天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

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このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編30話後編『小猫ちゃんを届ける』

前回までのあらすじ
「ふわふわくるくるの天使ちゃんと一緒に暮らすことになった由紀夫。ここは託児所か!という気持ちになりながらも楽しい毎日だった。しかし、キティがみつからないのが小さなトゲになっていたが、クリスマスイブの日に、無事キティを発見、保護することができたのだが」

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「何?」
「あっ!犬だぁっ!」
千明の声に、子供の泣き声がかぶさり、一同ダッシュで走り出す。

子供が遊べるように、ちょっとした砂場や、ぶらんこがある場所で、終業式帰りの小学生が二人、ジャングルジムの上で泣いている。
「ドーベルマン・・・!」
「鎖なしのドーベルマンは反則だろぉー!」
「飼い主どこよ飼い主!」
真っ黒な大きな犬は、低いうなり声を上げていて、パニックしている子供たちは凍り付いてしまったようで、ジャングルジムから降りるに降りられない。
「ひろ、あの子ら落ち着かせろ。犬は俺らがやるから」
「俺「ら」!?」
悲鳴を上げる野長瀬の首根っこをつかんで、ジャングルジムと犬の間に入る。
「ゆっ、由紀夫ちゃん・・・っ!」
「情けねぇ声だすな・・・!子供がびびる・・・!」
ドーベルマンにガンくれる由紀夫に声だけで睨まれ、むぐっと両手で野長瀬は口を押さえる。
「黙ってりゃ十分怖ぇ顔なんだよっ」
奈緒美は、クリスを背中に回し、典子と千明で両脇を固めさせた。
「あんたたち、クリス連れて帰りなさい」
「でもぉっ」
「大きな声、出さないの・・・っ!」
「でもっ、ひろちゃんがぁっ」

その正広は、兄と野長瀬が犬相手にガンのくれあい飛ばしあいをしている間に、ジャングルジムの後ろに回っていた。
そっとジャングルジムを登ろうとした時、
「うわっ!!」
突然、後ろから別の犬から吠えかけられて大声を上げてしまった。

小学生二人は、その声に凍り付いて泣く事も忘れて硬直している。
「ひろ!」
「ひろちゃんっ!」
前門のドーベルマン。じゃあ、後門はと見ると、
「土佐犬・・・」
なんで最近、この犬種に縁があるんだよっ!と地面を蹴る由紀夫。
この大型犬2頭の間に、由紀夫&野長瀬、ジャングルジムon小学生ズ、正広がいて、ちょっと離れて奈緒美たちがいた。
正広は、背中をジャングルジムに預け、目を逸らしたら襲われる!と山の中で熊に出会ったか、サバンナでライオンにあったかというような気分で、土佐犬と睨み合う。
落ち着け、落ち着け。犬はジャングルジムなんて登れない!

こう見えて、正広は意外と突発事項に強い。
強いが、横っ腹にセントバーナードの頭付きをくらっては立っていられなかった。
「なっ、何っ!?」
「ひろっ!」
「あー!たぁすぅけぇてぇ〜!」
恐ろしく高圧的なドーベルマン&土佐犬とは反対に、セントバーナードはバカほど人なつっこかった。正広に覆い被さって、顔といわず、体といわず舐めたくる。
このまま頭から食われるんじゃないかと思った時、由紀夫が割って入ってくれて、どうにか正広とセントバーナードを引き離したが、その背中は、どっかりとセントバーナードに覆われていた。
「なぁんなんだよ、こいつはよぉーっ!」
「ゆっ!由紀夫ちゃんっ!こ、こっちもっ」
「だぁから、情けねぇ声出すなっつってんだろっ!」

「あー!あいつー!!」
千明が奈緒美の後ろから声を上げた。
「あいつ!あのオヤジが飼い主っ!」
何っ!?全員の目が、そのおやじに集中した。
「油ギッシュ・・・!」
「うわ、醜い・・・っ」
女性陣から総スカンの声が上がり、男性陣は感じ悪っと感じる。
犬たちは、主人が来たのが解ったのか、由紀夫たちを放って主人の元に戻った。
「ちょっと」
そのまま、何も言わずに行こうとする男に由紀夫が言った。
「あんた、そんなでかい犬散歩させるんだったら、鎖ぐらいつけんのが常識だろう?」
「うちの犬は訓練しているから、そんなものは必要ない」
「はぁ?あんた見てなかったのかよ。うちの弟、そのバカでかい犬に襲われてたんだぞっ?」
「この子はじゃれてただけだ」
「バッカじゃないのぉっ!?」
千明が怒鳴った。ただし、奈緒美の後ろから。
「そんな犬、圧し掛かられただけで死んじゃうわよっ、ちっちゃい子なんてぇっ!」
「子供になんかじゃれてないし、吠えてもない」

男はまるで取り合おうとせず、そのまま行こうとした。
思わず由紀夫が足を出した時。
大人しく男についていっていた3頭の犬たちが足を止めた。
「ん・・・?」
立ち止まって、奈緒美たちがいる方向を見ている。
つられてそっちを見て。
「え・・・??」
「に、兄ちゃん・・・、あれ・・・何・・・?」
「さぁ・・・」
奈緒美も、千明も典子も、自分たちの後ろにいるものに気付いていないようで、何でこっちを見てるの?と首を傾げている。
「奈緒美、クリスは・・・?」
「クリス?」
何気なく振り向いた奈緒美は、視界が黒いモノで埋め尽くされているのに気付いた。
「何これ」
ポンと手で触れると。
「けっ・・・、毛皮っ!?」
「きゃあ!!」

女性陣3人が飛びすさると、その黒いモノの全容が明らかになった。常識外れなでかさの、黒ヒョウ。どれくらい常識外れかと言うと、おそらく体高3mはありそうなところ。
「く、クリスちゃん・・・っ!?」
その常識外れな黒ヒョウの前足のところに、クリスはちょこんと立っていた。
脅えるでもなんでもなく、小さなお手々を軽く触れさせている。
「兄ちゃん・・・、あれって・・・」
「キティだっつんじゃねぇだろうなぁ・・・!」
艶やかな毛並みに、形のいい青い目。その青い目が、3頭の犬を睨み降ろしていた。
「どうした?なんだ、おまえたち」
飼い主のオヤジは、ついてこない犬たちに気付いて戻ってくる。
「行くぞ!ほら!」
首輪を引っ張っても、犬たちは微動だにしない。
「何を見てるんだ、行くぞ!!」

「・・・見えてないの・・・?」
「そりゃあ、あんな非常識なもん見えてたら、普通に喋ってなんからんねぇだろ」
「ど、どうしたんだ!」
オヤジは動かないばかりか、どんどん伏せの姿勢になり、しっぽが丸まっていく犬たちに驚いてさらにひっぱる。

クリスの、ぷくっと可愛らしい唇が開いた。
何か、喋ったようだったけれど、その声は誰にも聞こえはしなかった。
おそらく、犬たち以外には。
クリスが唇を閉じたと同時に、犬たちは走り出した。まさしく負け犬のようにキャンキャン鳴き声を上げながら。

首輪を持っていたオヤジが10mほど引きずられたのは、由紀夫たちのりゅう飲を多少下げたものだったが、すでにそれどころの騒ぎじゃない。
「クリス!?」
と引きずられたオヤジから、クリスに目を向けた一同は、一度大きく瞬きをする。
「キティ・・・」
白いコートのクリスの腕の中に、小さなキティがちょこんと収まっていた。
「え、えーっと・・・」
何がどうしたんです??という一同の前で、キティは、ニャア、と可愛らしい声をあげて、クリスの肩に顎を乗せる。

「幻覚・・・?」
理性派の典子が呟く。
「オヤジ、見えてなかったみたい、だし・・・」
「犬には、見えてたし、俺らにも、見えた」
「あ、じゃあ、あの子たちは?」
ジャングルジムの上の子供たちを降ろしてあげて、さっき何か見た?と聞いても、首を振るばかり。
大きな犬を思い出して泣きそうになるところに、クリスがとことこやってきて、ダイジョーブ、と、小さなお手々で、子供たちの柔らかな、まあるいほっぺに触る。
ニコっと、天使の笑顔で微笑まれると、小学生たちの涙もぴたっと止まり、元気に駆け出して行った。

「クリス、ダイジョーブなの?」
「ダイジョーブ」
正広に尋ねられて、クリスは覚えたての日本語で答える。
「・・・とりあえず、キティとクリスが、あの犬を脅しあげて、追い払ったって、事なのかしら・・・」
「社長、脅しあげて、とか言わないでください。イメージ悪いじゃないですか。丁重におかえりいただいたんですよ」
「・・・・・・・・・ま、いっかぁ!買い物!行くわよ!!」

奈緒美は、明らかに自分の理解の範疇を越えたことに関しては、無視するか、受け入れるのかのどっちかであり、今回は後者のようだった。

 

その夜は、腰越人材派遣センターでクリスマスパーティをした。自分たちが自由にできる場所で、これだけのクリスマスの飾り付けをした場所は他にはなかったから。
ケーキに、ご馳走に、お菓子に、飲み物。音楽に、ゲームにと大騒ぎになる。
「由紀夫」
騒ぎの最中、奈緒美が言った。
「明日っからは、クリスの方、やんないとね」
「1週間、なんの音沙汰もないのはおかしすぎるしな」
みんながクリスやキティと遊びたがって、離れる気はまるでないみたいだけど、親がいないならいないとはっきりさせないと、いつまでもペットみたいに可愛がってる訳にはいかない。

などと、ややシリアスになったのもつかの間。クリスマス、という名目の大宴会は、もはや収拾のつかない状態へと突入してしまった。

深夜、というより、明け方と言ってもいいくらいの時間。腰越人材派遣センターには、まぐろがごろごろ転がっていた。
まぐろには大小があり、毛布にくるまっていたり、コートに包まっていたり、床に転がっていたり、ソファを独占していたり、色々である。
その、暗くなったフロアに、微かな光が浮かんでいた。
「ナオミ・・・」
社長専用!というバカ高いソファの上の奈緒美の頬に、光が触れる。
「ユキオ・・・、ヒィロ」
長めのソファの肘掛けに、首をあずけて、がっくりと後ろに頭を垂らした格好の由紀夫の頬にも、その足元で、器用に丸くなっている正広の頬にも。
「チアキィ・・・」
クッションをかきあつめて床で寝ている千明の頬にも。
「ノリコ・・・」
自分のデスクに突っ伏して寝ている典子の頬にも。
「ノナガァセ」
そして、まるっきりの床に、ぺらいコートだけで早い時期から転がされている野長瀬の頬にも。
「アリガト、デス。クリス、キティト、カエルマス」

クリスマスイブの夜、6人全員が、透き通った鈴の音の聞こえる、綺麗な夢を見た。

 

「兄ちゃんっ!」
寝不足とアルコールでぐらぐらする体を、正広にがくがく揺らされて、由紀夫は頭を抱えながら体を起こす。
「あー・・・、めちゃめちゃ肩凝ってる・・・」
「そんな寝方してるから、じゃなくって!クリスがいない!!」

クリスとキティの姿は、ついに見つけられることはなく、ただ、クリスマスツリーの下に、プレゼントが残されていた。
綺麗にデザインされたネームカードには、それぞれの名前が書かれていて、それは、子供が書いたものとは思えなかった。
中身は、それぞれに、小さなブローチとか、ちょっとしたお菓子とか、可愛いお皿とか、そんな細々したものだったけれど、それぞれに似合うもの。
「兄ちゃんのは?」
小さな、木製の野球ゲームをもらった正広が由紀夫に尋ねると、
「これ」
と由紀夫はお花のカッチンどめで髪を飾る。
「か、可愛い・・・っ」
「俺もそう思う」
ふざけてみても、イマイチ腰越人材派遣センター一同は盛り上がらなかった。
プレゼントなんて、よかったのにな・・・と思う。
クリスがいてくれたら、それで、よかったのにな。

「ま、そんな訳だから、クリスの方は、もう、いいや」
「いなくなったか」
「なんか・・・。ホントに、いたのかどうか、解らないって感じ。プレゼントを置いて鈴の音とともにいなくなっちゃうなんてさ。なんかクリスマスイブにでき過ぎって感じじゃない?サンタクロースじゃあるまいし」
田村は、珍しくしおらしい由紀夫に、打ち出ししたプリント用紙を差し出した。
「何?」
「色々調べてるうちに、ひっかかってきたやつ」
「ひっかかった?」
「ドイツ、クリス、その辺で」
何が?と見てみると。
「『クリスト・キント』?」
「キリストの子供って意味で、ドイツのサンタクロースは、その子供らしいぞ。姿は見えないけど、子供とか、天使の姿で描かれてて、こっそりクリスマスプレゼントを届けたら、鈴の音を残して立ち去る。子供だけだと可哀相なので、必ず従者がついている」
「キティか・・・」

すごいもん拾ったな。
事務所にかえりながら由紀夫は呟いた。
サンタクロースを拾って、1週間一緒にいた俺らって、なんかすごくない?
そしてこの話は、末永く腰越人材派遣センターで語り告がれることになるのだった。

なお、あれからあの公園に、あのオヤジの犬がやってきたという報告は聞いていない。

つづく


偶然見つけたネタが使いたくて使いたくて!!無理からでも使うわな!来週はお正月か!早いなー!!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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