天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編30話中編『小猫ちゃんを届ける』

前回までのあらすじ
「野長瀬が天使を拾った。ふわふわくるくるのプラチナブロンドに、輝くばかりの美貌の可愛い可愛い天使ちゃんは、ドイツ人であり、キティという猫を捜しているのだった。捜せ!由紀夫!」

yukio
 

田村のところにクリスの写真を届け、クリスがいたという公園近辺の猫のテリトリーを聞き、どうやって調べるんだ!!という田村に、役立たず!と言い置いて、由紀夫は小雪の舞う街に戻った。

自転車は、その公園に向かっている。
「このベンチねぇ・・・」
結構大きな公園のほぼ中央に位置する場所にあるベンチで、そばにある大きな木がクリスマスツリーの飾り付けをされている。
「もうクリスマスか・・・」
去年は正広が銀行強盗の人質に取られたりしてえらいことになったけど、今年は穏やかに過ぎてってほしいもんだと由紀夫は思った。
雪が降っているものだから公園に人気はなく、ペンチにはうっすらと雪が積もっている。
「足跡はなくなるし、匂いは残らないし・・・。まぁ、犬使って調査する訳じゃねぇけど」
自分で自分に突っ込みながら、クリスはどこからどうやってこんなところまで来たんだろうかと考えてみた。
ちょっと公園に足を踏み入れた、くらいじゃあこんなところまでは来ないだろう。
「それで、猫か」
逃げた猫を追いかけて公園に入り込んで、見つからないまま朝が来たってところか。
そのまま、この公園にいてくれりゃあいいんだけどなぁ・・・。
しばらく公園のあちこちを見てみたが、黒猫は一匹もいなかった。

「さぁーびぃー・・・、ってっ!?」
とりあえず事務所に戻った由紀夫は、いきなりクリスマス仕様になりつつある室内に2歩ほど後ずさった。
「あ、兄ちゃんおかえりー!寒かったでしょー?」
「何やってんの?」
「クリスマスの飾り付け。ほら、せっかくクリスもいるしさ」
とことこっと迎えに出た正広が、小さなクリスマスツリーの前にちょこんと座って、真剣な顔をしているクリスを指差した。
「さっきから夢中なの」
「ふーん」
そのクリスの隣に座って、ポンと頭に手を置くと、可愛らしい顔を由紀夫に向けたクリスがにっこり笑って、「ユキオ」と口にする。
「そうそう。由紀夫。よく覚えたね」
ふわふわさらさら、触り後こちのいい髪の感触を楽しみながら言うと、正広が自分の事のように自慢そうに答えた。
「もう、名前はばっちり!お利口なんだよ。ね、クリスー?」
「ヒィーロ」
お星様を片手にクリスは答え、また真剣な顔で、ツリーと向かい合う。
「今、野長瀬さんがドイツ語の辞書買いに行ってんの」
「そっか」
「兄ちゃん、なんか飲む?」
「コーヒー」
「はーい」

由紀夫はバッグの中から本を取り出し、クリスに見せる。
「キティ!」
クリスは可愛い高い声を上げて、由紀夫の持っている猫の写真集に飛びついた。
「おまえのキティって、どの種類?」
小さな足をぽんっと前に投げ出して、その膝の上に大きな写真集を置いたクリスは、きゃあきゃあ言いながらページをめくっている。
「解るかなぁ」
コーヒーを持ってきた正広が、由紀夫にカップを渡しながら言った。
「うーん・・・。この本な、割と黒猫が映ってたから買ったんだけど、種類と、色と、両方揃ってるかどうかは解んねぇしな」
「ユキオ、ユキオッ、キティ!キティ!」
「えっ!いたのかっ?」
「すごい!」
二人して写真集を覗き込むと、綺麗なシャム猫が映っている。
クリスは由紀夫の腕にぷくぷくしたお手々をかけて、一気に喋り出す。
「うわ、待て待て、何だってっ?」

「お任せくださいっ!」
意味無くカッコつけて野長瀬が登場。
「ワタクシ!ドイツ語の辞書を買ってまいりました!」
「・・・何冊買って来たのよ・・・」
両手にずっしりと重たそうな包みを持っているのを見て、奈緒美が呆れたような声を上げる。
「いやだって、辞書ったって色々あるんですよ。それに、ドイツ語会話のテープでしょー?」
「・・・ドイツ旅行でもする気か」
「だって、クリスちゃんの言葉解らなかったら可哀相じゃないですか!ねぇ〜?クリスちゃん、お土産でちゅよ〜」
「赤ちゃんじゃないんだから」
正広は笑いながら言ったが、野長瀬には聞こえてないようで、ウキウキとクリスに近づき可愛くラッピングされた包みを渡す。
受け取ったクリスは、よいしょよいしょとパッケージを開けて、きゃあ!と声を上げた。
「何、何ぃ〜?」
ツリーの飾りにするためのモールを首から巻いていた千明がやってきた。
「あ、かぁわいいー!」
ツリーに飾るための猫のオーナメントがいくつもある。
「キティ!」
きゅ!と胸の前で抱き込んで、クリスは野長瀬に抱き着いた。

はぁっ!
野長瀬の意識は遠くなる。

天使の感触って知ってる?
ふわふわで、ぷくぷくで、ふわんといい香りがするの。
野長瀬定幸心のポエム。

そしてそのまま意識が戻らなかったもんだから、野長瀬にクリスの言葉を通訳してもらう訳にはいかず、由紀夫と正広が辞書とテープを駆使してようやく判別がついたことは。
「キティはシャム猫、かどうかはともかく、こういう短毛種で、黒猫。いなくなったのは、あの公園だと」
「そういう事だね」
「・・・どうかなぁ。まだいればいいけど。さっきも見てはきたんだけどな」
「いるよ」
きっぱりと正広は言った。
「いるって言うか、兄ちゃんには見つけられる」
「・・・なんで」
「だって兄ちゃん、今までだって、一杯見つけて来たじゃない。大丈夫だって」
根拠のない弟の言葉に、やや肩を落としたところ、その肩にずっしりと重みが覆い被さって来た。
「そぉよぉ!由紀夫なら、なんだって見つけられるもんっ!それでね、あたしの愛のありかわぁ」
「さーって、探しに行ってくっかぁ」
ぱしぱしと千明を払い落とし、由紀夫は立ち上がる。
「兄ちゃん、行ってらっしゃ〜い」
「イッテ、ラシャーイ!」

天使の兄弟はとっても仲良し。
繋いだお手々は、神様にだって離せない。
野長瀬定幸心のポエム。

 

「いらっしゃい。どうぞ」

結局その日一日中まっても、田村からいい情報は入って来なかった。田村からの情報が0というのは珍しい事で奈緒美も難しい顔になる。

「寒かったね。温かいもの、飲もうか」

当然、一日で完全にクリスマス仕様になった事務所から、誰がクリスを連れて帰るのかが問題になったが、私が!あたしが!と立候補した野長瀬、千明を奈緒美が却下した。

「兄ちゃん、どうやって寝ようか」
「俺、そっちのソファベッドで寝るから、おまえらベッドで寝な?」
「そう、だよねぇ〜・・・」

野長瀬はすぐに意識が遠くなってしまうし、子供に子供を預ける訳にはいかない。

「あ、しーちゃん。この子ね、クリスだよ。クリス、しーちゃん」
「シーチャン!」
ふわふわのプラチナブロンドにしーちゃんをとまらせて、クリスは嬉しそうにスキップしている。
「あぁ、コート脱いで」

その点、正広はこの二人よりよほどしっかりしているし、付け焼き刃とは言えドイツ語の勉強もしたことだし、ということで、早坂兄弟に白羽の屋が立った。

「晩飯、なんか食いに行く?」
「んー、クリス、何か食べられないもの、あるのかなぁ」
そこからまた、辞書とテープを駆使してのトークタイムが始まり、どうやら好き嫌いはないらしい、しかし好きなのは甘いお菓子であることが判明した。
「お菓子はデザートにするとして・・・。あのねー、鍋の材料が買ってあって」
「鍋」
しーちゃんと戯れているクリスを見て、ま、いいかとうなずいた。
「鍋奉行様に任せなさい」

鍋奉行由紀夫がその場を仕切り、クリスは、フォークをぎゅっと握り締めて、おいしそうに白菜だの、豆腐だの、鶏肉だのを食べ、食後はアイスクリームで締めた。
おなか一杯になったクリスはクッションを山盛りにした椅子の上でうつらうつらし始め、これはいかん!と由紀夫が抱き上げてベットに運び。
「ひろぉ〜」
キッチンで片づけをしていた正広の耳に、情けない声が届いた。
「こいつどうにかしてぇ〜」
「何がぁ?」
洗いかけの小皿を片手にベッドに向かった正広は、笑っていいのかどうなのか判別に苦しんだ。
「に、兄ちゃん・・・っ」
「いって・・・っ、離せ、ってのにっ」
すっかり熟睡モードのクリスに、長い髪をわしづかみにされている由紀夫が不自然なポーズでじたばたしている。
「大丈夫ぅ〜?」
「大丈夫じゃねぇよ!なんでこいつの手はこんなに、いって!」
「ひっぱっちゃ痛いよ、ちょっと兄ちゃんも寝て、寝て」
髪が引っ張られないように、クリスの側に由紀夫を寝させて、由紀夫の髪をなるべく引っ張らないように、クリスの手を開かせようとした正広は。

「・・・兄ちゃん、もう寝る?」
「・・・外せねんだな?」
「だって、すごい力なんだもん!」
横になったまま、由紀夫も手を開かせようとしたが、確かにびくともしない。
「・・・8時じゃん」
「早寝早起きって体にいいんだよねぇー」
「おまえも寝ろぉ〜・・・」
髪はつかまれてても、腕も、足も、フリーな状態の由紀夫は、逃げようとする正広の腰にカニばさみをかけ、いやだー!ゲームするんだぁー!テレビ見るんだぁぁ〜!!という正広を器用にベッドに引きずり上げた。
「早寝早起きは体にいいんだよなぁ〜」

寝ているクリスを間に挟んで、一瞬でも起きてくれれば手をほどかせるんじゃあ!と騒いだ二人であったが、半日公園で猫探しをした由紀夫に、ゲームもテレビも好きだけど、寝ることはもっと好き、という正広は、すっきり川の字でそのまま寝てしまい、洗いかけのコップは、ベッドサイドに一晩中放置されることになった。

 

「それにしても、全然クリスの情報入ってこないじゃないの!由紀夫、あんたなんか隠してんじゃないんでしょうね!」
「隠してどーするよ!」
「可愛いから、2人目の弟にしようとしてるとか」
「考えてるか!そんな事!」
「だって、ほら」
クリスマスカラーにしている奈緒美の長い爪が指差したのは、机についてる正広と、クリス。クリスのお絵描きに、ニコニコと正広が付き合っている。
「ひろちゃんは弟にしたいんじゃないの?それで、ひろちゃんが弟にしたいならってあんたが田村からの情報を握り潰して!」
「するか。それより、田村、相当プライド傷ついてるぞ。なんか、さらにムチャな事しそう・・・」

クリスが野長瀬の手で保護されてから1週間。世間はクリスマスイブを迎えていた。しかしこの1週間、田村の情報力を駆使しても、クリスの情報は一切手にすることができなかった。
あれから、フルネームとか、住所とかを聞いてはみたものの、そういうところになると、クリスは解らないと首を振るばかりで話にならなかったし、このままでは、警察に渡さなきゃいけないんじゃないかと、奈緒美などは思い出している。
「キティもみつかんねーし・・・」
こっちも由紀夫にしては珍しく手詰まり状態で、公園で遊んでる子供を見つけては黒猫を見なかったか、見たら連絡くれと言っているのに、そこからも何のてがかりもない。
「ヒーロ、オサンポー」
多少は日本語を覚えたクリスが、くいくいと正広を引っ張る。
「お散歩?そだね、今日はお天気もいいしね」
「ユキオ、オサンポー」
ぴょいと子供用の椅子から飛び降りて、ユキオの足にしがみつき、
「ナオミ、オサンポー」
と奈緒美のミニスカートも引っ張った。
「クリスちゃん!お兄ちゃんはっ?」
コピーの前で哀しげに叫んだ野長瀬のところに、クリス精一杯のダッシュする。そしてそれはとてつもなく、可愛らしいよちよちした走りで、また野長瀬の意識が遠のきそうになる。
「ノナガァセー、オサンポー!」

天使のお手々はぷくぷくお手々。
いっぱいの幸せを持っているから
お手々も幸せでできている。

野長瀬定幸心のポエム

両手で手を引っ張られ、野長瀬の意識は遠のいていった。

クリスが、典子にも同じようにやって、結局全員が誘われてしまい、年末の買い出しをする、という名目で腰越人材派遣センターは一時施錠されてしまう。
「クリスちゃん、ケーキはどんなのにしましょうかー?」
手を繋いで歩きながらそんな事を言う奈緒美の後ろ姿を見て、自分が引き取りたいんじゃあ・・・?そんなことを思ってしまった由紀夫だった。

 

「あ!みんなぁ!」
長い髪をあっちこっちクリスマスカラーのリボンで結んだ千明がいたのは、クリスが発見された公園だった。
「何で、何でぇ?なんでみんな一緒なのぉ〜?」
「買い出しよ。あんたも来る?」
「行く行くー!あーん、クリスぅ、元気だったぁ〜?」
別れたのが昨日の夕方だというのに大袈裟にクリスを抱き上げて、ほっぺすりすりしながら千明が言う。
「チィアキィー」
クリスもほっぺすりすりしながらキャイキャイ答えている。

日課のようにこの公園に通っているが、未だ黒猫の影さえ見えておらず、由紀夫は買い出しじゃなくて、そのままここで猫探しをしようかと思っていたら。

「兄ちゃん、あれ・・・」
スーツの裾をひっぱられて振り向いた由紀夫の目に。
「キティ・・・?」
クリスマスツリーのデコレーションをされた大木の下にいる、小さな黒猫が飛び込んで来た。
つやつやと、滑らかな毛皮で、大きな形のいい青い目で。
「クリス」
はしゃいでいるクリスを千明の腕から奪い取って振り向かせる。
「あれ、キティか?」

「キティ!」
由紀夫の腕からジャンプしてクリスは走り、小猫もクリスに向かって走り、ジャンプして腕に飛び込んだ。
「キティ!」
その猫を抱き込んで、早口のドイツ語で喋り始めるクリス。
本人が来れば一発かよ・・・、とや脱力感にさいなまれながらも、ホっとする。ようやく大事なペットと出あえてよかったなと。
「この子がキティ?」
千明が追いかけていって、腕の中の黒猫を見詰める。
「綺麗〜・・・」
「ほんとだぁ、すっごい綺麗な猫〜・・・」
「この辺りのうちで飼われてたのかしらね。汚れてないし」
「それで見つからなかったのか・・・」
一筋の汚れもない、綺麗な黒い毛並みをしている猫は、賢そうな目でクリスをみつめ、嬉しそうに体を摺り寄せていく。
「天使にはふさわしい綺麗なペットですよねぇ〜・・・」
「黒猫って、魔女が連れてるんじゃないです?」
野長瀬の夢を砕いたのは、冷静な典子だった。

それじゃあ、無事に猫も見つかったことだし、1度事務所に戻りましょうか、と方向転換した時、子供の大きな声が公園に響いた。

つづく


クリスマスネタなのに続くん!?続きますが、次の更新は来週ではなく明日!クリスマスなんざます!
間に合わんかったんやろ。
うるちゃーい!!クリスマスなんじゃわー!!!

だから、次回更新は、明日、クリスマス!!の予定は未定にして決定にあらずっ!

今までのGift番外編へ

What's newへ

SMAPレポートへ

SMAPメニューへ

トップへ