天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編31話『年越しそばを届ける』

前回までのあらすじ
「クリスマスには、天使と過ごした腰越人材派遣センター一行。しかし事務所はすでに冬休みに入り、それぞれのうちで過ごしていた。そんな大晦日」

yukio
 

1998年12月31日。
大晦日の街は、意外にがらんとしている。
そう言えば、年末年始の東京は空も綺麗だ、なんて聞いたこともあるなぁと由紀夫は思った。

寒空の下で。

「今日は大掃除しなきゃあ!」
と、エプロン、ゴム手袋、頭にはタオル、といういでたちの正広に、休日のぬくぬくとしたベッドから追い出され、こき使われていた由紀夫としては、仕事だという電話に飛び付いてしまった自分を責めたくはなかった。
ちょこっと届け物して、夕方にでも帰ってくれば掃除なんてすんでるだろうな、くらいの軽い気持ちだったのに。
「なんでこんな事に・・・」
タバコの煙を噴き上げる。白い煙は、夜空に吸い込まれて消えた。

大体、奈緒美の話というのは、それを聞いてしまった時点で、逆らうことはできないというシステムになっているらしい。
今までに何度もそう思ったが、年の瀬も押し迫って、由紀夫はそれを再認識させられた。
「あ?」
「だから、カウントダウンコンサートの会場から、この子が出てくるから、間違いなくおうちまで送り届けるの」
「俺は届け屋だけど、運ぶのは荷物だろっ?」
「あらあら」
奈緒美はおほほほほ、と派手に笑った。
「運べるものなら、なんでも運ぶのが届け屋じゃないの。今回なんて楽なものよぉ?車だって事務所の使えばいいんだし」
「ベンツ?」
「そ。見栄っ張りなお嬢様らしいから、あんたがベンツで迎えに行けば大人しく言う事聞くだろうって。わざわざのご指名なの」
奈緒美が名前を挙げたのは、以前から取り引きのある会社の社長。そこの娘が、大晦日になるとあっちこっちで行われるカウントダウンコンサートに出かける。出掛けるのはともかく、その後遊びに行かれたら心配なのでつれて帰ってほしいらしい。
「そんなのは親が迎えに行けよ、親がよぅ」
「親は親で忙しいの」
「家にいるからって安心すんのは間違ってるよな」
「そうね」
適当に相づち打ちながら、奈緒美は由紀夫に写真と、車のキーを押しつけた。
「じゃ、頼んだわよ」
「えーっ!マジでぇーっ!?大晦日だぜ、大晦日ぁー!」
「あら」
とても意外だという顔を奈緒美はして、デスクの前に立っている由紀夫を下から覗き込んだ。
「年末年始の行事なんて、興味ないし、どうでもいいって言ってたじゃない。それにこれ、ギャラいいのよー?」
「てめぇの娘なんだから、金使わずに気ぃつかえってんだよなっ!」

そのお嬢様はビジュアル系バンドのジョイントライブに行くらしい。ライブが終わるのは12時をまたぐのだけは間違いないが、ちゃんとした終了時間は解っていない。さらに、ジョイントライブだから、場合によっては目当てのバンドが終われば、出てきてしまうかもしれない。けれど出てきたところをすかさずキャッチしなくてはならないため、由紀夫はコンサートが始まった時から、ライブ会場の前で待機を余儀なくされていた。

事務所からがっくりと帰った由紀夫は、せっせと大掃除をしている正広から、買い物行ってくれる?と頼まれ、はいはい、とうなずいた。
こんな事なら、正広の言う通り掃除に専念して、事務所になんて行くんじゃなかったと思いながら。
年越しそば用のエビ天を買い、正広の指示でガラスを磨いたりしたのち、もうそろそろ紅白が始まるよっ!とウキウキしている正広に言ったのだ。
「ちょっと出てくるわ」
「えっ!?」
この世の終わりのような驚き方を正広はした。
「これから紅白だよ!?」
「・・・仕事」
「仕事ぉっ!?何、何でっ?」
「昼間、電話かかってきたろ。あれ、仕事だったんだよ」
「えぇーーー?だって、何で?だって大晦日だよぉ?それもこんな時間から・・・」
「おう!帰ってくるのは、来年になるぜ!」
やけくそのように言うと、正広の目は、おいおい、落ちる落ちるって、手を出してやりたいくらい見開かれた。
「らい・・・年・・・?」
「来年」
言いきって、準備をする。スーツは絶対着て行け!といわれていたため、スーツを着て、ポラロイド持って。

「どこに、いんの?」
呆然としていた正広は、ただちに立ち直って玄関まで見送りにやってくる。由紀夫はライブハウスの名前を言った。
「ライブ見るんだ」
「外」
「外っ!?じゃあ、兄ちゃんそんなカッコしてちゃダメじゃん!コートコート!奈緒美さんがくれたヤツがあるでしょー!?」
案の定、早坂兄弟にはクリスマスプレゼント、ということで、グッチのコートが届けられていた。パタパタと奥に走り、まだ袖を通していないコートを着せ掛けられる。
「兄貴っ!お仕事、ご苦労様っすっ!」
「おう!行ってくるぜ!戸締まり気ぃつけなっ!」

・・・コートは正解だったなぁー・・・。
車を止め、ガードレールに腰掛けて由紀夫はぼんやり思った。結構な暖冬だったけれど、さすがに深夜になればなるほど気温は下がる。時間は、後10分ほどで12時。1998年が終わり、1999年が始まる時間。
正広はもう寝たかな・・・、って寝る訳ねぇか。
「さびー・・・」
車の中にいればいいようなものだが、涼しい空気が気持ちいいのも確かだったから、由紀夫はいつまでもガードレールに腰掛けていて、そして手は冷たいな、とコートのポケットに手を入れて、
「ん?」
何かが当たったのでそれを取り出した。
手のひらに収まるくらいの四角い箱。
「これ・・・」
グッチのコートについてる備品か?とぼんやり思った瞬間、その黒い箱の正体に気づき、えっ!?と立ち上がったら。

「兄ちゃーん!!」
車が止まる音がして、正広がタクシーから転げおりてきた。
「正広っ?」
「兄ちゃんっ、急いで急いで!これ!これ持ってっ!」
大荷物の正広から、器を押し付けられる。
「持った!?ちゃんと持っててね、熱いからねっ」
「え、えっ?」
「それ、と・・、卵、と」
ほんのわずかな時間で、由紀夫の手の中には海老天と卵の乗った年越しそばが登場していた。
「後は、俺の・・・っ」
「あぁ、貸せ貸せ」
おベンツ様の屋根に出来上がったおそばを乗せ、正広用の器を持って、もう1度同じ手順で年越しそばの完成を見守る。
「できたっ!兄ちゃん、はい、箸っ!」
「おしっ!」
ぱきん!と口で箸を割る由紀夫を見て、正広も真似しようとするが、すごく変な風に割れてしまった。
「それじゃ!年越しそば食べましょう!」
いただきまーす!と正広が声をあげて、由紀夫もそれに合わせ、わざわざ配達されてきた年越しそばを食べる。
「おいしい?」
「うまい、うまい。あ、それでか」
「何が?あっ!あ、大変大変っ!」
「なっ何が!」
「ほら!年越えちゃう!」
腕時計を見せられて、あぁ、と由紀夫はうなずく。二人してじっとその時計を眺めた。
30秒前から見始めて、10秒前から正広がカウントダウンをはじめる。
5秒前から由紀夫も一緒になった。
「5・4・3・2・1!0!あけましておめでとうー!」
「兄ちゃん、おめでとー!今年もよろしくー!」
「よろしくなー!!」
年越しそばの入ってる器を、がつん、とぶつけ合う。

1999年が始まった。
早坂兄弟は、少々変則的ではあるが、家族揃って、という点では正しい年越しをした。
自分はともかく正広を寒空の下に出しておくわけにはいかないので、ベンツに入ってそばの残りを食べる。
「おまえさ、いくら兄弟でもこゆことする?」
コートに入っていた黒い箱を出すと、正広はケラケラ笑った。
「こーゆー時に使うといいんだなって思って」
それは、ごくごく当たり前の発信機で、田村が受信機を作っていて、それを使えば居場所が分かるという代物。
「すぐ気がつくと思ったんだけど。兄ちゃんは、ポケットに手いれないの?」
「歩く時に、ポケットに手ぇいれるなって言われなかった?」
「言われたけど、歩いてたの?」
由紀夫には何のやましい事もないため、今回に限っては許してやろうと思う。
しかしこの発信機は返さない、とも。

「あ、おそばすんだ?」
正広は、すちゃ!っとお重を取り出す。典子がくれたポケモンの小さなお重。
「おせちも持ってきました!」
「おー!おとそは!?」
「仕事中ー!」
お重を直接突つきながら、正広はあれこれ喋る。
「レコード大賞、誰がとったと思うー?」
「は?」
「レコ大」
「・・・あれ、紅白と裏表とかって言ってなかったっけ?」
「でも、それは見なきゃいけないでしょー?時々チャンネル変えてね、ちゃーんとチェックしたの。ねぇ、誰だと思うっ?」
そんな事を言われても、由紀夫は困ってしまうのだ。芸能界にはまるで興味がない。しかしここでさぁと言っては弟ががっかりするだろうと、この辺かな、って歌手の名前を挙げた。
「あ、安室奈美恵・・・?」
「にーちゃぁーーーん!?」
ベンツの車内に響き渡る悲鳴。
「兄ちゃんっ!アムロちゃんは、1年お休みしてたでしょー!!」
「いや、それは知ってたけど!・・・だって、おまえが紅白に出るって言ってたから・・・」
「もー、兄ちゃんー。アムロちゃんは紅白で復活なのー。じゃあ、わかんないの?あのね、優秀作品賞は、ラルクでしょ、グレイでしょ、キロロでしょ、グローブでしょ、スピードでしょ、ELTでしょ、ダ・パンプでしょ?まだ他にもいるんだけど、この中にレコ大がいます!さぁ誰!」
俺ってオヤジだなーと思う瞬間。何がなんだかわかりゃあしない。
「・・・真剣に考えてないでしょ」
「・・・うん」
「もー!グローブなの!グローブがレコ大!」
「ふーん」
グローブって言ったらどんなやつだっけ、と考えている間に、じゃあ、最優秀新人賞はだーれだっ!と聞かれる。
「だから、知らないってのに」
「モーニング娘。だったんだよー。んー、でも、そうだな。すごい人気だったしねー」
評論家みたいなことを解ったような顔で言う正広は、由紀夫にはまったく解らない話をとうとうと語っている。

「そだ!」
来た!と思った。
「紅白!」
正広は、結構SMAP好きだ。そのSMAPの中居が司会をしている紅白の司会は、例年以上に気になる事に決まっていた。
「ねぇ、どっちが勝ったと思うー?」
「紅白?」
「紅白」
「し、白?」
「違うんだよねー!!」
気をつかっていった由紀夫に、正広は大きく首を振った。
「赤なんだよ、赤!やっぱさぁ、アムロちゃんと、和田アキ子が泣いちゃったからさぁ。それがラスト2曲だもん。赤にいっちゃうよねー」

そこまで見てから急いで来たの、と正広は言う。けれど、いくら車でも5分でつける距離じゃないから、携帯テレビでも持って動いていたのかもしれない。
年越しそばを食べさせてやろうと、わざわざ持って来てくれた弟に、これはお年玉を奮発しなくちゃなと由紀夫は思った。

ライブが終わったらしく、依頼人のお嬢さん(16才)が出てくる。彼女は黒塗りベンツに、グッチのコートを羽織った由紀夫、可愛らしいダッフルコートの正広に出迎えられ、友達を振り切ってベンツに乗った。
家までちゃんと送り届け、その後はベンツでドライブ。いけいけー!!ってことで、
「兄ちゃん、ここ、どこ・・・?」
「あれ、富士山だな・・・」

その後、ここまで来たらいったれー!!と二人は京都まで行き、初詣を済ませた。
なかなか派手な年明けであった。

つづく


マジボケで曜日を忘れててごみんなちゃい!ごみんなちゃいっ!!
今回のネタは、赤い怪獣ちゃんからもらったネタ。彼女が最初に考えてくれたネタは使えなかったのだ・・・!ごめんよ怪獣ちゃん!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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