天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

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このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編30話前編『小猫ちゃんを届ける』

前回までのあらすじ
「1998年もそろそろ終わり、腰越人材派遣センターでは、お歳暮選びが大変である。また、カレンダーを作って、お得意様への配布も大事であるので、カレンダー作りも大変なのだ。が、それはまぁ、別の話だろう(笑)」

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粉雪は、可愛い、小さな妖精。
でも、時々、ちょっぴり冷たいの。

野長瀬定幸心のポエム。

ポエムちゃうやろが!とツッコミを入れるものが誰もいないため、野長瀬の心の中のポエムはたまっていく一方だった。
『冬の、散歩道。胸一杯に広がる冷たい空気。でも、はぁとはいつだってポカポカっ』
などと思っていなくてはやっていられないほど粉雪の舞う寒い朝で、安物のペラい5年物のコートだけでは、凍えていく体をどうすることもできない。
野長瀬は、通勤路の大きな公園をつっきって、足早に歩いていたが、何気なく立ち止まり、空を見上げた。雪を下から見上げると、なんだか自分が浮き上がるような気持ちになる。いやいや、ポエムな気持ちじゃなくても。
あー、積るのかなぁ、と思った目の端に。
「ん?」
純白の小山が。
「雪・・・?」
野長瀬の視力は非常にいい。計測すれば、2.5ぐらいあるかもしれない。
しかし、一瞬、10mほど離れたベンチの上の小山が何かは解らなかった。
何だ、何だ?と近寄ってみると。
それは、ふわふわと暖かそうな、真っ白なコートだった。
ベンチの上で、子供が丸くなっている。
こんなに寒いのに!
野長瀬はびっくりして、思わずその子を助け起こして。

くらりっ・・・!とめまいを覚えた。

 

「確かに、天使だけどねぇ・・・」
「でしょおおおーーーーっ!??」
腰越人材派遣センターで、野長瀬は声を張り上げた。
「見てください!あの髪!ふわふわクルクルのプラチナブロンド!!顔なんて、真っ白で!すべすべで!でも、ほっぺはばら色で!」
「野長瀬さん・・・っ!」
その大声を遮ったのは正広で、しーっ!と口の前で指を立てている。正広はソファの前に膝をついて、そのソファの上で丸くなっている『天使』に毛布をかけてあげていた。
「起きちゃいますよ・・・!」
「て言うか、起きた方がいいんじゃねぇ?」
近くのイスに逆に座り、背もたれを抱え込んでいる由紀夫が、『天使』を見下ろしながら言う。
「寝てたところ、拉致して来たんだろ?」
「ゆっ由紀夫ちゃんっ!何人聞きの悪いこと言ってるんですっ!保護ですよ、保護!雪の中、公園で寝てたりしたんですよぉっ!?」
「・・・じゃあ、もう凍えちゃってるんじゃ・・・っ!?」
典子の声に、由紀夫がばっ!と身を乗り出し、思わず転びそうになり、それより早く、正広が『天使』の顔をじっ!とのぞき込んだ。
「正広・・・?」
「入院経験の長い俺が断言してあげましょう」
顔をあげて、正広は言う。
「体調悪くて、顔色白くとか、青くとかなる人は一杯いるけど、こんな綺麗な白じゃないです。いくら白人でも」
「すごーい!ひろちゃん、そういうの解るんだ」
「・・・多分」
「今、断言するって言ったじゃないですかぁっ!」
「お医者さんじゃないもんっ!」
「だから、目が覚めるんじゃないの?」
言い合う野長瀬と正広の間に奈緒美が割って入り、ソファに近づいて行く。しかし、ソファの上の『天使』は微動だにしなかった。
「それにしても、相当図太い子ね。こんなにうるさいのに」

そもそも自分が抱き上げられて、公園から腰越人材派遣センターまで連れてこられても起きなかったほどである。
公園で、その、5歳くらいの子を見つけた時、野長瀬は天使がいる!と臆面もなく確信したという。粉雪が、ばら色のほっぺに触れ、ふわっと溶ける光景に、心を奪われて立ち尽くすこと約3分。
社会人の多くが体内に備えている、会社にいかなくては!回路がようやく始動し、そこではじめて、雪の中に子供を寝させておいてはいけない!と気付いた野長瀬。揺り起こそうとしたのだが、まるで起きようとしなかったため、事務所へ連れてきたのだった。

「さぁむぅーいぃー!!」
どうしたもんか、となんとなく全員がソファに集まっているところへ、飛び込んで来たのは、フェイクファーの(なぜか)牛柄コートを着た千明。
「ね、ねっ、雪降ってるの、雪っ!ね、遊ばないっ?」
「それどころじゃないのよ、うるっさいわねぇ、あんたは〜」
「なぁに、なぁにぃ〜?何、見てるのぉ〜?」
ぴょんぴょんっと跳ねながらソファのところまで来た千明は、ひぃやぁ〜〜〜!!と声にならない悲鳴を上げる。
「なぁに、なぁにぃ?この子可愛いー!」
「寝てんのにわかんのかよ!」
「だって、このコートぉー!真っ白で、ふかふかぁ!?あっ、ボアついてるぅ、かぁわいいぃ〜」
自分の牛柄コートに、ミル姉さんと名前をつけて可愛がっている千明であったが、このシンプルなふかふかしたコートに、すっかり心を奪われてしまってた。
「それにぃ、ほらぁっ!こんなのっ!こんなのずるいぃっ!」
それが背中についてる、小さな天使の羽根。
「子供だと思ってぇっ!ずるいぃーっ!」
対抗すんなよ!だって、子供だからって!あたしも羽根つけたいっ!ひろちゃん似合うかもね。グッチに作らせようかしら。えー、社長あたしはぁ〜?
などなど、子供そっちのけで騒いでいると。

「あっ、今・・・っ」
こういう騒ぎを聞いてるのが好きな正広はニコニコと聞いていたのだが、体を持たせかけていたソファで、『天使』ちゃんが動いたのに気がついて声をあげる。
一同が、ぴたっ!と黙り、そしてじっと見守る中、ソファの上で丸くなっていた『天使』ちゃんは、小さく身動きし、きゅっと握った、ぷくぷくの、えくぼのあるお手々で、目元をコシコシする。
そして、よいしょ、よいしょ、と全身を使って、ソファに座り、ゆっくりと目を開けて・・・

「ぎぃやあああーーーーーー!!!!!」
野長瀬の絶叫に向かえられ、泣くこともできず、硬直した。

 

「はい、熱いから、気をつけてね」
正広にホットミルクの入ったマグカップを渡されて、両手で受け取ったその子は、不思議そうに正広を見上げ、けれど、すぐにミルクを飲み始める。
野長瀬は、部屋の片隅でぶっ倒れていた。
時折メルヘンの世界に走る野長瀬には、強烈すぎるビジュアルだったようだ。
ふわふわ・クルクルのプラチナブロンド、陶器みたいにすべすべのお顔、ばら色のホッペ、ぽちっと両方にあるえくぼ、にこっと微笑んだ形の、小さな、可愛い唇に、そんなに高くないけど、可愛らしく鼻筋の通った鼻。
そして、中でもとりわけ野長瀬のハートをドキュンとゲッチュー!したのは、その瞳だった。アクアマリンみたいに、綺麗な綺麗な、水色の瞳。頬に影を落とすほどの長いまつげに縁取られて、それはもう、絶妙な大きさで・・・っ!!
「くーっ!!!」
「・・・おまえ、それやべぇよ、ロリコンじゃん・・・」
「それはどうでしょー」
由紀夫の声に典子が答えた。
「だって、男の子かもしれませんよ」
「余計やべえっての」
コクコク、と一気にミルクを飲み干した子から、はい、とカップを渡されて、お代わりは?おなかすいた?と正広は聞いてみる。
けれど、返事がなくて、じっと顔を見られているだけなので、何かおかしい?とぺたぺた顔を触ると、子供も真似して同じように顔に触る。
「・・・この子、日本語、解んないのかな」
「えっ!?」
野長瀬が慌ててソファにすっとんでくる。
「ねぇ、何言ってるか解る?お名前は?」
ソファの前に膝をついて正広は言うけれど、子供はその口元を不思議そうにみるばかり。
じゃあ、英語で、とない英語力をどうにか駆使しようとした時、突然その子が口を開き、そして流れ出た言葉は。

「・・・・何語・・・?」
「英語じゃないことだけは解るぜ・・・」
鈴を転がすような可愛い声だったが、丸っきり意味不明。事務所中よってたかっても、英語ですらまともには無理だという腰越人材派遣センターに、つめたーい空気が流れた。
「ど、ドイツ語じゃ、ないかしら・・・」
その中でも、一番最終学歴が高い奈緒美が言った。
「ドイツ語ぉ・・・。そーいやそれっぽいかな。奈緒美、ドイツ語解んの?」
「あー、私はねぇ、せいぜい4カ国語くらいだから」
「えー!奈緒美さん、すごーい!」
「バーカ。どうせ、東北弁とぉ、標準語とぉ、とかそんなもんだよ」
「関西弁、津軽弁、新潟弁、標準語よ」
「胸はんな!!」
「それなら、私だって、鹿児島弁、琉球弁、博多弁、広島弁、高知弁、河内弁、和歌山弁、標準語の8カ国語が!」
「関係ねーっつってんだろっ!」

野長瀬に蹴りをくれ、ソファに座った由紀夫は、自分を指差して、由紀夫と言った。
「俺が、由紀夫。こいつが、正広。典子、千明、野長瀬、おばさん」
一人一人指差しながら名前をいい、最後に分厚いファイルで殴られて、奈緒美、と言い直す。もう1度それをやって、今度は、じっと自分を見ている子供を指差す。
表情だけで、名前は?と尋ねると、小さな手で、自分を指差した子供は、天使の声ってきっとこんなね・・・!と野長瀬が確信した声で、「クリス」と一言言った。

 

「さて、このクリスちゃんだけど・・・。どーするつもりよ野長瀬」
「どーするって・・・。おうちを捜して、連れてってあげないと・・・」
「そんなの解ってるわ。どーやって!?って聞いてんでしょ?」
「えー・・・」
「田村に捜させれば?」
由紀夫が言った。
「このルックスで、ドイツ人、クリス。捜してるやつなんて、すぐ見つかるだろ」
「ま、そうね。日本語も解らないってことは、旅行者か、来てすぐかだろうし、だったら親が警察に届けてるでしょ」
受話器を取り上げ、奈緒美はがーぴーうるさい田村の留守番電話に、『5歳くらいの、クリスってドイツ人の子供を捜してる人、捜してちょうだい』、って、それだけかいー!!ってメッセージを残す。
すると、1分しないうちに電話がかかってきて、もっと情報ないのか!!と言われた。
「電話してくるようになっただけでもいい傾向ねー」
電話代も経費節減、という奈緒美は感心したようにいい、じゃあ、写真を由紀夫にでも届けさせると答えた。
『だから、デジカメでとって、それをメールに添付して・・・』
「日本人は日本語しゃべりなさい」
がちゃん。
「そゆことだから、由紀夫。この子の写真とって、田村に届けて」
「ほーい。えーと、野長瀬ぇ、この子、どこにいたって行ってたっけ」
「あっ、公園ですよ、あの、大きな」
「えー!あそこぉーっ!?」
子供は子供どおし、言葉がなくても遊べている千明が声をあげた。
「あの公園っ!あぶないんだよぉ〜」
「何?危ないって」
一応子供チームとして、遊びに参加していた正広が尋ねる。
「あのねぇ、やなじじいがいてぇ、おっきな犬、何匹も飼ってんだけどぉ、それをね、ヒモもつけずに、散歩させてんのぉ!訓練してるから大丈夫だーとかって言ってるけど、ちっちゃい子にけしかけたりとかするって・・・」
「ウソ!なんでぇ!?」
「ねー!怖いでしょおー!クリスは大丈夫だったぁ?怖く、なかったぁ〜?」
んー!とぷくぷくのホッペを両手ではさみ、くりくりっと動かすと、クリスは楽しそうな笑い声を上げる。
野長瀬は、正直に、羨ましい、という顔をした。
「ワンワン、こわぁ〜いんですよぉ〜、ワンワン」
犬の鳴き声をやっていると、クリスは、猫の鳴き声をした。
「あ、上手ー!ほんとのネコみたいー!」
「ほんと!ほんとに、うまいねっ!クリスちゃんっ!」
天使が、可愛い可愛いネコの鳴き真似をするだなんて・・・!なんて可愛いんだ・・・っ!
潤んでいく視界を感じていると、クリスが、キティと言った。
「キティ・・・?」
ポラロイドを準備していた由紀夫が首を傾げる。
「こいつ、ドイツ人のキティラーか?」
「キティ、キティっ」
「あ、あたし持ってます、ほら、キティちゃん」
典子がデスクの中から、小さなキティのぬいぐるみを出したが、それには一切興味を示さず、キティ、キティと言い続けた。
正広が、絵なら解る!と、紙と色鉛筆を渡したら、子供っぽい絵だけど、しっかり猫だと解る絵を描いた。
黒い小猫で、目は青いらしい。
「この子がキティ?」
絵を指差して正広が言うと、うんっ!と思いっきりうなずき、ソファから飛び降りて、ドアの方に走っていく。
「ちょっ、どこいくんだっ!?」
追いついた由紀夫が、ひょいと片腕で抱え上げると、クリスはその腕の中で暴れた。
「キティ!キティっ!!」
「解ったっ!わぁかったから!!」
肩車して、由紀夫は言った。
「キティ、連れてくるから、おまえはここで大人しくしてろ!」

野長瀬にクリスを渡し、さっさと写真をとった由紀夫は、雪の中、迷子の小猫を、迷子の天使に渡さなくてはならないという羽目に、なぜか陥ってしまっていた。

「あ。野長瀬。今回の依頼料は、あんたの給料から差っ引いとくから」
「えぇーーーっ!!」

しかし世の中、下には下がいるのであるから、あまり自分を不幸に思ってはいけない。

つづく


雪・・・。高松ではまだ降ってません。今日はセーターの上にフリースのパーカーを羽織っただけで外出できます。・・・12月17日・・・!?クリスマス気分なんか、まるでないっちゅーねん!ないっちゅーねぇーん!!!

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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