、先生っ!?」
「急いでるからぁ〜」
「急いでるって、それ俺の!!」

重たそうなかばんを片手に提げたまま、由紀夫の自転車に乗り、よたよたと漕ぎ始めた稲垣医師は。

「あ〜あぁ・・・」

かばんの重みに耐え兼ね、なんの抵抗もなくかばん側に倒れた。

「乗りにくいよ、ここ」
「すいませんねぇ・・・」
荷台の稲垣医師に言われ、せっせと自転車を漕いでいた由紀夫は素直に謝る。
「それで、まだまっすぐですか?」
「多分」
「多分ーっ?」
「行ったことないから」
「往診、ですよねぇ」
首を巡らして後ろを見ようとすると、バランスが崩れて、
「わわっ!」
「危ないなぁ。ちゃんと前見て」

なにが入ってんだよっ、そのバックはよぉっ!
もちろん、由紀夫は稲垣医師とは違うので転んだりはしない。さっさと体勢を立て直し、心の中で文句を言う。
自転車のチェーンなんてすぐにでも直せるが、稲垣医師のバランスの悪さはちょっと信じられないほどで、由紀夫はとても放っておけなかった。このまま一人にしていたら、また転びそうだったため、急患の往診に行くという稲垣医師を送っている最中。
「番地が?なんでしたっけ」
「2丁目」
「の?」
「公園の向いの山下さん」
「・・・知らないんですねぇ!」
「行ったことないんだって」
稲垣医師はあっさりと言う。
「往診は剛が行ってるからねー」
「あ、そうなんですか」
稲垣アニマルクリニックには獣医が二人いる。見るからに変わっている稲垣医師と、見るからに人の良さそうな草なぎ医師。しーちゃんの担当は稲垣医師なもんだから、あまり草なぎ医師の事は知らなかったが、正広から、ほとんどの動物は彼が診ていると聞いていた。
「あーあ・・・」
「どしたんですか」
「大型犬なんだよねー・・・」
「はぁ」
「嫌いなんだよねぇー・・・」
「嫌いって、先生・・・」

2丁目の公園の向いの山下。
由紀夫であれば、この程度の情報であってもちゃんと到着することができる。
「ここ、ですかね」
どでん!
でかいぞ!!という後ちょっとでお屋敷クラスか?という家。
「あぁ、着いちゃったか」
「急いでたんじゃないんですかぁっ?」
「急いでたよ。急患だもん」
「じゃ、頑張ってくださいね」
「あ、お兄さん、ちょっと」
「はい?」
自転車を方向転換させようとしていた腕を、思わぬ力でつかまれ、力一杯引っ張られた。
おぉぅっ!?
倒れそうになって、ぐっと踏みとどまったら、そこは玄関の前で、稲垣医師が開いてる手で、ぴんぽーんとチャイムをならしていた。
『はぁ〜い』
甲高いおば様な声がインターフォンから聞こえる。
「稲垣アニマルクリニックの稲垣と早坂です」
「はいぃ?」
『ま、センセぇ!よかった、すぐに来ていただけてぇ!』

バン!とドアが開き、声を裏切らない、体格のいいおば様が登場。
ざぁます眼鏡じゃん!由紀夫は声を出さずに感嘆した。
「あのねぇ、うちのみはるちゃんがねぇ、あら?こちらは?草なぎ先生じゃあ・・・」
「研修生の早坂です」
おば様ににっこりと告げた稲垣は、睨むめつきで由紀夫を振り返った。
「あ、研修生の、早坂です・・・」
「まぁまぁ。先生のところは、皆さん、ハンサム揃いですこと!」
ハンサムって!
最近あんまり聞かねぇぞ!?
「あ、それより、うちのみはるちゃん!みはるちゃんがねぇ」

稲垣医師がおば様に、由紀夫が稲垣医師に引きずられて、ふっかふかのスリッパが埋もれて消えそうな、長い毛並みの絨毯がしきつめられたリビングに連行される。
「みはるちゃぁん!」
『みはるちゃん』は、黒いレトリバーだった。
「あぁ、ダメ!みはるちゃん、いい子にして、じっとしてて!ほら、センセ、見てやってちょうだい!足がね、みはるちゃんの足!」
「足?」
軽く握った手を、ちょっと顎にあて、微かに首を傾けて、稲垣医師はみはるちゃんを眺める。
「早坂くん、ちょっと押さえてもらえるかな」
「えっ!センセ、みはるちゃんに痛い事するんですっ?」
「いえ、とりあえず見てみないと。ほら、早坂くん」
また、睨むめつきで見られたため、大人しく由紀夫はみはるちゃんに近づいた。みはるちゃんは、もう、結構な年らしい。ご主人に言われた通り、動かずにじっと座っている。
真ん丸な、真っ黒な目が、じっと由紀夫を見ていて、その落ち着いた色合いが、由紀夫はとても気に入った。
「大丈夫か?」
みはるちゃんの前にしゃがみこんで、頭を撫でる。
「足って、どの足です?」
「あ、右ね。右足が」
「右、の、前足?後ろ足?」
振り向いて尋ねると、おば様は心の底から驚いた顔をした。
「足って言ったら、足じゃあないの。前にあるのは、手でしょう?」

・・・おばちゃん・・・。

一瞬呆然としたが、稲垣医師の睨む目線が飛んできたため、あ、足ですねー、と右の後ろ足に触る。
「先生、どうしたら」
「そうだねぇ〜」
近寄って来ていた稲垣医師は、由紀夫に足の裏っかわはどうなってる?と尋ねる。
「う、裏、って・・・」
みはるちゃんの健気な協力を得つつ、絨毯に頭をつけるような形で足の裏を見るが。
「いや、何が、どってことはぁー・・・」
「よーく見てね、よぉーく、よぉーーっく!」
「よく、見てます、け、ど・・・」
絨毯にあぐらをかき、そっと膝にみはるちゃんの右後ろ足をおいた由紀夫は、前屈するようなかっこで足の裏を覗き込んでるものだから、苦しそうな声をあげる。
「んー・・・」
「何か刺さってない?」
「刺さってぇ・・・?」
大して面積がない場所を、絨毯爆撃の目線でじーっと眺めると、由紀夫の脳裏に、何か違和感を訴えるものがあった。
「あれ?」
今の感覚って。
ちょっと前の場所に戻って、もう一度眺めると、微かに光るものがあって。
「あ!これだ!」
「何?」
「多分・・・、あれじゃないですか?洋服の値札とかについてる、プラスチックの」
「あぁ、あれね。はい」
「・・・これ、なんです?」
「え?知らないの?これはね、ピンセットって言って」
「知ってますよ!」
「あ、じゃあ、使い方?あのね、利き手の方で持ってもらって」
「知ってますってば!」
「じゃあ、早くみはるちゃんの足から抜いてあげれば?」

はい。
と、手の中にピンセットが落ちてくる。
やりたくないんだな!?と、稲垣医師を見ると、さっさとやって!と3倍の威力でにらまれ、あ、はい。とこっくり由紀夫はうなずいた。

「痛くないからなぁ〜・・・」
優しく声をかけつつ、ほんの頭だけが覗いているプラスチックをピンセットで挟む。
「大丈夫、大丈夫」
足を撫でつつ、手に力をいれると、比較的あっさり透明なプラスチックが出てきた。
みはるちゃんは我慢強く、1度もなくことはしなかった。
「あー、よかったー!みはるちゃん、大丈夫かぁー?」
よしよし!!と頭を抱いて、頭を背中を撫でると、嬉しそうに由紀夫の顔を舐め、立ち上がっておば様のところに行こうとする。
「みはるちゃん!まぁ、みはるちゃんったら!」
おば様もとてとてと走り、リビングのど真ん中で、ひし!と抱き合う一人と一匹。
「ごめんなさいね、みはるちゃん!お母さんが、ちゃんとお掃除してなかったから、みはるちゃんを痛い目に合わせて!ごめんなさい、みはるちゃん!」
くんくん、と小犬のような鳴き方で、みはるちゃんはご主人に甘えている。甘やかし傾向は明らかに強そうだが、愛情もしっかりあるらしい。

「はい、おにいさん、バンソウコウ」
「は?」
「一応、貼っといてください」

 

「ホントにセンセ、ありがとうございましたぁ!」
甘ったるいケーキに、おイギリスの、お紅茶を、銀の食器で出していただいた後、みはるちゃんとおば様が玄関まで送ってきてくれた。
「草なぎ先生がおられないって聞いて、もぅ、心配してましたのに、わざわざセンセに来ていただけるなんて、みはるちゃん、よかったわねぇ」
頭を撫でられているみはるちゃんは、よい子の目で、由紀夫を見上げている。
動物にでも解るんだけどなぁ・・・。
稲垣医師が、実はみはるちゃんに指一本触れていないことに、おば様は気付いていないらしかった。
「いえ、稲垣アニマルクリニックは、いつでもペットと飼い主の方々の幸せのために働いておりますから」
「んま、センセ!」
おば様は感激のあまり眼鏡を外して、ハンカチをあてる。
「えぇ!解っておりますとも、センセは、いつもアタクシたちのため・・・、あっ!いけない!」
ぱたぱたっ!とその場から立ち去ったおば様は、明らかに厚みのある封筒を持って戻ってきた。
「アタクシったら、ホントにうっかりもので。ねぇ、みはるちゃん」
ワン!
それにはみはるちゃんも賛成らしく、一声、しっかりと鳴いた。
「往診代ですわ。ありがとうございます」
「いえいえ、みはるちゃん、それじゃあ、気をつけて」
流れるような作業で厚みのある封筒を受け取り、流れるような作業で、ピンセットとバンソウコウを取り出しただけのかばんの中に治める。
にっこり笑って挨拶をし、二人はそろって玄関を出た。

 

「・・・なんなんですか、まったくぅ!」
「さ、続きがあるんだよ」
「続きぃ?」
「そう。急がないと。今日は、往診がいっぱいあって・・・」
また、自分で自転車を運転しようとする稲垣医師を、2mいかないうちに、また、倒れる。

あぁ・・・。
宙を仰ぎ、由紀夫は助けに足を踏み出した。

つづく


稲垣先生、というより、稲垣吾郎が大人気。なので稲垣先生スッペシアル。かな?ホントに(笑)?

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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